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第8話 連邦(フェド)の光芒(オーラ) ~後編~

作者: 目賀見勝利

 《大和太郎事件簿・第8話/連邦フェド光芒オーラ

        〜金星の法;2039年の奇跡〜  後編

                  ※本篇は、第7話「能登の錫杖」の続編です。

                   先に第7話を読むことを推奨いたします。



連邦の光芒23;

東京・有楽町一丁目のすし屋  2011年2月5日(土) 午後5時30分頃


今年の3月に行われる日本古代史学会の会場は有楽町にある国際フォーラムで行われる予定であった。

今年の学会開催委員のひとりに選ばれていた藤原大造教授が会議準備の打ち合わせで京都から上京し、JR東京駅と有楽町駅の中間にある八重洲Fホテルに宿泊していた。

大和太郎は、2年前に行った能登の謎解明についての疑問点をただすために藤原教授に会う約束をしていた。


八重洲Fホテルから東へ3分くらい歩くと、銀座中央通り傍にある江戸歌舞伎中村座発祥地の石碑のある場所に出る。ここには大根河岸と呼ばれた青物市場があったと書かれた記念石碑もある。そこから西へ30メートルくらい行くとに、間口3メートル、奥行4メートルくらいの小さな古びた、いかにも江戸前寿司でございと云った雰囲気の『だいげん』と云うすし屋がある。

教授と太郎はそのすし屋に入った。


「いらっしゃいあし。」と威勢の良い声で、落語家の春風亭小朝に似た亭主が江戸っ子風に言った。

土曜日の夕方と云う早い時間帯のためか、客はカウンターに一人座っているだけであった。

「何にしますか?旦那。」とあがり(お茶)を運んできた亭主が言った。

「上握り3人前と白ワインをお願いします。」と太郎が答えた。

「3人前?」と亭主が怪訝な顔で訊いた。

「ええ。私が二人前食べますので。」と太郎が言った。

「なるほど。かしこマリヤの鬼子母神きしぼじんとくらあ。」と江戸弁で小朝似の亭主が言った。

「ご亭主。それも云うなら『おそ入谷いりやの鬼子母神』ではないですか?」と藤原教授が言った。

「そうとも云いやす。へっへっへっへー。」とすし屋の亭主が照れて笑った。

「あと、刺身の盛り合わせを二人前お願いします。」と教授が言った。

「これも、お1人でお召し上がりでやすかい?」と亭主が訊いた。

「いや、これは二人で食べますから、刺身醤油の小皿は二つで。」と教授が言った。

「へい、かしこマリヤ・・・。いや、かしこまりやした。」と亭主が言い直して言った。

「御亭主はマリヤ様がお好きなようですが、クリスチャンですか?」と教授が訊いた。

「いや、あっしはキリスト教とは関係ありやせん。いえね、ガキの頃、家の近所にキリスト教会がありましてね、遊び仲間の悪ガキ連中と朝9時からの日曜礼拝に参列して牧師さんの説教をよく聞いたもんでやすよ。あっしの江戸時代のご先祖は品川宿近くの漁村で漁師でしたが、東海道の街道に面した場所で江戸前寿司を握っていたそうです。その漁村があったところがあっしの実家があったところで、今は品川区北品川と云うところです。そこに、キリストの教会がありやした。」

「日曜礼拝に行ったのは、説教のあとで貰えるお菓子が狙いでしたね。」と教授が言った。

「判りやすか、旦那には。その通りでやす・・・。へっへっへっへ。」と亭主がにが笑いした。

「それでマリヤ様が好きになったのですか?」と教授が訊いた。

「その教会の牧師さんは説教の後、お菓子をくれる時に悪ガキ共にいつも話すことがありやした。明治時代にアメリカから来たマリア・キッダーと云う女性の宣教師が女学校を創ったらしいんでやすよ。牧師さん曰く、そのマリヤさんは子供を守る鬼子母神の生まれ変わりだってね。名前のキッダー(kidder)は子供を意味するキッド(kid)から派生したことばだそうです。悪いことしてマリヤ様に叱られないようにしっかり勉強しなさいってね。まあ、牧師さんは我々悪ガキ共をからかっていたのでしょうがね。それ以来、あっしは畏れ多いお方であるマリヤ様は鬼子母神であると思っています。」と寿司屋の亭主が子供のころの思い出を語った。

