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HELL DROP  作者: 明兎
8/19

【DROP OUT】 2

 ――――鏡峰 湊は精神を集中させていた


 このミニゲームで最悪誰かが死ぬ。

教えあいは許可されているとは言え、全員が正直に物事を話すとは限らない。

だから俺は全てを鵜呑みにはせずに、他人を疑いながら全員の生存への手を選ぼうと決めた。


 「ゲーム開始の前に少し訂正をいたします。先ほどの教えあいは可と申しましたが、それでは少し解釈が人それぞれ代わってしまいそうなので一応補完をしておきます。

教えあい、と言う言葉を夕凪様は使われました。このミニゲームで許可されているのは『ヒントや回答を導くための手がかりとなるもの』です。

なので直接答えを言う、『写す真実と書いて写真』の様にあからさまに答えを誘導する表現で答えを示す等は許可されておりません。それらを犯した場合はペナルティを受けていただきます。」


 俺個人としてはどうでも良い話だ。

だが俺たち全体としてはとても重要な内容だった。

この説明が無ければ俺は間違いなく、直接答えを教えていただろう。

それで俺はペナルティを喰らっていただろうな…。

危ないところだった。


 となると、ヒントの出し方等もこのゲームの重要なポイントになるわけだ。

下手に答えに近すぎると誤って直接言ってしまう可能性があるからな。

それに少し余計な言葉を追加しただけで、思考を捻じ曲げる可能性さえ出てきた。

これ等を踏まえて一番危険なのは、やはり日乃崎。


 と言うことは、あいつの妄言がどこまで俺たちの未来を歪ませるか、それさえも計算に入れなくてはいけない。

クソ、本当にめんどうなやつだ。

まさかそこまで計算してやってるんじゃないだろうな?

……流石に考えすぎか。


 「日乃崎。わかっていると思うが出来る限り、全員生存に協力しろ。いいな?」


 俺の言葉に日乃崎は数秒考え始めた。

オイ待て、そこは即答する場面じゃないのか。

そこで思考するということは、否定の可能性もあるということに変わりない。

本当に勘弁してくれ……。


 「出来る限りでいいんだよね? だったら僕は出来る限りのことをしよう」


 ん……?

もしかして今こいつは協力すると間接的に肯定したと言うのか?

逆に怪しくて仕方ないため、俺は日乃崎に言葉を投げかけた。


 「協力するんだな?」


 たった一文のただの疑問だった。

特に意味を込めるわけでもなく、ただの疑問。


 「うん、僕は出来る限りの協力はしよう」


 日乃崎がここまであっさりと肯定しただと……?

なにか怪しい――――が、根拠もなく疑うのはよくないな。

今は信頼が全てだ。

とりあえず、こいつを信じてみよう。


 「ありがとう。信頼してるからな」


 「えっ?」


 俺が感謝の念を込めて言葉を言った途端に日乃崎は感情を留められずにあふれ出したような表情をした。

気の抜けたような、肩透かしを食らったような表情を隠そうともせずに日乃崎は口をぽかんと開けている。

それから取り繕うように、表情をいつもの食えない表情に戻しいつものトーンで喋り始めた。


 「いや、この僕だよ? この日乃崎 虚をそんな簡単に信用してもいいの?」


 いや、訂正。

言葉のトーンだけはいつもよりも慌てたようになっている。

何が原因でここまで取り乱しているのかが俺にはいまいち理解できなかった。

しかも相手が日乃崎となれば尚更だ。

だからと言って聞いたところで正直に答えてくれるとは限らない。

どうしてこんなにコイツは面倒なんだか。

ため息が俺の思考と同調してか出てきた。


 「何を言っているんだお前は……。お前が誰であろうと俺は俺だ。だから俺はお前を信用する、わかったか?」


 そして再び鳩が豆鉄砲を食ったような表情。

しかしそれも一瞬で、直ぐにいつもの日乃崎の表情に戻――――らなかった。

そのままどこか疲れた表情のまま言葉をなくして近くの席へと倒れこむ。


 ――――本当に日乃崎はどうしたんだ?


 ――――もしかしてこいつもゲームに疲れ始めているのか?


 ――――いや、飽き始めた……?


