第十話 手を血に染めて
アトスとエスペの二人は、甲殻のハサミを淡々と振り回す巨体の兄を相手に手こずっている。
私達は本来猟師だ。普段は息を潜め、相手に忍び寄り、適切な距離から、慎重で、的確に獲物を仕留めるのが生業だ。
突発的なことが生じたとはいえ相手と近接して戦うことを得意とはしていない。今対峙している相手――私達を始末するために追ってきたギョッティーネとガルゲンの兄弟は、乱戦を想定したような改造が施されている。
グルグルと障害物の多いゴミの山を這いずり回りながら、時折、私とスソーラに飛びかかるガルゲンの攻撃を三センチの能力と、サソリの尾で牽制しながら、何とかかわし続けるが、これ以上能力を使い続ければ、いずれかは不快な頭痛に見舞われることになる。
「このままじゃあ、ジリ貧だよ。アンタ、アタシを助けた時みたいな気概はでないのかい!」
「す、済まない、踏ん切りがつかない」
スソーラが深いため息を放つ。ガルゲンが厭らしい笑みを浮かべつつ、こちらの動き方を眺めている。
「アイツを殺すのはアタシがするから、なにか、状況を打破できるようなことは出来ないのかい? あの、ギョットを使ってさ!」
苛立ちからかスソーラは無理を言う。ケケケと笑い声を上げ、こちらに巻きつこうと飛び込んできたガルゲンを飛び退いて躱す。
「そんな、大事なこと、でっけえ声で訊く奴はいねえよ」
至極当然の事をガルゲンは馬鹿にするように私達に向ける。
あるには、ある。だが、広い空間とは言え、皆がいるこの場所で出来ることではない。
苦渋する私の視界の片隅に、手酷いやけどを追いながらもヨロヨロと動くゴミ溜めの王、レークスの姿を捉えた。
今の今まで、身を隠していたはずだ。この期に及んで、まだ、何かに執着しているのだろうか。余計な事をしないでもらいたいものだ。
案の定、その動きはガルゲンに見定められる。ワスターレがレークスを押しとどめようと傍にいる。
「爺! 何をするきだ? 大人しく待っていろ!」
そうは言いつつも、二人を人質にでもとろうとして、ガルゲンが這いずり近づいて行く。舌打ちをしつつ、私は距離が開いた分、銃の照準を合わせようとするが、手が震えまともに相手を定めることが出来ない。
ガルゲンが、恍惚な笑みを浮かべワスターレ達に向けて、飛びかかり、巻きつこうとしている。捕まれば、なす術はない。二人を見捨てるか、全員死ぬかの選択しか残されない。
しかし、飛びかかるガルゲンに横から出てきた影がぶつかり、二つの人影がゴロゴロとゴミ山の合間を転げていく。
「この、地下のモヤシが何をしやがる!!」
ガルゲンが激昂して飛び出して邪魔をした相手に絡みつこうとするが、尾っぽを振り回したスソーラが牽制をする。
邪魔をした男、ネポースがガタガタと震え、頭を両手で隠しつつ肘と膝で四つん這いになりながら、スソーラとガルゲンの攻防の間を潜り抜けていく。
顔を真っ赤にして、涙を流し、鼻水を垂らしながら、必死に逃げつつある男の姿を私は笑えない。
ワスターレ達の傍に向かう。
「何処に、向かおうとしていたのですか」
「余所者の盗人に……」
私は、いまだに世迷い言を言おうとするレークス翁の胸倉を掴み、多分、今迄にない憤怒の表情を浮かべて問い質している。
「実の息子や孫娘を犠牲にしてでも、守ろうとしたものがあるのは知っていますが、死ねばなににもなりません。言え、どこに行こうとした!」
相手は息も絶え絶えの火傷を負った老人だが、私は容赦をすると言う感情が抜け落ちていた。
目の先に見えるスソーラとガルゲンの闘いは、拮抗はしているものの、人を殺すことに躊躇がないガルゲンの方が動きが良い。