「なるほど。某所にある女学校の創始者は鬼子母神の生まれ変わりのマリヤ様でしたか・・・。」と考え深げに大和太郎が言った。



しばらくの間、古代史学会の事などの雑談をしたあとで太郎が教授に訊いた。

「石川県能登の円山と新潟県の火打山を結ぶ影向線ようごうせんの他に、円山の加夫刀比古神社、群馬県の榛名神社、千葉県成田市にある麻賀多神社を結ぶ影向線ようごうせんがあります。この麻賀多神社の境内にある天之日津久神社の前で『ひふみ神事』がおろされました。2年前、教授はこのことをご存じなかったのですか?」

「あっはっはっは。大和君は古い話を覚えていますね。」と教授が笑った。

「どうしても、教授の真意を知りたいと思いまして・・・」

「私はクリスチャンではありませんが、D大学神学部の教授です。まあ、キリスト教に関することについて不用意な発言をする訳にはいかないと思った次第です。」

「不用意な発言ですか・・・。それはどういう事ですか?」と太郎が訊いた。

「大和君は澪標みおつくしと云う言葉を知っていますか?」

「ええ。大阪市の市章になっていますね。海上の安全航路を示す道標のことですよね。」

(※著者注;大阪市章の澪標みおつくしマーク;漢字の『又』に縦棒の『l』を真中に挿入した図柄。)

「そのとりです。宝達山の宝達権現と円山の加夫刀比古神社を結ぶ直線、宝達権現と筑波山神社を結ぶ直線、加夫刀比古神社と麻賀多神社を結ぶ直線、石動山の伊須琉伎比古神社と鹿島神宮を結ぶ直線。この4本の直線の描く図形は大阪市章の澪標みおつくしの形です。そのうちの3本の線の交点に榛名山があります。あの時、私は榛名山がキーポイントとなると言った意味がここにあります。人類の道標である澪標みおつくしの中心が榛名ハルナなのです。旧約聖書の中にエゼキエルの予言が書かれた部分があります。エゼキエル書39章の14〜16節には次のように書かれています。『彼らは、常時、国を巡り歩く者たちを選びだす。彼らは地の面に取り残されているもの、旅人たちを埋めて国を清める。彼らは7カ月の終りまで捜す。巡り歩く者たちは国中を巡り歩き、人間の骨を見ると、そのそばに標識を立て、埋める者たちがそれをハモン・ゴグの谷に埋めるようにする。そこの町の名はハモナ(ハルナ)とも言われる。彼らは国を清める。』ハモン・ゴグの谷に立てられる標識の形が澪標みおつくしであり、『身を尽し』なのです。他の誰かのために身を尽くす道標を意味します。ハモン・ゴグの谷は『海の東の旅人の谷』であるともエゼキエル書には書かれています。あの時、私はノストラダムスの予言とエゼキエル書の終末予言の話をしましたよね、確か。」と教授が言った。

「ええ、そうです。諸世紀五巻の53番の予言詩では、『太陽の法と金星の法が競い、(お互いに)予言の意味を(事件が発生する前に)先取りして(述べる)、(しかし)お互いに相手を無視するが、大いなるメシアの法は太陽によって引き継がれる(新しい太陽の法が生まれる)』でした。ノストラダムスの予言では、キリスト教の予言である金星の法ではなくて、日本の神示予言である太陽の法がメシアの法を引き継ぐ、と云う事ですよね。その時、イスラエル人の主(神)が火と地震とイオウを用いて天罰を下す、と云うことだったと記憶しています。」と太郎が言った。

