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HELL DROP  作者: 明兎
4/19

【PLAYER】 1

 ――――夕凪 春は周りの様子を窺う


 男――――鏡峰湊が入ってきてから部屋は一層硬直状態が続いていた。

誰が動くというわけでもなく、ただ全員が椅子に座り時間がくるのを待ち続ける。

何かイベントが起こるのを冷静に待ち続けていた。

まるで獲物を狙う獣の様に。


 その凍っている空気を壊すように壁に設置されているスピーカーから機械音のアナウンスが始まった。

前触れ無く突然始まったためほとんどの人間が体を震わせていたのに身が固まる。


 『皆様集合なさっているようですね。折角のプレイヤーがゲームに参加すらせず退場という自体がなくてよかったです』


 抑揚のない機械的音声で発せられたその言葉。

退場、この状況でその言葉が意味するのは間違いなく……死だろう。

それを他のプレイヤーも察したようで顔を青褪めさしているやつ、逆に不敵な笑みを漏らしているやつ、表情を変えないやつと様々だった。

中でも不敵に笑みを漏らしているやつ、それは教室の入り口で真面目そうなプレイヤーに蹴られたプレイヤーだ。


 見た目は少し長い黒髪をだらりと伸ばしている。

名札を見てみると日乃崎と書いてあった。

入ってきた当初は理由もなく暴力を振られているのかと思っていたが、今の表情を見る限りそうでもないみたいだな。

今のところもっとも注意するべきプレイヤーなのかもしれない。


 「質問です」


 誰もが予想していなかったタイミングで遊李が声を出した。

何を目的にしているといわれたら間違いなく、質問をするためだろう。

しかしまだあっちは何も言ってないのに質問ってのはどうかと思うのだが。


 『はいなんでしょう、入戸様』


 「様付けとは教育が行き届いているですね。それはそうとしてです、何故私様達はここに集められたのです?」


 そんな無茶な質問にも抑揚のない言葉を変えず答えた。

と言うかこの状況でよくそんな上からに物を言える遊李の勇気すこし尊敬したいくらい。

しかし真似したいとは思わないね。


 『それについてはルールの解説、とでも言っておきましょうか。あなた方が参加するこのゲームについて説明をさせていただこうと言う次第です。回答についてはこれで満足でしょうか?』


 「はい、充分に満足です」


 偉そうに足を組んで話を聞こうという態度を見せる遊李。

とりあえず敬意はまるで見えない。

遊李は考えているのだろうか?

敵について、その大きさについて、その恐ろしさについて。

恐らく考えてないだろうな。


 『では改めてルールの解説を始めさせていただきます。まずはゲーム概要です』


 ふむ、と俺は顎を下に引く。

それが相手に届いているとは思えないが、自分の満足感を満たすためにしたのだ。

と言うか周りが静か過ぎるためこうでもしないとなんか不安になってくるしな。


 『このゲームは正義六人対悪一人の対戦となります』


 対戦? それは随分と大雑把な説明だ。

スポーツ対決というわけでもなく、カード対決でもなく、カジノ対決というわけでもなく、ただただ対戦。

その大まか過ぎる説明は不思議を超えてかなり謎。

そのうえ正義と悪という分け方も気になる。

いつわけられたのか、どういう基準でわけられたのか、なぜ六対一というアンバランスなわけ方なのか。

謎は積もることを止めない。


 「質問してもいいですかっ?」


 そう言ったのは外はねの元気少女(っぽい見た目の娘)だ。

手を上げて授業などで発表するように手を上げている。

それに機械音は『はい、なんでしょう滋賀井様?』と変わらない声音で言うだけ。

聞いた少女――――滋賀井さんは質問の内容を口に出した。


 「悪と正義ってどうやったらわかるんですか?」


 それは丁度俺も気になっていたから、質問していてくれたのは嬉しい。

だが俺の予想だと……


 『それについては後に説明いたしますので回答を省略させていただきます』


 「は、はいすみませんでした」


 あ、やっぱりか。

それさえも説明しないとなると、このゲームが何をするかもわからないからな。

ぺこぺことスピーカーに謝る滋賀井さん。

そのときにもぴょこぴょこと揺れる外に跳ねた髪がやたらと可愛らしかった。


 『このゲームの勝利条件は正義と悪それぞれで違います。まず人数の少ない悪の方から説明いたしましょう。』


 そこで機械音は一旦切り、再び言葉を紡ぐ。

機械にも呼吸と言うものがあるのだろうか。

それとも喋っているのは実は人間だったりするのか?

