【Who Is Killer?】 1
――――夕凪 春は一つの事実に気づく。
ほぼ無心のままに俺は湊が入った教室の中へと入って、席に着いたときにやっとその事実に気がついた。
今更かと思われそうだが俺はそれだけ気が参ってたんだろう。
そう、後ろに虚の姿も華の姿もなかったのだ。
「湊、虚と華が着いて来てないみたいなんだけど。悪いけど一回戻らないか?」
俺がそう言うと湊は嫌そうな表情で言葉を返す。
「あんなやつのことなど知らん。気になるなら勝手に探して来い」
そのときの湊の言葉は酷く重く暗かった。
今までの硬いだけの言葉ではなく、正直言ってあまり聞きたくない声音だった。
そんな言い方ないだろ、と反論しようとして俺はやめる。
ここで俺達まで言い争って何になるって言うんだ。
俺は大人しく体の向きを変え、最初に集まったあの部屋へと足を進めた。
一人だけで歩く廊下はいつもよりも響く音が大きく感じる。
寂しさを紛らわすために口笛を吹くとそれも同じように虚しく響く。
同じ響き方なのに二つの音はすれ違っていて、まるで湊と虚の様にも思えた。
二人とも生きたいのは一緒なのになんで共鳴しないのだろうか。
湊は正しくあろうとして、すれ違う。
虚は自分らしくあろうとして、すれ違う。
悪く言えばどちらも同じエゴなのに。
いや、同じエゴだからすれ違うのか。
なんでみんなで手を取り合うことが出来ないんだろうか。
虚のあれだって俺もよくは思ってないさ。
だけど決別するって言うのは違う気がする。
湊も「全員救ってやる」って言ってたのに、なんで見捨てたんだろう。
救って欲しかったはずなのに、あの虚でされ。
そして俺はあの部屋に辿り着いた。
ドアはどっちが閉めたのかは知らないが、いい心遣いだと思う。
俺は引き戸に手をかけると足元に紙が落ちているのがわかった。
それを拾う。
「この字は華の……」
文字を見て一瞬でわかった。
これは華が残したメモなのだと。
女の子特有の丸い文字なのにどこか整ったようにも見えるその文字は華のものだとわかるには充分すぎるものだった。
紙の中央によせて書いてある文字を読む。
「えーと、『しばらく一人にさせてください。死と言うのは私にとって……重過ぎました』……か」
確かに中学生が同じ年頃の死を目撃するのは荷が重過ぎるだろう。
そのせいで他のプレイヤーが今は信じられないのかもしれない。
だとしたら下手に後を追うのはやめたほうがいいだろう。
逆に恐怖心を植えつける可能性さえもあるしな。
俺はその紙を持って優花たちが待つ教室へと戻った。
静かな廊下に反響する俺の足音をリズムにして俺の慣れない口笛が歌う。
不協和音が交わったため、心地よい組曲とはいかなかったがそれなりの出来だっただと思った。
教室の前へと着き、さっきと同じようにドアを開ける。
中には湊と初音と優花の三人がいた。
湊はイラつきを表面に出しながら足を組み、指で机を叩いていた。
初音はまだショックが抜け切らないようで優花に慰めてもらっている。
多分優花もまだ立ち直れては居ないのだろうが初音を慰めるために無理をしているのだろう。
「でどうだったんだ、春。何かあのクソ野朗の情報は入手できたか?」
言葉の端々にトゲがある湊の言葉。
流石に俺も少しイラッと来たため、反論を試みた。
言い争いが嫌だとか言っている場合じゃない。
こんな湊は痛々しくて見ていられなかった。
「湊それは言い過ぎじゃないか? 確かに虚のしたことはいいことじゃないけどさ、そこまで言うほどじゃないだろ?」
眉と口の端を吊り上げて湊は不満を表現する。
鋭く尖ったその眼光は今にも俺を射殺しそうだった。
だが俺はそれに怖気づくことなく睨み返す。
にらみ合いが数秒続いた後、湊が眼を背け口を開く。
「確かに言い過ぎたかもしれんな。悪かった、許せ」
言葉はまだ鋭かったものの、表情はいつもの湊に戻っていた。
自分の甘さを認め手を頭にやり深呼吸を数回繰り返していた。
それからもう二度ほど俺に謝罪を繰り返す湊の表情は本当に疲れ切っているように見える。
遊李を守れなかったのを悔やんでいるのだろう。
