表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HELL DROP  作者: 明兎
14/19

【VS Vice】 2

 ――――日乃崎 虚は不満そうに眉を吊り上げた。


 園影が帰ってきてからその話を聞いていて俺は自分があからさまに不満そうになっていることに気がついた。


 園影に下の階で騒ぐ声が聞こえたから見に行ってもらっていた。

それで待つこと約十分。

帰ってくるなり園影は俺に機械を投げ渡した。

機械の画面を構ってみると、そこには【絆】の文字が書いてあった。

これは園影の機械とは違う。

じゃあ誰のだ……?


 俺の疑問を解決するように園影はメモ帳に文字を書き始めた。

気になるからそれを書き終わるのが待ち遠しい。

ただ待つだけなのも癪だから少し考察をしてみることにした。


 ――――まず【絆】の機械の『枷』は……ゲーム開始時から三十分以内に指定したプレイヤーの自爆装置の解除だったか


 これが遊李の機械だと言うことはない。

何故なら遊李の機械は、【調停】で確定しているからだ。

その理由は遊李がカメラを使っていたからだ。

それは間違いなく【調停】の特殊機能だ。

でも何故か春も暁も気づいていなかったようなんだよね。

湊が起きていたなら気づいていたと思うけど。


 だとすればあの四人いや、三人の誰かか?

そして機械を持ってくるとしたら理由は二つ。

機械が必要なくなったからクリアの為に渡したからか……持ち主が死んだかか。


 【絆】の持ち主がクリアしているとしたら誰を条件にしていた……?

それは恐らく……【信頼】だ。

この時点でクリアできるのはそれしかいない。

【平和】は機械の数がどう考えても足りないから。


 だけど下の階から聞こえた騒ぐ声を考慮するなら、後者の方が有力だ。

その理由は誰かが死んだから叫んだと自然な考え方が出来るから。

あの四人は幼馴染二組なんだから、誰かが死ねばその相方が叫んだりするのも充分に考えられるだろう。

となるとこっちの意見で俺の考えは纏まった。


 じゃあ問題は誰が死んだかだ。

正確には春と暁、湊と滋賀井のどちらの二人が死んだかだ。

俺の希望的には春と暁の組が死んでいてくれることが、理想的。

そうすれば、俺と湊の直接対決へと思い描く形に持っていきやすくなるからね。


 とは言っても希望と理想は、絶望と空想であることが多い。

多分【信頼】の機械の持ち主は滋賀井だ。

それはミニゲーム前の揺さぶりで湊が動いたことから予想できる。

だからそれで滋賀井の相方である湊が死んだと考えるのが自然だからね。


 考えているうちに華は文字を書き終えたみたいだ。

さて俺の嫌な予想はあってるかな……?

外れてくれてるといいんだけど。


 『鏡峰 湊と滋賀井 初音は死亡した。原因は自爆装置の作動。【信頼】の機械の持ち主だった滋賀井 初音が【悪】の球体を開けたのが原因で滋賀井 初音の自爆装置が起動。それで【絆】の機械の『枷』で指定していたプレイヤーが死んだことで鏡峰 湊の自爆装置も作動。そして死亡した二人の機械を確認したけどどっちも【悪】じゃないみたい。それは夕凪 春と暁 優花の証言からもわかった。明らかにあの四人が一緒にいる時間は二時間を越えていたから偽装の線も薄い。』


 やっぱりか……。

それに二人共が自爆装置での死亡が原因なら、春と暁を騙しているという可能性もないか。

と表面上は冷静に俺は目の前の文字を整理する。


 ――――今下手に動揺したら園影に主導権をとられるね。あくまで冷静に装わなくちゃ……。


 正直俺の内心は穏やかじゃなかった。

直接の対決を望んでいたのに、【悪】の妨害によってそれを回避されたのがもの凄く頭にくる。

これは本当に許せない。

どんな殺し方をされても文句を言えないくらいに、【悪】のやつは超えてはいけない一戦を超えた。


 とかなんとか思ってても今このときだけは園影の前で冷静でいるべきだ。

さて俺はこれを何分抑えられるかな?


 『貴方にとって鏡峰 湊が死んだのはショックだったと思う。いや、残念だったと言い換えるべき? だけどこれで貴方の、【偽善】の『枷』はクリアしたことになる』


 ああ、そう言えばそうだね。

入戸、湊、滋賀井が死んだから自爆装置を外してもいいのか。

だけどそれを信用のあるべきものにするためには機械を一台破壊した方がいいんだよね……。

俺だって危ない橋は極力渡りたくないから。


 と、俺が考えていると園影はスッと機械を一台差し出してきた。

それはさっき俺が見た、【絆】の機械。

もしかして園影は……俺のためにこの機械を盗んできた?