威勢のいい事を言っているスソーラ自身、結局私を殺していない。
彼女だって、殺人は初めてになるのだ。
早く言え、私の心情を察した、白く小さな指がゴミの片隅を指差している。
「多分、あそこに何かがあるよ。前に、爺様があそこでうろつくのを見たから」
眉間に深い皺をよせ、何かを言いたげなレークス翁の胸倉を突き飛ばすように手荒く放し、私は銃を構えてガルゲンに向けて撃つ。
割り切れてもいない。吹っ切れてもいない。だが、覚悟だけはつけなければいけない。
銃弾は当たらない。あれだけ動く相手を一撃で仕留めるだけの腕前は持ってはいない。はっきり言って威嚇射撃にもならない。
空の薬きょうを排出して、次に備えるも、スソーラの尾っぽをすり抜けて、距離を取ることに脅威を感じたのかガルゲンがこちらに向かって来る。
「あ、アンタを狙っているんだろう、アンタも……」
「この人達を頼みます」
顔を汚した、勇気ある男、ネポースに二人を任せる。
ガルゲンは直線的に向かってはこないが、私に迫りつつある。もう一度銃弾を放ち、私はワスターレが指先を向けた方へとゆっくりと動き始める。
ガルゲンの気はこちらに向いている。歩みを早める。
相手の動きは視界に留めておけ。
ゴミの山をものともせずに這いずり回るガルゲンに向けて銃弾を放ち牽制をする。当たるわけがない。まともに照準を合わせていない。ハッタリなのだ。
スソーラは、先程の攻防で体力を消費したのか、こちらに追い付いては来ない。だが、いずれは向かって来るだろう。
予想が当たっていてほしい。ゴミの片隅に隠れた場所が彼の言う遺産を隠すに値する程度の場所であってほしい。
大それた装置を望みはしない。
大規模な仕掛けも期待はしない。
ゴミ、残骸が重なり合った場所へとたどり着く。複雑に重なり合った何かの残骸にしか見えないが、人が這って通れる隙間がある。
這うような動きをするガルゲンに有利な状況だ。それでも私は這いつくばり、匍匐前進で隙間に潜り込む。
ガルゲンが視界から外れた。私を追ってきているだろうか。間違いなく追ってきているだろう。ゴミの残骸の穴の先にわずかながらに光が見える。
あと少しで、穴から出られる。私の上半身が出た時、グッと私の足を掴む者がいる。
「ヘヘヘ、待てよ、直ぐに、殺してやるからよ」
這いながらも、腹に脚が生えるガルゲンの引く力は強い。私を元の場所まで引きずり戻そうとする勢いだ。
「お断りだ」
脚を揺すぶると靴が脱げる。
「へへ、待てよ、って、おい、なんだ、オゲェ」
身に起きたことが何かもわからずにガルゲンは私の足元から手を放す。気を逃さずに、両の手を突き、穴から這いずり出て、私は直ぐに残った靴と靴下を脱ぎ棄てる。
「て、手前、一体どういう足をしていやがる! う、ひ、ヒデエ臭いだ、ゴミより臭えぞ!」
穴から出てきたガルゲンは鼻をつまみ、捨ててあった靴下と靴を蹴り飛ばし、部屋の片隅に追いやるが、その程度の距離ではどうにもならないだろう。
薄明かりがほんのりと灯る部屋。鉄製の事務机ががあるきりのさほど広くはない場所だ。
それでも、天井にほんのりと灯る明かりだけでは部屋の隅まで照らすことが出来ない。
格好の場所だ。ガルゲンは私の姿が消えたことに驚き辺りを見回し、棒立ち状態だ。
夜目の効く私にはその姿がくっきりと見えている。
異臭を放ち続ける足の臭いにはもう慣れている。気付いたころにはこの能力が発露していた。おかげで、両親に嫌われたのだ。
靴と靴下はしょっちゅう洗わなくてはいけない。今回の旅では、網上げの靴を選んできた。蒸れてしょうがないが、臭い対策のためには仕方がないのだ。
