第三話 BattleCry with LOVE
「あれは、交際宣言だよね」
ベルが顎をツンと突き出してにやりと笑って私に言った。
パーティーの会場に向かって、ハトナに先導されながら移動している最中の話。
「へ?」
今夜のパーティーは王族のプライベートラウンジで行われるという事で、いつも行く夕食会の食堂とは違い外廊下を通る。
そこで、書庫がちらりと見えた時、突然指を指してベルが言った。
「あの場所で、真昼間にちゅーですよ?
姉様ぁ『これは俺の女だ!!』って宣言してるでしょ!独占欲つよいよね?」
そういってからかう様に覗き込む大きな瞳はキラキラしている。
う…うそぉ……そんな馬鹿な。
「でも…だって、そんな誰が見てるのよぉ。
みんなお仕事中であんな高いところみてないでしょ?」
もごもごとどもる。
そう言いながら、妹には見えてたみたいだし…顔が熱くなる。
すると私たちの後ろからついてきていたタシーが
「うちの騎士も御者も見てたようで、みんな喜んでましたよ。
回復祝いと恋愛成就で号泣しましたよ、私たち。」
さらりと言われた。
確かに…いっぱい心配かけたよね。
やっと私をのせて凱旋できるようになったのだから、喜ぶわよね。
ありがとう…。
と思いながら…ということは?
うわーー今この城でラルと私の事知らない人”いない”ってこと?
そう思うとただでさえ緊張してるのに、今から王や王妃にどんな顔してあったらいいか分からなくなる。
途端に、恥ずかしくて『ぎゃーー』って叫びたくなる。
「まーコウモリ君、ずいぶん我慢してたみたいだしね。」
「あ!そのコウモリ君って?ラルの事?」
丁度話題が変えられそうだから、すかさず飛びつく。
そう言えば、目覚めた時にもベルが言ってたのを思い出した。
「夜の闇にまぎれて飛んできたら、そりゃコウモリでしょ。」
眉をひそめてベルは話し出した。
ベルがピコランダ入りした時、私の顔色はもう良くなっていて、あとは目が覚めるのを待つだけと言う診断になっていた。
まずは、今回の事件の経緯を王から説明を受けて、ベルは看病の為に私の部屋に寝泊まりするつもりだったという。
旅の疲れもあり、夜も深くなるとうとうととしてしまったらしい。
「なんかね、気配を感じて目が覚めたら、ベランダに黒い影がたってるのよ。
でかい影で、青い光がふわーってしてて、あたしもうこれはコウモリ男でたーーーーー!!!って思ったわよ。
で、叫ぶために声を上げ様としたら、『舌打いっぱつ、サイレント★』」
ウィンクして舌をペロってだして人差し指を顔の横で立てるベル。
「お…おう…いきなり魔法かけられちゃった訳だ」
「うん、さらに“ホールド”だよ?足をいきなり氷で固定だよ」
ベルは少し魔法の事も勉強している。王妃になるための基礎知識だという。
しかし、突然現れた黒い影に魔法をかけられたベルはなんとなく、危機感はなかったという。
そんな風にいきなりベルの行動を抑えても、危害を加えてくる気配はない。
「なにより、おねぇちゃんしか見てないの。そのコウモリ男…」
ベルに魔法かけて、その後は迷いなく私のベッドの横にしゃがみ込んで魔法陣を展開し始める。
ちょっと失礼だなって思いながらもベルは大人しくしていた。
「魔法かけられて、寝てるおねぇちゃんが幸せそうに笑ったの…」
だから、これはおねぇちゃんの為になる魔法だって思ったという。
ふっと魔法陣が消えて、ベルにかけてあった魔法も解けた。
「ちょっとあんただれ?」声を抑えて早速聞ベルが聞くと、彼は自分がこの国の第二王子だと言った。
ベルの事もちゃんと知ってて、突然の無礼を詫びた。
「見た目によらずいい人だ、って思ったよ。まー説明しろ!とは思ったけどね!」
あー、それにはほんとその通りだと思う。
思い当たりまくるラルの行動が目に浮かぶ。
「おねぇちゃんに何したのって?聞いたら『魔力を補充して治癒力を高めてる』って言ったの。それで、処置がおわったらから失礼するっていって出て行こうとしたら…」
彼の袖を私が引いたのだという。
夢の中でいつも探していた腕…現実にもつかんでいた。
「捕まれた瞬間、彼、反射的におねぇちゃんの手握り返しててぴーんと来たわ」
そして彼女は心を覗いた。
ハトナには聞こえないように耳元で囁く
「蜂蜜風呂〜〜もうねぇ。覗かなきゃよかった。
早く良くなれって必死に思ってて、あともう、好き好きってもう、キスするぞーーー!このやろーーー♪かわいいなぁーーー♪ちくしょーーー!…みたいな?」
言いだすベルの口を押える
「わっ、わかったよ…心臓がドキドキして…恥ずかしいから、もうやめてぇ…」
もう、確実にベルが私をからかいに来てるのがわかる。
私も、セルヴァンの事で大分からかったから、これは因果応報。甘んじてうけるけど…
こう…、なんとも恥ずかしいというか…嬉しいというか…
あと、ラルのこの暴露されまくり行動…本人が知ったらきっと照れちゃうよなぁ。
「クラァス様が倒れられてから毎日いらっしゃっておりました。」
ハトナも追加情報をくれる。
何気にハトナ最強。
「とまー、毎日毎日魔力と愛情注いで、夢うつつの想い人が起きあがってくるの待ってたのに、やっと起きあがったって報告が来て、仕事ほぽって研究所から文字通り飛んできたら、目も合わせないのよ?」
今日の昼の私の行動を思い返す。
それで、最初謁見の間にいなかったのに、途中から現れたのか。
あの時、みんなが止まったのって、ラルが空間移動で来たのみんな気がついてたってこと?
でも、そんなこと言われても…
まさか、あの夢が現実だって思ってなかったし嫌われたくなかった…でも…そうか…
だから「勘違いだった?」って弱気な発言だったのか。
「そりゃ、みんなに『うまくいきましたーーーーー!!!!』って宣伝したいよね♪
愛されてるよおねぇちゃん」
ラウンジがそろそろ見えてきた。
あの中には、ラルとラルの家族がいる。
恥ずかしいような嬉しいような…
でもみんながもう知ってるなら、怖いものは何もないかな。
ラルの想いが嬉しくて、開き直る。
「覚悟できた?おねぇちゃん」
強い瞳が私の心を見抜く。
やられた…ベルの意図が解って、素直に笑みがこぼれる。
そうか、ご両親にきちんとあいさつしなきゃとか、緊張して不安だったわたしの心を鑑みての発言か…
ほんと、ベルは頼もしい。
それはもう既に王妃の微笑みだった。
私はベルに強く頷いてラウンジの光を目指して歩を進めた。
怖いものは何もない。
傷つけるものは、もう…ここにもいない。
私は愛しい人の待つ場所へしっかり歩き出した。