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別冊 当て馬ならし  作者: 糸以聿伽
誰が為にベルは成る
8/11

第三話 恋心の前にベルは迷う?

……歳を重ねるごとに募る想い。何度も泣いて慰められて。


そしてあたしは成長してきたと思う。

だから、解ってしまった。


私が好きって事は、一生、その人と添い遂げるって事はつまり、


──王にするという事だ。


その相手に、あたしではなく『この国』──つまりファルゴアを背負わせるという事だ。


この鍛冶屋として将来有望な青年の未来を強制的に変えてしまう事になるんだ。


「あはは、これまたうまいなぁー」

あたしの作ったお弁当を食べながらセルヴァンは笑った。

今朝早くから起きてお城のコックに教わりながら一生懸命作った。鍛冶屋の仕事の合間だがら味付けは濃くしてある。


自分でも会心の出来だった。


作業場の裏手、少し開けた丘になっている場所でお弁当を挟んで地面に布を敷いて座る。

「前より確実に上手くなってるでしょ?」

得意顔の私を横目でみてクスって感じで笑って頷き、セルヴァンは次のおかずに手を伸ばす。


鍛冶屋は今、お昼休み。


お父さんの剣の直しが入ってそれの進捗を見に来た。

強制的に確認する役目をもぎとったともいう。

ついでに以前おねぇちゃんがしてたみたいに、作業場全員にお昼の差し入れ。


もちろんあたしが、セルヴァンとこうやって話したかったからだけどね。


みんな、きっとあたしの気持ちに気が付いてくれてて、セルヴァンと二人きりにしてくれてる。


そんな暖かい──生温い?──態度がありがたい。


やらなきゃいけない事はもう日常的にある。

その中でやっと出来たお休みは、なんとかして彼と過ごしたいって思う。


丘をわたっていく風に髪をなびかせて汗が浮いたたくましい腕を

乾かしながら、セルヴァンは胡坐をかく。


おいしそうに食べる彼をじっとみてるだけで、日々大変な事が何でもないって思えちゃう。


黄土色の麻のシャツはところどころ汚れたりしてるけど、それさえも仕事に誇りをもつ彼の勲章のようで素敵に思える。


──それが眩しくて目を細める。


「ごちそうさま」

大きな手をしっかり合わせてお辞儀。

ぺろりと食べ終えて満足顔でニカっと笑う。


……あたしの気持ちに、セルヴァンは気が付いているだろうか。


でも、気づいていたからって何かが変わるわけじゃない。

変われないよ……今更。


そんな切ない気持ちが風に乗ってしまったのか、セルヴァンがぐいっと顔を近づけて

「何した?」

と聞いてくる。


ちがうちがう……今別に泣きたくないよ。

この言い方はあたしの涙腺にダイレクトにくるけど

……今は、それはダメだ。


──隠さなきゃ。


あたしはドキドキして赤くなる顔を、サッと気がつかれないように誤魔化しながら距離をとり、


「おねぇちゃん……今度はうまくいくよね?」

そう切り出す。


遂に姉のお見合いは8か国目だった。

最初に覚悟をしたのに、おねぇちゃんは帰ってきた。


お見合い国の跡目争いに決着をつけて、お相手に運命の伴侶を見つけて帰ってきた。


そして……一緒に泣いた。


でも、さすがだなって思わずにはいられない。

人の国の情勢の安定までやってのけたのに。結局、王子様は別の人に取られちゃったのに。


おねぇちゃんは最後は『幸せになってほしい』って笑う。


それが、続きに続いて7か国。

付いた仇名は『当て馬姫』

でも、当て馬にされちゃった国は繁栄確定という事で、おねぇちゃんは無駄にそういう話の時に呼ばれやすくなってる。


しかも、磨き上げた美ボティは女のあたしから見てもうっとりだ。綺麗な形の胸に引き締まったウェスト、プリンとあがったお尻。


なんで、王子様たちはおねぇちゃんをちゃんと見てないのかしら!と怒りがわく!