 『それでは早速第一問を言わせていただきます』


 俺の思考を急遽遮るように機械音がアナウンスを吐き出す。

辺りの灰色の壁に当たって反響。

そして数重に重なって俺へと届く。

恐らく他の六人にも同じように届いているだろう。


 『では第一問。最初の人類とされ、エデンの園を追放されたのは誰と誰? 制限時間は三分です』


 抑揚のない一本調子の声の質問を聞くと突然機械の画面がのっとられたように黒く侵食された。

そしてその黒を払うように白の空欄が湧き出す。

その下にはキーボードを模した、文字入力のキーが表示された。

どうやらこれで文字を打てということらしい。


 ―――確かこの答えは……アダムとイヴだったか。


 俺は速攻で答えがわかったため、タッチで答えを打ち込みエンターを押した。

すると上から零れてきた黒で埋め尽くされ、「一度回答したら変えられませんよ」と言わんばかりの画面になった。

確かにこうすれば答えは変えられない上に、見られないのか…。

それに横からの覗きも禁止するように出来ていると。

本当にこの機械はどれだけのものなんだか……。


 じゃなくて、これの問題の答えがわからないやつを聞くべきか。

俺が回答を打つまでにかかったのは三十秒足らずだったから残りはあと二分と少しくらい。

こんな短い時間で全員にわかるようなヒントが与えられるかは怪しいから出来るだけ多くの人間が答えを分かって欲しいものだ。


 「おい、今の問題わからなかったやつはいるか?」 


 部屋の中が静寂に包まれる。

と言うことは全員が答えをわかったのか

俺は安堵から胸を撫で下ろす。

本当ならこの程度で胸を下ろしていても仕方がないのだが、気が緩むのは仕方が無い。


 「えーと……ごめん湊くん。私わかんないっ……」


 ……はぁ。

いや、なんとなく予想はついてた。

こいつがそういう歴史系に疎いのはよくわかっていたからな。

イヴはともかくアダムの説明はどうしたものか。

待て、あれは片方を説明すればセットでわかるはずだ。

確証はないが、これが時間的に選べる手段でもっとも有益な選択だろう。


「片方のヒントは出す。それとセットの人間と考えれば自然と答えは出てくるはずだ。」 


 うんうんっ、と元気良く首を縦に振る初音。

外はねも相変わらず元気のようだ。

俺は言葉を続ける。


 「ヒントは前日、前夜などと言う意味がある言葉だ。有名なのだとクリスマスなどか。これでわかるか?」


 「うんっ、わかったよ! ありがとね、湊くんっ!」


 にかっと笑顔を満開に咲かせながら機械をタッチで操作する初音。

その手つきはかなりしなやかだった。

これだったら機械を構うときに俺の助けはいらないか。

なんて、保護者のような安心をする俺は少し過保護すぎか?


