【DROP OUT】 1
――――湊は眼を覚ました
重たい意識を持ち上げて、さっき見ていた夢を振り返る。
悲しい昔話を。
思い出したくないと拒否して忘れてしまうのは簡単だ。
なにせ人間は嫌なことは消せる都合のよい機能を持っている便利な生き物なのだから。
だがそれでも俺は忘れたいとは思わなかった。
愛羅を忘れてしまえば俺は何を目標に生きればいいのかがわからなくなるから。
何を目指して生きればいいのか、それさえも忘れてしまうから。
だから俺は忘れない、忘れられない。
しかし、たまに一瞬だけあの過去から逃げたくなる。
『だから助けて欲しかった』と言う言葉から。
あの言葉が確実に今でも俺の心臓を突き刺していて、俺の体を縛っている。
それが痛くて、抜いてしまおうかと思ってしまおうかと思う。
それが俺の弱さなんだろうと、俺は理解している。
――弱さから逃げるな、向き合え。
確か手紙にはそう書いてあった気もする。
これも確かに一つの呪いなんだろうな。
死してなおあいつは俺に固執して笑いかけるんだな。
からからと鳴りそうな喉を押し付け、俺は立ち上がった。
「わわわ、湊くん起きちゃったっ」
俺が立ち上がると何故か初音が驚いた仕草をしていた。
その様子を見ると俺に何かをしようとしていたみたいだが…。
しばしの思考を始める。
…ああそうか、初音は俺を起こそうとしていたのか。
確か俺は残りが11時間を切ったら起こせと頼んでいたからな。
だとしたら初音を一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
しかしそれでも若干の時間のずれは生じているかもしれない、一応モニターを確認しておくか。
『10:47:59』
「…オイ、初音」
前言撤回だ。
数分なら仕方がないかとも思ったが流石に15分は許せるものじゃない。
俺の言葉にビクンと体を震わせているところから見るに初音はこのことに気づいているようだ。
気づいてやったとすれば罪は重くなるって言うのが常識のはず。
とりあえず……でこピンで済ますか
「痛っ。うぅ…いきなりでこピンってなかなか痛いんだよ?」
「知らん。とりあえず俺の15分を返せ」
にはは、と笑う初音。
ちなみに「にはは」と言う笑い声は始めて聞いた。
恐らくもう聞くことはないだろう。
それにしても初音の笑い方がいつもと違いぎこちない。
髪も揺れてないしな。
もしかすると俺が寝ている間に何かあったのか?
いや、それなら真っ先に俺に言うか。
だとすれば…俺自身が何かを何かをした?
しかし寝ているときにそんなことが出来るわけがない。
あと俺は寝相はいい方だと思っている。
とりあえず一人で思考を循環させていても仕方がない。
素直に初音に聞くとしよう。
俺は初音を少し睨むような目つきで睨みつけ、
「なにかあったか?」
と言った。
「エッ!? いやなんにもないよっ」
次はわかりやすく声を裏返して動揺を見せた。
ついでに大きく外はねも動いている。
たまにあの髪は生きてるんじゃないかと錯覚させられるのは俺だけだろうか?
と言うか初音はもう少し嘘をつけるようになったほうがいいな。
このままでは絶対将来損をする。
と言うかこの建物にいる十二時間中にも絶対に損をするだろう。
っと、そんなのはどうでもいい。
とりあえず早めに初音から情報を聞き出さなくてはいけない。
後手を踏んだ後に知り、手遅れになることは避けたい。
そのため、こればかりは早く聞き出すべきだ。
少し強引にでも、この際は仕方ない。
ぐいと俺は初音に近づいた。
このとき初音との距離は1メートルもない。
「正直に言え。手遅れになってからでは問題だ」
「えっ、えっ?」
顔が赤くなっている。
そう言えば何年か前のバレンタインのときもこんな場面があったような気がする。
……どうもさっきから話が逸れ気味だがさっさと話を聞きだしたいところだ。
そんな風に赤くなられても困る。
いいから早く答えろ。
そういう期待を向けた視線を送っても初音はまるでなにも反応を示さなかった。
俺の希望とは逆ベクトルに真っ直ぐ直進している初音をどうするか。
今の俺の悩みはそんなところだ。
まったく暢気だと自分でさえ思う。
しかし暢気に雑談をしている暇さえないと思いながらも、少しこう言う日常も悪くないと思う俺も確かに存在していた。
「えとっ。喋るからさ、とりあえず……距離取ってよねっ」
ぽん、と軽く両肩を押された。
突き飛ばされたとも言う。
予期せぬ行動だったため俺の体は殆ど抵抗もなく後方にバランスを崩した。
と、と、と、と三拍子を足で奏でた後に机を利用し手で体を静止させる。
こういう風に初音に攻撃(?)されるのは初めてだったため少し驚いているのが現状。
初音自身も驚いているようで俺の方へと外はねをピョンピョンと動かしながら近寄ってきた。
大丈夫? と言ったニュアンスの言葉を俺に掛けてきたため俺は適当に肯定を返す。
寝起きで少し体が立っている体制に慣れていないのか少し四肢の駆動率が低い。