そして虚のあの発言に、華の離脱。
俺達を纏め上げようとしていた湊に精神ダメージは大きいはずだ。
それであんな言葉遣いになっていたのなら納得も行く。
「わかってくれたならそれでいいさ。にしてもこれからはどうするよ? もう動かないって言う選択肢はなくなっちまったし……」
出来ればこんなこと口にはしたくはない。
しかし遊李の死に接した以上は何か行動を起こさずには居られなかった。
少しでも早くこの首輪を外してしまいと言う気持ちが先行するからだ。
爆発するのか刃が飛び出すのかはわからない。
だがどちらにせよつけていて気持ちのいいものじゃあなかった。
だから急いで外したいのだが俺はともかく優花の『枷』は最後の最後まで外せない条件だ。
俺もそれに合わせて外そうと思っているため、当分はこのままだろう。
しかしそれに湊と初音も合わせる必要はない。
だから俺としては協力してくれている二人にクリアして欲しいから、自爆装置の解除に付き合うつもりだった。
そのため機械を見せてくれると嬉しいのだが……それは簡単なことではないか。
「とりあえずは俺達は協力しあうべきだろう。だから機械を見せ合うと言うのはどうだ?」
簡単なことだった。
まさかこれを湊の方から言い出すなんて予想外だったのだ。
俺と同じことを湊も思っているのだろうか?
だとしたら湊か初音の機械は【絆】か【調停】なのかもしれない。
この二つならば協力関係に居れば自然と『枷』はクリアできるから、この提案にも納得が行く。
「俺は全然オッケーだぜ。優花もいいよな?」
「……う、うん。いいわよ」
初音が泣き止んだらしく、優花は俺の後ろへと寄っていた。
答える前に少し思考の時間が入ったのは、まだ湊たちを信頼しきっていないからだろうな。
優花はどうしても生きて帰らなくちゃいけない理由がある以上、周りを簡単に信用できないのは仕方ない。
だからこそ俺が着いている。
優花が疑う分まで俺が信じてみんなで協力すればいい。
「一応確認するが……。初音、お前もいいな?」
「あう、うん」
涙を制服の袖で拭う初音。
やっと立ち直れたってところか。
華と同じ、とは流石に言わないが初音だったまだ大人になっていない女子高生なのだ。
もしかすると人生で初めて目の前で人が死ぬのを見たのかもしれない。
だとして、それがあんな死に方だったら一生物のトラウマになりかねないよな。
それくらい初音の精神ダメージは大きいのだ。
恐らく同じくらい、優花の精神ダメージも大きい。
「じゃあ言い出したのは俺だし、俺から言わせて貰う。俺の機械は【絆】だ。指定したのはもちろん初音だ」
そう言って指で機械をつまみディスプレイを俺達に見せる。
俺と優花のものと同じような字体で【絆】と書かれているのがしっかりとわかった。
湊が【絆】の機械のプレイヤーだったか。
ならこの提案を持ちかけたのは当然のことだな。
何故なら自分自身に殆どデメリットがなく、他人の機械を聞けるメリットがあるからだ。
その上自然な流れで実質的なクリア条件になる初音の『枷』のクリアに協力してもらえるならば一石二鳥どころじゃあない。
「じゃあお呼びの掛かった私が次は言いますねっ。私の機械は【信頼】だよっ!」
初音がトレードマークの髪をピョンピョンと動かしながら俺達に機械を見せる初音。
そこにはしっかりと【信頼】の文字が記されていた。
確か【信頼】の『枷』は「『箱』の内部のどこかに存在する球体を3つ以上開ける」だったか。
それもこのメンバーで協力していれば【悪】が居ない限り直ぐにクリアできる条件だ。
しかしこの時点で実質的に二人のクリアが決まったようなもんだな。
俺と優花が【悪】でないことはわかりきってるし、湊と初音も言動からして違うだろう。
だとすれば誰が【悪】なんだ、となるが別にそれは今解を求める必要はない。
じっくりと考えて行けばいいさ。
と、次は自然に俺が機械を言う番となったためポケットをあさり機械を取り出す。
画面を一回タッチして、【平和】と表示されている画面を呼んだ。
そしてそれを三人に見せながら俺は言葉を紡ぐ。