 『では制限時間の三分が経過いたしました。では不正解者の人数は……』


 ゴクリと固唾を呑む。

一問目からこの緊張感と言うのは最後までかなり疲れるんじゃないだろうか。

俺のそんな心配を意に介さず言葉の続きが放送される。


 『0人です!』


 初音の肩の力が一気に抜けたのがわかった。

まだ九問もあるんだぞ、と言うのは言わない方がいいだろうな。

俺は黙って初音の背中をバンと叩く。


 「ひゃうっ!」


 小動物のような可愛らしい声を初音が上げる。

予想外なその声に俺自身驚いたのだがそこは、なんとか声をこらえた。

しかしそれは初音にはバレているようで、ニヤニヤと笑われる。

初音にこういう風に笑われると異常にイラつくのは何故だろうか。


 そっから続いて四問は順調に全員正解を重ねていった。

途中日乃崎が邪魔することも無く、ただただ順調に正解を重ねるだけだった。

表情を見てみると、瞳にまるで生気が宿っておらず、ただの器の様にも映った。

演技……には見えない。

正真正銘の心ここに非ずな様子のようだ。


 そして六問目が訪れた。

一定の声音過ぎることで、逆に不協和音にも聞こえるそれを聞き始めてそろそろ耳も慣れてきたところだ。

いつもの様に問題が口頭で読まれる。


 『1から100の全てを足した答えは?制限時間は一分半です』


 これは初めての数字を使った問題だった。

そのためキーにも変化が現れていた。

とは言っても単純に数字だけの表示に変わっただけだが。


 しかしこの問題。

これはある計算方法を知らなければ、一分半で解くことなど不可能だ。

それをこいつらが知っているかだな…。

初音は昔に俺が教えたから問題は無いだろう。

夕凪と暁もそれなりに頭はよさそうだから大丈夫だろうな。


 問題は華と遊李だ。

中学生で習うところもあるらしいが、それが全国一律とは限らない。

今からそれを教えて間に合うか…。

残りは一分ってところ。

間に合わせるか。


 「とりあえずわかるやつも分からないやつも全員纏めて説明するからよく聞け。

この問題は数の多さに騙されやすい。しかしだ、これは実は簡単な式で求めることが出来る。それは1+100、2+99……の様に端から計算していくと101×50になることがわかるだろう?

あとは各々計算するがいい」


時間はギリギリってところだ。

計算式自体は簡単なため間違うことはないだろう。

これで残りはあと四問……。


 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……』


 後四問もこの調子であれば全問正解は容易いな。

これで一人は首輪が外れるわけだ。

それで誰が外れるかも重要だが、とりあえずは外れることに意味がある。


 っと、いきなり油断していた。

まだ決まったわけではないのに、こういう風に気を抜いているのはよくないな。


 『一人です』


 なんだとっ!?

あの説明で不正解者が出たというのか?

華と遊李もちゃんと内容を理解していた様子だったのに、何故……。


 『その不正解者は、日乃崎虚様です』


 日乃崎が?

こいつがこの程度の問題をわからないわけがない。

じゃあ何故間違えた。

わざと? なんのメリットがあって?

こればかりは俺だけで考えていても仕方が無い。

日乃崎本人に聞くとしよう。


 「おい、日乃崎。何故こんな簡単な問題を落とした! 普段のお前ならば考えられないミスだろうがっ!」


 なんで俺はここまで声を荒げているのだろうか?

それは日乃崎に生きていて欲しいから。

でも本当にそれだけなのか?

俺はもしかしてただ単純に面白がっているだけじゃないのか?

面白がっている? この殺し合いのゲームを、か。

そんなはずがねえ。


 「ごめん、ボーっとしてて計算間違いしちゃった。ごめんね、これで僕の安全装置が作動するのも時間の問題だよね」


 「馬鹿か、そんなこと俺がさせん。すまん、聞いてくれ。日乃崎がこの問題を落としてしまったから、次の問題は日乃崎以外はみんな間違えてくれ。いいか?」


 もちろんそれに反論する人間はおらず、皆無言の肯定をしていた。

正確には初音だけ首と髪を動かしていた。

俺はそれに胸を撫で下ろし、座っていた椅子に腰を落とす。

しかし、これで誰かの首輪が外れることはなくなったか……。

残念だがこればかりは仕方ないな。


 にしても日乃崎は本当にどうしてしまったんだろうか。

俺が日乃崎を心配する言葉を掛けたあたりからいきなりこんな風な抜け殻の様になってしまった。

何がそこまでこいつの心に刺さったのか、それが俺は知りたくてたまらない。

だがこの状態のこいつじゃあ、ろくな話は聞けそうに無い。

クソがっ、本当にめんどうなことをしてくれる。


 『ではこのまま、第七問目へと移らせていただきます。第八問、別名PDBとも表される原子は何。制限時間は二分でございます』


 確か答えはパラジクロロロベンゼンか。

この問題は都合がいい、多分殆どの人間がこの問題はわからない。

しかし日乃崎は恐らくこれぐらいならばわかる。

何故なら日食高校が、理数を専工している学校だからだ。

誤って正解してしまうということが少ないのはなかなか運が良かったといえる。


 俺は画面のキーを構って適当に「二酸化炭素」と書いて解答、そして近くにいる初音を見た。

やはりと言うか初音は困惑した表情をしており、どうやらわからないようだ。

そりゃあそうだ、ただでさえ初音は科学が苦手なのに、こんな問題がわかるはずがない。

華と遊李もこんなものを中学で習うはずが無いからな。


 そして不正解者の人数を発表するアナウンスが始まる。

これも特に緊張するほどのものじゃあないのだが、さっきの例もあるため自然と身が硬くなった。

いっそこのまま言われなければ良かったのに、とは流石に思わないがな。


 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……五人です』


 よし、予想通――――ん?