 だとしたら湊の機械である【絆】を持ってきたのには二つの意味を込めていたのか……。

それは俺に湊の死を知らせるためと、俺のクリアを確かめるための二つ。

あとこれは推測だけど、湊の機械を俺に壊させることで間接的に湊を殺した気分を味あわせるためもあるのかも。

どうにせよ、ありがたいお世話だね。

俺は機械を受け取る。


 「園影ありがとね。じゃあありがたく壊させていただくとするよ」


 まったく躊躇いを持たず俺は機械を床へ落とし、それを足で思い切り踏み潰した。

もちろんそれで機械は破壊され、間もなく俺の機械からアナウンスが始まる。


 『【絆】の機械の破壊を確認しました。日乃崎様の『枷』は既にクリアしています。機械の『枷』の欄の操作方法を確認して、自爆装置を解除してください』 


 改めて機械からのアナウンスで自分の『枷』をクリアしていることを確認した。

このイライラする自爆装置ともおさらば出来ると思うと、少し気分がよくなる。

アナウンス通りに機械を操作し、『枷』の欄を表示した。

すると、さっきまでは存在してなかった新しい説明が追加されていた。


 説明を読んでみると『あなたは『枷』をクリアしました。もう一度このページをタッチすることで自爆装置を解除することが出来ます』だそう。

これを拒否する理由はないから、さっさと画面をもう一度タッチした。

すると自爆装置がサイレンのような警告音を鳴らし始める。

とは言っても音量は部屋の中にいればギリギリ聞こえる程度のもので、廊下の外へは伝わっていないと思う。

と言うかこの部屋自体に響音対策がしてあるらしく、音が極端に響かない。

まあなぜかはある程度推測がつく。

そして突然音が切れたかと思うと、機械からアナウンスが鳴った。


 『自爆装置の解除が終了いたしました。どうぞお外しください』


 試しに自爆装置を引っ張ると抵抗すらなく、あっさりと外すことに成功した。

なんとも呆気のないクリアだ。

おっと、一応はまだクリアはしてないんだっけ?

自爆装置を外しただけじゃクリアにはならないからね。


 特に自爆装置の解除に感動しているわけでもなかった俺の意識を、ペンで机を叩く音が持っていく。

振り向くとそこにはメモ帳をこちらに向けている園影がいた。


 『自爆装置の解除おめでとう。こんなときに言うのはよくないかもしれないけど、これからは契約どおり私を守ってくださいね?』


 それは契約通りのことだ。

言われなくても守るつもりだった。

俺はやろうと思ってたことを言われたからやる気がなくなった、とごねる餓鬼じゃないからね。

だけど……湊が死んだ今、それを果たす意味はあるのか?


 園影と一緒に行動しているのも、湊を怒らすため。

もしくは敵意を向けられるためだ。

だけど湊が死んだ今これに意味はなくなっている。

それに、園影が春たちに「私は日乃崎に無理矢理協力関係にある」とか言ってたら意味ないどころか、俺の身が危ない。


 こう考えると……今後も園影と組むメリットは俺にあるのか?

