第零話 悪夢
それはいつも見る夢だった。
だからこそ見ている夢の細部はよく覚えている。最も、起きた後は直ぐに忘れてしまうのだが。
けれど、始まりの状況は何時だって変わらない。
吹き荒れるのは破壊の嵐。
真っ赤に染まった欲望は風となり、全てを切り裂く刃のとなる。
それが『奴』のスキルだと分かっていても、夢の中の俺は憎しみに満ちた目で赤く染まりつつ空を睨みつけるのみだ。
そんな俺自身をもうひとりの『俺』が第三者のように眺めている。
「私は……シルキーは……」
俺の正面には少女がいる。
膝を付き、項垂れるその後ろ姿に、『俺』は──
──なんだかとても悲しくて。
──なんだかとても悔しくて。
──そして──とても愛しくて。
「──お前には絶対わからない」
夢の中の俺は絞り出すような声を出す。
「だから俺は全てを破壊する! それがこの世界を失ってしまう切っ掛けになってしまうとしても! あいつを道具として使った貴様を許せるものか!」
そう、俺は絶対に許せないのだ。
例えそれが全てのトリガーであったとしても、夢の中の俺は許せない。
それは、幾度となく見続けてきた『俺』にもよくわかっている。
「何故なら俺達は一つだから! 運命を共にすると言ってくれたあいつを受け入れると決めたあの時に誓ったんだ! 俺の全てを、死さえも受け入れてくれると言ってくれたあいつに誓った!」
俺のいうあいつとはきっと目の前の少女の事だろう。
既に何度も見た夢ではあったが、夢の中の俺以外では白い髪の少女以外見た事がなかったからはっきりとはわからないが。
「俺の命が尽きる時があいつの命が尽きる時だというのなら、あいつの命が尽きる時もまた俺の命の尽きる時だ。俺達は生涯共に有り続ける。それを邪魔するというのなら、例え貴様が魔神であろうと、創造神であろうと──」
夢の中の俺は少女の傍に歩を進めると、絹糸のような白く美しい髪を撫でる。
「この世界共々全てを破壊して先へ進む!!」
俺の宣言に《奴》のスキルは意思を持った生物の様に蠢き襲い来る。
空間さえも切り裂く赤い刃にかかればこの世界に存在するものはなす術もなく切り刻まれて終わるだろう。
──そう。この世界に存在するモノならば。
「アクセス!!」
夢の中の俺はスキルを発動させる。
その瞬間、『俺』の体に熱き血潮が迸り、目の前に迫った破壊の風を正面から受け止めた。
その衝撃は真っ赤な閃光となり『俺』の視界を紅に染める。
──その色こそが、俺がこれまで歩んできた道程の全てがあると、『奴』自身が突きつけているかのように──