おかしいぞ、七人のうち五人不正解ならば、正解者が日乃崎以外にも一人いることになる。

誰だ、俺たちを裏切ったのは……?


 『不正解者は鏡峰様、滋賀井様、夕凪様、暁様、園影様です』


 今名前が言われなかったのは誰か、直ぐにわかった。

入戸遊李、その名前だ。

あいつが俺たちを――――裏切った。


 「入戸、どういうつもりだ……?」


 「いえ、別に何かを企んだわけではありませんよ。偶然にも正解してしまっただけです。私様はなんとなく思いついた原子名を言っただけなのですから」


 それが本心かどうか俺に確認のしようはない。

だが入戸のやたらと落ち着いた様子が逆に怪しかった。

疑われたのに、疑われるのを想定していたかのような落ち着きは少しおかしい。

まるで「これさえも想定の範囲内」とでも言いたいかのような……。


 待て待て、疑うのをやめよう。

所詮一回ミスっただけじゃないか、まだあと三問もあるだろうが。

焦るな、この焦りが最終的な死に繋がる。

残り三問もあれば、全員の正解数を等しくさせる程度は簡単だろう。

だからとにかく落ち着け、俺。


 すうはあ、と深呼吸をして気分を落ち着かせた。

よし気分は良好、頭の働きも大丈夫だ。


 「わかった。今は入戸、お前を信じよう。ただし、次はないからな?」 


 それに入戸は言葉を返さなかった。

無言の肯定か、沈黙の否定のどちらかは解らない。

今の俺には知ることが出来ない。

知りたいとも思わなかった。

そのまま沈黙を通すかと思っていたが入戸は喋り始めた。


 「信用、ありがとうございますです。信用とは何にも変えられないです。大事にします」


 にこり、と珍しい笑顔を俺に向ける。

俺はそれを信用の代価と受け取ることにした。

それ以上は入戸を言及せず、次の問題を待つことにする。

人の神経に氷を詰める様な機械音声の問題を。


 『では続けて、第八問へと行かせていただきます。第八問、プレイヤーでもある日乃崎虚様の通り名は? 制限時間は五分です』


 いきなり問題の性質が変わった?

今までは一般な問題だったのに、八問目からこのプレイヤーの中でしかわからない問題に何故変化したのだろうか。

その理由を考えるのもいいが、今はこの答えをみんなに教え、正解数を調整しなければならない。

とりあえず俺は答えがわかるので、「藁人形」と機械に打ち込んで解答。


 「じゃあこの問題のヒントを言う。ヒントは丑の刻参りなどに使うもの、だ。あとは釘を刺されるものだな。入戸、お前は正解するなよ? 間違って正解しないように適当に自分の名前でも打ち込んでおけ」