「俺の機械は見ての通り【平和】。条件が条件だから最後の方まで『枷』はクリア出来ないからみんなに協力することにするよ」
機械をしまい、近くの椅子に腰掛ける。
さっきまでずっと立っていたから腰が痛い。
下手な意地を張らずにずっと座っていればよかった。
「私の機械は【孤独】。最後の方まで生き残るだけが条件ですから、三人とは協力できたらな、と思っています」
俺と同じような内容の言葉を言っている優花。
別に悪いとは言わないけどもうちょっと愛想よく言おうぜ、表情硬くて少し怖い。
だがそれを優花に真っ向から言うのは少し怖かったから、胸の内に秘めておくとするか。
【孤独】の機械は『枷』のクリアの時間が【絆】と同じタイミングだ。
だから湊とは協力してくれるといいんだけど……。
まあ仲良くなってくれるよな。
でもあの二人なんか水と油みたいなところがあるからなあ。
少し心配だ。
これで四人の機械はそれぞれ把握した。
七人でしたときに比べると反応も薄く、掛かった時間もかなり短かい。
話す内容の違いもあるが、単純にモチベーションの違いでもあるのだろう。
それでまた俺がさっき言ったのと同じように、「次は何をするよ」と言おうとしたところで湊が口を開いた。
「あと言い忘れていたが遊李の機械はこれだった」
画面に出ている字は【調停】。
そう言えばカメラ機能を使っていたから自然にわかっていたじゃねえか。
条件はほとんど俺や【偽善】と同じようなものだ。
その理由は三人以上が自爆装置を解除しているということは実質的に三個の機械は破壊してもいい状態にあるからな。
だが実際は俺と【偽善】の『枷』のクリア条件よりも簡単と言えるだろう。
それだけに遊李が死んだのは悔やまれた。
まず遊李も裏切るなんてことをしなくても生きれたはずなのに裏切ろうとしたのは……やっぱり目先の賞金に目が行ったからだろうか。
だとしたら……悲しいことだよな。
それさえも主催者の思う壺だと言うことが更に悲しかった。
「これは、春。お前が持っていろ」
「えっ、俺が持ってていいのか?」
確かに俺が持っているのは『枷』からしても自然であるのだが、壊すと言う可能性も考えれば俺に預けるよりかは初音に持たせた方が安全だと思うんだが。
それが何かを計算してか、それとも単純に俺を信頼してかは確かではないがありがたかった。
湊から遊李の機械を手渡しで受け取る。
そこには何回確認しても【調停】の文字が書かれていた。
それから何をするかを相談した結果、少し休もうと言うことになった。
肉体的には疲れていなくても精神的に体力も余裕もなくなっているのが現状だ。
時間は惜しいがこのまま無理をし続けて死ぬ直前の遊李のような状態になってしまっていては本末転倒。
だから仕方なく休憩をしようということになったのだ。
湊が言うには後の残り時間は推定で九時間と十五分くらいだそうだ。
だからとりあえず一時間くらい睡眠を取ることにした。
無理に取れなくてもいいから代わりに雑談をして心に余裕を持たせることをしようと言うことを決めた。
机を前に押しやり、教室の後ろ側を俺たちが横になれるような空間を作り出す。
フローリングの床はのっぺりとしていて、寝心地がいいとはとてもじゃないが言えなかった。
だけど横になるぶんには適度な冷たさだ。
「なあ湊」
俺は静かな教室が耐えられなくて口を開いた。
ついでに顔も湊の方を向く。
湊の横にいる初音は既に寝息を立てていて眠りについてるのがわかった。
更にその横には優花も既に寝ている。
かなり疲れていたのだろう。
「どうしたいきなり、相談か? 恋愛意外なら聞いてやる」
くすくすと笑いながら言う湊。
初音が寝ているからかどことなく性格も柔らかい気がした。
で元々恋愛の悩みなんてない俺は湊に会ってからずっと気になっていた疑問を口にする。
「湊はさ、どうしてそんなに正義にこだわるんだ? 何か理由があるなら教えてくれないかな。まあ無理にとは言わないけどさ」
俺がそう言うと湊は少し苦い顔をした。
やば……もしかして俺地雷踏んだのか?
だとしたらやっぱり言葉を撤回するべきかな?
