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スライム転生物語  作者: マ・ロニ
第一章
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第二話 狩猟の成果と駆除

第二話「狩猟の成果と駆除」


 牡鹿の血抜きをしている間に、背嚢から使い込んだビニル製の折り畳みバッグと布を取りだす。ビニルのバッグは過去に発見した、旧世紀の遺物だ。大層、重宝して使っている。

 腹を裂き、内臓を取りだす。肝臓や心臓などの食べられる部位を取り出しビニルのバッグに放り込み、後は捨てる。必要以上に持ち替える必要は無い。

 牡鹿の皮を剥ぎ、腿や背ロースを切り分け、布で包む。皮や角は貴重な収入源だ。余った肉や骨などは、後で取りに来てもいい。まあ、他の動物が漁ってしまい、何も残っていないことが大半になる。


 綺麗な小川を染めた紅い血は、細いながらも、とめどなく流れる清流に押しやられて、瞬く間に透明な水の流れを取り戻す。


 そして、私の鼻は小川が流れていく先から、よく嗅ぎ慣れた異臭を感じ取る。


 ああ、この先に人として駆除をしなければならない生き物がいる。あの、醜く、新しき生態系「新生種(しんせいしゅ)」がいるに違いない。




 案の定、異臭の先には大きめな俵状の糞が転がっていた。身を屈め、糞の様子を観察する。手で触れば柔らかく、まだ、新しいことが判る。食物繊維を多くとっているため、繊維質が多く混じる。未消化の木皮と思しきものある。

 小川の水っ気で柔らかい地面には、そこにいた生き物の足跡が見て取れる。蹄状、爪先が鉤上の為に深くえぐれている。

 

 まず、間違いなく新生種の『ツリーグラットン(樹食い鹿)』だと思われる。つま先の方向を確認し、ツリーグラットンが去っていた方角へと進んでいく。

 相手は逃げた訳ではない。恐れているわけでもない。水分補給と言う用が済み、立ち去っただけだ。私が人だと思えば、問答無用に襲ってくる。それが、人種の不倶戴天の敵、『魔獣(まじゅう)』と呼ばれる新生種という生き物の特性なのだ。


 茂みに潜み、バキバキという音のする方向をそっと伺う。四足歩行で見た感じは、先程討ち取った鹿に似ているが、背には昆虫のような甲殻を持ち、頭はカミキリ虫のように大きな牙顎をもっている。長い触覚を持っていないため、雌であることは間違いがない。

 牙顎で硬い樹木を容易く噛み砕き、バリバリと食している。植物食性で中型の第二世代新生種の代表格と言える。

 食事に夢中でこちらには気付いていない。紙筒を口で破り、銃口から弾を込め、銃身から取りだしたさく杖で弾を奥まで押し込み、しっかりと対象を狙う。


 背や頭部を狙ってはいけない。あの甲殻はこちらの銃弾を食い止め、致命傷を免れることもある。気付かれ、こちらに襲い掛かられれば、厄介なことになる。

 ツリーグラットンの身体能力は鹿と同程度だが、あの鋭く強い牙顎は人間の肉など簡単に切り裂く。雄であれば、振り回した触覚で手酷い痛手を負う可能性も高い。


 万が一の備えもあるが、できれば使いたくはない。後で行動に支障が出る。


 新猟師を名乗るのであれば、この程度の獲物は何事もなく駆除をしなければならない。その為に、日ごろから準備をしているのだ。


 狙うのは背の甲殻が途切れる腹部の境目、更に言えば、上腕部と首の付け根のあたり。


 静かに体勢を変え、膝立ちになり。照準を対象に合わせる。不意に対象がこちらへ首を向ける。匂いか、それとも音か私の存在をにわかに感じ取ったようだ。

 動揺も、躊躇もなく引き金を引き、銃口から銃弾を放つ。こちらを向いてくれたおかげで、甲殻の無い首の付け根が丸見えになった。相手に気付かれたことが、私にとっては都合のよいチャンスになったのだ。


 銃弾は首の付け根に着弾し、甲殻を裏から撃ち抜く。甲殻は食い止めることが出来ても、傷を負わせないわけではない。ただ、単発式のフリントロック式ライフル銃では、次弾の装填までに襲われる可能性が高いのだ。手負いの獣程、怖いものはない。


 撃たれたツリーグラットンは、崩れ落ちる様に地面へと倒れる。仕留めたことを確認してから、獲物へと近寄る。


 新生種を解体する為の手斧を取り出し、首を叩き切る。幾度か刃先を食いこませると、ポロリと頭部が落ちる。落ちた頭部を蹴飛ばしてどかしてから、甲殻を斧でこそげ取るように解体する。頭部は新猟師組合へ提出する駆除証明となり、甲殻は素材や建材として取引きが可能だ。


 だが、他の部分は使い道がない。肉は食えない。微毒性を持っているのだ。少量を口にする程度なら影響は少ないが、常食をすれば中毒症状を起こし、身体に影響を及ぼす。

 この辺りの住人で新生種の肉を口にする者はいない。誰もが、毒を持っていることを知っているためだ。都市部の住人である学者達の結論を、各村落に伝えているからだ。

 手際よく剥ぎ取りを済ませ、不要な部分を一ヶ所にまとめた後、辺りを見渡す。番となる雄の姿が周辺には確認されない。銃声を聞いたところで逃げだすような生き物ではない。


 こちらが脅威と判っていても、人となれば必ず襲うような生き物「魔獣」と言われる由縁だ。


 結局、雄の姿は確認できなかった。別の雌と行動をしているのかも知れない。それとも別の猟師が、別の場所で、雄を仕留めた可能性もある。

 周辺にある倒木をくまなく調べる。多少範囲が広がるのもやむを得ない。ようやく、子供の頭部ほどの孔を穿ったような苔むした倒木を見つけ出す。


 手斧で表面を叩くと、木材特有の硬さは感じられず、脆く、砕ける様に削れていく。


 涼しいと感じられるような森の環境の中で、額に汗がにじむ程度に倒木を叩き砕いた頃、ようやく倒木の中に巣食った、ツリーグラットンの幼虫を二体ほど見つけ出す。

 白く、太い、体を不気味にくねらせる幼虫を掴みだし、手にした斧で頭部を断ち切る。残った一匹も同じように処理をする。幼虫の駆除も大事な仕事だ。

 植物食性の魔獣ツリーグラットンは、人を襲うという点を除けば、それ程の脅威ではないが辺りの樹木を食い散らかすため、放置をしておけば木材資源を食い荒らされることになりかねない。


「まったく、討伐証明ももっと軽い部分だけにしてくれれば助かるのですが」


 手にした幼虫の頭部の重みを感じて、思わず愚痴が零れる。


 先ほど仕留めた鹿の肉やらなんやらを持ってこれからまた、足元が沈むような腐葉土と、絡みつくように地面を這う樹木の根や、行く手を遮る植物が鬱蒼と茂る道を、戻らなければならない。

 毎度のことながらうんざりするものの、それが私の仕事なのだと諦めて、行く手を阻むかのように鬱蒼と茂る草木を払いつつ、薄暗がりの森の中を小川に沿ってゆっくりと歩いて行く。


 だが、今日は良い日だ。狩猟と駆除の両方を行えた。何も手に出来ない日のように、軽い身体でトボトボと来た道を戻るのは、惨めな気持ちで憂鬱になる。


 この肩と背に感じる重みは、明日への糧を得られた喜びの重さだと思い直して、今は、一旦、拠点へと戻るとしよう。

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