 この問題は非常にヒントが難しい。

だがそれでも俺のヒントは答えやすいものに出来たと自分でも思う。

これで、また不正解者が出ると今後の問題での調整は難しくなってくるから、正解して欲しいものだ。


 「なあ湊、これって俺たちも知ってる単語が答えか? いまいち思いつかないんだけど」


 困ったような顔で俺に尋ねる春。

さすがにヒントがあれだけじゃあ厳しいか……。

だがこれ以上に有益なヒントが俺には思いつかない。

どうしたものか……。


 と、俺が困っていると横に座っていた初音が立ちあがり胸を張っていた。

何故こいつが……? と思ったがそう言えば初音は答えを知っているんんだ。

その理由はこの建物で俺と初音が遭遇したときに、俺はその単語を口走っているから。


 『お前まさか……日食高校の藁人形か?』


 この言葉を初音は恐らく覚えているからこんなにドヤ顔をしているのだろう。

と言うかここまでやっておいて知らなかったら本当に説教が必要だな。


 「初音、答えがわかったのか? いや、覚えていたのか?」


 「私が湊くんの言った言葉を忘れるとでもっ?」


 ……嬉しいことを言ってくれるな。

とか言って、先週俺が先に帰ると言ったのを忘れて二時間くらい学校で待っていたのは誰だったか。

しかもそれを言ったら俺が逆ギレされたって言う理不尽っぷりだ。

だが初音が怒っても大した迫力がないのが救いだったな。


 「だからさ、私がヒントを出してもいいかなっ?」


 「いいが、とりあえず俺に言って聞かせろ。そうしないと情報が混乱する可能性がある」


 「はいはい、了解しましたようっ。えとね、『帽子の種類にもある素材で作った、お雛様とかの種類のこと』とかどうかな?」


 具体例などを出して、解答へと間接的に導く方法ってわけか。

だがそれは同時に危険を孕んでいる。

それを言ったらもしかすると、『あからさまに答えを誘導する表現で答えを示す』に引っかかる可能性が無くもないのだ。

そのため、これは初音の身を守るためにも、避けるべきだろう。


 「悪いが、それはやめたほうがいいな。」


 「えっ、なんでっ!? 結構良いアイデアだと思ったんだけどなぁ……」


 初音がしゅんとし始めた。

やばい、凄くやりにくい。

いや、尚更理由を伝えやすくなったんじゃないか?

そうだそう考えよう!


 「いや、お前のそれ自体はわかりやすい。だが分かりやすすぎて、逆にルールに引っかかる可能性があるんだ。だからお前の身を守るためにもそれを言うのはやめておけ」


 「あっ、そっか! やっぱり湊くんは頭が回るねっ。それに優しいですな」


 たまにこいつの能天気さには助けられる。

甘いものを食べると頭が回るみたいな、なんと言うか休息の場所の役割をしてくれているのだろう。

日常の在処とでも言うかな。

俺に必要な人間だということは確かだ。

初音を俺は守って、初音は俺の居場所である。同時に拠り所でもある。

俺は実際に初音に助けてもらっているのかもしれない


 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……0人です』


 それを聞いて俺はチッと舌打ちをした。

不正解者が0と言うことは、だ。

『入戸遊李も一緒に正解しているということ』だからだ。


 「入戸、何故お前が正解している……?」


 「何故って――――私の名前が正解だったんじゃないです?」


 そうか、こいつは俺たちを裏切って自爆装置を解除としているのか――――。

確かにこれほど安全な自爆装置の解除の手段はない。

しかも今の段階で首輪を外せば、他のプレイヤーを五人殺すことも可能になる。

逆に言えば、【悪】のプレイヤー以外に殺されることも無いのだ。

俺は失念していた、日乃崎以外が裏切るという可能性に。


 「入戸、何故俺たちを裏切る?」


 「裏切るなんて酷いですね。ただ私様は『誤って正解を打ち込んでしまったり』、『何かの偶然で私の解答が正解になった』に過ぎないのです。むしろ、私様も被害者みたいなかんじです」


 その言葉を言っているとき終始入戸の表情は笑っていた。

まるで自身の勝利を確信するかのように、ニタリと。

恐らくこれが入戸ではなく日乃崎であったら俺は今すぐ殴りかかっていただろう。

だが相手が年下、ましたや女であるなら殴りかかるなんてことはできない。


 だがまだ入戸の勝利が決まったわけじゃない。

俺たちの誰かの死亡が確定したわけではないから、入戸を止める手段を考えるべきだ。

と言っても強硬手段が存在しない上に、実質的な妨害策が存在しないのが現状。

こうなったら単純に入戸に答えを教えないしか――――ない。


 だがいいのか、そんなことをして……。

これは俺が入戸を裏切っているのと同じなんじゃないか?

考えすぎだと思えればいい、だがこれは本当に裏切っているとしか考えられない。


 こんなのが正義?

これなものが俺が、愛羅が望んだ正義なのか?

