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蛇苺  作者: 美吉鶫
2/6

◆過去◆

女性として生きて行く事を決意した和美であったが、衝撃の過去を知る事となる。

さて、和美はどちらを選択するべきか? 

恋?それとも・・・

第二幕


◆運命◆


私は自室にある男物の衣服の整理に取り掛かっていた。


「和美様、私もお手伝いいたしましょうか・・・?」


乃木が申し訳なさそうにドアの影から首を出していた。


「いえ、これくらい私一人で出来るから大丈夫。気持ちだけ頂いておくわ。」


乃木は「僕」という言葉を聞かなくなった事をとても気に掛けていた。


「・・・和美様、恐縮ですが・・・なぜそのようなお言葉をなされるのか、


 私に教えて下さいませんか?」


その言葉を聞いてる最中も、私はセッセと服を箱に詰めていた。


「私はね、もう決めたの。これからは『私』でいきますから、


 これからも宜しくお願いしますよっ、と。」


箱詰めした荷物を乃木の足元にドサッと置く。


「何があったかは、これ以上は詮索いたしませんが、奥様はこの事はご存知なので?」


「いえ、まだ言ってないよ。この荷物の整理が終わったら、言いに行くつもり。」


相変わらず乃木は神妙な顔つきで僕の箱詰め作業を見ていた。





「ふぅーーっ、結構有るもんだねー。」


「そうですねぇ、一度も袖を通してない物もあるようでしたが、これは全て


 お捨てになるので?」


「捨てるのはまだ後でいいよ。それより新しい服を調達しないとね。」


私は積み上げた箱の移動を乃木にお願いして、母の居る本館へと向かう事にした。


本館へは、この離れからだいぶ離れてて、食事以外で訪れる事は殆ど無い。


長い廊下を歩き、本館に着いた所で花の手入れをしている母の侍従である


小阪《こさか》さんに声を掛ける。


「こんにちわ、小阪さん。お疲れ様です。」


彼女は、ちょっとびっくりした様な声をあげて私の方に顔を向ける。


「あら、和美様。お洋服が可愛らしくなってらっしゃったから、どなたかと思いましたわ。」


彼女はニコニコしながら、大きな選定鋏みをテーブルに置いた。


「ああ・・・、これ?ちょっと友達に見繕って貰ったんだ。似合う?」


「ええ、とってもお似合いでございますよ。」


社交辞令とはいえ、なんだかこそばゆい。


「すみません、母は在室してらっしゃいますか?」


「ええ、たしか事務室にいらっしゃったかと思いますわ。」


「ありがとう、小阪さん。」


私は本館の扉を開くと、真っ直ぐに事務所を目指した。


事務所では、事務のお姉さん二人と母が何やら難しい顔をしながら話し込んでいた。


「お仕事中失礼します。母さん、ちょっと宜しいですか?」


3人は見慣れない姿の私が入って来た事にびっくりしていた。


「和美、どうしたの?その格好は?」


「その事でお話が有って来ました。母さん、少し時間貰えないかな?」


母は事務のお姉さんに指示した後、私の方へ歩いて来た。


「和美、ここでは何だから、私の部屋にいらっしゃい。」


私は母の後を追い、母が日頃使っている趣味の部屋へと向かった。


相変わらず多趣味な母の物達が、所狭しと並んでいるのには圧倒される。


母は部屋のドアに鍵を掛けると、中央に置かれたソファに腰掛けた。


「和美、あなたが何を話しに来たのかは、大体想像がつきます。


 だけどね。和美、あなたはこの家の跡取りなのだという事を


 忘れてはならないわ。」


母はそう言うと、テーブル横に備え付けられた冷蔵庫からミネラルウォーターを


取り出し、2つのグラスに注いでくれた。


「その事なら良く判ってるよ。でも、僕は自分の思う性で生きたいんだ。」


母は半ば困ったような表情をして、こう付け加えた。


「私もあなたがその事で長い間悩んでいたのは、痛い程判っているわ。


 出来る事ならあなたの思うようにさせて上げたい。


 でもね。和美がこの家の跡取りに決まった以上、どうしようもない


 事なのよ。」


