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別冊 当て馬ならし  作者: 糸以聿伽
裏話し
4/11

第四話 Make me a sacrifice

全面ガラス張りのその建物は、夜の中でトパーズのような色で輝いていた。


半円形の小ぶりなドームが木々の影から見える。入り口に数人の出迎えの人々が立っている。

プライベートラウンジと言いながら規模は確実にファルゴアと雲泥の差だ。


一つの建物が、今日は私たちの──つまり、私とベル・ピコランダ王・王妃・王子二人、あとレヒューラの貸切になるという。


ハトナが後ろに下がりタシーと並ぶ、私はベルと並んで歩く。


出迎えに立っている人影の中にピコランダ王が見えた。


満面の笑みで迎えてくれている。


ベルが今夜のパーティーのお礼を述べて一緒に頭を下げる。


王がベルをエスコートして中にはいると──そこには、ダンスホールがあって、奥に階段がありロフトにつながっている。


ガラスが光を反射してドーム内はキラキラしてた。


それに目を奪われたあとふと目を戻して


私は、息が止まった。


黒の髪を片方に流し、眼鏡はいつもの銀でなく深い青と黒のフレーム。青いシャツに大きな宝石のついたリボンタイをさりげなく着こなし、黒の燕尾服には銀色の飾りチェーンが付いている。

大人しい色のコーディネイトなのに──眩しすぎて、くらくらした。


眼鏡の奥の夜色の瞳が私を映してふんわり微笑んだ。

この笑顔を見るたび、私はこの人に惹かれて行ったんだっていまならわかる。


ラル…私の愛しい王子様。


差し出された手に手を重ねる。

エスコートされながら進行方向をみなきゃいけないのに


その瞳から目が離せない。


こんなかっこいい人が──私の想い人なんて!


最初の晩餐会で彼がふてぶてしく、椅子に座って姫達に猜疑心たっぷりの目で睨んでくれてよかったって思った。


だって──こんな、こんなにカッコいいっ!てわかっちゃってたら、それこそ、もう私がこんな風になる事が出来なかったかもしれない。


そっと背中に腕がまわった。

するとラルはギョッとした顔をして私の背中に視線を投げた。


今回は胸をしっかり隠すドレスを選んだが、背中は腰のくびれのところまでしっかり開いている。

バックレスドレスでもある。


胸はしっかり隠すけど後ろはしっかり見せてバランスを取っているの。これなら、後ろから抱きつくの好きなラルも気に入ってくれるかな?


そんな思いがあって選んだ。


ラルはさっと目線を前にもどして、何食わぬ顔で階段を上り席にエスコートしてくれる。


あれ?あんまりお気にめさなかったかな?


スリットの深いドレスを選ぶべきだったかと思ったけど、後で聞いてみようと思った。


楕円形のテーブル一つに7人分のテーブルセッティングがしてある。


既にテーブルには王妃とその横にアル王子、そしてその横にちんまりと可愛くレヒューラが立っていた。


髪型はサイドの髪を編みこんでハーフアップにしている。

緑のレースの花が胸から腰の下あたりまで散らばり、その下は白地でふんわり広がる。


腰に可愛いリボンが巻いてあって、まるでこれから誰かのプレゼントになってしまいそうな可愛いラッピングが施してあるようだった。


アル王子はやはり白だ。

金と赤を織り交ぜて威厳のある正装だった。


男らしく威厳のあるアル王子とちっこい宝石みたいなレヒューラ。


その対比が微笑ましかった。


王を囲んで左に王妃右にベル王妃の横にアル王子でその隣がレヒューラ、ベルの横は私で──隣はラル。


なに!?もうこの周りが周知の事実です的な感じの席順!


