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スライム転生物語  作者: マ・ロニ
第二章
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プロローグ 都市へ

 外観に飾り気はないが、しっかりとした造りの木造の建物、内部も同じように余計な飾りはほとんどない。

 機能性重視と言えば聞こえは良いが、飾りを付ける物質的な余裕がないのだろう。壁にはランタンの火が細々と灯って、弱々しくも部屋の内部を照らし出している。

 部屋の中には私――アラム・スカトリス以外には、腐れ縁の親友でアラブ系独特のはっきりとした顔立ちをしたアトス、先日、私を襲い拘束中である見た目は魅惑的な南米系の女性スソーラ、大柄で白鬚、禿頭のジュノー復興村組合支部長と、組合の幹部担当者が二名。

 そして私の肩にまとわりついたままでいる青く艶のある透明な肉体で、ランタンの橙色の光を反射させている奇妙な生き物、私を友と呼ぶスライム――ギョットがいる。


「私には何も聞こえません」


 組合長が傍らに立つ、幹部の一人はそう語るが、もう一人は先に返事をした者を不思議そうに眺めつつ、困惑気味に回答をしている。


「本当か? こんなにはっきりと頭の中に語り掛けているじゃないか。間違いありませんよ、組合長」


 と、まるっきり違う答えを出した相手を不思議そうに眺めつつ、組合長に問題が無い旨を告げる。聞こえないと言った方は、その答えを聞き、逆に訝しんでいる。


「まあ、念話は都市部の研究者たちの見解を鵜呑みにすれば、新人類にしか通じない能力だと言われているからだろう。お前達を呼んで試してみた訳だが、やっぱり、その通りなんだろう。儂にもな、はっきりと聞こえるよ。この、奇妙な生き物? が念話をして自己紹介している声が」


 二人の担当者は吃驚しているようだが、そう言うことかと納得をし始める。新人類であることを組合長達は別段隠してはいない。私が生まれた頃は、まだ新人類に向ける目は奇異的なものも多く、差別的な扱いを受ける地域もあった。

 私よりも年かさの組合長は相当苦労をしたと思うが、それを乗り越えるだけの努力をしたのかも知れない。又は、何かしら周囲を黙らせるだけの成果を上げたのであろう。

 だが、私が成人をするころから、自分達が持つ能力を隠すことなく使い始める者達が増え始め、今では新人類に対して奇異の目を向けることは、以前よりも大分、少なくなった。

 逆に、優れた能力は重要視されて都市部では登用も盛んになっている。独自の研究機関も発足されたと数年前には聞き及んでいる。

 私やアトスの年代はどちらかといえば、まだ、能力を隠している者達が多い。奇異の目を向けられていた幼少期の頃の経験からか、あえて曝け出さずにいざと言う時のために隠しておくかは、人それぞれの考え方かも知れないが、私は前者である。

 祖父母はそうでもなかったが、両親は私の能力を快くは思っていない――なぜ、一般人である私達からお前のような子が生まれてきたのか、父と母で夜遅くに口論や、酷い時には喧嘩をしていた時期もあったことを覚えている。


「と、言うことはアラムさんもアトスさんも新人類ということですね」


「まあなあ、隠していたわけだが、悪気はなかったとしか言いようがねえなあ」


「ああ、構いませんよ。新猟師になる時に、申請する義務も規定もあるわけではありませんし」


 アトスの物言いを聞き、少し慌てる様に幹部は答えている。確かに、新人類は新猟師になれない等と言う規定はないはずだ。


「その辺は置いとくとしてだ。スソーラ、残念だが身から出た錆だ。お前を犯罪労働者として、前線都市ワシントンへ送る。アラム、アトス、お前達は依頼通りに、護送を担当してくれ、そしてついでに――」


「ギョットの存在について、都市の生物研究所へ報告するということですか。私としては、余り、賛同はできないのですが……」


 例え報告をしたとしても、おかしな事態になる――無理矢理徴収して、実験動物のように取り扱われると言うことは、多分ないだろう。

 私が、都市から離れる時と同じ人物が所長であれば、いや、間違いなく同じであろうから、あの人であれば、誤った判断が下される心配はないはずだ。

 知的生命体で、人類にとっての希望となるかもしれないギョットという存在を、馬鹿げた判断から無くしてしまうこと等ないだろう。但し、都市に報告をした段階で、ギョットとはお別れになる可能性は高い。

 それほどに、ギョットの能力は人類にとって有効なのだ。私一人が独占をして良いものではないと言える。


 手かせと足かせを付けられたままのスソーラは、うな垂れたまま何も語らない。洗っていないためか、ほつれた、長い髪に隠れて、薄暗い部屋の中では表情も良く分からない。

 犯罪労働者達は、鉱山等に送り込まれて重労働に着くことになる。自由もなにもありはしないと言う。男女の区分もないのだ。死ぬものも少なくはないらしい。女性では尚更だ。

 私と言う存在が、彼女の人生を狂わせてしまったのかも知れない、そう零したときにアトスから馬鹿なことを言うなと、言われてしまった。あくまで、スソーラは加害者で被害者であるお前が気にすることはないとも言われた。