俺の疑問は答えが返ってこない。


 『悪の勝利条件は簡単。正義が全員死亡するか制限時間が来ること』


 「死亡っ!?」


 放送を聞いてそう言ったのは隣にいた優花だ。

死亡という言葉を聞いて顔が強張ったのを俺は見逃さなかった。

他のプレイヤーの顔を見てみるとやはり殆どのやつの顔が引きつっているのに対し、一人だけがにやけていた。

もちろんそれは日乃崎だ。

やはりこいつは……異常だ。


 もしかするとこいつがこのゲームで言う『悪』というやつなのかもしれない。

要注意、しておいて損は無いよな。


 『はい、その通り死亡です。それはルール上での死亡でも、もちろん殺害でも構いません。続いては正義の勝利条件です。勝利の勝利条件は悪が死亡していて各々の首輪を解除することすること』


 それには誰も何も言わなかった。

いや言えなくなったが正しいか。


 これで大まかなルールは判明した。

このゲームは人が死亡するということが。

わかりたくなかったが、このゲームでは絶対に全員が生存することは出来ない。

最低一人、『悪』というものが勝ってしまえば六人が死んでしまう。

殺し合い……なんてものがこの日本で許されてしまうのか。

ふざけてやがる……。


 『質問がないようなので続けさせてもらいます。このゲームは制限時間は12時間、ゲームの舞台は『箱』と呼称されるこの建物全体。大きさは学校程で、高さは三階層までです。外に出ることは出来ませんのでご了承ください』


 まあ出れると思うのなら試していただいても構いませんが、とも付け加えた。

12時間で最高六人、最低一人の人間が死ぬ。

これはどう考えても異常。


俺の人生で関わった人間がそんなに多く死んだ事例を未だに経験したことが無い。

その計算で行けば俺の人生で何人の人間が死んでいることになるんだっての。


 それにこの舞台の『箱』ってのが学校ってのも性質(タチ)が悪い。

ここにいる全員は姿格好的に全員が学生だろう。

学生を学校で殺し合いさせるなんて精神がまともなやつのやることじゃねえ。

と、俺は軒並みな文句と辛苦、苦情と現状とを暴露してみた。


 そんなことをしても状況は何も変わらない、良くもならない、悪くはなって行くのかも知れない。

その未来を俺達は知りえないだろう。

誰が生き残り、誰かが生き残るのかさえも。


 『では続けさせていただきます。皆さんが首につけている首輪。それは簡単に言うと処刑道具ということになります。このゲームでは『自爆装置』とルール上では呼んでおります』


 「質問、いいよね? 処刑道具と自爆装置、意味合い的にはまったく違うんだけど?それはどういった理由で。説明されるなら無視しても良いよ」


 間髪入れず日乃崎が軽々とそう口にした。

まるで主催を恐怖してないような物言いだった。

いや実際に恐怖してないのかもしれない、この態度を見る限りは。

本当にこいつは信用できそうに無いよな。

信用しちゃいけない、のが正しいか。


 『それに関しては説明はないので、今説明させていただきます。正義、それは『枷』と共に課せられる名称です。正義が悪にならないよう、正義が悪になるくらいならば、自分が悪になってしまうのなら正義のまま死にたい! そのための自爆装置なのです』


 で正義的には自爆装置、現実的には処刑用具ってわけね。

納得そして了解。

だが賛成は出来ねえな。

俺達は正義という檻に閉じ込められちまったかわいそうな人間ってか?