そんなこんなで食事会は和やかに過ぎていく。


あくまでも私の回復とレヒューラの慰労と言う態なので、交際宣言などの話は特に触れられず、過ぎていく時間──


食事の合間、ベルが王と王妃の相手をしてるので私はそれを眺めていたら膝に置いた手に何かかさわる。


ん?って思ってみると


ラルの手だった。


ぎゅっと握られて、心臓がドキってする。

横をみると肩肘をついたいつものクール眼鏡ラル王子が王たちの会話を聞いてる。


……でも、反対の手は私の手を握ってる。


っていうか、みんないる前で…えっと机の下だけど。


あたふたしてたら掌の人差し指の先の柔らかいところをふにふにと押してくるその手持無沙汰で私の指で遊んでる感がなんかきゅんときてしまう。


次の料理が来るまで、ふにふにされてあたまくらくらして王の話もなんにも頭に残らなかった。



メインディッシュが運ばれてくると、美味しそうなお肉の横のつけ合わせがこんがり美味しそうな玉ねぎ(・・・)のソテーだった。


その瞬間口をついて「玉ねぎ」と呟く。


同じ呟きが目の前から聞こえて、ふっと目線をあげるとレヒューラもこっちを見てた。


お互い目通じ合ってクスリと笑い会う。

そしてお互い、これが苦手な王子様たちに目線を移す。


ジローリ


ヒエ───────っ!

こちらの夜色眼鏡さんは闇を思わせる目で睨んでくる。

『なんで知ってるの?』みたいな感じ?

はじかれる様に視線を外してレヒューラとアル王子を見ると、


ニコニコして見上げるレヒューラに「たべられるよ」と優しく微笑み返してるアル王子。


わーあっち太陽っすなー


横から吹きつける冷たい北風を感じながら、太陽カップル観察してると──何を思ったのか突然レヒューラが自分の玉ねぎをフォークに刺して

「あーん」

と言ってアル王子にさしだした。


こっ…こ……ここでか??!!!この子…もしや天然なのか?

私は急にそわそわして周りをキョロキョロしてしまう。


ところが、王達はベルの話すファルゴア7不思議に夢中になってるし


隣の人は───怖くて見れないっ…じゃ、じゃあ当事者のアル王子はというと?


これまったにっこり微笑んで「あーん」といって口を開けて玉ねぎを食べる。なんの躊躇もない。


お返しといって、レヒューラにも自分の玉ねぎを食べさせる。

二人で食べて、「おいしいねぇ」とか言ってる…


心臓に悪い。


……なんだ、これって人の劇甘空間に突然に巻き込まれて、口が緩むやら、ドキドキするやら、人の事なのにこっぱずかしいぃ〜


食べよう食べよう美味しいお肉食べましょう!


そう言って食に集中する事にする。


すると、お皿に「ころん」と玉ねぎのソテーが現れた。


──え?二個になった?

目をこすっても玉ねぎは倍ある。


この野郎、玉ねぎ大戦争のとき使ったのはこの魔法か!

そう思ってラルの方をキッと睨む。

すると──ラルは憮然とした顔で私の皿を指さす。


ジャスチャーで何かを伝えようとしてるのか?


この皿?玉ねぎ?…玉ねぎを、フォークで刺して…うんうん…口を開けてここに入れろと言っているようだ。


あー「あーん」しろってこと?


!!!!!!っっうううっておおおおいいい!!!!!


動揺が走ってフォークを取り落しそうになる。

手から滑ったフォークがふわって浮いて手に戻ってきた。


え?やるの?恥ずかしさで泣きそうな気持でラルをみると、なんでやんないの?って感じで涼しげに私を見てる。


あ…うそ…フォークがするりと勝手に動く。


玉ねぎを刺して私の手に戻ってくる。


うわーわー魔法ってベンリダネ?


ラルを見る。

なんだろう──すごく期待されているクールに装っているけど、とても目を輝かせている。


これは……観念しなければいけない時がきた。

恥ずかしさをこらえ、周りを警戒して、だれもこっちを見てないのを確認。


よし、今だ!!


ラルの口元にゆっくりとフォークを差し出す。

パクッとそれに食いつく唇もしゃもしゃと食べて「おいしいなぁ」と言って笑う


きゅん↑!!!


反則です……ずるい…よぅ…


もう心臓が口から飛び出しそう。


せっかく今日は大人っぽく決めてるのに、結局ラルに翻弄されて顔は真っ赤。


こんな時、肌の色が濃くてよかったって思う。


ちょっと仕返ししたくて

「玉ねぎ食べられるようになったんだね?大人になれてよかったねぇ」

とイヤミを言ってみる

「クララが食べさせてくれるんならなんでも食えるな」

シレッとそういった。


うううう…甘い言葉禁止!!!顔がにやける…まずいよぉ。


私は結局、甘い反撃に撃沈して顔を真っ赤にしながら、もくもくと食事を続けるしかないのであった。

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