「その解釈の仕方は、少し違います。太陽の法 がメシアの法なのではなく、『太陽 がメシアの法を引き継ぐ』とノストラダムスは言ったのです。金星の法は旧約聖書や新約聖書に書かれている予言です。また、太陽の法は日本の神社などにおける神示や古代文書を意味しますが、太陽とは必ずしも日本に限定した言葉ではありません。古代エジプト人やユダヤ人、アラブ人も太陽神を崇めています。たしかに、『ひふみ神事』の降ろされた千葉県成田市にある麻賀多神社が能登の円山と群馬県の榛名山を結ぶ霊ラインの延長線上にあることを私は知っていました。またひふみ神事には『ブツキリストもすっかり助けると申してあろうがな、助かるには助かるだけの用意が必要ぞ。』とか『穢土えど如何どうしても火の海ぞ、それよりほかやり方ないと神々様申して居られるぞ』とある。穢土えどとは汚れけがれている場所のことです。都会や山谷の区別はありません。2008年9月の時点で、助かる用意が出来ていたのかどうか?そして、2011年の今年も準備が完了しているのかどうか、私には判らない。だから、ヨハネの黙示録で云うところの終末戦争が起きて世界の破滅が来るのかどうかを、私には断言できなかったのです。大和君がキリスト教の将来について知りたいのなら、ある人物を紹介しましょう。その人は皇居の半蔵門近くで西洋占星術による占い事務所を開いています。政治家や財界人を相手に人物や事業の将来を占っているようです。私も、品川の御殿山に住んでいる京都市出身の石井光太郎と云う政治家から紹介を受け、一度だけ占ってもらったことがあります。京都・先斗町ぽんとちょうの料亭と同じで、『一見いちげんさんお断り』らしい。紹介人がいないと会ってくれません。」と教授が言った。


「その人のお名前は?」

「ルル・アラブ師です。日本の西洋占星術師の間では予言者ダニエルの生まれ変わりと呼ばれています。」

「あの、イスラエルのユダ王国にいた美少年予言者、あるいは男装をした女性予言者であったかもしれないと云う、ダニエルの生まれ変わりですか。イスラエルを滅ぼしたバビロン王国に連れて行かれて、ネブカドネザル国王に未来の様子を語ったと云う人物の・・・。」と太郎が驚いたように言った。

「そうです。明日にでも、石井先生に電話して紹介状を貰ってあげましょう。できれば、私もアラブ師にお会いしたいですからね。あの方は若々しくて、お美しいですから・・。」と教授が嬉しそうに言った。

「ルル・アラブ師は女性なのですか?」と太郎が訊いた。

「そうです。」



連邦の光芒24;予言書

東京・半蔵門近くの国道20号に面したビルの一室  2011年2月7日(月) 午前11時頃


大和太郎と藤原大造教授がアラブ師の事務所内で応接のソファに座って話し合っている。

10時30分からの約束でアラブ師の事務所を訪問したが、JR中央線の信号故障のため甲府から東京に向かう特急列車が遅れているとのことであり、アラブ師の到着が遅れていた。

そして、午前11時を過ぎたころ、アラブ師が事務所に着いた。

「お待たせして申し訳ありませんでした。」と言いながら、アラブ師がソファに座った。

お互いに挨拶を交わしたあと、藤原教授が言った。


「ご自宅が甲府だと通勤にご不便ではないですか?」

「少し時間がかかりますが、身の安全を考えましたら、山梨県の甲府に住むのが一番かと思っておりますの。」

「身の安全ですか?」と太郎が訊いた。

「ええ、甲府は武田信玄の張った結界の中にある都市です。結界が邪悪な霊の侵入を防いでくれますので、真夜中に、水盤に水を張り、霊感を働かせ、水面に映し出される現象を見るには、甲府は最適な地域なのです。所謂いわゆる、邪魔が入らないのです。豊臣秀吉の命による関東移封で1590年の江戸入城に際し、徳川家康が霊能者・服部半蔵の意見を取り入れ、江戸城が陥落した場合に備えて甲府に逃れる道筋(甲州海道と呼ばれた)を確保し、甲府には密かに軍資金保管所を設けたくらいですからね。江戸城から甲府城までの甲州海道沿いには伊賀や甲賀、根来ねごろの忍者を住まわせていたそうです。」とアラブ師が言った。