俺は正義とそうでない何かの間で迷う。

無様に、醜く、酷い様で。


 『では、第九問へと行かせていただきます。第九問、ここにいる全員の年齢の和は? 制限時間は五分です』


 また計算問題か。

しかも今回は参加者全員の年齢を覚えてなければ答えられないときた。

面倒な問題だ。


 年齢は、俺と初音と春と暁と日乃崎が18、遊李と華が14だったはずだ。

だから和は、118か。

さて、どう伝えたものかな。

恐らく全員の年齢を言えば大丈夫だろう。


 これが間接的な答えの提示に繋がらない可能性も無くはない。

だが六問目で同じ手段を取っているから、大丈夫か。

さて、入戸には聞こえないようにヒントをそれぞれに言っていくか。

いやそれよりも回してもらう方が早いな。


 早速俺は初音に言葉を伝えることにした。


 「おい、初音」


 「ひゃあっ!」


 俺が耳元で話しかけると初音は大声を出して驚きを表現した。

小さな体が大きく膨らむ。

そして直ぐに縮んだ。


 「もう、湊くん耳元で話しかけるのはやめてよっ。くすぐったいじゃんっ」


 外に跳ねる髪を元気に揺らしながらぷんすか怒る初音。

本当に怒っている姿が可愛らしいから怖くないな。

そのため俺は初音にでこピンで反撃を試みて、話を続けた。


 「いいから、少し耐えろ。お前は、華と暁に全員の年齢を回せ。出来るだけ早くだ、わかったな?」


 「わ、わ、わ、分かったから早く離れてよっ!」


 顔を真っ赤にしながら俺から離れて行く初音。

まったく幼馴染の俺にこんなことされた程度で何故あそこまで恥ずかしがっているんだ?

俺にはまったく理解できんな。

そう思いつつ、日乃崎と春にこのヒントを伝えようとしようか。


 「春、こっちへ寄れ」


 「ん、何?」


 俺の方へとてくてく歩いてくる春。

なんだか小動物っぽい動きでえさを上げたくなるな。

……冗談だが。


 「この問題のヒントだ。俺を含む五人が18才、華と入戸のみが14才だ。いいな?」


 「OK、了解したぜ」


 流石にさっきの日乃崎の様に計算間違いをすることはないよな。

これ以上は俺にはどうしようもないため、祈るだけだ。

残り二問で正解数を調整するのは非常に難しいため、出来る事ならばやめて欲しいものだな。


 次は日乃崎に近づく。

相変わらず眼に生気が宿っておらず、最初に見たときのような企みを含んだような眼をしていなかった。

こう言っては不謹慎かもしれないが、この状態の日乃崎は助けてもどうしようもない気がする。

このゲームから生きて帰っても直ぐにでも自殺してしまいそうな危うさを今の日乃崎は持っているのだ。

だからと言ってそれは助けない理由にはならない。

こいつが【悪】であろうが【正義】であろうが生きて帰って欲しいのは俺の本心だ。


 「日乃崎、この問題のヒントだ。俺と――――」


 「いいよ、わかってるから。教えてもらわなくても今回は間違えない」


 そしてそのまま俺から逃げるように教室の端へと行った。

本当にあいつは今、何を目的に動いているのだろうか?

何も目的もなく、ただ生きているのだとしたらそれは――――死んでいると同じだ。


 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……一人です。不正解者は入戸様』


 やっぱりあいつはこの問題を落としたか。

何故この問題を落とすとわかったかと言うと単純で、入戸は他人の紹介を聞いてないと思ったからだ。

この問題は他の人間の自己紹介を聞いていなければ正解は不可能。

それだけの話だ。


 これで全員の正答数が8で並んだ。

次の問題を全員が正解すれば、誰の首輪が作動することも無い。

よし、最後まで気を抜かずに行くぞ。


 『では最終問題へと行かせていただきます』


 そして最終問題のアナウンスが始まった。

一瞬で部屋全体の空気が引き締まったのがわかる。

これで間違ってしまえば、死んでしまうのだからそれは当たり前だ。

俺でさえ、緊張している。


 「最終問題は、各自問題が容易されています。順番に解答ください。なお、この問題中のみ他のプレイヤーとの会話を禁止させていただきます。」


 「なんだとっ!? おい、それじゃあルール違反だろう!」


 いきなりルールの変更だと!?

そんなのは考えてもいなかった。

まさかさいしょから最終問題で正答数が並ぶのを予想していたのか?

ありえる、何故なら最初からヒントの出し合いを許可していたから、全員の回答数が並ぶのは予想がつくからだ。

ふざけるな、こうなればどうやって確実に全員が正解できる……?

俺は必死に頭を捻り、解答を導きだす。


 ……そうか筆記ならば、いける!

