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01

 今、田中大輔は自らの命を絶とうとしている。

 学校の屋上から一歩踏み出し重力のままに落ちるだけだ。

 この広大な空には雲ひとつなく青一色に染められている。まるでこの空は自殺することを賛成してくれているようだ。太陽も真上から見守ってくれている。

 すずめの囀りに負けないぐらい耳障りなみんなの声が教室の外まで響きわたっている。

 3年間穿き続けた、たった一足の踵のつぶれたボロボロのスニーカーを脱ぎ丁寧にそろえた。ここまでは自殺の定番の行動だ。しかし、遺書などしゃれたものなどない。遺書などなくてもなぜ僕が自殺したかはクラスメートも教師たちも全員が知っているはずだからだ。どこまで真実を公表するかはわからない。もしかしたら一から隠ぺいするかもしれない。でも……

「さようなら」

 すべてのものに別れを告げた。

「そんな場所からどこへいくの? 翼もないのに」

 飛ぼうとした瞬間、背後から聞いたことのない女子の声が聞こえた。友達がいないのだから聞いたことがない声でも不思議ではない。

 普段、誰からか話しかけられる事がないので驚きつい反射的に振り返っていた。見たことのない顔だ。細身で身長が高いからかとても小顔のように見える。

 慌てて目線を外し自分の足元を見た。

 彼女は細く長い脚を曲げ僕の顔を覗きこんできた。

 僕とは真逆の世界に住んでいるのか彼女の目は太陽に照らされた水面のようにキラキラと輝いていた。

「素敵な夢かもしれないけど大輔君には翼が付いていないからそれじゃ落ちて死んじゃうよ」

 僕は勢いよく全身を右方向へ向けた。同時に彼女は尻もちをついた。

「良いよ、それで」

 彼女はお尻を叩きながら立ち上がった。

「あ、自己紹介してなかったね。中野陽向です。よろしく」

 僕の返事はすずめの囀りに負けたようだ。

「ねぇ、私と付き合ってくれない?」

 すずめが一斉に飛び立つ。

 唐突に投げ出された言葉につい彼女の顔をまじまじと見てしまった。

 少し赤く色づいた顔まま僕から視線を外さない。

 生温かい風が僕たちの間を通り抜けた。

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