笑えると思うなよ、マジで。


 「意外と練られてるんだね……。うん、ありがとう。予想外にこのゲームって計画的なんだね」


 と、軽く柔らかく日乃崎は笑っていた。

俺の反応とは真反対にこの日乃崎と言う男は笑っていた。

何かを知って何かを企むかのように、怪しく、可笑しく、歪んだように顔を柔らかくしている。

それがとても人間の深く醜い部分を直に覗いているようで、なぜか俺自身を見ているようで気持ち悪いと思ってしまう。


 気づくと優花が俺の右手を握っていた。

いや楽観視しすぎか。

優花は俺の手を抓っていた。


 その表情を見ると不安に塗りつぶされていた。

理由など聞くまでも無い、俺と同じなんだ。

目の前にいる自分と同じ人間がおかしく見える、じゃあ自分もおかしいのか? って思ってる。

俺はそれに一つしか言うことが出来ない。

だからそれを口にする、精一杯なその言葉を。


 「大丈夫」


 俺の言葉にキョトンとした優花。

だけどその表情も直ぐに笑顔に変わった。

やっぱ女子は笑顔が一番良いよな。

世界一の宝だ。


 いいものはやっぱり大切にしなくちゃな。

照れ隠しなのか抓る力が強くなってる、痛い痛い。


 『それはお褒めの言葉として受け取っておきましょう。では次の説明の続きをさせていただきます。処刑用具と言いましたこの首輪の処刑方法は2つ、ギロチンと爆破です。内容は…名称から判断していただきましょうか』


 首切りと爆発、か。

本当にこのゲームの主催者は趣味が悪いと思う。

日乃崎の言葉を信じるわけじゃないがこのゲームにはなにか仕組まれた裏設定があるような気がしてならない。

【悪】と【正義】か。

勧善懲悪っていう感じでもなさそうだしな……。


 『どうしてもというのであれば、自らやっていただいてもよろしいですがオススメはしませんね。そして続いては作動する条件についてです。首輪の解除に失敗する、つまり勝利条件を満たせなくなったプレイヤーと解除条件を満たしていない状態で首輪を外そうとした場合に首輪が作動します。ですので無論解除するための機械が破壊された場合にも首輪は作動いたします』


「質問です!それじゃあもしかして……他に何かの理由で死んだ人間は死んだ上に首輪が作動するって言うの?」


 後ろにいる優花が声を荒げてそう言った。

優花はやっぱり俺よりも頭が回るな、とか冷静に判断している場合じゃない。

確かに死ねば勝利条件を満たすことは絶対に不可能だ。

ならば無論……爆破するのだろう。


 『はい、もちろんです。』


 「そん……な……。そんなの酷すぎる……」


 ……爆破するのだろう。

俺は黙って優花の手を握った。

そうしないと脆く崩れてしまいそうで、それほどに優花が儚くて意識せずに自然に俺の手は動ていた。


 所詮俺も一端の高校生だ、こんな状況で女子に話す言葉なんてわからない。

仕方ない、しょうがない、どうしようもない。

自身にそう言い訳を聞かせて必死に無力さを押さえ込む。

そうしないと次は自分が崩れてしまいそうで怖いから。

逃げるように心の隅でぶつぶつと。


『質問は以上のようなので続けさせていただきます。皆様の最初の装備は拳銃、名称ジャッジ一丁に銃弾五発、それに各自に持っていただいた機械です。これは奪うも自由ですのでそこは各自の判断でお願いいたします。この『箱』内部にも存在する球体型のボックスを開けていただくと、その中にはアイテムが入っておりますのでお探しください』


 俺だけが持っているものかと思っていたのだが実はみんな持っていたようだ。

少し予想外……。

横にいる優花も銃を持っていたということに俺は多少なり動揺したがそれを精一杯隠すことにした。

隠していたのは俺も優花も一緒だから。

これでお相子とは言わないが、暗黙の了解へと持ち込むことくらいには可能だろうから。

俺は優花の顔を見て皮肉っぽく笑った。

優花は笑わなかった。


 『このゲームの中で殺害ついてのルールは次の通りです。1、正義が正義を殺してはいけない。2、悪の人間は正義を殺してもよい。3、『枷』をクリアし首輪を解除した者は正義の人間を殺してもよい。』


 「はい、質問です」


 遊李が手を上げた。

まあなんの質問をするかはおおよそ予想はつく。

恐らく『枷』についてだろう。

機械の中にもあったその単語に俺も興味は少なからずあったしな。


 『ちなみにですが『枷』についてでしたら後に説明いたしますので質問を撤回していただけるとありがたいです』


 それぐらい私達も予想してますってか。

流石計画的誘拐愉快犯だ、ぬかりがないな。

その言葉に遊李は小さく舌打ちして、質問をやめた。

やっぱり『枷』についての質問をしようとしてたのか。


 『続いてはこのゲームの賞金についてです』


 賞金? そんなものが支払われるのか。

これがゲームだから、という単純な理由からだろう。

もしくはそれか健闘を称えて、見たいな感じかな。


 いや、逆にこのゲームを盛り上げるためだけに賞金の話をちらつかせたのだとしたら?