ゆっくりと体の節々を再起動。
体勢を完全に立て直したところで俺は改めて初音に尋ねる。
そこで返ってきた答えは予想外のものだった。
「いやですね、あまりに湊くんの寝顔が可愛いものでね、ついつい眺めていたら時間が過ぎちゃってっ。とか言ってみたり、えへへ」
とか言いながら自分の頭を軽く小突く動作をする初音。
その動作は人によっては愛らしいと思うだろうし、人によっては憎らしいと思うだろう。
俺はその中間辺り。
でも相手が初音と愛羅以外であればイラッと来ていただろうな。
なんと言うかその回答は予想外と言うか奇想天外だな、と少し肩透かしを食らったような気分。
初音の頭の中は小宇宙とはよく言ったものだ。誰が言ったかは知らんが。
怒ろうにも怒れない理由を言われたため持ち上げた左の拳が宙をぶらんぶらんと切っていた。
やる気のないマリオネットの様にブランブランと。
はあ、とため息をつくことでこの件は終了としようと思う。
うむ、それが懸命だろう。せえの、はあ…。
そう言えば俺はなんだかんだでいままで初音の機械を聞いていなかった。
俺の自爆装置の解除の条件の間接的な条件でもあると同時に、俺の目的でもある初音の機械を知る権利が俺にはある
いや、知る義務がある。
たいした決意もせずに俺は初音に機械を聞いてみた。
「ところでだが初音。お前の機械はなんだ?」
「え、【信頼】だけど?」
即答だった。
考えずに感じるままに思いついたことを直ぐに言ったと言った様子だろうか。
俺としては相当ありがたかったのだが、今後はそう言うのは控えて欲しい。と俺は軽く初音に説教をした。
「り、理不尽だっ」
「いや、合理的だ」
そんな感じの言い合いも混ぜながら俺は初音に説教をする。
初音は表情こそ笑っているが内心はしっかりと反省しているのだろう。
こいつはそう言う人間だ。
それにしても【信頼】か。
確か『枷』は「『箱』の内部のどこかに存在する球体を四つ以上開ける」だったか。
とりあえず俺の協力で一つ大丈夫としても他に三人の協力が必要となるわけだ。
出来ることならその中には【偽善】のプレイヤーが含まれているのが望ましい。
その理由は簡単で、【悪】のプレイヤーの情報の箱を開けると即首輪が作動となるためだ。
それを回避するためにも【偽善】の機械の特殊機能である他の機械の偽装解除が必要になってくる。
これでやるべきことが大分はっきりとしてきたな…。
「まったく……。次からは本当に気をつけろよ。――――にしても、なんだか部屋が俺の起きる前よりも三割り増しくらいでうるさくなっている気がするんだが気のせいか?」
「うーんとね、多分気のせいじゃあないよ。ちと夕凪くんと暁さんの仲に進展があったようでねえ」
にやにや、と頬の筋肉を緩ませる初音。
こんな状況で色恋に現を抜かすとは気楽なもんだな。
ある意味その能天気さが羨ましい。
とりあえず俺が寝ている間の夕凪と暁の状況は把握できた。
華と入戸は年齢的にもたいしたことは出来ないだろうから、気にならない。
しかし、日乃崎だけは気になる。
気になるより知らないと不安になると言った方が正鵠を射ているか。
あいつの一挙一動を知るのと知らないのとでこのゲームの今後は左右されると言っても過言ではない。
だからこそあいつの行動には気にかけてはいるのだが、流石に寝ている間まで注意力を向けることは出来なかった。
初音に日乃崎が何をしていたかの説明を聞いても無駄な気がしたため夕凪に聞いてみることとした。
気楽そうに見えて意外と抜け目のない夕凪は俺に正直に全て教えるとは思えなかったが、それでも日乃崎自身に聞くよりも何倍もましだろう。
それに、交流と言うメリットも付加価値も一緒についてくるのだから夕凪と会話をしない理由はないよな。と言う欲望丸出しの理由で俺は夕凪に近づく。
横に暁も一緒にいるため少し遠慮しようかとも思ったがさすがに命との天秤には載せられない。
「夕凪少しいいか?」
「ん? どった?」
俺が夕凪に話しかけるなり暁は席を外して初音の元へと向かった。
それは空気を読んだのか、それとも俺と言う壁がなくなって初音に近寄りやすくなったのかは定かではないが、どちらにせよありがたい
相手が(まともな精神をした)同性と言うこともあり俺は肩の力を抜いた。
さっきまで暁が座っていた席に俺は座る。
そして体を机に預けながら気を楽にして夕凪に話しかけた。
と思ったら夕凪の方は体を緊張させていたため最初から本題に入るのはやめ少し世間話をしよう。
緊張したまま話されても上手くないようが伝わらないかもしれないからな。
こういう話を切り出すのは俺のキャラとは少し違うから難しいんだが、さてどうしたものか。
無難な感じに切り出すとしようか。
「ところでお前は暁と付き合ってるのか?」
「はぃっ!? ちょ、湊、何言ってんのさ!?」
湊、と夕凪は俺を呼んだ。
ほんの些細な問題だがそれを信用の形と受け取るには日乃崎の例があり抵抗があった。
別に夕凪が日乃崎のような人間だと言っているわけではない。
