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別冊 当て馬ならし  作者: 糸以聿伽
誰が為にベルは成る
7/11

第二話 淋しさの中でベルは進む?

そして時は過ぎ、あたしは少し大きくなって大人になった。


──この国を背負っていく意味。

王を選んでこの国を竜の力で守る。

その為に必要な知識を学ぶ事。、


それが、やっとどういう事かわかってきた。


……だけど。いや、だからこそ……

この胸の想いを持て余す事になる。


「よう!」

相変わらずノー天気な大声がこちらに向かってかかる。

あたしは花壇の端に腰かけて、壁を見てた。

でも、その壁にうつるツンツン頭の大きな影と声で誰であるかは認識してる。


だけど……あえてそっちを向かない。

だって今はノー天気な幼馴染のそのテンションに、一緒に乗れる余裕はない。


「あんれ?ご機嫌斜めか?姫様」

からかいながら隣に腰を下ろす。


もう、あたしがここにきて壁を見てる時がどういう時か知ってるのに、あえて彼はそう言った。


それでも、あたしがが無視を決め込んでいるのでむりやり頭を掴んで彼の方を向かせる。


「何した?」

日に焼けた肌にブラウンの髪が太陽にあたって金色に煌めく。

健康的に微笑んであたしを見つめる、深い緑の瞳。


ここで優しく言われたら……あたしは観念するしかない。


セルヴァンはもう、あたしもおねぇちゃんも追いつけないくらいデカクなってしまった。


身長は鍛冶屋の中で一番デカイし、筋肉も結構ついてきて、肩とか思いのほかがっちりしてる。


ラフに着たシャツの胸元がすこしだけ肌蹴て、鍛えられてる胸板が見えるとドキドキしてしまう。


すっかり牡牛角の職人の一人として成長していた。

武器を一本仕上げてそれが好評だって嬉しそうに語ってくれたのは、数か月前。


……またあたしより早く大人になっていっちゃってる。

「あたしだけ……なんか……おいてけぼり」

「でた、あいかわらずなんだそれ!だな」

そういって、セルヴァンはあたしの頭をわしわし撫でる。

あたしは撫でられるままになって頭をぐらぐらうごかす。


「うぅうう……」

その一見乱暴な扱いが本当は手加減されてるのを知ってる。

こうしてちょっときつめに心を揺さぶってもらえないと、今のあたしは、


「よしよし、クゥねぇ今日、旅だったんだろう?」

そう言われて鼻の奥がじわーんてする。

髪の毛とかぐしゃぐしゃで、幼馴染に頭をぐらぐらさせられて、

……だったら、もうしかたないよね

……感情のタガを外したって仕方ないって言い訳ができる。


「ううう……セッ……うぇぇぇ……」

やっと目の前が滲んで涙が出てきた。

そしたら止まらなくなってもう、泣き出す。

「はは、泣くの優先な」

そういって乱れた髪を職人の手で器用に梳いてくれる。

その優しさに、やっと甘えて肩にコツンと頭を置く。


「おねぇちゃん……もう……お嫁にいったら……帰ってこないのかな?」

しくしく、めそめそするのをセルヴァンは無言で肩だけ貸してくれて、ほっといてくれる。

それをいいことに小さいころのようにワガママな甘えた泣き方をする。


もう、誰の前でも泣ける歳じゃない。

しかも、自分でもわかってる。

……こんなくだらないことでって。


でも、泣きたいのだった。


セルヴァンが城内に直しに出していた武器を収めに来てた。


だから、あたしは……ここで、待っていた。



16歳になったばかりのある日。

おねぇちゃんにお見合い話が舞い込んできた。


あたしは、もちろん姉が断ると思ってた。


そりゃ、もうお年頃って言われる歳だし? なんの不思議もないけど、やっぱり運命の人って偶然出会って、もうそれはそれは素敵な恋に落ちるって感じでしょ?


あたしは……ホラ、そういうのじゃなかったから、おねぇちゃんにはちゃんと恋して大好きって人とラブラブしてほしい。


で、いつもおねぇちゃんがあたしのことからかうみたいに、心覗いておねぇちゃんの運命の人に対する気持ちを言ってやるんだぁ♪


……そう、思ってたし……おねぇちゃんにも言ってた。

「おぼえてろよーーーーー」ってさぁ。


ひとしきり泣いて、ちょっと落ち着いたからハンカチで涙を拭きながら、

「運命の人ってさぁ、こう……出会う運命だった!

 みたいな感じで、もっとロマンチックな物語じゃない?

 それを国と国のお見合いみたいな、そんな……ロマンの欠片もない話。しかもお見合い先の国、なんか不穏なんだよね。権力争いしててさ、そんなところにおねぇちゃんいっちゃったら苦労しちゃうじゃん」

あたしは、思った事を特に考えないでどんどん言葉にしていく。


とにかく心が納得してない事をブチブチと口をとがらせて吐き出す。セルヴァンは

「おう?」とか「んー」とか言いながら聞いてくれる。


「おねぇちゃんには幸せになって欲しいんだよ、あたしはおねぇちゃんの為にやめなよ! って言ったのにおねぇちゃんは、あっさり受けちゃったんだよ」


「はぁー」

確実にため息になったセルヴァンを、体を起こして睨みつける。


その目線をしっかり受け止めた上で

「それは、お前の為だ。

 クゥねぇの為じゃない。 

 ベルが、淋しいだけだ。」

ピシャリと言い放つ。

もう、本当にその通りですという結論。

言葉にする事が悔しくてできなかった。


でも……それをあたしの幼馴染は言葉にした。

「うっ……あぁ! そうですよ。子供ですよ! 淋しくて淋しくてダダこねてるだけですよ!!!」

わかってる、わかってるよ……でも……もやもやするんだもん

いろんな事!