「道を誤ったのはこいつの判断だ。理性で止めることができなかったのはなあ、こいつの誤りだ。誰のせいでもありゃしねえなあ」


 あの日、最後にアトスはそう語り、スソーラを組合長のもとへと突き出した。


 そう、だから私が都市を出た切っ掛けも、私が判断をした結果だ。ようは自業自得、自己の責任の範疇なのだ。

 そして、数日後に私はもう一度、私なりに過去と向き合わなければならなくなる。気は進まないが、いつまでも避けているわけにはいかないと言うことなのだろう。




「まったく、どこで、手に入れたんだ、こんな物?」


「フハハハハ! 素晴らしい、本当に素晴らしいですね!」


「おい、聞いてるのかよアラム! ああ、お前、ジュノー国際空港跡遺跡に入り込んだんだなあ! あそこは、駆除しきれねえほどの小型魔獣がいるから危ねえって言ってあっただろう! いつ行ったんだかなあ」


『凄い早い! ねえ、やっぱり術なんでしょう、アラムさん!』


 雑草があちらこちらに生えて、荒れてはいるが舗装されているため、問題なく道路を走りながら、助手席に乗るアトスは白い目でこちらを見ながら非難めいたことを言っている。

 そんな事は気にはしていられない程、私は素晴らしい高揚感で心が躍っている。開け放ってある窓からは、車の速度に相応した勢いの外気が吹きこんでくる。それもまた、心地よい。

 視覚的にはなにも見えない筈のギョットは、強く流れる様な風の感触を受けて、速度を体感したのだろう。驚き、子供のようにはしゃぎ、興奮した様子を念話で伝えてくる。


 納屋の片隅でボロ布に包れたまま、死蔵されていた都市遺跡の一つであるジュノー国際空港から奇跡的に持ちだせた旧世紀の車両


――高機動型多機能自動車を、私達以外には誰もいない、道路の上を軽快に走らせていく。


「ギョット、ただの術ではありませんよ、科学技術です。アトス、貴方の言う通り、都市遺跡である国際空港の車両倉庫で見つけました。当時の技術水準は素晴らしいの一言ですね。埃は被ってはいましたが、故障がなく、燃料さえあればきちんと走りますからね! オイルラット共に配線をやられていたのがほとんどでしたが、こいつは奇跡的に生きていました」


「オイルラットがいたのかよ……俺はそれだけで御免こうむりたいなあ」


「ええ、危うく集られて齧られそうになりましたが、こいつ『ズィ・ナミ』を走らせて逃げることができました。まあ、拠点のまえで燃料切れとなり、今の今まで死蔵されていましたが」


 アトスは呆れた顔をしてるが、走行することが出来ればこれほど素晴らしい車はない。拠点の納屋に保管した後に、車に仕込まれていたオイルラットの卵が孵化しそうになったのは内緒だ。

 そして、走行を可能にしたクリアジェムは更に素晴らしいと言える。当時は、アルコールを燃料とするような技術や、それ以上の技術も築かれていたと文献では知ってはいたが、愛車がそうであったことは喜ばしいかぎりだ。

 私が実験を行った結果の感想から言えば、クリアジェムの性能はアルコールに近いと感じた。但し、効率は桁違いに良いといえる。

 今回の護送依頼を受けた段階で、どうせ、死蔵のままであるならばと試しに水で薄める割合を少なくして燃料タンクに注いだところ見事に作動した時の喜びは忘れようがない。

 ただ、この件が盗掘に当たり、行政機関に没収されるかもと思ったが、都市遺跡から発掘した物は個人の持ち物になると組合から教えられた。

 当時の技術で造られた機器類のほとんどが、現状では扱えないから、ほぼほぼガラクタ扱いとなるため問題にならないと言うことだ。

 組合長が随分と目を見張っていたので、あわやとも思ったが余計な危惧だったようで安心をした。あれは、個人的な興味関心があったのかもしれない。

 ズィ・ナミは空港点検用に移動型事務所として用いられていたのか、荷台部分はコンテナとなっておりちょっとした居住空間としての利用が可能だ。事務机は勿論のこと、タンクに溜める型の便器もついている。残念なことに、現状は、野営用の荷物置場を兼ねたスソーラ用の簡易牢屋となっているわけだが。


「まったく、犯罪労働者に与える環境としては、致せりつくせりだよなあ。俺達がせまい運転席で過ごして、寝る時はテントの中で野営するはめになるんだからなあ」


「まあ、仕方がないでしょう。万が一彼女に手を出すと、私達も罪に問われかねません。しかし、この速度を維持できるのであれば一週間程度で前線としに辿りつけそうです」


 そんなことは万が一にもありえねえのだがなあと、アトスはうそぶいている。私も同感だが、異性を取り扱うには慎重を要することが大事だと判断をしている。

 通常の馬車を利用すれば二十日間近くは掛かるのであるから、かなり短縮されていると言って良いだろう。そして、何より快適だ。座席も柔らかく、かつ車体のサスペンションが良く効いているため、ガタガタと尻を打つような痛みは感じられない。


「思ったよりも楽な依頼になりそうだなあ」


「しかし、油断は禁物ですよ」


 そう、この道は新生種である魔獣たちの住処と変わり果てた『カナダ大森林』に近く接ししている部分も多い。現れる魔獣も多いことで有名な『魔獣街道』であるのだから。

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