第五話 Cast a spell on me!
食事がひと段落して談笑している時、ベルが
「せっかくこの場所が素敵なダンスホールになっているなら、ピコランダの独特なワルツを見てみたいのですが?」
と言い出した。
「是非!見てみたいっ!」
もうそりゃ有無を言わせないキラキラオーラ全開の瞳だった。
歌やダンスを見たり聞いたりするのが大好きなベルは、他国に出向くと時間が許すかぎり、その土地の民族の伝統芸能を見に行くらしい。
今回は、私の看病にきたので、街を観光する時間もないので諦めていた時にこの話である。
「いいですねぇ、では早速準備させましょう。」
お酒も入って上機嫌な王は楽師の手配を執事に頼んだ。
「おねぇちゃんも踊ってよね」
そういって、ベルは早速特等席に陣取ってデザートを食べながらタシーと楽しそうに話をしだした。
張り切ってる王様の元、王族たちは集まって楽師の位置を決めたりしてる。
ラルも面倒くさそうにしながら話し合いに参加してる。
私は、食事をしたロフトから繋がるベランダで少し涼みながら、なんとなく振りの確認をしていた。
そこへ
「あのー…」
遠慮がちに声をかけてきたのはレヒューラだった。
小柄で可愛い素直な娘──でも、ラルに継ぐ天才的な魔術の才能の持ち主。
彼女とアル王子の未来を私はみてる。
そういえば、彼女はワルツの稽古してないんじゃないのかしら?
「あ、レヒューラさん、どうしました?」
「えっと、『さん』なんてとんでもなく…わたしこそクラァス様とお呼びしなきゃいけないぐらい、すごい方ですし…」
一生懸命言葉を紡いで意図を伝えようとしてくれる。
頭はいいけど緊張するとコミュニケーションがおぼつか無くなるという感じなのかしら?
「うん、わかったじゃ、レヒューラ、私も様いらないわよ。」
そういって笑う。それにつられてレヒューラも笑った。
「でも、命の恩人ですし敬称はつけさせてくださいっ…クラァスさん」
その真面目さがアル王子と重なってなんだか面白かった。
マジメ太陽カップル◎
「あと、あの時のお礼をきちんと…言いたくて、ありがとうございました!!!」
彼女は深々と頭を下げる。
ちっちゃい彼女がお辞儀をすると、床に頭が付いちゃいそうで可愛らしい。
あいかわらずの素直さにほっこりする。
きっとアル王子もこいうのに癒されてるんだろうね。
「いえいえ、大変な目にあったのはお互い様だよ」
「あの…あと、初日の劇場の時のぶんの…ありがとうございますもあります」
あぁ、と思い出した。
あのあと、王子が来たときちゃんと話せていたという。
ジフェルのせいで無理やり落とされたんだろう、あいつにとって彼女の魔力は亥の一番に欲しかっただろう。
「でも、私の予想当たったわよ♪二人はくっつくような気がしてたもの」
得意げにいうと、レヒューラは顔を真っ赤にして
「あっいえ…そんな…私は…」
そう言ってどもるので、ちょっと心を覗いてみた。
溢れ出すアル王子への想い。
でもそのなかに不安や自分へのコンプレックスとか不安定な思いが渦巻いていた…まさか?と思って聞いてみる。
「うそ…まだ告白とかされてないの?」
そういうと真っ赤な顔がさらに真っ赤になって、ちょっとしたトマト級に赤くなる。
「あの…好きってっ…私だけが、どんどんそう思っていて…あああ…なにいってるのだ私ぃい!…あわわ」
シューシューと湯気が出そうなほど真っ赤になる。
あはは、きっと私もラルといる時こんな感じで真っ赤になってるんだろうなぁ。
ってか!和んでる場合じゃないでしょ?
これは、アル王子大変なんじゃないだろうか。
あんな、公衆の面前で「あーん」とかしていながら、こんな分かりやすくラブラブなのに──お互いに気持ちを確認してないの?????