でもだ、それでもついさっきそう言う意図に呼ばれた名前で呼ばれるというのは警戒心をともなうわけだ。
まあ信用とは両者の信頼があってこそ生まれるもの。だったら俺が信じなくては夕凪の信用はありえないのだ、なら俺は夕凪に無償で信じられよう。
それで夕凪の協力を仰げるなら安いものだ。
と言うかこいつも色々と日乃崎に近い部分を持っていると思ったら、意外と普通の感性で初音みたいにわかりやすく動揺したりもするんだな。
意外といえば意外、少しクスリと来るものがあった
「冗談だ、気にするな」
少し柔らかめの笑顔を夕凪に向けながら俺は言う。
緊張は言い感じに溶けたかな。
さて、本題を切り出すとするか。
「ところで俺が寝ている間に日乃崎に何か動きはあったか? あったなら出来るだけ細かく教えてくれ」
俺は表情を厳しいめのそれとした。
こういう会話のときは真面目になっておかないと冗談で流されてしまうからな。
俺はそういうタイプの人間――――愛沢愛羅と昔知り合いだった経験があるから間違いないはずだ
つまりは夕凪はそういう人間に近い空気を持っているため、こういう対応をしておこうと言う自己予防線ってわけだ。
たいした意味こそないが重要性はある。
夕凪は俺に合わせるように真面目な顔をして少し考え始めた。
首を捻ってこれは言って良いものか、じゃあこっちは? と考えているのだろう。
脳内事業仕分けと言ったところか。
恐らく、だが俺に怪しまれると言うことは承知した上での行動だ、それは俺が信用しきっているわけではないと理解しているのだろうな。
やっぱりこいつは頭がキレる。
もしかすると単純にそんな風には思っていないのかもしれないが、まあそのときはそのときだ。
数秒の間の後に夕凪は重たい口を開いた。
「なにかって程じゃないけど、俺と話したよ。内容は――――」
そうして語られた内容は、日乃崎が【偽善】の機械の持ち主を探せば直ぐに首輪が解除できるというのを提案したこと。
でも夕凪は協力を出来ないと断ったということ。この2つだ。
内容自体はさっきの俺とまったく同じだったのだが、問題はそこじゃない。
一番驚いたのは当たり前のように自分に優位になるような話を持ちかけた日乃崎にではなく、それを冷静に判断して断った夕凪だろう。
普通なら甘い蜜を目の前に垂らされた虫のようにのっかる話し、だが夕凪はそれを蹴った。
この話は一見は有利そうに見えるが真実はただ日乃崎に疑いの目をまったく見せるとこをなく非難を夕凪に乗せることが目的。
それを少しの思考で理解すると言うのはなかなか出来ることではない。
それこそ初めから人を疑っているような人間でなくては。
話を聞いた限りでは日乃崎はそこまでの行動はしていないようだな。
てっきり俺が寝ている間に全員と接触して自分の独壇場にでもするかと思ったのだが。
こうして俺と夕凪が接触するということを予想していたのか、それか日乃崎も気づいたのかもしれないな。
夕凪春と言うプレイヤーの危険性に。
「……。」
俺はジッと夕凪を睨む。
この瞬間も何かを狙っているかもしれないその眼を。
さっきから俺ではないどこかをちらちらと見ている
日乃崎とは逆方向の初音と暁の方を見ている。
こいつも既に何かを暁に命令していた、とかはどうだろうか?
それで俺が離れたと同時に暁は初音に近づき何かを吹き込む。
まさか…と思考。だが可能性は0とは言いきれない。
寧ろ十二分にありえる。
だとすれば何を夕凪は命令した?
俺を裏切れ? もしくは単純に機械の種類を教えろ?
そのどれよりも一番考えられるのは単純に仲間になれか?
ここで俺が聞いて正直に答えるかはわからない。
なら後から初音に聞くのが一番早いだろう。
あいつならば俺に嘘はつけないだろうしな。
だがそれだけじゃ何も進展はしない。
ただ俺が夕凪に対する猜疑心に駆られ、このゲームで最後まで信用できないだろう。
それは出来ることが避けたい。俺の機械の枷は実質的には無理だ。
更に言えば初音の機械は一人では絶対にクリア出来ない。
だとすればここで俺がするべきは疑うのではなく、本人から直接聞き出し信用出来る状態にすることだろう。
「夕凪、もう一つ質問だ。お前は何故さっきから暁の方ばかり見ている?」
「エッ!? いや、あの、ほら、あのな、うん」
動揺といえば動揺はしているがさっきと同様の何か日常的な物と言うかなんと言うか。
しかしこれが演技、と言う可能性がないわけでもない。
更に俺は問い詰める。
「さっさと言え。沈黙は金なり、とは言うが金がなによりも優先されるわけじゃないからな」
「なんでそんなに怒ってるのさ。いやね単純に…優花の、あの、胸がですね」
「………。」
さっきとは別の意味で俺は沈黙した。
冗談にしては別ベクトルに信用が下がり過ぎる内容だったから、ある意味では信用に値するのだが
それでも女の胸を見ていたとここまではっきり言うとは…。
本当に恐ろしいな、夕凪春。
確かに暁は初音と楽しそうに会話していて飛んだり跳ねたりしていて黒髪やら胸やらが弾んではいるが…って違う!