ありえる、その可能性は大いにあった。

むしろそれが本来の目的か。


 賞金自体が問題なんじゃなくて問題はもっと別の所だ。

そう、その賞金をどうやったら手に入れられるか。

それがもしあの条件だったりしたら……最悪だ。


 『このゲームの賞金。それは生存プレイヤーが一人の場合は三億円。二人以上のプレイヤーが生存した場合は五億円を生存したプレイヤーで均等にわけあっていただきます』


 悪い予感は当たってしまった。

人数が減れば減るほど賞金が上がる制度。

こうなってしまうと自ら殺しに手を染める人間が出てきてしまう可能性が少なからずあるからだ。

特に怪しいのが日乃崎。

こいつなら高笑いをしながら人殺しをしないと考えられなくも無い


 そうならないのが最高なんだが……止める手段が思いつかないな。

チラッと、日乃崎の表情を伺ってみるとやはりというか、当然の様に笑っていた。

もちろん声を出してではないが、ニヤニヤと何かを狙う狐のように笑う。

嘲るように、捻くれるように、狂わせるように。


 『質問はないようなので続いてのプレイヤーの種類及び『枷』と特殊機能について説明させていただきます。プレイヤーの皆さんには各自プレイヤーコードと言うものを割り振っております。それはメニュー画面の『枷』と『特殊機能』の欄や、メニュー画面を表示させる前の画面でも確認することが出来ます。

プレイヤーコードは悪は単純に【悪】のみ。正義の方は【偽善】、【平和】、【調停】、【孤独】、【信頼】、【絆】の六種類となっております』


 これで「正義と悪の見分け方」についての答えは出された。

答えとしては、メニュー画面の前に表示されるあの文字か、二つの項目で確認できる、だな。

しかしこれが分かった時点で正義側はかなり有利になった。

全員で見せ合えばその時点で【悪】が判明する。【悪】が見せるにせよ見せないにせよだ。

それはともかく俺と優花が【悪】ではないことはもう判明しているのだからとりあえずは一安心。

とりあえずはあせって行動を起こす理由もなくなったしな。


 『続いては『枷』についての説明です。これは簡単に言うと各自の首輪を外すための条件。ですので実質的な勝利条件となりますね』


 これもどうせ正義を縛ってる枷が無くなれば悪になるとか言うのだろう。

そうすればさっきの『枷』をクリアしたプレイヤーが正義を殺して言いというルールも納得がいく。


 でこれが満たせなくなっても首輪が作動すると。

俺の場合は「自分の手で4つの機械を壊せなくなった」ときに首輪が作動してしまうってわけか。

纏めてみると、「俺が死ぬ」か、他の誰かが二個以上機械を壊してしまう。

その時点で俺の首はぶっ飛ぶわけだ(正確には三個だが自身の機械は壊せないためこれで正しいよな)

優花の場合は「優花が死亡する」だけが首輪の作動条件になるわけだな。

あとならないとは思うが、「制限時間の12時間が来る」も作動条件に入るのか。


 『次は特殊機能についてです。特殊機能とは各機械に初期設定されている固体別機能のことです』


 特殊機能。

俺の機械の特殊機能は「『箱』内にある壊れていない機械の位置を表示することが出来る」。

これは確かに俺の『枷』を満たす上では中々便利なものだということに今気がついた。

他の機械もそうなのだろう。


 例えば優花の機械の特殊機能は「一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る。しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない」。

