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Alchemist  作者: 無口な社畜
第二章 閃光、強く瞬いて
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プロローグ

「はあ……」


 今日も成果はゼロだった。

 係長……いや、山崎さんがいなくなったあの日からもう三ヶ月経つが、結局行方がわからないままだ。

 あの後山崎さんの部屋は引き払い、必要だと思われる私物は全て私が預かった。一応、勝手に行う訳にもいかなかったので山崎さんの実家にも連絡したのだが、高校卒業と同時に就職し、不規則な生活で家族とトラブルを起こした末に家を飛び出し、自分の方からは全く連絡しなかった息子であったらしく、好きにしていいとの返事をもらうに至った。


 最も、私物といっても殆ど寝に帰ってきていただけだったようで、貴重品と呼べるような物は殆どなく、それこそ大きめの段ボール箱一つで済んでしまうほどだった。

 それ以外の家具については廃品業者に頼んで処理したが、もしも山崎さんが帰ってきたら弁償すればいいだろう。


「……はあ……」


 ため息が止まらない。

 ここの所毎日のように山崎さんの行方を探している私だったが、こうして時間に余裕が出来たのには理由がある。

 それは、二か月前にめでたく(・・・・)会社を退職し、無職になった為だ。


 別に解雇を言い渡されたわけではない。

 むしろ、今回のミスを何としてでも取り戻せと言われたくらいだ。

 けれど、一番大きな取引先からの信頼を失った会社の信用を取り戻すことは難しく、受注が一気に半分以下まで落ち込んで、人員削減を余儀なくされてしまったのだ。


 当然、私が現場にいた頃からの知り合いだった人達も例外なく解雇され、その原因たる私は随分と恨まれ、冷たい目を向けられた。

 そんな状況で図々しくも居座る根性などない私は、結局そのまま退職してしまったのだ。


『お前もさっさと結婚でもして、寿退社でもしちまえよ』


 不意に最後に会ったあの日に山崎さんに言われた言葉を思い出す。

 あの時は「何言ってんだこの人?」と、思ったものだが、今はあの時の言葉が本気だったのではないかと考えていた。


 あの人はきっと分かっていたのだろう。

 遠くない未来に会社がどうなってしまうのかを。

 だからこそ、そうなる前に私を逃がそうとしたのだろう。

 沈みつつある泥船から逃がすために。


「……それで自分が潰れてどうするんですか……バカ……」


 私は足を止めて周りを見渡す。

 あの日以来癖になってしまったその仕草は、こっちの心配もそっちのけで無遠慮な笑顔で歩いているあの人を見つけるため。


「……こんなに追い詰められていたくせに……しっかり他人の事を考えていたじゃないですか……。この地獄から抜け出したかったなら、せめて……」


 そうせめて。


「せめて……一緒に逃げ出そうと言ってくれれば……私は……」


 私は躊躇いなく逃げたのに。


 見渡す景色の中に求める人の姿はなく、変わりに広がるのは滲んだ景色。

 そのすぐ後に頬を伝う雫を自覚しながらも、私はそのまま人ごみに紛れた。




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