「わかってんなら、じゃ、成長のチャンスだな」

そういってカラっと笑った。


「自分が未熟だってわかんねー奴は、いつまでたってもそこをうろついてばかりだ。

 未熟だって認めることでその部分を強化するのか、別の道をみつけるのか考えられる。

 止まらないで先に進むって事ができるんだなぁこれが」

「まーたー、誰の受け売り?」

へへへ、って笑って『親父だよ』って言う。

でも、それが、もうすっかりセルヴァン自体の身になっている言葉だってわかる。

「それに、クゥねぇちゃんの物語だ。

 あの人はいろんな意味でつえーから、なんか大丈夫な気がすんだよなぁ俺」

うん……おねぇちゃんはいつも未来をみている。

先をみる能力があるからかもしれない。

私よりちょっと先に生まれたからかもしれない。


考えてみぃ?といってセルヴァンはあたしの止まった思考を動かす。

「おねぇちゃん……どんどん先に進んじゃう。

 その景色はいったいどうなってるのか私には分からなくて、おねぇちゃんといつも一緒の世界にいるって思ってたのに……心が離れていっちゃうようで……あたしは……あたしが、淋しい」

「だな」

その一言で次の考えが浮かぶ

「でも……あたしたち本当は心が離れるなんてないのしってる……」

家族だし、血がつながってるし、なにより大好きって気持ち、心を覗けばおねぇちゃんもいつも思ってくれてる。


「あたしだって四六時中、おねぇちゃんの事考えてるわけじゃないし、でも、でも本当におねぇちゃんの幸せを願ってるし、でも、もしおねぇちゃんがどこかあたしの知らないところで傷ついちゃったらどうしようって……不安もある」

でもでもだらけの私の思考はいつも子供っぽいと自分でも思える。

「おまえだけが不安なのか?」

え?ちょっとよくわからなくて首をかしげる。

「お前がいないときクゥねぇちゃんはどうしてたんだ?」


……思い出す。公務が嫌で泣きながら連れて行かれることもあった。


代わってあげたいって思いが覗いた心からにじみ出ててた。

でもおねぇちゃんはにっこり笑って見送ってくれた。


それで、帰ってきたらおかえりって抱きしめてくれた。

おねぇちゃんだって一人で淋しかったのにだ。

「あぁ……そっか……今感じてる事、おねぇちゃんはずっと前に感じてて、それで、もう先に進んでたんだよね。」

「そうだ、クゥねぇの進み方でクゥねぇの物語は進行中ってわけだ」

「あたしは……あたしの物語を進めなきゃだよね。

 そんで成長しておねぇちゃんが幸せになった時に『お幸せに』って抱きしめてあげられる私になる。」

セルヴァンの手が優しくあたしの頭をなでる。


「お?さっきより大きくなったかな?姫様?」

あたしは立ち上がってすこしだけセルヴァンより上の目線から

「ファルゴア王族なめんな!」

といって腰にてを当てて胸をはる。


「そんな小さな胸はられてもなぁ……」

とあからさまにがっかりするしぐさをする。

あたしは「もーーーーー」と怒って拳を上げてセルヴァンにとびかかる。

するとセルヴァンはひょいって感じであたしの振り上げた手をとる。


あたしは、ちょっとバランスを崩してふんばると目の前に


──セルヴァンの深い緑の瞳があった。


「また、立止まったら俺に言えよ」

優しく深く……囁く……


──あたしは、突然の事に心臓が飛び出しそうだ。


いつも見慣れてるその顔が、すごく頼もしくて


……そして……男の人の顔をしてて何か言おうとしても……声がでなかった。


さっきまで甘えたり軽口叩いたり、そういつもは幼馴染って感じなのに、こうやってセルヴァンは時々、男の人になる。


それがあたしには刺激が強すぎて……どうしていいか分からなくなる。


「まぁ、俺は最強の幼馴染だからなーありがたーいアドバイスしてやるよ!!!」

そういってあははははと言って笑う。


ドキドキ真剣にしていたあたしは肩透かしを食らった気がして、足から力が抜けた。


手首だけであたしの体を支えるセルヴァン。

あたしは、自力で立って手を振りほどく、


「お父さんより強くなってから最強名乗りなよ!! バーカー」

そういってベーってアカンベーをしてその場を去る。

後ろでセルヴァンは笑ってる。


あたしの背中に大きな声がいつもより強くかかる。

「ああ! いつか本当に最強になってやるぜ!!!」

そう宣言した。

あたしはやれやれって感じのジェスチャーを背中越しに送って、城の中に戻っていく。


最強の幼馴染。

いつもは、憎まれ口叩いて、ふざけあって。

でも、いつも甘えさせてくれて元気づけてくれる。


とっくの昔に自覚してる『大好き』って気持ち……

……ずっと傍にいて欲しい。


おねぇちゃんが居なくなってしまったら、きっともっとそう思うかもしれない。


あたしは、もっと成長しなきゃいけない。


でもその為には、あたしにはセルヴァンが居てくれるその事が必須条件になってしまった。


これも、あたしのわがままなんだろうか。


甘えてダダをこねる子供だからだろうか、でもセルヴァンは言った。


──『また俺に言え』って。

だからいんんだよね?このままで。


それで、あたしはセルヴァンを好きでいいんだよね?

その先を考えようとして


……やめた……


そこまでは、今はまだ考えられないだって、目の前にもう進む道は見えてる。


それは、また立ち止まったらセルヴァンと一緒に考える。


そう、結論づけて今日もルミナーテに怒られに行くのであった。

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