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別冊 当て馬ならし  作者: 糸以聿伽
誰が為にベルは成る
6/11

第一話 怒られてベルは成る?

クラァスの双子の妹

彼女に受け継がれた力は、ファルゴアの王位継承者を選ぶという使命も同時に受け継がれる。


そんな彼女の名は、


──ベェール・ルヌィ・ファルゴア──


これは……彼女の物語。



【誰が為にベルは成る】


 ~ベル’s side~



第一話 怒られてベルは成る?



ファルゴアの竜は眠ってる。

平和の心をもった王女が王を選びこの国を守るから。

やがて来るだろう──闇の暴走。


それを止める為に、竜は眠っているのだ。


そんな伝説があるあたしの国ファルゴア。

そして、その【平和の心】を受け継いだのは双子の姉じゃなくて……妹のあたしだった。


  *  *  *


あたしは、泣いてる。


今年で10歳になるけど、同い年の姉はもう掌一つ分

あたしより背が高い。


褐色の肌をもち、綺麗な銀色の髪の姉は、いつもあたしの手を引いていろんなところにつれてってくれた。


大好きな大好きなおねぇちゃん。


……なのに、私はなんであんなこと言ったのだろう。


思い出したら、また胸の下ぐらいが、ぎゅぎゅーってして涙が溢れた。


小さいのも悪くない。

こうやって城壁と花壇の間の隙間にはいって、こっそり泣けるから。


視界がおぼろげで……目の前の白い城壁は、もやもやとして、まるで雲みたい。


でも、それが赤みがかっているからもうすぐ日が暮れるんだろう。


こっそり、こっそり……そう思うから声は出さない。

押し殺して食いしばるから、吸う時の音が妙に響いてしまう。


俯いて地面に指で線を引く。

その引いた筋に涙が落ちる。

なんとなくそれを見て悲しい気持ちを紛らわした。


今日も怖く厳しい教育係りのルミナーテは、盛大に目を吊り上げて怒る。


「こんなことでこの国は治まりません」


【平和の心】があたしの力になったのは、半年前。


覚えなきゃいけない事、やらなきゃいけない事

沢山……沢山……毎日、勉強……勉強。


同じ部屋で、同じ勉強をしている同い年の姉が、その意思のしっかりした赤い瞳であたしを見る。

『がんばれ・くじけるな・でもあまやかさない』

そんな気持ちがわかる。

それでもってあたしに頷いてくる。


なんか、辛かった。

勉強だって、体動かすのだって、本当はおねぇちゃんの方が出来てた。


生まれてきたのがちょっとだけ遅かっただけだったけど、ちょっと早く生まれたおねぇちゃんが、もちろん、王位を継ぐんだっておもってた。


お父さんと一緒でかっこいいし、お母さんと一緒でやさしい。

ルミナーテに怒られた時は悪戯して仕返しもする。

窓から抜け出して森へ遊びに行く。


心を覗くのはおねぇちゃんのほうが早かった。

やり方をきいて、ふたりで心を覗きあって遊んでた。


なのに……なのに……なんであたしなんだろう。


なんにもできないあたしがどうして?


ルミナーテは厳しく言う

「王を選ぶのは貴方なのです、しっかりしなさい!自覚をもちなさい」

わからないよ。

しっかりしてるのはおねぇちゃんだし、あたしより頭いいからちゃんとした王様えらべるのはおねぇちゃんだよ!


そんな当の本人のおねえちゃんは、味方してくれない。

前は一緒に怒られたら一緒に逃げてたのに。


今は、あたしがおこられてても助けてくれない。

よしよしってしてくれてるけど、……やめさせてくれない。


「おねぇちゃんがやればいいよ! こんな力いらない!! おねえちゃんはずるいよ!!!! 楽できて!!!!!」

もう、それはただのワガママだってわかってたけど、つらくて、味方してほしいのに、味方してくれないおねぇちゃんに腹が立った。


……でもね、本当はしってる。

おねぇちゃんは楽してない。


だって一緒に勉強してる。

王位を継がないおねぇちゃんには関係のない勉強もあるのに。


小さな頃はずーっと一緒だったのに力が別れてから、あたしだけ公務につれて行かれることもときどきある。


そんなとき、あたしはお父さんとお母さんといられるけど、おねぇちゃんはお城に一人お留守番のときもある。

だから……本当はおねぇちゃんが楽してないのしってる。



でも、どうしても言わなきゃいられなかった。


それをいったら心がぐちゃーーーってなって、……涙が出てきた。


怪我したとか淋しいとかいっぱい泣いてきたけど、こんな気持ちで泣いたのはあまりないから……もうぐちゃぐちゃーってなって机の上をがちゃがちゃーって全部ひっくり返して部屋を飛び出した。