最後まで文字通り【孤独】なので暇を解消するのに最適とも言えるだろう。

いや、もしくは安全に停戦協定を結ぶのにも使えるか。

まあどちらにせよ、生存プレイヤーの表示が普通に考えれば一番いいのだが……。

それは恐らく既に他の機械の機能になっているのだろう。


 『その『枷』とそれぞれの特殊機能については以下の通り部屋の前方に配置されているモニターをご覧ください』


 すると前方にあるモニター(俺は色と建物的に黒板かと思っていた)に文字列が整えられる。

それを上から眼で追う。

モニターに書いてあったのはこんな感じの文章だ。


 『各プレイヤーの枷について


 【悪】

「特に無し」

自分の機械を他の機械に偽装できる。首輪はしているだけで作動することはないし、いつでも外すことが出来る。


 【偽善】

「建物内でプレイヤーが三人以上死亡するか、建物内で三台の機械の破壊が確認される」

他の機械の特殊機能を無効化できる。


 【平和】

「自分の手で機械を四つ破壊すること」

『箱』内にある壊れていない機械の位置を表示することが出来る。


 【調停】

「三人以上が自爆装置を解除する」

カメラ機能がついている。


 【孤独】

「ゲームの終了する30分前まで生存する」

一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る

しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない。


 【信頼】

「『箱』の内部のどこかに存在する球体を3つ以上開ける(箱の場所は各プレイヤーの機械の中に示してある、悪の持っている情報の箱を開けると腕輪が起動)」

メモを書き込むことが出来る。


 【絆】

「ゲーム開始時から三十分以内に指定したプレイヤー一人のゲーム終了30分までの生存」

指定した二人の位置を表示することが出来る。   』


 俺はこのモニターを見た途端に背筋が凍ったのがわかった。

【悪】、これはこのゲームで想像以上にやっかいなものになりそうだからだ。

なにせさっき俺が言ったように全員で見せ合えば安心、ということにもならなくなってしまった。

むしろそんなことをしても二人同じ名称の【正義】がいればどちらかが【悪】ということになってしまう。

そこで悪を直ぐに殺せればいいが、間違って【正義】を殺そうものならばその殺した【正義】も死ぬ。

この時点で二人が死亡、この隙に他のプレイヤーを【悪】が殺してしまえば、【調停】と【絆】のプレイヤーも首輪が作動してしまうかもしれない。

【信頼】と【平和】(俺だが)のプレイヤーもこのときに誤って機械が壊れてしまえば、首輪が作動する


 最悪のシナリオが描かれれば生存するのは【正義】でなく、【悪】

こんな全滅騒ぎにならない可能性は0じゃない。


 となればだ、のうのうと機械を見せる人間が常識的に考えているだろうか?

答えは間違いなく考えられないだ。

万が一被ってしまえば殺される確立が跳ね上がってしまうから。


 しかも一番恐ろしいのは今の段階で【悪】の特殊機能を暴く方法は直接一つだけしか提示されていないこと。

他に何か方法がないと【偽善】以外のプレイヤーが【悪】を暴く方法がなくなってしまう。

それを聞くためにも俺は手を真っ直ぐ天高く上げて挙手。


 「質問、いいですかね?」


 『はい構いません、どうぞ夕凪様』


 聴きなれた機械音が俺の耳を触った。

なんか自分の名前を機械音が呼ぶのは気味が悪い。

出来れば今後はこういうことが無いようにしたいね。


 「【偽善】の機械の能力以外で【悪】の特殊機能である偽装を解除する方法、もしくは偽装した状態で【悪】かどうかを判断する方法はありますか?」


 『はい、あります。特殊機能の偽装は一回に二時間までなのでそれが切れると自動的に偽装が解除されます。そうなると次は30分以上空けなければ偽装をすることは出来ません。以上の二つが【悪】の偽装が解除される条件となります』