人を不快にするほどの臭いを放つ油足。私が持つ最後の能力。人前で晒すことは決してない。匂いに敏感な野生の獣相手に使える能力でもない。役立たずの能力。
だが、いまは、この能力が功を奏している。
あたりを見回すガルゲンに照準を合わせる。
確実に仕留められる。
天井の片隅に油足の粘着力で逆さにへばりついた私はそっと引き金を引く。銃口の先から白い火花が飛び散り、壮大な音を立てて、銃弾は放たれる。
火花の散った先に、ガルゲンの肩から紅い血が飛び散りのけぞる姿が見えたと共に、叫び声が響く。
狙いが外れた。
頭を何故に狙わなかった。確実な胴を狙ったからだろう。それでも、実際に当たったのは右肩だ。
やはり、私に人を殺す覚悟は共わなかったらしい。
鳴き声を上げながら、虫が這うような音を立てて、何かが部屋から出ていく気配がする。
ガルゲンが逃げたのだろう。私は直ぐに天井から飛び降りて、直ぐ様に蹴飛ばされた靴と靴下をはき直し、ガルゲンの後を追う。
這う速度が速いガルゲンはとっくに穴から出きっている。ヒィヒィという叫び声が先の方から聞こえてくる。
あれだけ人を楽しそうに傷つけている男が、自分が傷ついた瞬間にみっともなく泣き声を上げている。
私の顔が出たと同時に、駆け逃げるガルゲンが大きな声を上げる。
「あ、アニキー、ギョッティーネ兄貴、痛え、痛えぇよぉおう!」
「ガルゲン!」
何も言葉を発することがなかった、巨体の兄、ギョッティーネが撃たれて傷ついたガルゲンを見た瞬間に動揺し、激昂したかのようにハサミの腕を振り回し、エスペとアトスから距離を取ろうとする。
振り回されたハサミを後ろに飛び退き、避けたエスペがその場で立ち止まる。邪魔だと言わんばかりにギョッティーネがハサミを振り翳し、叩きつけようとしている。
「待て、お前の弟は傷ついてはいないだろう?」
相手を睨んだエスペが信じられないことを言うも、ガルゲンに目を向けたギョッティーネが一瞬、ホッとした様な表情を浮かべて、直ぐさま過ちに気付く。
躊躇は一瞬で十分だった。濁声のような音と共にギョッティーネの両脇腹が削げるようになくなる。
吹矢を構えたアトスに、至近距離から素早く狙いを定めたエスペの早撃ちがギョッティーネの胴体を消し飛ばした。
「人に向けて放つなよアトス」
「お互い様だなあ、エスペ」
一歩間違えれば、突き抜けた銃弾がお互いに当たるかも知れないことを承知しながらも、二人は敵を討取りに行った。
巨体がドサリと倒れる。エスペの声を掛けられた際に、相手は一体何を見たのだろうか。
「兄貴−、ヒィー、イヤだぁー」
ギョッティーネが倒れたのを見てもなお、叫び声を上げつつ、ゴミの隙間を這いずりながらガルゲンは逃げていく。
助けを求め、助けるために身体を張った、実の兄をあっさりと見捨て、傷ついた身体を引きずりながらも、隙間、隙間に逃げていき、私たちは瞬く間に、その姿を見失ってしまった。
「致命傷だったのか」
「いえ、肩に命中しましたが、そうとは言えません。出血を適切に処理すれば生き延びることも可能でしょう」
「適切に処理ができればか」
鼻を鳴らして、エスペはガルゲンが逃げた方向を蔑むような視線を向け、私の肩を軽く叩き、親指を立てて、行くべき方向を示す。
視線をやれば、手酷い火傷を負って息も絶え絶えなレークス翁と、その様子をじっと見る孫娘のワスターレ、ネポースがいる。
「……あの、爺さんはもう、持たないね」
こちらに歩み寄ってきたスソーラが小さく呟く。
「で、ゴミの山の奥には何かあったのかい?」
「いえ、事務机があった程度です。めぼしいものは見当たりませんでした」
「ならよお、その、事務机の引き出しのなかじゃあねえかあ」