にしても確かに初音の発育は悪いわけでもないのにそれでも暁の発育はそれの数倍は超している。
本当に雑念が俺に混じり始めているな、精神が疲れているのだろうか
とまあ内容はともかく、夕凪は嘘をついているわけではないとほぼ断言できた。
それでも一応初音には聞いてみるが。
「と言うか…その、違ってたら悪いんだけどさ、もしかして俺のこと疑ってたりした?」
胸を針で指されたような動揺が襲った。
心の中を綺麗に見透かされたようななんとも言えない感情。
なんと言って答えようか。
正直に「はい」と答えるか、それとも嘘をついて「いいえ」と答えるか
考えはしたが迷いはなかった。
俺は正しくある、それなのに嘘を簡単につくわけがない、ついていいはずがない
俺が思考したのは「はい」か「いいえ」かではなく、その細かい内容についてだった。
それが纏まったため俺は正直に答える。
「そうだ、俺は夕凪を疑っていた。それは隠しようのない信実だ。だが今俺は夕凪を信用している。だから夕凪は――どうなんだ?」
俺の言葉が予想外だったのか夕凪は面食らっていた。
だがそれも一瞬、直ぐにいつも見せる明るい笑顔になる。
そのまま俺に手を差し出してこう言った。
「信用してるに決まってんだろ! よろしくな、『湊』」
迷うことなく俺はそれに応じて言葉を返した。
「こっちこそよろしく、『春』」
夕凪ではなく春と呼んだ。
それは紛れもない信用の証。
心の中で俺はもう初音に確認する必要はないな、と呟いた。
こんな混じり気の一切ない純粋な笑顔を疑うことなんて出来なかったから。
少し甘いかもな、と自分では思いつつ後悔はしていない。
このときこそが最後まで春を信用していようと思った瞬間だった。
だがそんな信頼の時も直ぐに終了してしまう。魔の警報によって始まった悪夢のせいで。
二人が握手を交わしてから一分と立たないうちにピーピーピーピーと目覚ましの初期設定音にも聞こえるその音があのスピーカーから鳴り出した。
突然の音声に俺たちは体を震わせて、反応した
――なんだッ!? 誰かの首輪が作動した?
―――いや、誰も条件に引っかかるような行動はしていないから違う
―――ならなおさら何故だ?
一瞬のうちに複数の思考が交錯し、様々な疑念を呼び起こす。
誰かがなにかをしたかと思うとまっさきに想像されるのは、日乃崎の暗躍。
だがその日乃崎でさえ突然の警報に動揺し、首輪を構ったり機械を見たりを繰り返したりしている。
その額から滝の様に流れ出る汗を見る限りとても嘘をついているようには見えなかった。
クソ、自分の想像し得ないことが起こるとここまで気分の悪いものか…。
日乃崎の策略はまだマシだ。何故なら目の前にその本人がいるんだから最悪暴力を振るうことも出来るから。
だが相手が目の前にいないどころか、自分の命の手綱を握っているとなると不快感と恐怖感は図り得ない。
俺の疑問に答えるようにスピーカーからただの音ではなく、機械音でこそあるが言葉の音声が流れる。
『突然の放送すみません。突然でありますがモニターの制限時間が10:30:00を切ったそのときより簡単なミニゲームを開始させていただきます。このミニゲームの結果次第によっては参加者が増減いたします』
「なんだとッ!?」
俺は感情よりも早く言葉を発し、それに遅れるように立ち上がった。
異常なほど拳に力を込めながら握り締める。
俺の疑問に答える様子もなく、機械音は言葉を紡ぎ続けた。
『簡単に申し上げますとミニゲームの内容は、クイズゲーム。十問を皆さんに回答していただきその正答数を競っていただきます』
このゲームが理不尽なことはわかってたじゃないかッ。
それで何故俺は今まで行動を起こさなかったッ。
何故――悠長に眠ったりしていたッ。
多分俺は心のどこかで、「いきなり主催側が動くはずがない」と油断していたのだ。
その油断の結果がこれだ。
最悪の事態にならなければいいが…。
『このゲームはモニターに表示されております制限時間が10:30:00を過ぎるまでに「お一人でも『自爆装置』が作動する」または「お一人でも『自爆装置』を解除していただく」のどちらかをしていただければ中止させていただきます所存でございます』
「そんなことが出来るはずないだろうがッ!」
一時間半かけて出来なかったことを十分と少しでやれなんて、無理だ。
その上ここで動けるプレイヤーも大分限られる。
解除できるような条件のプレイヤーは…。
待て、もしかして…実質的に初音しかいないんじゃないか?