 でもこの方法と他人の協力が必要なものだけってのはやっぱりきついところがある。

簡単には【悪】を暴くことは出来ないってことかよ。

まあ簡単すぎたら単純な【悪】の虐殺ショーになりかねないんだけどな。


 『以上でこのゲームの説明を終えさせていただきます。最後になにか質問が――――』


 「ふざけるな」


 教室に凛とした声が響き渡った。

誰の声か、その答えを言うならばあの美少年、鏡峰湊の物だ。

だがその声は綺麗なだけでなくどこか――――れどころか全てが怒りを込めたものの様にも聞こえた。


 『どうなさいましたか、鏡峰様』


そう呼ばれたのに反応し机を思い切り腕で叩く湊。

声には怒りを動きにも怒りをってな感じの様子。

とりあえず怒って何をするか、わかったものじゃないため、後ろの優花と湊の間に俺の体を割り込ませた。

そういうことするようには見えなかったとかは理由にならないよな、特に現代のこの社会では。

だってよくインタビューであんなことするようには見えなかったとか言われるじゃん。

ってそんなことはどうでもいいんだ。


 「俺の名前を気安く呼ぶんじゃない、下衆が。さっきから黙って聞いていれば殺し合い? 死亡? 首輪が作動? 枷? ハッ、ふざけるなよ。お前らはこの日本という国を舐めてるな、平和大国と呼ばれるほど平和な日本を。一気に七人も誘拐した上に殺し合いまでさせるとなったらこの御国の警察は黙っちゃいない」


 日乃崎とはまた違う喧嘩腰の姿勢を見せる湊。

たしかに湊の言っていることは的を射ている。

だが射ているだけでこの主催者達を倒せるわけじゃない。


 『では、例えばですがこの日本の警察までもが我々の味方だとしたら?』


「なにを……言っている」


 ギリッと歯軋りをする湊。

まるで自分の想像していた最悪のシナリオが今目の前で展開されているかのようなそんな表情を見せていた。

いや、そのとおりか。

俺は途中から気づいていた、目の前の敵の大きさに。


 まず初めにこの機械。

当然安いはずもなく値段はなかなか張るもののはずだ。

それをポンと七個も支給していること、これが第一の理由。


 そしてそれに加え七丁の銃に三十五発の弾丸。

こんなもの日本の中で簡単に手に入るものではない。

しかもそれの使用許可なんてのはそれこそ警察か国家でもバックについてないと無理だろう。


 最後にこの建物。

廃校になった学校と最初に俺は推理したがそれにしても簡単にこんな建物を自由に使う許可なんてのは降りないだろう。

それに偶然にも人に見つかる可能性も0ではない。

ここが山奥の学校だったりすれば別だが。

もしくは壊す寸前の校舎ということにして、辺りにクレーン車などを配置していれば大分違和感もないから一般人も「ああ、工事すんのか」みたいに思うだけだろう。

だがそれもちょっとやそっとの金では出来そうにない。


 以上三つを踏まえると相当な金がかかっているのは容易に想像できる。

更には俺達七人を誘拐すると言うのもなかなか難しいだろう。

以上を踏まえるとやはりこの主催者達は只者ではないことは容易に想像できる。


 『私達のバックには色々な国の組織がついているのです。なので貴方達が人を殺してもそれは問題にはなりませんのでご安心ください』


 清清しいくらいのしらばっくれっぷりに虫唾が走った。

これ以上何を言っても仕方ないとわかった湊は黙って拳を握り締めて黙った。

それが賢明な判断だと俺は思う。

これ以上歯向かって首輪を作動させられても笑えないからな。


 『それではただいまを持ってこのゲームをスタートさせていただきます!』


 モニターに制限時間と思わしき時間が表示される。

12:00:00という表示からだんだんと数字が減っていく。

【悪】か【正義】の死亡までのカウントダウンが刻々と刻まれていく。

これが俺の死亡までのカウントダウンにならないことを願って優花の手を更に強く握る。


 「優花」


 そして俺は優花の名前を呼んだ。

優花は俺の方を今までの日常とは違う表情で俺を見る。

弱そうで果敢なそうで壊れてしまいそうなその表情。

いつもは俺に攻撃的な優花が今は恐怖と動揺でつぶれそうになっている。

そんな優花はいつもの表情を作って――――


 「どうしたの?」


 と言った。

俺はそれを見て安心した。

俺の日常はまだここにあるんだって心が言ってる。

力強く必死に優花は自分を作っていた。


 なら俺に出来ることは、俺も作ってでも日常のままでいることだと思った。

この感情に名前をつけるとしたら、虚勢が正しいのかもしれない。

虚勢でも構わない、俺は俺でいてやる。

それが一つ目の誓い。


 そして俺は人知れずもう一つの誓いを立てる。

これだけは絶対に、弱い俺でも絶対に守ると決める一つの誓いを。


 ――――何に変えても優花を守ってやる、と一つの誓いを。


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