親友・新田由生に宛てた手紙
※林弘彦が、親友・新田由生に宛てた手紙。
尚、新田氏は林が十代の頃、既に病の為亡くなっている。
『親愛なる新田由生様
人々と世界は君を救わず、また、君を害した私を殺さなかった。
それどころか、私に狂えそうな程の富と名声を投げて寄こした。
今はただ辛い。
私の抵抗は何の意味も無かった。
本当はただ、太陽の下、四季の中で、君と駆けて遊びたかっただけだったのに、それを許してくれなかったこの世が憎くて、足掻き続けた。
君が病気にかかった時から、私はこの世が大嫌いだった。
掃いて捨てるほどいる人間の中で、何故君だったのかと思うと悔しくて。
今を流れるこの世界が少しでも壊れ、淀み、混沌とし、人々が少しでも今よりより不幸になればいいとそればかり考え生きてきた。
世が歪んでいくのを見るのが好きだった。
人が堕ちていくのを見るのが好きだった。
だからこそ、額縁で捕まえて飼う良き頃の時間が好きだった。
私はこの世界に対して、長い間いじけすぎたみたいだ。
反抗したらしただけ、刃を向ければ向けるだけ、悪漢死すべきと放り捨てられるかと思いきや、世界は大いなる慈悲で私の意地など鼻にもかけず、他の人々同様に私を愛しているらしい。
今息絶えたところで君と同じ場所へはとてもいけないだろうが、それでもここにいるよりはずっとマシだと思うので、私はもうここを出る。
次に会ったら、地の底を知らぬ君に冥界の話聞かせてあげられることだろう。
だから、君から美しい天界の話を聞きたい。いつか病室で聞かせてくれた、君の知る物語たちのように。
君が檻から抜け出したその日からの時間と、君が地上から消えてから今日までの私の悪徳と人生を、こうして一冊の記述とし、心より君に捧ぐ。
私の永遠の少年“Adèle”へ、死して尚幸あれ。
小野寺弘彦 』