いや問答する必要もないかな。

間違いなくメリットはない。


 まず園影 華と言うプレイヤーは初めからハンディキャップを負っている。

それは喋れないということ。

メモ帳がなければコミュニケーションが取れないのはまだいい。

問題は伝えたいことに齟齬が出てしまうのが問題なのだ。

メールなどと同じと考えてもらっていい。


 だからと言って身体能力が高いわけでも特別頭がいいわけでもない。

正直に言ってお荷物以外のなんでもないんだよね。

切り捨てるならこの辺が頃合かな……。

丁度今なら理由もあるしね。


 「あはは、ありがと園影。正直に受け取っておくことにするよ。じゃ、これからもよろしく」


 と、俺はフレンドリーに手を差し出す。

それに園影も薄く微笑んで、俺の手を掴んだ。

俺はその右手をギリッと少し強めに握りながら、俺は左手を自分のベルトへと伸ばす。

左手をベルトに指してある拳銃、ジャッジへと伸ばす。

装てんされている弾丸は四発、目の前の無防備な少女を殺すには充分すぎる弾数だった。


 そして引き金に手をつけたところで俺は園影と繋いでいた右手を思い切り払う。

驚いている園影を無視して、右足で一発蹴りつけた。


 「……!?」


 声を発せないため、無言で驚きを表現する園影。

まあ叫んだところでこの部屋の中じゃ響かないから意味ないだろうけどね。


 そんな油断しきっている華に向けて銃口を向けた。

そう、この部屋がこんな響音対策している理由は簡単だ。

こういう風に銃を撃つことを想定されている、一種の処刑部屋なんだろう。

叫んだところで一切助けが来ない上にこの部屋は入り口の場所からして見つかりにくい。

つまり園影の命はこの時点で詰んでいる。


 「バン」


 口で銃声を真似してから左手の指で引き金を弾く。

一時間ほど前に滋賀井に向けてしたのと同じような感覚が左手を伝い全身をしびれさせる。

だがあの時と圧倒的に違うところがあった。

それは――――銃弾が人体に吸い込まれたことに他ならない。


 「……!? ……!」


 銃弾が当たった衝撃と痛みで園影が後ろへ飛ぶ。

打ち抜いたと思われる左脇からは深紅の液体が園影の薄い色の制服を染めていた。

痛みでそこを押さえる。

だが声は出ないため、音が苦しそうな音楽を奏でるだけだった。


 「なーんちゃって。君と組むなんて嘘だよ。あはは、ビックリした?」


 そう言いながら赤色の中心点、つまり着弾点を思い切り蹴る。

するとさっきと同じような言葉にならない悲鳴を上げながら教室の壁へと飛んでいった。

表情を伺ってみると、さっきよりも辛そうだ。

今に死んでもおかしくないくらいに。


 「いや、正確には嘘じゃないのかな。俺がこうなったのは湊が死んだからだしね。だから安心して、最初は約束を守る気はあったから」


 心にもない言葉を適当に口ずさみ、園影の左脇を蹴り続ける。

どぷどぷと血が流れだして俺の黒の靴はその黒を深くしているような気がした。

それにさえも構わずに容赦なく蹴り続ける。

メモ帳に文字を書く暇も力も内容で、ジェスチャーで「やめて」と表現するのみだった。

それがまた愉快でたまらない。


 「最後に言いたいことってある? 遺言ってやつだね。あるなら聞いてあげるよ」


 蹴る足を止めて園影の言葉を待つ。

だけど一向に返事は返ってこない。

まあ返ってくるはずがないんだけどさ。


 「ああ、そっかぁ、喋れないんだっけぇ? あははははは!」


 そして再び蹴りを再開する。

涙が溢れ出しその表情を絶望と苦悩で染めていく。

それに俺は更に興奮して、蹴りの勢いを強める。


 足が疲れてきたところで蹴りを中止した。

そして顔を覗くとその表情に生気はまるで見えなかった。

まるでもう魂はここにないかのように、この世に絶望した表情をしていた。

瞳には色が宿っておらず、口の端から唇を切ったのか血を流している。


 ――――なんで私がこんな目に?


 多分そんなことを今園影は思っているのだろう。

15に満たない少女がこんなところに連れてこられて、しかも誰かも知れない人間に殺される。

しかも即死なんてものじゃなくて、拷問の様に傷口を蹴られ続けて。

そりゃあ絶望もしたくなるよね。

可哀想にね。

って、ああ、やってるの俺か。


 「それじゃあ言いたいこともいろいろあるけど……」 


 本当は言いたいことなんて一つもない。

微塵もない。

さっさと殺してしまいたかった。

さっさと園影も【悪】も春も暁も全員殺してしまいたかった。

だから俺は最後の言葉を口にした。


 「さよなら」


 そして銃弾を園影の心臓目掛け放った。

綺麗に命中とは言わなかったが園影の体の中心辺りを打ち抜き、その衝撃で再び壁へと衝突した。

これで即死とは言わなくても終了を迎えるまでに死ぬだろう。

それも医療キットなどがなければの話だが。

まああっても人体の中心辺りを打ち抜かれて生きているなんてのは厳しいとは思うけどね。


 「ん……?」


 俺が銃弾を撃った直後に、ほんの一瞬眼を離した隙だった。

気づくと園影の姿が消えていた。

逃げたなんてありえないことはさすがに考えない。

だけどこの一瞬で姿が見えなくなるなんて……。


 もしかして、この壁か?

一定の以上の衝撃を加えると、後ろの空間と入れ替わる回転扉と同じような原理がこの壁にあった、とか。

それもありえない話じゃなかった。

そもそもこの部屋自体かなりイレギュラーな空間だからだ。


 最初に俺が寝ていたりした、教室の掃除道具箱を開けたら偶然にもこの部屋への扉があった。

そこは見ての通り他の教室とはまるで違う部屋だ。

窓はあらず、それどころか俺達が入ってきた一つしか扉もない。

同じものと言えば、壁紙の色くらいのものだ。


 「まあ考えても無駄か」


 園影の状態を考えれば放って置いても数時間で死ぬだろう。

左脇のダメージは言うまでにないにしろ、体の中心を打ち抜いたのもかなりのダメージのはずだ。

簡単な医療キットなどでは治せるはずもない。

と、俺は園影は諦めて残りの二人の命を狙うことを決めた。


 湊を殺したのは二人のうちのどっちかだ。

だとすればそれを殺すのは俺の役目。

まああれだ、敵討ちってやつ。


 「俺は――――いややっぱり……『僕』の方が落ち着くね」


 自分の心境の整理ほどにしか使ってなかった一人称を元に戻す。

入り口のドアへと歩み寄る。

左手に持ったジャッジを元にあった場所に戻し、逆のベルトに掛かっているパナーチの感触を右手で確かめた。


 ――――さーて、あとは全員殺して賞金アップでも狙うとするかな


俺は残りの二人を探すためにドアノブに手を掛けた。




 一人の正義は戦うことを決意した。

悪を倒して、幼馴染を日常に帰すための決意を。

その代償に捧げるのが自らの命だったとしても……正義は止まることをしない。


 一人の純粋なる悪が終末を望む。

全てを壊したとしても悪は後悔も、未練も、後味の悪さも残さない。

そこに残るのは、虚無と、絶望と、最悪と……。


 正義と悪の最終決戦がここに始まろうとしている。

正義と悪の衝突。

その先に待ち受ける未来は……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