──走る走る──


勝手知ったるあたしのお城のなかを。

そして、おねぇちゃんもしらない秘密の場所におさまった。


この前、庭師が猫が忍び込んでここにいるって教えてくれた場所。


おねぇちゃんは剣の稽古でいなかったから、あとで教えてあげようって思ってて忘れてた。


でも、それが今はよかった。


だれもしらない……おねぇちゃんにもバレない。

……そう……思うと……


こんどは、淋しくて、孤独でつらくなった。


「ううううぇぇぇぇぇーーーー」

押し殺してたのに、声が出た。

そうしたらもう止まらない。

みつけてよーーーーって言わんばかりに、ちょっとづつ、ちょっとづづ声が大きくなってもう、かなりな大号泣だった。


と、赤くぼやけていた視界にとつぜん灰色の影が落ちる。

城壁にうるつ背の高いのっぽな影だった


「泣き虫か!」


いきなり投げつけられたぶっきらぼうな言葉。

驚いて声の方を見上げる


そこには、花壇の淵の煉瓦に仁王立ちしてあたしを見下ろす、男の子がいた。


金髪にちかいブラウンの髪は夕日を浴びて赤く燃えるみたいだった。


「せるヴぁぇえええええええんん!」

名前を呼ぼうとしたら、鳴き声になってさらに大きく泣く。

それにまけじと彼は


「名前呼ぶか、泣くかどっちだ!!!!」


そう怒鳴った。


大きな声に驚いてあたしは声を止める

「よし、何した」

そういってセルヴァンは煉瓦に腰を下ろす。

さすがにこの隙間に一緒にしゃがめるほど彼は小さくない。


それどころか、同い年なのに姉より掌一つデカイ。


城下町にある“牡牛角の鍛冶屋”の息子である。

セルヴァンは既に店の手伝いとして雑用をしている。


彼の父である鍛冶屋の主人は、お父さんと昔からの知り合いで今でも仲がいい。今日は新しい兵士の武器の新調があるらしく、お店の人数人で城にやってきていた。


そんなセルヴァンは擦り傷、切り傷、小さな火傷と生傷が絶えない。そんなのお構いなしに一丁前に剣一竿を持たせてもらって、得意げに城内を歩いている。


ファルゴアは基本的に身分の差は無いと言っていい。


平民だから王族だからと言ってへりくだったり威張ったりしない。


それぞれの職業に誇り持ち、日々の生活を送る。

そこに生まれる尊敬があるし、この国を支えているという自負が国民にはあった。


これが、この国独特のものであることをルミナーテはよく言うけど、


──よくわからない。


だって、こうやって同い年のセルヴァンは、顔見知りだから、王宮のどこにでも入ってくるし、ベロンベロンに酔っぱらったセルヴァンのお父さんを、お上さんがズルズルひきずって帰るのを何度も見たことがある。


あたしは、しゃがんだまま、擦り傷がカサブタになった

ばかりって感じの小麦色の膝小僧を見ながらしゃべる。


「おねぇちゃんは怒られなくて…ずるい」

「なんだそれ?」

いみがわからないといった風でセルヴァンは頭の後ろに腕を組む。


事の経緯を伝えると


「おまえ子供だなぁ」


とまるでとってつけてきたみたいな、だれかの受け売りって感じの言葉が降ってくる。


「はぁ? 子供ですけど? ていうかあんただって子供じゃない!」

気に障って口が尖がる。

「俺は店の手伝いしていっつも怒られてるぞ。

 怒ってもらえるのは…えっと…成長するために必要なんだぞ」

あー絶対これ最近言われたんだってわかる。

「で、怒ってもらって成長してる俺はお前より大人だ」

そう言って胸をはる。


「じゃ…怒ってもらえない……おねぇちゃんは子供なの?」

なんか…それもそれで、おねぇちゃんがかわいそうで、自分が言った事は棚に上げて悲しい気持ちになる。


「えーーーー…?」

うーんと考え込むセルヴァン、自分がおこられてる時に誰かに言われた言葉だから怒られないときは、なんていわれるか分からないんだろう。

でも、セルヴァンは考えて言葉を出す


「クゥねぇちゃんは……生まれた時からつえーから、もう大人なんじゃねぇの?