いや、でも聞いてからやっぱりいいやなんて言うのもそれはそれでなんか失礼な気がする。
とか心配していたら湊が喋り初めた。
「俺達には昔もう一人幼馴染がいたんだ。名前は愛沢愛羅だ」
いた、と過去形で湊は言った。
ということは何かがあって縁を切った、もしくは既になくなっているのだろう。
「愛羅は別に勧善懲悪をモットーとしてたわけでもないんだが、やられたことをやり返さなくちゃすまない主義だってな。それが女子共の反感を買ったらしくてな、愛羅は虐められ始めた」
内容自体はよく聞く話だ。
一人だけ空気の読めないやつがいたからそいつを虐める。
気に食わないからそいつを虐める。
俺の周りでそういうことが起こったことを聞いたことはないが、それは確かにこの世界であるフィクションではない事実だった。
「助けようとは思ったんだが愛羅はことごとく俺の助けを拒否した。『こんなの自分でなんとかするからあんたは初音を守っときなさい』ってな」
愛沢さんの言ったそれは恐らく嘘だろう。
湊と初音を巻き込まないために言った嘘。
それに気づかないほど湊も間抜けではなかったはずだ。
だが、それに気づかないフリをした。
自己保身の為に。
それを酷いと罵るやつはいないだろう。
「で結局愛羅は自殺したよ。それも飛び降り自殺。学校の屋上からだ」
俺は無言で唾を飲んだ。
「それで俺は偶然にもそこで立ち会ったにも関わらず止めることができなかったんだ。」
湊が拳を握った音が聞こえた。
そのときの無念が未だに残っているのだろう。
遊李を守れなかったときは比べ物にならないくらいに悔しそうな表情をしていた。
「愛羅が残した俺向けへの手紙があったんだ。それにはたくさんの要求が書かれていたよ」
例えば「私みたいな人間を生まないように今後は正義を貫くこと」だとか「初音をしっかりと守るように」だとかだそうだ。
大小様々な要求が書いてあったらしい。
「それを俺は罪滅ぼしに実行してるまでなんだ。こんなことで許されるはずはないとわかっているが、それでも何もしなかったら愛羅を忘れてしまいそうだから。……ってくだらない話だろ?」
湊の正義に一人の人間の死が関わっているなんて予想もしていなかった。
その上、それが壮大な罪滅ぼしの行動だなんて俺には知るよしもない。
俺はそれに対して湊になんて言葉を返せばいいのかわからなかった。
この気持ちは悠花が事故に会って父親が死んだときに俺が何も言ってやれなかったときの気持ちと同じだった。
あれから六年たったけど変わったのは見た目だけで、俺の中身は何一つ変わっていないじゃないか。
それがまた悔しくて、だけど何かが出来るわけでもなくて……。
「遺書のことは初音にも話したことがない。だからお前がこれを始めて聞いた俺以外の人間ってことになる」
暗い空気を払うように軽く笑う湊。
その笑顔は今にも剥がれそうな位薄くてどこか虚しかった。
湊は愛沢さんが死んでから一度も心から笑っていないんだろうな、とその表情は俺に悟らせる。
そしてこのことを初音に話さないのは、責任を感じさせたくないからだろう。
自分のことを守ってくれているのが人に言われたからだと知ったら少なからず人は傷つく。
所詮自分のことは他人に頼まれなくちゃ守ってくれないんだ、と言う感じにだ。
初音に話さない理由はわかったが、もう一つのことの理由に俺は見当もつかなかった。
だからそれを疑問として言葉に乗せる。
「なんで俺なんかに話したりしたんだ?」
俺の言葉に湊は一瞬ぽかんとして、首を捻り始めた。
恐らく自分自身何故俺に話したのかよくわかっていないのだろう。
無意識の行動、とでも言うべきことは俺にも経験がある。
「多分……お前を信頼してるからだろうな」
湊の言葉は素直に嬉しかった。
自分のことを信頼しているなんて言われたこともなかったから、少しくすぐったい。
頬をぽりぽりと掻いて恥ずかしさをごまかした。
それから直ぐに湊は眠りに落ちた。
初めて自分の抱えていたものを他人に打ち明けたために心の重圧が減ったのだろう。
肩の荷が下りたと言ってもいい。
部屋に三人の寝言が響く。
それを子守唄に俺も眠気が倍増してきた。
三人を守るために一応起きておこうと思っていたのだが、これは予想以上に辛い。
開けていた瞼が次第に落ちてきて俺の意識を奪いとって行く。
