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第2話 「触らないで」

「先生、私のこと好き?本気で愛してくれてる?」



「ねぇやめようよ。そう言うのウザい」



 あたしは目の前で繰り広げられる修羅場にいい加減うんざりしていた。


いつもの場所でサボっていたあたしは、さっさと帰るために教室に急いだ。冬は日が落ちるのが早く、すでに薄暗くなった教室にはあたし以外、誰もいないはずだった。しかしそこには、隣のクラスの女子とあたしのクラスの担任の黒澤がいたのだ。


「潮時だね。そろそろ別れようか」


 黒澤は、満面の笑みで言い放つ。無邪気で純粋さを残すその笑顔は、とても別れを告げているようには見えない。


 黒澤(くろさわ) (たける)27歳、独身。あの日の衝撃的なキスシーンから1ヶ月が過ぎた今、容姿端麗、性格良好、温和な態度、これがあいつに対しての評価らしい。つまり誰からも好かれている人気教師。


あたしは、あの時の事を誰にも話す事はなかった。黒澤になんて興味はなかったし、ましてや人の恋愛に巻き込まれるのはまっぴらごめんだった。



「やだよ!お願いなんでもするから!別れるなんて言わないで」


 すがり付く女子生徒の顔は、暗くてよく見えないが、隣のクラスの遠藤さんに違いない。遠藤さんは大人っぽい雰囲気と抜群のスタイルで、男子からも一目置かれる存在だ。

 一ヶ月前、図書室でキスしていたのは、遠藤さんだったのかもしれない。もしかしたら、また別の女子生徒かもしれないが……。

 

「俺そういうガキは嫌いだな」



「別れるって言うなら私死ぬから!」



「じゃあどうぞ?」



 黒澤は、これ見よがしに教室の窓を開けた。



「4階だから死にはしないと思うけど、運がよければ死ねるよ」



「っ!」



 遠藤さんの手は、黒澤の頬を的確に捕らえパチンと潔い音が聞こえた。逃げられない程、早い攻撃ではなかった筈だ。あたしには黒澤がワザと打たれたように見えた。


 黒澤は打たれた頬をひと撫でするとため息をつき、呆れたような笑顔で遠藤さんを見つめた。



「気がすんだ?」



 強烈なパンチだと思う。遠藤さんは、何かを言いかけていたが、嗚咽で何を言っているのか分からない。




「さっさと帰ったら?ほら、うちのクラスの浅野 南が入りづらそうに見てんじゃん」


あたしに気付いた遠藤さんは、驚いた表情を見せた。


「鞄取りに来ただけ」


あたしは何事も無かったように教室に入った。遠藤さんは、顔を真っ赤にすると、走り去ってしまった。


何だか言いようの無い罪悪感に襲われる。




「浅野、助かったよ」




 悪びれる様子も無く笑う黒澤の姿は、とても残酷だ。まるで悪魔。



「別に先生の為にわざわざこんな時間まで残ってたんじゃないですから」



「相変わらず可愛くないね、浅野」



 黒澤はにやりと笑った。その笑顔は、あたしの神経を逆撫でする。



「余計なお世話です。ていうか教師が女子生徒に手出すなんて何考えてるんですか?」



「誤解〜あっちが最初に手を出してきたの。遊びでいいからって。まぁ別にいいんじゃない。お互い遊びって約束なんだから。なんなら浅野、お前も遊んでみる?」



 黒澤があたしの腕を掴む。




「触らないで」




 あたしはとりあえずこの最低男を黙らせたかったのだ。



あたりに乾いた音が響く。気がついたら、あたしは黒澤の頬を叩いていた。



「そんなに強がって疲れない?」



 黒澤は余裕の表情で、あたしを見下ろすと、わざとらしく頬を押さえた。



「貴方に関係ないでしょ」



これ以上この悪魔と話していても埒があかない。あたしは鞄を、乱暴に机から取り上げた。



「浅野」


 ふいに黒澤に呼び止められる。


「なんですか」


 あたしは振り向きもせずに答えた。



「俺、気の強い女は嫌いじゃないよ」








「ばっかじゃない」







 あたしは歪んだ笑顔をした悪魔を睨みつけ、教室を抜け出した。





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