友達
◆友達◆
今日の二時限目は体育だ。でも、あの紺野和美は見学だった。
(やっぱり何かの病気なのかな?ちょっと気になるなぁ)
体育は昔から苦手だ。
なんであんなに一生懸命走らなきゃならないんだ。
自分のメタボな体系をちょっぴり悔やむ。
僕はあの自己紹介の一件以来、クラスのムードメーカー的な存在になっていた。
もちろんお陰様で友達も増えた。
しかし、紺野和美だけはなぜか誰とも打ち解けられないようで
休憩時間や昼食時は1人で居る事が多かった。
「少し可愛そうな奴だな・・・・・・」
授業が終わると、僕は纏わりつく野郎共から逃げるようにして
紺野和美の所へと向かった。
僕はスタンドを勢い良く駆け上がったおかげで、息が切れ切れになった・・・
「・・・ハァハァ・・・紺野君、教室・・・戻ろうよ」
彼はそんな僕を見て笑った。
「あハハ、仲原君。授業であんなに走ったのに、
無茶してスタンド駆け上がるからだよ」
ん?なんで知ってんの?
あ、そうか。スタンドから見てたんだっけ?
「僕。体育は苦手なんだよねー、このカモシカの様な足には堪えるよ。」
僕は短パン姿の大根足を指差しながら彼と笑いあった。
教室へ戻る間、彼の体調の事や、中々友達が出来ない愚痴?を聞くことが出来た。
「仲原君はいいなぁ。元気そうで羨ましいよ。」
彼は少し俯き加減にそう言うと、
自分のお腹を擦るような仕草をした。
僕は言葉を一つ一つ選びながらこう応えた。
「個人的に何か事情があるんだとは思うけど、僕はそれを聞いたからって
気にしたりしないし、無理に聞こうとは思わないから安心していいよ。」
すると彼はニコッと微笑むと静かに話始めた。
「僕は小さい頃から体が弱くって、中学の頃はほとんど病院で過ごしてたんだ。
どんな病気なのかは今は言えないけれど、あと少しで治るって病院の先生が
言ってたから。たぶん大丈夫。
友達が出来ないのは内向的な自分が悪いんだって思ってるし。」
彼はそう話すと申し訳なさそうな顔をした。
「そんな事は無いと思うよ? 何も恐れる事なんてないし、
本当はみんな君と話たがってるんだよ?」
彼は少し驚いた様な顔をした。
「でも、僕にはその勇気が無いんだ・・・・・・。」
「大丈夫だって、こうして僕と話てるじゃない。だったら
まずは僕が最初の友達になるからさ!!」
そう言いながら、彼の肩をポンッと叩いた。
すると、あの入学式の時見せた微笑を返してきた。
それを見た僕は一瞬、ドキッとする。
「ありがとう、実は僕も仲原君と友達になりたかったんだ。」
「うん、これからの三年間。宜しく!!」
僕達は、教室に戻る長いようで短い5分間を、お喋りで楽しんだ。
教室に戻ると早速着替えに入る。
彼のあの微笑む顔が脳裏を過ぎる・・・
上着を脱ぎ、上半身裸になった僕は、ちらっと彼の方を見た。
一瞬目が合うと、彼はハッとしたような顔でくるっと教壇に向きを変えた。
「あれっ?なんで目を逸らしたんだろ?」
なんでかなぁと思いつつ、僕は着替えを済ます。
暫くして、オタク衆が教室に戻って来た。
「おいおい〜、仲原く〜ん。なんで先に戻って着替えてんの〜」
田中が背筋をスーッとなぞりながらジャレてくる。
「ヒェーーッ、田中。ヤメローッ」
僕は振り向き様に斜め45度チョップを彼に見舞った。
彼はサッとそれを交わす。
僕と同じくメタボな癖に俊敏な奴だ。
「おまいら、いちいちちょっかい出すなーっ!!」
相変わらずこいつらには参る・・・・・・。
お昼休みになると、みんな仲の良い者達で席を囲い、
それぞれの弁当箱を広げあう
というか、お互いのおかずを奪い合う。
僕はいつも1人で弁当を食べている紺野和美の所へと向かった。
「紺野君、こっちにおいでよ。一緒に弁当食べよ。」
彼は少し困ったような顔をしたものの、僕の強引な呼びかけに根気負けしたようだった。
そして、その光景は周りから見ても異様だった。
僕。田中君。熊井君。紺野君。
三人のメタボな野郎に囲まれた席にポツンと少女っぽいのが一人。
なぜか、呼んでもない野郎が一人、二人と椅子を持ってきて中に加わる。
「おまい達、なんで入って来るんだよ。」
「仲原ク〜ン、いいじゃないか〜。こういう時間こそ親睦を深める時じゃないか?」
どうみてもみんなこの機会を伺ってたとしか思えん。
実は紺野君と仲良くなりたいと思ってるのはみんな同じなのだ。
ただ、紺野君の纏うそのオーラに、みんな圧倒されて近付けなかっただけ。
『フッ、小心者達め』
気が付けば、五人増えとる・・・・・・。
仕方ないので、お互いの弁当を広げて獲物を奪い合う。
可愛そうに、紺野君の弁当はご飯だけになっている。
「おいおい、おまいら!!紺野君のおかずを取るなー!!」
でも、彼はニコニコと微笑んでいた。
「明日はもうちょっと大きいお弁当箱にした方がいいかな?」
それを見た僕は、自分の残っていた出汁巻き玉子を彼の弁当箱へと入れる。
「仲原クン、ありがとう。頂くね。」
彼は嬉しそうな顔をしながら出汁巻き玉子を頬張る。
そんな彼の表情を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。
よし、明日はおかずを多めにしてもらおう・・・・・・。
お昼休みが終わるまでの間、みんなで騒ぎつつお弁当を突付き合った。
紺野君は終始笑顔だった。
こういう時間は本当に楽しい。
彼もやっとみんなと打ち解けたようで、ホッとする。