「僕はもう嫌なんだよ、男の子の振りはもう沢山だ!!」


私は感情的になっていた。


欲しい物をねだって、だだを捏ねる子供にように・・・


「和美、・・・あなたに読んで欲しいものがあるの。」


母は金庫に行くと、中から一通の封筒を取り出した。


「これはね、あなたのお父さんが亡くなる前に、あなた宛に書いた手紙よ。


 本当はあなたが成人した時に渡すつもりだったけれど、この機会に


 あなたの背負っている物が何なのかを知って欲しい。」


私は母から封筒を貰うと、中の便箋を取り出した。


『和美へ。


 これを読んでいるということは、おそらくもうお父さんはこの世に


 居ないのだろう。お前より先に天国に行く事を許しておくれ。


 父さんはお前が生まれた時、男の子だと知ってとても喜んだ。


 しかし、日を追うにつれて、お前はお前で無くなっていった。


 これは、私が酷い事をした結果。神様から与えられた天罰なのだと、


 もがき苦しんだ。


 私はお前が生まれる前、紺野家の頭首として、人間としてやっては


 いけない事を犯した。それは、お前が生まれた時、双子として生まれた


 お前のお姉さんを、私のこの手で、殺めてしまった事だ。』


私は言葉を失った。


私にお姉さんが居た・・・・・・


そして、その姉は父の手で殺された・・・・・・


私の中で、怒りと憎しみ、そして悲しみが入り混じった。


頭の中が混乱して可笑しくなりそうだった。


発狂寸前とはこの事を言うのだろう。



『和美、お前は私を恨むだろう、蔑むだろう。


 私はそう思われて当然の事をしたのだから


 私は罪を償おうと、お前にあるだけの愛情を注いだ。


 しかし、そうすればする程、心の苦しみは増していった。


 私はもう限界だ、お前から逃げるような真似をする自分が情けない。


 残していく母さんと、お前の事が気がかりだ・・・・・・。


 最後に、なぜ私がお前のお姉さんを殺めたのか、知っておいて欲しい。


 私は紺野家の跡取りを授かる為、母さんとお見合いをし、結婚をした。


 当時まだ若かった私は、跡取りの事はそう深く考えていなかった。


 紺野家には、代々跡継ぎになる者は、男系でなければならない。


 そういう仕来りがある。


 その為、もし姉妹が出来たとしても、長男以外は存在しない事を意味する。


 代々、双子が生まれた場合、双方が女の子の場合は姉妹共、里子に出すか、


 その場で処分する仕来りだ。


 私は悩んだ、あの時、殺さずに見知らぬ家へ里子に出すべきだったのかもしれない。


 そのまま二人を育てるべきだったのかもしれない。


 しかし、私はお前のお姉さんを殺してしまった。我が子を殺してしまった。


 母さん、和美。許しておくれ、』


ここで、手紙は終わっていた。


母さんの目は、涙で溢れていた。


「和美、黙っていてごめんね・・・。」


父さんは私を跡継ぎとする為、お姉さんを殺めてしまった。


(跡取りの為、私だけ残された・・・)


紺野家の黒い闇の部分を知ってしまった。


母さんが言っていた、私が「背負っているもの」とはこの事なのか・・・


頭の中が混乱する・・・


「和美、お前は亡くなったお姉さんの分、生きていく義務があるの。


 お父さんがした事は、人間として到底許されるべき事ではないわ。


 でもね。お父さんが悩み苦しんだ上で、唯一跡取りとして託された


 お前には、その意思を受け継がなくてはいけない・・・


 お父さんの死、そしてお姉さんの死を無駄にしてはいけないわ。」


もし、僕が『女』になってしまったら、父さんと姉さんの死が無駄に


なってしまう・・・。


ふと、田辺の顔が思い浮かんだ。


彼の前だけは、1人の女の子で居たい。


でも、この家を継ぐ僕は彼と一緒にはなれない・・・


「母さん・・・少し・・・、考えさせてくれませんか・・・」


僕はそう言って部屋を出て行った。


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