【悪】は初めから除外するとして、【孤独】、【調停】、【絆】は今動きようがない。
そして【偽善】と【平和】も他のプレイヤーが『自爆装置』を解除していない以上、機械を壊すことが出来ない。
だとすれば…出来るのは、初音の【信頼】だけだ。
だがあの条件も十分やそこらで出来るとは思えんな。
と言うことは待つしかないと言うのか…。
チッ、と思い切り舌打ちをして自身の怒りを晴らす。
この怒りを必死に噛み締めながら、十分間耐えるしかないのか…。
俺の予想を他所に、一人の人間が口を開く。
そう、日乃崎 虚が、行動を起こしたのだ。
席に座りながら日乃崎はこう提案する
「さてと。ねえ――――【信頼】の機械の人、さっさと動いてくれないかな? そうしないと不毛にも変なミニゲームで命を落としちゃうよ?」
俺はその言葉に怒りを通り越し一種の無感情になった。
何を言っているのかまるで理解できず、思考が停止する。
数秒たってようやく、初音の命が危ないことに気がつき、俺は頭の回転を始めさせた。
このまま、こいつの策に乗れば間違いなく初音は死んでしまう。
根拠はないものの、嫌な予感がさっきからして止まないのだ。
こういうときの予想と言うのは…奇しくも良く当たる。
「おい、何を言っている日乃崎……」
「別に変なことを言ったつもりはないけど? 何かおかしかったかな」
あくまで白を切る気か。
こいつは本当になにを考えてやがるんだか…。
しかし依然俺は何が日乃崎の目的なのかがわかっていない。
だがこいつが何も考えずに発言するなんてことは絶対にありえん。
一を目的にして、二を得ることを前提として、十を狙う。
そんな思考を持っているであろう日乃崎が、何も考えてないなんて楽観的思考も行き過ぎている。
「こうしてさ、話している時間も無駄だとは思わない? 湊が何を考えてるかは知らないけどさ、僕は目的も何もなく単純にみんなのためを思って発言してるのさ。本当だったらこんなことを言ったりして自分の身を危険に晒すような善人じゃないことも湊ならわかってるでしょ?」
本当にこいつは何を考えていやがる…?
日乃崎虚と言う人間はこんな御託を並べるようやつだったか?
冷静に頭を巡らせろ…こいつは今何を考えているかを、必死で思考しろ。
考えることは猿でも出来るような簡単なことだろう…。
「だからさ、早く【信頼】の機械の人。早く名乗り出てきてよ」
まさか…?
いや、そんなことがありえるのか?
まったくの妄言と言うことはないだろう。
だがこんな可能性がありえるか?
――――日乃崎は本当に目的無しにこの発言をしているなどと言うことが、有り得るのか?
正確に言うとまったく何も狙っていないわけではないんだろうが、それでもたいした成果を狙わずしてこう言う発言をしている可能性は充分にある。
例えば、単純に【信頼】の機械の持ち主を知りたいだけ。
今、日乃崎を除いた六人のうち、俺と初音、春と暁は互いに幼馴染の関係にいる。
その上両方が互いの機械を幼馴染同士で教えあっている。(春と暁の方は予想であるが恐らくそうだろう)
だとすれば、六人のうちの四人の誰かが【信頼】の機械の持ち主であればこの時点で発覚する可能性があるのだ。
幼馴染の相手が危険に晒されているとなればそりゃあ慌てる。
それこそ丁度今の俺の様に。
それが、いや――それだけが日乃崎の狙いか?
違う、それで【信頼】の機械のやつが出てくればそれを確認するために【偽善】の機械の持ち主も炙り出す気か…!
これで自身の機械を含め三人、参加プレイヤーの約半分の機械が判明する。
ここまで考えての行動か……。
こっからは完全に考察ではなく予想の範囲であるが、日乃崎はもしかすると首輪の作動が本当かも確認しようとしているかもしれない。
そうだとすれば本当に初音の命が危なかった可能性があるな…。
やはり俺の勘は正しかったようだ。
「日乃崎、それはやめておけ」
急な俺の言葉に日乃崎は豆鉄砲を食らったように驚く。
直ぐに悔しそうな感情を磨り潰したような表情になり、俺を睨んだ。
それすらも一瞬でまた表情を変え、いつも通りの何を考えているのか良く分からない物へと変わる。
本心を隠したような調子で日乃崎は言葉を発した。
「どうして……かな? 僕にはまるで理解できないのだけど」
俺と一対一だったら睨みつけるくらいはやっていたのだろうが、今は周りに他のプレイヤーも居る為、そうはしなかった。
あくまで温和な印象を崩さないように笑顔で表情を固めている。
それが効果的かどうかは別にして、単純に気味の悪い印象を与えることには成功している裏目っぷりだった。
「嘘を吐くな。お前ほどの人間が気づいていないはずがないだろう? この十分もない短時間で首輪を、しかも複数人の協力を必要とする【信頼】の機械の持ち主の首輪を解除出来るなんて思っているはずがないだろうが」
そんな言葉にたじろぐ様子も見せずに日乃崎は直ぐに言葉を返す。
「それは気づかなかったねえ。ありがとう、このまま急いで人を殺してしまうところだったよ。僕もいきなりミニゲームが始まるところだったから焦ってたんだよね。」
ヒラヒラと手を振って謝罪をする日乃崎。
表情こそ申し訳なさそうだが、目はまったくと言っていいほど笑っていた。
冷たく、機械的に、ただつまらなそうにどこかを見つめている。
そしてあっという間に十分間が過ぎた。
ピンポンパンポーンと、間抜けな音楽が部屋に振動し耳に数回到達する。
結局、何も出来なかった。
俺はなにか行動を起こしてこの場面を避けることに失敗したのだ。
この選択肢が間違っているわけではない。