何度も何度もフラれては、何度も何度も立ち上がっていくおねぇちゃん。


『ある意味つえー』って言ったセルヴァンは正解だと思う。


でも、帰ってきたら一緒に毎回泣く。


一晩中、おねぇちゃんは、相手国の王子のいいところを上げる。その国の素敵なところを言って、相手の女の子の可愛いところ言って未来予知で見た幸せな未来を語って、


……泣くんだ。


だから、あたしもお母さんもお城のみんなは、もうおねぇちゃんを甘やかしまくるのだ。


でも、そんな甘やかしに甘やかされっぱなしにならないで、またお見合いに行くのだ、あの姉は。


しかし、これがさすがに7か国にもなると──竜の呪いでもかかってるんじゃないだろうかと不安になる。


でも、お母さんは余裕の表情で『まだ時がきてないのよ』って笑う。あせらないでいいのにねぇって言ってる。


あたしからすると先を走ってるって思ってたおねぇちゃんだけど、お母さんからいわせると一生懸命、今、もがいてるところなんだって。


「竜が守ってんのかもなぁ……」

「え?守ってるの?呪いじゃなくて?」

こらこらって言って笑う

「竜を守る国の王女の言葉じゃないだろう。」

「だって……」

あたしは……俯く……あたしに竜の力が無くて、


──もし普通の女の子なら?

きっと、とっくの昔に想いを伝えてる。


上手くいけば普通のお嫁さんになる。

でも……あたしにはそれが叶わない。


心を覗いてしまえば、結果はわかるだろう。

あたしをセルヴァンが思ってくれていなかったら、


……。

……すんなり、……諦める。


今迄通り友情を貫いて、幼馴染として接するんだ。

そのうちお互いに素敵な人が出来て、あたしには、無理かもしれないけど、セルヴァンにはきっと素敵な人がすぐ見つかる。


その時は、お姉ちゃんの旦那さんの国に乗り込んだって、おねぇちゃんに慰めてもらうんだ……


……うぇえぇ……辛い……


でも今は想像して心が悲鳴を上げた。

あ! 駄目だ! 泣きそうになっちゃう。


それじゃ、もし……もし!好きでいてくれたら?

セルヴァンもあたしを好きで居てくれた時はどうなるの?


…………。

……幸せより不安が募る。

彼に私は王という重い枷をはめる事になるんじゃないだろうか。


王を選ぶため──そう言って歩んできた道のりを思い出す。


小さいころから自慢げに武器や鎧の話をしてたセルヴァン。

本当に好きな仕事なんだと思う。

今、鍛冶屋として一人前になってこれから夢を実現していく彼と一緒にあたしは、生きていけない。


……どっちも、地獄だよ。


だから好きで居ることを辞められたらどんなに楽だろう。


あたしは、この国への悪意を摘む事ができる。

だったら、あたし自身の彼に対する思いを、摘む事をできたらいいのに。


好きだっておもわなきゃ、

ただの幼馴染として

辛いときは甘えて

彼の幸せを祈って

国の為になる人を迎えて

王になってもらって


最近どうしても、彼を思うとこの結論に行きついてしまう。

これが呪いじゃなくて……なんだっていうのさ!


「守ってるよ、ああやってまた元気になって旅立っていけるってことは、ろくでもない男に引っかからないように竜が守ってるんだよ。」

あっけらかんというセルヴァン。


……あたしが誰かとお見合いしても……

彼はこんな風にあっけらかんと笑うんだろうか?

そう思うと、そんな気がして、どんどん悪く考えてしまう。


もうせっかくセルヴァンと会えてるのに、なんに暗くなってるのよ、あたしは!


「だね、おねぇちゃん“は”守られてるかもね」

湿った声がでた。


それを拭き飛ばすような高気圧晴天ピーカンな声がする。


「お前も守られてるだろ」

何言ってるのって感じで笑ってる


「そうかな……」

「さらにだ、今お前は、親父さんにも御袋さんにも、俺にも守られてっからな」

ドキっとする。

いいの? そんなこと言って……自惚れちゃうよ


「おれは、最強候補(・・)の幼馴染だからな!」

「なに、その微妙な最強の名乗り」

あはははて自然に笑った。

「分をわきまえてんの! 今に見てろってーの」

そういって、親指をたててニカッと笑う。


セルヴァンはこうやってあたしの気持ちをたった一言で明るくしてくれる。


じゃ、またねって言って、綺麗に食べてくれたお弁当を持つ。


セルヴァンは「よっしゃ仕事するぞー」って言って作業場にいく。振り返って、最強の笑顔が私に言う。


「弁当うまかったぞーまた食わせろよ」


……このまま時が止まってくれたらいいのに。


そう思わずにはいられない。

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