こりゃ、ベルのところよりも立ち悪いかも…
「えっと…好きって言ってみたら?」
「あの…相手は王子様ですし、最終試験に残れなかったですし」
いえいえ、それは魔術師の陰謀で
──ってどうしたもんかな。
ふと、思い立って聞いてみる。
「玉ねぎの話は誰からきいたの?」
「ご本人からです、苦手だったって…私があまりにもいろいろ苦手だから、あの体動かす事とか…勉強ばかりであまり動かなくて、だからワルツ教えてもらってて、少しでも運動になればって…えっとだから、それでアル王子の足ふんじゃって」
なるほど、苦手な事ばかりでいたたまれなくなって落ち込んだ愛しい子に、自分も苦手なものがあるんだよって教えてあげるアル王子…優しいなぁ。
「で、自分は克服したからワルツも踊れるようになるって…で…本当に踊れるようになって…だから…玉ねぎはワルツなんですぅ」
そして、何気にワルツ教えてる。──うん、策士かもしれない。
将来、彼女がこの国に来たときにきっちり踊れるようにだ。
「ふふ、心配しなくても大丈夫かな?」
「え?それはどういう?」
「えっとね、命の恩人がアドバイスします」
姿勢を正して気を付けの姿勢で聞く彼女
「はい!お願いします」
「アル王子を好きって気持ちを絶対忘れないでね。そして彼を信じて、傍にいてあげて。
…あなたじゃないとダメだから」
「え?私じゃないとですか???」
いっぱいハテナを浮かべている彼女──今はまだ分からないだろうけど。私にはなんせ未来がみえたんだから♪
あの優しい策士はからめ手でレヒューラを落としにかかってるのも分かったしね。
「お?ここにいた」
そう言って現れたのは、当のご本人アル王子だった。
キャンという子犬みたいな悲鳴を上げて、私の後ろに隠れようとする。レヒューラの腕を私は強引にとって隠れさせないようにする。
「ワルツの復習をしてました。ねー?」
「うう…ねーです…」
そんなレヒューラを見て目がなくなるんじゃないかってくらいに笑顔の王子。
覗かなくとも漏れだすレヒューラへの熱く優しい想い。
「今日は、思う存分レヒューラと踊ってくださいね」
そういうとアル王子は優しく頷くそして私の目をしっかり見て
「ラルをお願いします」
そういって頭を下げられる、今度は私があたふたする番だ!
「え???いえいえ、えっと私の方がお願いしますって感じなんですけど…」
そういうとアル王子は静かに言う
「あいつは、いつも冷静な風ですが、一回スイッチが入ると歯止めがきかないタイプです」
それは、わかる──思い込むと思考が止まってしまう事がある。
先の事件で自分を追いつめてた。
過去の事件の時もそうだったのかもしれない。
「あいつの才能は類稀だから、自分はその先走る感情を止める役目をしなければと…ちょっとあいつを見くびっていたのかもしれません」
そう言いながらアル王子はとても嬉しそうだ。
「でも、あなたがいるとあいつは感情的になりながら、しっかり自分を制御できてる。
あなたを守るためにそれを自然と身に着けたようです」
あぁ、命を投げ出すほどの大技は、感情だけで突っ走っては決して成功しない。
私を目標にして飛ぶ空間移動。
「ラルはなんやかんや言いながら一歩引いて、自分に遠慮するようなところがあったんです。
だが、『あいつは』クラァス姫、貴方の事です。
『あいつは俺のものだから、兄貴の花嫁候補からは外す!』
って親父と自分を前に宣言した時に、ああ、自分の役目は終わったなって思ったんです」
えええっ!!!あのあの…それ、またすごい暴露話してますけど…いいんですか?