戦いのさなか、皆を置いて一人宝探しをする考えなど浮かぶわけもなかった。そもそも、人様の物を漁ろうとして老人に手荒な真似をしたわけではない。
「いまさらさ。爺さんはもう持たないよ。なら、遺産とやらは、唯一生き残った親族、孫娘が手にする権利があるんじゃないのかい」
スソーラはそう言って、暗に私にもう一度、ゴミ山の奥に潜って何かを見つけて持ってこいと言いたいようだ。
まあ、とりあえずの危機は去った今、私自身、失礼ながらも多少の興味はあるから、やぶさかではないところでもある。
「見つかったのはこれくらいですよ」
私が手にした手のひらよりも少し大きい程度の写真入れと手帳を皆に見せる。ネポースが写真を見て首をかしげる。
「なんだいこれ、若い頃のレークス一家の絵姿じゃないか。でも、随分と上手な絵だなあ」
生き写しのように描かれた若かりし頃のレークス一家――写真の中では仲睦まじく皆が笑っている。死んでいった兄弟夫妻、ワスターレであろう赤ん坊を抱えている。そして、今は息も絶え絶えなレークス翁と、その隣には見たこのない女性が一人。
「か、返せ、儂の宝、唯一の思い出となる、しゃ、写真……」
「写真機を見つけたのですか、よく、現像までできたものです」
都市の上流階級が高い金を出して、節目の記念に撮影する写真。現像をするにも、それ相応の設備が必要なはずだ。
「こっちは、日記かあ? あー、うー、読めねえ字が多いなあ」
アトスが手にした手帳の中を勝手に読もうとするが、あまり字が読めない彼は周囲を窺う。
エスペもスソーラも目を背ける。ネポースは俯いたままだ。
そもそも、人様の日記を勝手に読むとな何事だと問いただしたい。
「ワスターレ、字は読めますか」
「……読めない」
下唇を管で悔しそうにワスターレは呟く。私は、深くため息を一つついて、アトスから手帳を預かる。
「読んでも宜しいか、レークス翁」
「か、返せ、儂の、お、思い出・・・・・・」
レークス翁は意識さえも危うい状態だ。何とかしてやりたいが、この場から連れ出そうにも、動かした方が危険な状況になっている。もはや、命が助かる見込みはない。
私たちはここで、彼を見送ろうと決めている。
そんな人間の日記を読むと言うことは、死に行く人間に鞭打つような事をするようで、気が引けてならない。
「構わないから、読んで下さい。なにか、判るかも知れません」
遺産を受け継ぐワスターレからの申し出もあり、渋々ながらも、私は手帳の中身を読み上げていく。
日記は、彼らレークス一家がこの地――地下のターミナルへ行き着くことになったあたりから書き始められたようだ。
愛する妻と、愛しい家族と共に私たちは崩壊した共同体を後にした。突然の魔獣の襲来。共同体の人間は皆散り散りに逃げた。私達以外に生き残った者がいるのかどうかさえ判らない。しかし、私達は幸運だ。生まれたばかりの赤子も含めて、皆、生き残っている。落ち込んでばかりはいられない。皆のためにも安全な場所を確保しなくては。
逃げた日から幾日も経ち、ようやく安全な場所を見つける事ができた。妻が随分とつらく、苦しそうな様子だったが、ようやく落ち着くことができそうだ。私達、地下の共同体の子孫にのみ組み込まれている人体認証鍵に、閉ざされた扉は反応をしてくれ、ここへと導いてくれた。部屋はかなり広い。私達一家だけで住むには広すぎるくらいだ。いずれは、方々に逃げた他の人間と一緒に生活をすることになるだろう。
妻が逝った。私に断りもなく、一人で勝手に逝ってしまった。手元には、この、安全地帯に来たとき発見した印刷写真機――1枚だけ撮影が可能だった――で撮った写真を残して。写真の中で彼女は痛みをこらえて私の隣で笑っている。この、思い出を無くしたくない。いつの日か、息子達夫妻と孫娘のワスターレにも見せられるように、色あせることが無いよう、閉まっておくことにしよう。