この場面ではこれが最善だった、それだけの話だ。
俺は後悔をしない。
――――後悔したことを悔やみたくないから。
そしてミニゲームが開始した。
――――日乃崎 虚は早くもこのゲームの理不尽を受け入れた
そもそも、僕は端からこのゲームを理不尽と言うほど理不尽とも思っていない。
だってこんなもの、『ただ男女七人がどこかもわからない建物に閉じ込められて実質的に殺し合いをするように求められている』だけじゃないか。
しかもその上生き残れば賞金まで出ると言われたんだ。
そうだとすれば、この程度の殺し合いを、理不尽などと言っていては本当に理不尽に殺されたものが可哀想だよね。
僕はこの建物で目覚めてからまず、このジャッジと呼ばれる拳銃の銃口を『自分のこめかみ』に押し付けた。
ひんやりとした感触と死を導くような感覚が僕の体へと流れる。
そうしてようやく僕は、「ああ、ついに僕も人を殺さなくちゃいけない日が来たのか」と大笑いをした。
笑ったところまでは良かったのだけど、ここから何をするべきなのかがわからない。
機械置いてあった電子端末を見たけど内容はさっぱりだった。
首輪がしてあったから誘拐されて、愉快な事件に巻き込まれたのまではわかった。
だからと言って拘束しているわけではなくて、その上他にも誘拐された人間がいるというのも同時に把握。
だから僕は仕方なく『手短にいた女』を襲おうとした。
仕方ないよ、だって何も解らなかったんだから。
何も解らなければ仕方なく人間を襲うのはしょうがないだろう。
――――それが人間だ
だけど襲おうとしたところまではいいんだけど、そっからなんか変な男にいきなり攻撃された。
今だからわかるけど、そいつの名前は鏡峰 湊。
僕と同じ生徒会長をしている人。
湊は面倒なくらいの善人気質なんだろうね。
だからこんな僕を殴るのには一切躊躇をしなかった。
悪を倒すのが正義の定めと言わんばかりに。
それが常識だと言わんばかりに。
でも僕はそんな湊が嫌いなわけじゃなかった。
僕が-の正義なのだとして、湊は+の悪なんだから二人の絶対値は同じ。
だから寧ろ僕はそんな湊に興味があった。
湊の行動全てに興味があった。
――――僕が何かをするとき、湊は何をするんだろうか?
――――僕が湊を襲ったら、湊は僕を襲うんだろうか?
――――僕が湊の提案を断ったら、湊は僕になんと言うんだろう?
――――僕が彼が眼をつけている頭の回る春に話しかけたら、湊はどんな対策を取って来るんだろうか?
――――僕が誰かの命を狙う素振りを見せたら、湊はどうやってそれを回避するんだろうか?
僕には全てが疑問だった。
そして全てが欲求の対象だった。
僕のこの『箱』での行動原理は全てが疑問解決への欲求。
疑問の為に動き、欲求の為に行動し、自己満足の為に全てを乱す。
それに巻き込まれた人はごめんね、謝らない。
じゃあ僕は、欲求が無くなったら、何を求めるんだろう?
そんなことはありえないと思うけど、それでもふと思いついてしまった。
もしそんなことになってしまったなら……
「全部、無くなればいいんじゃないかな」
そんなことにならないように僕は精々このゲームをぐちゃぐちゃに引っ掻き回すとしよう。
この楽しいゲームが更に楽しくなるような適度なエッセンスを、適当な調味料を、適切な香辛料を撒き散らしていこう。
最後に笑ってるのは僕じゃなくて構わない。
それは春でも、暁でも、滋賀井でも、園影でも、入戸でも、もちろん湊でも誰でもいい。
ただ僕の最後が高笑いしながら最高に楽しそうに死ねばそれで大満足だ。
もちろんみんなで笑って終われればそれもいいと思っているよ。
でもそれが最高に楽しいとはまったく思わない。
誰かの死に誰かが落胆して、誰かの落胆に誰かが絶望して、誰かの絶望に僕が希望を見出せる。
それが一番最高に楽しいじゃないか。
だから僕はこのゲームの悪となる。
正義である必要がないからね。
――――でも悪になるときは今じゃない。
僕が悪になるそのトリガーはそうだな……。
そうだ、誰かが死んだときでいい。
悪になった僕を鏡峰 湊が僕を止めてくれることに期待して。
このゲームにいる他の参加者五人を手駒として、このゲームを最高に盛り上げよう。
それが僕をこんな最高の宴に巻き込んだやつらへの意趣返しだ。
後悔するほどに、楽しませてあげるよ。
そんな感じに思っていてもこのゲームが本当に殺し合いのゲームなのかは未だにはっきりとしていなかった。
全員が自爆装置と言う名の首輪こそしているものの、誰一人作動していないから。
それに、誰も自分が持っている拳銃、ジャッジを撃とうとしないからね。
だからこの拳銃が本物かもわからない。
僕の欲求解決の為に一発撃ってみてもいいけど…。
それだと偶然誰かに当たっちゃって僕の安全装置が作動しちゃうかもしれないしね。
まあ、それはそれで首輪の作動が本物ってわかっていいんだけど……とか言う風に前向きに考えられる僕じゃあないからね。
だから銃については保留。
にしても、何故僕達がこの建物に集められたんだろう?
正確に言うと、「何故この建物に集められたのが僕達だったんだろう」か。
簡潔にするならここに集められた僕達が、僕達であった必要があるのかってこと。
このメンバーに何か共通点があるとは思えないし……。
いや――――もしかして、僕が気づいていないだけでなにかあるのか?
でもこの様子を見ると誰もそんなことには気づいてないみたいだし、僕の考えすぎかな。
そう言えば、鏡峰って苗字。
どこかで聞いたことがあるような…?