 だから、成長おわってるから怒られないし、子供じゃないんだよぉ」


セルヴァンは小さいころ、あたしにカエルを使った嫌がらせをして、姉にこっぴどく仕返しをされていた。

その時から同い年なのに呼び方は『クゥねぇちゃん』になった。


でも、そのセルヴァンの結論がすごくすごく胸に落ちた。


わたしよりすごいおねぇちゃんが、怒られないのは大人だからっていうのは、その通りだ。


怒られて成長しなきゃいけない自分を棚に上げてしまっているのに気が付いて、とても恥ずかしい気持ちになった。


──だって能力は譲れるものじゃない。


おねぇちゃんには未来が見える力がある。


私が王妃になるのは決まってるらしい。

だから……私は成長しなきゃいけないのだ。

「あーあー早く大人になりたいよ」

そう呟くと

「こんなとこでビービー泣いてるうちは無理だよな」

といってセルヴァンはあからさまに馬鹿にしてくる。



「でも……辛いんだもん……」

またじわりと涙が浮かんだ


「おっおい、泣くなよぉ」

そう言いながらセルヴァンも何故か涙目だ。

たぶん自分も辛かった事思い出したんだと思う。


「ほら! もう夜になるから中入るぞ!」

そのうるうるを隠すように景気よくセルヴァンは声を上げる。

鍛冶屋で鍛えられたハリのある声は心にちょっと元気をくれた。


確かに周りを見回すと陽がすっかり傾いて、向こうの空はもう夜の色をし始めている。

仕方ないって思って立ち上がった。


セルヴァンも花壇から飛び降りて隙間からあたしが出てくるのを待ってくれる。


急いででなきゃっておもったら、丁度花壇の角で膝小僧をしこたまうった。

「いだぁ…っ……!」

しゃがみこんでさする。

せっかく引っ込んでいた涙がじんわりとまた視界を歪ませる。



あわてて駆けつけたセルヴァンが覗き込む。


セルヴァンの顔も歪んで、鼻の奥がじわーんってして顔がぐしゃぐしゃーってなる。

「足うった……痛い……ッううう……せヴぇぇぇぇぇぇええええん!」

「名前と泣き声混ぜんなよー」


そういって私に背中をむける


「ほれ」

おぶってやるよというしぐさをする。


同い年のくせに、その背中は大きく見えて暮れていく夕日の中でその背中がとても暖かそうに見えた。


だから、そのまま素直に背に乗る。

ひょいっと持ち上げて荷物でも運んでるように軽々とセルヴァンは歩いていく

「重くない?」

泣き声で問う。

「大人な俺には、訳ないね」

とあっけらかんと言った。


城内を進んでいく。

セルヴァンの背中でまだぐずぐずあたしは泣いていた。


でも……なにもいわず、彼はあるいてくれた。


城内に入って勝手知ったるあたしの部屋に向かって歩く。

メイドや兵士に声をかけられる中、あたしは顔を隠す。

セルヴァンは「おう!」とか「どーってことねーよ」とか言いながらズンズンあるいてく。


なんか、今触られたらつらいなーって事を、セルヴァンが全部引き受けてくれてて、辛いことが過ぎ去ってくれる。


この背中に乗っているあいだ、全てから守られてるみたいで安心した。



だから、もうすぐ部屋の前ってなった時、もう、この背中から降りなきゃいけなくて。


……だから不安になった。


「……おねぇちゃん、あたしの事嫌いになっちゃったかな?」

するとセルヴァンは

「んなもん、クゥねぇに聞けよ! 俺はそんなじゃ嫌いになんねーけどな」

と言ってあたしを下ろした。


……なんか、ドキっとした。

嫌いにならないって、もしかして、今……好きってってこと?


そんな風に思ったら急に意識して心臓がドキドキ言い始めた。


でもそんな当の本人はケロっとして「ほら」と言って、あたしを自分より前にだした。


え??何?って思ったらおねぇちゃんがあたしの部屋の前でしゃがんでた。


「じゃぁなー」

そういってセルヴァンは引き返していく。


ちょっとまってよーって感じで追いかけようとしたら、

「ベル!」

ちょっと怒ってるおねぇちゃんの声がした。


あたしは、足は止めたけど……俯く。


「ごめんなさい・やらなきゃよかったなぁ・いまさらはずかしい」


あぁぁああぁ……あたしの心の中を

姉がのぞきはじめる


「いやだな・やりすぎたな・ごめんなさい」

続く自分の心が言い当てられるのに、その場にしゃがみ込む。


「ベル!自分の口で言わないなら、ずっとねぇちゃんこれやるよ!」

おねぇちゃんは怒ってる。

でもそんなのは、当たり前だって思う。

……だって本当におねぇちゃんを傷つけたんだもん。

ルミナーテにも……悪いことをした。


セルヴァンが言ったように、あたしは成長しなきゃいけない。

成長してよい国をつくって、おねぇちゃんの自慢になるような妹になるんだ。


だからあたしは、振り返っておねぇちゃんのかっこいい赤い眼をみてちゃんという。


「ごめんなさいおねぇちゃん。あたし子供だった!

 悪口いってごめんなさい。」

そういったら、おねぇちゃんニコニコしてでも泣きそうになって

「いいよーぉ……ねぇちゃんだって、ベルが大変なのに助けて……ううっ……あげられなくてっごめんよぉ……」


うるうるして言うから、もうこっちもうるうるして、


「ねぇちゃん……は大人だから……悪くないよ……ごめんなさい、おねぇちゃん……あたしの事……きらいにならないでぇぇぇ」

そう言って溢れ出した涙が止まらなかった。

そしたらおねぇちゃんも大泣きして

「こころのぞいてよぉおお、ねぇちゃん……ベルのこときらいだっなんておもってないよぉおお…っおおおおおお」

2人で号泣だった。


それからあたしは、勉強を頑張った。

成長するためにおこられた。

大好きなおねぇちゃんの分もこの国を立派にするって決めた。


でもやっぱり…時々辛い。


そんな時は、あの大きな背中を思い出した。


同い年なのにデカイ幼馴染。


大好きなおねぇちゃんと違う……大好きが私の中に生まれた。

きっと、その時からずっとあたしは


──彼に恋してたと思う。

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