会話は禁止されているが、筆記による助言の出し合いは禁止されていない。

だが、筆記するための道具がない。

クソッ、どうすれば……。


 『では最初は、夕凪様へ問題です。入戸様の所属している中学校は? 制限時間は二分です。』


 慌てる様子もなく、あっさりと答えを導きだす春。

なんと言うかさすがだ、焦る様子を見せて俺たちに動揺を与えないようにするための策でもあるのだろう。

こういうのを思いやり、と呼ぶのだろう。


 その次は俺で、少しの思考で解けるような問題を提示された。

続くように、暁。その次は初音。華、日乃崎と全員が全員正解することが出来た。

そして問題の入戸の解答の番となる。

俺たちに出題された問題が他のプレイヤーに関する問題だった以上、間違いなく次の問題も似たような問題になるだろう。

それを入戸が答えられるわけがない。


 『では入戸様問題です。鏡峰様と滋賀井様は何年来の付き合いでしょうか? もしくはいつからの付き合いと言う答え方でも構いません。制限時間は二分です』


 「あ、あ、あ、あ……。いやぁいやぁ。」


 入戸はやっと自分の命の危険に気づいたのか、情けない声を吐き出していた。

恐らく今入戸は後悔していることだろう。

何故さっき裏切ってしまったのかと。

俺は入戸が八問目で裏切らずちゃんと間違えていれば、さっきの問題は正解してもらっていたと思う。

これは今だから言えるのだが、最終問題で不正解になっていたほうが今のように問題の形式が変わった場合にも対応できたからだ。

今言ったのも、入戸が絶対に裏切らないと仮定した上での思考だが、恐らく俺はそうしていたと思う。


 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。謝るですから許してください。だからお願いです、この問題のヒントを誰か教えて下さい、お願いします」


 入戸はプライドを噛み殺しながら、必死に言葉を口にしていた。

だが会話は禁止されているため、誰も喋ろうとはしない。

そして入戸は涙を流し始める。

己の行動を悔いて、己の発言を悔いて、己の感情を悔いて。


 「お願いですから誰か助けて……。ねえ……」


 そして入戸は華の方へと向かい歩き始める。

華は体をびくりとさせ、俺たちの方へと逃げようとするがそれよりも早く入戸に捕まる。

声の出ない、喉を震わせてながらと首を横へと振る。


 「ねえ、園影さん! お願いですから私様に答えを教えてください! 頼みます、そうしないと私様が死んでしまうんです! ねえ!」


 首元を捕まれて入戸から必死に懇願されている華。

だがその口から言葉は出てこない。

いや、出せない。


 ん、待て華は話せない。

ならどうやって今まで華は俺たちと意思の疎通を取っていた?

そうだ、華ならば筆記用具を持っているじゃないか!


 そうとなれば急いで行動を始めなくてはいけない。

残りの時間はもう少ない。

俺は華の元へと寄り、入戸を剥がして華へジェスチャーで俺の意思を表現する。

必死の表現が伝わったのか、華は首を縦に傾け、メモ帳とペンを取り出した。

そして文字を描き始め――――


 「そんなメモ帳に字を書いている場合じゃないです! 早く説明するです!」


 ――――ようとしたところで入戸がメモ帳を払い飛ばした。

何をしているんだと思ったが、今の入戸はパニック状態に陥っている。

そのせいで冷静な判断が出来ず、華が直接話せないことも忘れているんだ。

しかもルール的にも話してはいけないのも忘れている。


 飛ばされたメモ帳は既に取りに言っていては制限時間に間に合わない位置にあった。

手遅れ? いや、まだ間に合うかもしれない。

俺は脚を踏み出し、メモ帳へと走り出した。

そしてメモ帳を取る。


 「ああ、そうですか。皆さん私なんかにはヒントはくれないですか! いいです、じゃあ私は勘で解答するとするですかね!」


 声を出すことが出来ないため必死にキッと睨みつけるが入戸の視覚には入っていない。

俺はメモ帳に急いでヒントの「3×4」と言う文字を書くが、それを見ずに入戸はただ機械を構っている。

俺の思いは届かないのか?


 「そうですねえ、六年? 九年? それとも五年とかだったりしてえ? あはははは!」


 ダメだ、入戸の精神が壊れてしまっている。

俺たちが何を言っても声は届かないだろう。

そして入戸は画面をタッチして解答を出した。

断言しても言い、それは絶対に正解していない。

それはこの問題が勘で当たるような問題ではないからだ。


 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回入戸様の回答は……、不正解です』


 最悪だ。なんでこうなってしまったんだ……?

これで入戸だけ正答数が8。俺たちは9。

たった一の差だがこれは大きい。

この差は絶対に越えることが出来ない。

そして無くすことも出来ない。


 つまりこの瞬間――――入戸の死亡が確定してしまった。



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