単純に生徒会長だから名が知れているってレベルじゃなくて、どっかではっきりとその名前を聞いたことがあるような。
気のせいと言ってしまえば早いんだけどね。
でも今の状況が状況だからこう言うこともはっきりとしておかないと後から聞けなくなっちゃ元も子もないし。
もしかしたらうちの父が生きてる頃にいろいろな業界とコネがあったからその中のどこかで知り合っていたのかもしれないね。
ついでに言うとさっき入戸が話していて思ったけど……僕も何か華には見覚えがあるんだよね。
これも気のせいじゃなくてどこか確証的に。
でも最近じゃなくて、結構前かな、この記憶の思い出し方的に。
会った事はあるのに、会った事がないような不思議な記憶。
僕の記憶が弄繰り回されてるってのは流石にないか、話が飛躍しすぎてる。
これ以上は考えても仕方ない……か。
不満だけど仕方なく、思考を中止した。
そう言えば、もう少ししたらミニゲームとか言うものが始まるんだったっけ?
完全に忘れてたよ。
どうせ僕はこんなとこでは死なないんだからね。
この言葉に根拠は無い。
ただ絶対的な自信があっただけだ。
僕はこんなところで絶対に死なない。
こんなところで死ぬような運命に僕はいないと、どこかで確信しているのだ。
人間にはそれぞれ役割が決まっていて、いつ死ぬか、何故死ぬか、どうやって死ぬかは全てが生まれた瞬間から決まっている。
強制されているとも知らずに人間はその決められていることを全うするだけ。
それを人生だとか言ったりするのかもしれない。
その人生を生きるうえで僕がこの建物で与えられた役割は、間違いなく――――
――――悪になること、かな
誰かが僕にそう言った訳じゃない。
自分でそうだと思っただけ。
でもそう言うのを、「自分を信じる」とか言うじゃないか。
人間とは便利だねえ、全ての物事に言い訳がつけられている。
物事を失敗すれば、「失敗は成功の元」
嫌なことがあれば、「ポジティブに考えよう」
悪いことをしても、「ごめんなさい」
嗚呼、なんて人間とは便利な生き物なんだ。
だからこそ僕は人間が大嫌いだ。
言い訳なんてせずに、しっかりと絶望を、不条理を、理不尽を、現実を受け止めなよ。
そうだね、丁度僕みたいにさ。
このミニゲームが終わったあたりが丁度良い頃合だろうね。
僕が悪になるには。
恐らく、あくまで僕の予想だけど。
このミニゲームでは誰かが死ぬ。
だから僕はその死で動揺したそいつを誑かして仲間にする。
それで他の全員と同じ舞台にたち、なおかつ協力と言う前提をなくして暗躍する。
湊がそれを止めてくれると、湊が僕のクリアを邪魔してくれると信じて。
そして僕はゆっくりとミニゲームへの準備を始めるとした。
――――夕凪 春はいつも通りの機械的な音声を待った。
ミニゲームの開始が宣言されてから十分後、まずは気の抜けるような音楽が鳴る。
俺は初めからこの機械音の後に何かアナウンスが入るのだろうと予想しているため、黙って声を、機械のような声を待つ。
そして望んでいた声がスピーカーを通して俺の耳に届く。
「誰も自爆装置の解除または起動がなかったようですので、ミニゲームを開催いたします」
ここまではなんら問題なく予想の範囲内。
問題はゲームの内容なんだ。
今判明しているのは『プレイヤーの人数が減少する可能性もあるゲーム』と言うこと。
このプレイヤー数の減少が『死亡』と言う意味なのか、それとも『自爆装置の解除』と言う意味なのかは定かではない。
とにかくこのゲームが大事なのはよくわかった。
「これから皆さんにしていただくゲームは……」
俺はごくりと喉を鳴らす。
そのときに改めて俺は首に首輪が巻きついているのだということを実感した。
右手の指でそれをゆっくりとなぞり、指先がひんやりとしたのを感じる。
これが俺の生命線だと考えると指先と同じように背中も冷たくなった気がした。
そしてミニゲームの内容が公表された。
「クイズです」
……一瞬俺は言葉が出てこなかった。
なんと言うか肩透かしを食らった気分だ。
こんなおかしなゲーム内でのミニゲームと言うのだから、また物騒なものを想像していたのだ。
それなのに実際はクイズだと言うからなんと言うか、微妙な心境だった。
「これから皆さんにいくつかのクイズを出しますので、それに答えていただきます。問題は全十問ございます。回答方法はそれぞれの機械に送信させていただく機能を利用していただきます」
やはりここまで言われても何か可笑しなところはない。
ここまで『普通なこと』をされると返って怪しく感じるのが人間と言うものだ。
「なお、このクイズの正答数が一番少なかったプレイヤーの方は自爆装置を作動させていただきます。逆に正答数が一番多かったプレイヤーは自爆装置が解除されます。正答数が最低だったプレイヤーが複数人いた場合はその中の一人の首輪をランダムで作動させていただきます」
……やっぱりか。
こんな簡単なミニゲーム一つで人の命一つが奪われる。
たった一つのニアミスだけで、死んでしまう可能性すらもこのミニゲームは孕んでいた。
それがどれだけ精神に負担の掛かることか。
逆にそれが原因で何かミスをしてしまうことも十二分に考えられるのだ。
そう言う意味でもこのミニゲームは最高に性質が悪い。
「待て、質問だ」
湊が口を開いて機械的な音声へと疑問を口にする。
「このミニゲーム、仮に全員の正答数が0だった場合はどうなる?」
そうか、確かにこのミニゲームは一番少なかったプレイヤーの安全装置を作動させるもの。
逆に言えば、全員が同じ正答数だったら誰一人安全装置が作動することはない。
それを確かめるためにもこの質問はかなり効果的だろう。
さすが湊だ、こう言うことにもちゃんと頭が回っている。
そう言えば、今関係がないことかもしれないけど湊があそこまで正義の為に躍起になっているのはなぜだろう。
湊は初音を守ることと、自分が正しくあろうとすることに並々ならないこだわりを持っている。
それは言い方を変えれば異常とも取れる程に。
なんでなんだろう?