私は、もう顔が赤くなって、掴んでいたはずのレヒューラの腕を逆に支えにして立ってる状態になった。
「だから、あなたがラルの傍にいてくれるなら安心して、自分はこの国を治める事に集中できます」
そう言って胸を張った。
王になるんだなぁこの人はそう思った。
そして、手をさしだして「おいで」と優しく声をかける。
聞いてるこっちが解けてしまいそうな甘い呟き。
名を呼ばずとも誰に向けられたかわかる言葉。
レヒューラはトテトテと歩いてアル王子の元へいく。
傍に置きたい人も確保できてるし──アル王子男前だね。
ますます、幸せになって欲しい。
レヒューラの手をしっかり握ってこちらを見る。
「では、下でまってますよ?ラル」
そういって私の後ろの空間に声をかけるアル王子。
私がギョっとして振り向こうとしたとき背中から強く抱きしめられる。
「あいつ…何話してんだよ…」
そう耳元で呟くラルの声はかすれすぎてて、すごく照れてるのが分かった。
顔を見たくて振り向こうとしたとき強く首筋を吸われ、体が痺れるみたいに熱くなって動けなくなる。
「今…見んなよ…」
吐息が背筋にかかってゾクゾクする。
そのまま、私を抱きかかえたまま、ベランダにある椅子に座る。
私はラルに抱っこされてるような形になる。
腰にしっかりと巻き付いた腕
首筋にかかる息
いつから聞いてたんだろう、こんなに照れてるって事は──もしかしたら『俺のモノ宣言』ぐらいかな。
可愛いなぁって思ってラルの成すがままになってあげる。
そして、今日一日で聞いた、ラルが私に対してどれだけの想いを注いでくれていたのかを思い出して、胸がジーンと熱くなる。
ラルの腕にそっと自分の腕も重ねて
「ありがとう」
そう呟く。
そうすると、きゅっと腕がしまる。
当てられてる唇が動く。
肩のラインをなぞるように…わざと音を立ててキスされる。
くすぐったくてみじろぎすると、耳を甘噛みされて「うごくな」と息だけで命令される
そのまま、首から背中へ唇が伝っていく
抱きしめられてるお腹の辺りからジーンと熱いものがやってきて、背中をゾクゾクと伝わって…
それが思いもよらない甘い吐息になって漏れる
「ちょ…あっ…ラルっ…」
熱い吐息に背中を愛撫されて、今ここがどこだか忘れそうになった時
ジャーーーン♪
という、オーケストラの音合わせが始まった。
ビックリした私が「ぎゃふ」という意味不明な叫びをあげてしまうと、ラルが笑い出した。
クククッといつまでも終わらない笑いに、ちょっと拗ねて立ち上がろうとしたとき
くるっと向きを変えて横抱きにされて強く抱きしめられる。
そして
「あのなぁ…出し過ぎだろう…背中…」
まったく面倒くさいと言わんばかりのため息をついて言われる。
顔、近いし…その…さっきまで顔が見えないから、ちょっと余裕だったのに。
その瞳で悩ましげに見つめられたらもう…うう、なんか悔しい!!
ここで、反撃の狼煙をあげるべく
「だって、ラルは背中から抱きしめるのすきでしょ?だから喜んでくれるって思ったのに!」
そう言って暴れると「キスすんぞ!」と鋭く言われる。
語気に押されビクッとして一瞬止まる。
何?おどし??内容は完ぺきに違うけど──口調がおどしだった。
え?でも??って考えが及んで
「あれ↑?」
そういうと、またクククッって笑い出した。
考えてみたら──最初にあった時からこうやって机に突っ伏して笑ってた、何気に笑い上戸なのかな?
笑いながら彼は、観念したように優しく伝えてくる。
「あのな…俺以外に見せんなって事、ここまでは仕方ないけど」
そういって、背中を支えてる手で肩甲骨の辺りをこちょこちょする。
「きゃ…」
くすぐったくてもじもじする
「でも、それ以上は…許可しない」
まるで呪文を打ち消すように彼は言う。
だから最後の抵抗をしてみる。
「えーでも減るもんじゃないよ」
そういうと最大に甘く最高の呪文が唱えられた。
「すり減るの、俺の心が」
あぁ、ラルが…大好きな人が私を独占したいって思ってくれるのって、こんなに心地いいのかぁ
甘く痺れる魔法がかかる。
私を虜にしてそれは解けることはない。
ダンスホールからワルツが聞こえ始める──音合わせ最終調整だ。もうすぐ降りて行かなきゃいけない。
きっと、ラルは私に魔法をかけたように踊らせてくれるはずだ。
それがわかり切ってるから──今は、あと少しこうして…
私の大好きな大好きな偉大な魔法使いの王子様の愛に、包まれている事にする。
唇が何度も重なり
甘く熱く想いを囁き合う
囁きを繰り返して高まっていく
ラル……愛してる。
夜の闇に吸い込まれていく私たちの想い。
どこまでもどこまでも──遠くまで響いていく。
当て馬裏話し
~Fin~