思考も薄くなっていき、何も考えられなくなる。
ここに連れて来られたときのような気持ち悪さはなく、むしろ心地よかった。
瞼が完全に重なり開こうとしても上がらなくなる。
抵抗する力も完全になくなり、俺は黙って夢の世界に落ちた。
†††††††††††††††††
――――日乃崎虚は思考する。
このゲームでこれから俺と園影は何を目的に行動するべきか。
自爆装置の解除と言う面で見れば、ある程度の見通しは立ってくる。
華の『枷』は比較的簡単な条件なため、待っているだけでいい。
だが俺の条件は一縄筋にはいかない条件だった。
少なくとも自分から動かなくてもクリア出来る部類ではないのだから。
そのため他のプレイヤーとの接触が必要になってくる。
しかし俺の最優先しているのは生存するためのゲームクリアではなく、欲求の解決なのだった。
だから俺は思考はしているものの、まったく焦っていない。
そして俺の今の欲求、それは「鏡峰湊の精神の完全破壊」だ。
あの正義を優先にし、滋賀井を最優先に守る姿。
そして運動神経抜群な上、頭脳明晰な人間。
だがそんな湊も入戸一人の死亡に動揺が隠せなかったようだ。
俺はその姿を見て、「どうすれば湊を完膚なきまでに精神崩壊させることが出来るだろうか」と疑問が浮かんだ。
同時にあの完璧な湊を屈服させるのがどれだけ気持ちいい物かというのも想像する。
俺があのグループを抜けたのもこの欲求を満たすためと言うのが理由だ。
湊と一緒のグループに居ては湊を完全に壊すことは出来ない。
それはあのミニゲームの最初に掛けられた言葉で理解した。
だから俺はあのゲーム中にも無気力になった振りをして、湊の動揺を誘ってみた。
しかしそれは大した意味を成さず結局無下に終わる。
だがその湊も流石に死には動揺した。
遊李の死で動揺したと言ってもそれは死に対してでなく、自分の全員を生きて返すと言う目的が達成できなかったからだろう。
だからそれだけでは温い。
そして俺は湊の精神を砕くための一番効果的な方法を見つけ出した。
それは、「滋賀井を殺すこと」だ。
だからこそ俺は思考の結果まず、滋賀井を再び襲ってみようと考えた。
そうすれば必然的に湊は釣れる。
そして運がよければその時点で湊の精神を殺せるかもしれない。
実際にはそこまで上手くはいかないだろうが、せめてどちらかの機械を奪うことが出来れば、後からまた湊と会うきっかけが作れる。
それさえも上手くいかなかったとしても、とりあえず敵意があることだけはわからせることが出来るからね。
以上の理由からこの計画は効果的だと考えた。
「――――って言うのあと三十分くらいしたらしようと思うんだけど、園影はどう思う?」
初めから否定なんてものは許す気はないが、とりあえず聞いてみた。
いつもの様に園影はメモ帳に文字を連ね俺に見せる。
そこにはもちろん肯定の言葉が書いてあった。
「それじゃあ俺は滋賀井を見つけ次第襲うから。華は安全の為にもここで待機しておいて」
『わかった。でも何故三十分も待つの? 今すぐしたらいいのに』
園影が続けて出したメモ帳にはそんな言葉が書いてあった。
俺はそれを無視して、今いる学校の教室めいた机が綺麗に整列されている部屋を見渡す。
机はどこでもあるような一般的なもので椅子も特別なにかがあるわけでもない。
教室のドアと反対方向を見た。
そこには窓自体は存在しているのだが、外の景色を見ることは叶わない。
何故ならそこはシャッターで外側から閉じられているからだ。
園影が自分が無視されたことがわかりしゅんとなっている表情を見て、やっと答えてあげようと言う気になったため質問に答えた。
「特に意味はないさ。ただ休憩がしたいって言うだけ。園影も疲れてるでしょ?」
首を縦に振る園影。
それを見て俺は適当な椅子に座って机にうつ伏せ寝ることにした。
俺自身は特に疲れているつもりはなかったんだけど、実際は意外と疲れていたみたいだ。
俯いて数秒もしないうちに勝手に瞼が落ちてきた。
「とりあえず俺は寝るから。もし園影が寝ないんだったら、一時間ぐらいした俺を起こしてよ。寝るんだったら別にいいけど」
うつ伏せているためのその表情も行動も見えないが確認する気もないため眠ることに集中する。
瞼が持ち上がらなくなり、意識を夢に食われていく。
そして俺は五分もしないうちに眠りに着いた。