他の共同体の人間がここに来た。私達のいた共同体の人間で生き残ったのは私達だけのようだ。魔獣に襲われたのだから仕方が無いことだ。ここは、広く、安全だ。多くの人間が移住したいと申し出ているようだ。息子達は、人が多くなれば安全だと思っているようだが、私には気がかりがある。私の思い出の写真を見つけた者が、珍しがって、欲しがりはしないかという不安が残る。
思い出の写真をしまった事務机の周りにガラクタを置いた。ゴミを漁るような者は少ないだろう。息子達からは何をやっているのかと問いただされたが、必要なことだと言っておいた。
誰かが、私が集めたガラクタの中に宝があると噂をしているらしい。確かに宝だ。私にとって大事な思い出。そして、今日、ガラクタを漁る者を見て怒鳴りつけてやった。渋々とそいつは退散をしていく。このままではいずれ、見つかる。もっとガラクタが、ゴミが必要だ。思い出を隠すために。
その後は、徐々に人間不信に陥るレークス翁の様子が日記には認められていた。息子達から、止めてくれと言われても、よそから来た人間に迷惑だと言われ続けても、逆に怒鳴り散らし、発見者に部屋の所有権はあると権利をがなり立て、皆を追い出し、延々とゴミを集め続けた理由が、日記には綴られていた。
「家族との思い出の写真を盗まれたくないがための行動だったと」
「そ、そうじゃ、思い出を、ぬ、盗まれたくはない、む、息子達も、わ、儂が何かを、か、隠していると、い、言い始めて」
「追い出したというわけかあ」
ワスターレは何も言わずに俯いている。子供に聞かせる内容ではなかった。
「わ、儂の、お、思い出、か、家族との、だ、誰にも」
渡しはしない。そう呟いて、レークス翁は事切れた。手帳と、写真立てをレークス翁の亡骸に手渡し、見開いた瞼をそっと閉じてやる。安らかな死に顔をしている。
その写真立てをかっさらい、地面に叩きつける者がいた。
驚いて、目を向けた先には、震える子供――ワスターレがいた。
「か、家族を、み、見捨てて、お、思い出なんかで、こ、壊して」
写真を踏みにじろうとするところをエスペに止められる。スソーラが写真を拾い、埃を払い、そっとワスターレに手渡す。
「それでもねえ、これが、残った最後の遺産。アンタの家族がいた証。粗末に扱わなくてもいいじゃないか」
目から涙を溢れさせ、泣きじゃくるワスターレの頭を、スソーラが優しく抱き込む。
思い出に縋り、家族をも壊してしまったレークス翁。
そして、残された孫娘ワスターレ。
もし、彼が、過去から現実に目を向けていれば、こんな事態にはならなかったのかも知れない。
ワスターレを連れて、私達はゴミ溜めの王の間を後にする。
王の遺体は息子夫妻の遺体と一緒にして、そのままにした。
写真も結局その場に残した。
ワスターレが不要だと言って聞かなかった。
「思い出と共に、一緒にいればいい。私は、前に出たいから」
小さい子供の言葉とは思えないことをワスターレは言う。父と母に別れを告げて、エスペの裾をつかんで振り向きもせずに、鈍色の色彩を放つ銀色の階段を昇っていく。
ワスターレのことは、絶対にどうにかするとネポースが言う。裾を掴まれたエスペもそっと頭に手をやり、安心するがいいと、短く言う。誰もが、この小さい子供を見放すようなことはしないだろう。
レークス翁、アンタの孫娘に不憫な思いはさせやしない。
だから、思い出と共に安らかに眠るがいいさ、ゴミ溜めの王。