俺の好奇心が常識を倒そうとするが、それを良心で押しつぶした。
それはまたあとから聞けば良いだろう。
自身に言い訳をして、軽く笑った。
世界は俺にいつまでたっても笑いかけない。
「はい、その場合は誰の自爆装置も作動しません。しかし逆の場合――つまり全プレイヤーが全問正解した場合は少し違います。誰の自爆装置も作動しないのは同じですが、その上プレイヤーの中から【悪】のプレイヤーを除くランダムで一人の首輪が解除されます」
それは甘い蜜だった。
なぜならこれは全員で協力すれば誰も死なずに簡単にクリアできるかもしれなかったからだ。
それどころか、ランダムで一人の自爆装置が解除される。
これは余りにも上手い話しすぎた。
この話にどこか落ち度を見つけるとしたら……。
そうだな、恐らく――――。
俺は指先を天井に向け挙手をした。
そしてそのまま、
「質問、です。このミニゲームですが、回答者同士での教えあい等は許可されていますか?許可されてないのであれば、犯した際にはどのようなペナルティがあるかを教えてください」
と言った。
その質問の答えは直ぐには返ってこなかった。
とは言っても数秒程度だが、いつもよりも若干遅く感じた。
こんな質問が来るとは考えてなかったのだろうか?
「教えあい等は許可されています。ただし、この中には貴方方のうちの六人の死亡を願っている一人もいることを忘れないでください」
……そう来たかい。
確かに教えあいは自由ってわけだ。
ただし、全員が正しい答えを教えるわけじゃあないよ、ってか。
このぐらいなら予想の範囲内だな。
俺が安堵していると思い出したように機械音が言葉を続けた。
「それと、このミニゲーム中はそれぞれの機械に特殊な加工をさせていただくので、各々の許可が無ければ回答は見れない使用となっております」
これで一応裏切りがしやすくなっているわけだ。
本当にどこまでも『悪』に有利なゲームなことで。
そう言えば、やっぱり『悪』は主催者側の人間なのだろうか?
なんでこんな風に考えてるのか、って言うと単純にこのゲームが『悪』に有利だから、と言うだけではない。
このゲーム自体が何を目的に行われているかと言うのを考えてだ。
誘拐犯に誘拐され、こんな殺し合いをさせられているこの状況だけでまず、常識的な考えは捨てるべきだとして考察してみよう。
このゲームの目的として考えられるものは二つ。
一つは誰か趣味の悪い金持ちとかが金を賭けて俺たちが騙しあいをして、殺しあう姿を楽しんでいると言うこと。
これならば幼馴染同士の俺と優花、湊と初音を連れ去っていることも、「幼馴染同士が殺しあう様子を楽しむ」と言う理由が出来る。
そして何より、こんなすごい建物、機械、首輪を用意できることにも納得がいくのだ。
以上の理由からこの考えは今のところかなり有力だと言える。
そしてもう一つ。
これは少し話しが飛躍しすぎているし、なにより根拠も無いの。
だが今の状況的に考えられないこともないのだ。
それは、「誰かの個人的な怨恨によって行われている」と言うものだ。
だがそうなってくると必然的にこのメンバーの共通点が必要になってくる。
しかし俺と優花、湊と初音、もしかすると遊李と華。
このように一部だけは繋がっていても、全員が繋がっているわけではない。
でも、このゲームの理不尽な部分を説明しようとすればこの可能性も無いとは言いきれない。
普通に考えて、ゲームを見て楽しもうと思うならば、ルールはあくまで平等にするはず。
だがこのゲームはどう考えても平等に作られていない。
もしかすると俺がまだこのゲームの真の意図に気づいていないだけかもしれないが……。
それをどっちかと判断するにはまだ情報が少ないから断言は出来ない。
誰かに相談してもそいつも混乱しちゃいそうだからなあ。
俺だけでもう少し考えときますか。
「これ以上質問がなければただいまよりミニゲームを開始しようと思うのですがよろしいでしょうか?」
全員特に聞きたいことはないらしく、誰も手を挙げたり、声を上げたりはしなかった。
それは=でミニゲームの開始を示している。
誰もそれに対して逆らおうとしない。
逆らっても――――どうせ無駄だ。
「ではゲーム開始とさせていただきます」
それはいつも通りの機械音だった。
恐らく錯覚だが。
多分聞き間違いか、ちょっとしたスピーカーの音質などの影響かもしれない。
だが俺の耳にはその機械音は――――
――――どこか愉快そうに聞こえた。