「なるほど。結界の中ですか・・・。」と、太郎と教授は妙に納得した。


「ところで、ご依頼の件はノストラダムスの謂う金星の法が将来どのようになるのかでしたわね。キリスト教、イスラム教、そしてユダヤ教の将来をお知りになりたいと云うことですが、私の申し上げることが必ずしも正しいとは限りません。私は西洋占星術が示す将来の状況を知り、その状況と私の持っている知識とを照らし合わせ、私の推理を申し上げるのです。その推理は一つの可能性であると云うことをご理解したうえで、敢えて私の推理をお聞きになりたいのでしょうか?」とアラブ師が言った。

「そうです。ぜひ、アラブ師の見解をお聞かせ頂ければありがたいのですが。」と太郎が言った。


「それではお話を始めますわ。キリスト教についての将来を語る時、聖マラキの予言を考えるべきでしょう。」

「悪魔の予言と謂われている、聖マラキの予言ですか?」

「旧約聖書のマラキ書に関するユダヤ予言者ではなく、11世紀のアイルランドに生まれた司祭マラキ・オーモーガンがカソリック教会の法王について予言した『法王の予言112』の事です。マラキとはヘブライ語で『送られた者』を意味します。


現在の法王は2005年からの第265代法王で、ベネディクト16世です。マラキはこの人物を予言111番『オリーブの栄光』と表現していました。オリーブの枝をシンボルマークとするベネディクト会の設立者の名前が聖ベネディクトでした。また、ベネディクト16世はドイツ人で父親の名前はヨセフ、母親の名前はマリアです。これはキリストの両親の名前と同じです。そして、本人の名前はヨセフ・アロイス・ラッツィンガーで、首席枢機卿時代にはキリスト教の教義に忠実で『教義の番犬』と渾名あだなされたていたようです。

予言104番『絶やされた宗教』の第258代法王はベネディクト15世でした。『絶やされた宗教』の法王ベネディクト15世の時代は第一次世界大戦があった戦乱時代です。


第264代法王は予言110番『太陽の労働』と呼ばれたヨハネ・パウロ二世でした。彼はポーランド人で9才までに両親をなくし、工場でアルバイト労働をしながら大学を卒業しました。そして、法王庁の神学大学での博士論文が『聖ヨハネの霊性』でした。ヨハネ・パウロ二世が新法王になったころ、当時のジスカール・デスタン仏大統領がこの法王を『光輝く』と形容しました。そして、ヨハネ・パウロ二世は光輝く法王と呼ばれるようになりました。


マラキは第266代法王については予言112番『ローマ聖庁が最後の迫害を受ける間、ローマ人ペテロが法王の座に就く。ローマ人ペテロは多くの苦難のさなか、子羊を司牧する。この苦難が去ると七つの丘の町は崩壊し、恐るべき審判が人々に下される。 おわり』と述べています。

ペテロとはイエス・キリストの最後の晩餐に登場する12使徒のひとりです。『イエスが捕えられる時、あなたは三度、イエスを知らないと(役人に向かって)言うだろう。』とイエスから言われた人物ですが、イエス・キリストから後事を託され、その後のキリスト教ローマ教会の創設に尽力した人物です。ローマのバチカン市国にあるサン・ピエトロ大聖堂はペテロの墓の上に建てられています。そして、新約聖書のペテロ第2の手紙の第三章11節〜14節には『すべてのものは滅び去るのです。あなた方は神の日の来るのを待ち望み、また、清く信心深くあるべきです。その日は焼け崩れ、自然界の諸要素は燃え尽き、溶け去ることでしょう。しかし、私たちは義の宿る新しい天と新しい地とを、神の約束に従って待ち望んでいるのです。』と書かれています。以上の事から、マラキ予言では現法王ベネディクト16世の次の法王ペテロ時代に、キリスト教の時代は終わると言っているのでしょう。現法王ベネディクト16世が何歳まで生存しているかですが、常識的に考えて、ペテロ法王の時代は2019年から2040年の間に来るのではないかと思われます。」とアラブ師が言った。


「それでは、イスラム教はどのようになるのでしょうか?」と太郎が訊いた。

「イスラム教は旧約聖書時代の延長にいます。キリストが生まれる以前の紀元前を表すBCと云う文字はA〜Zのアルファベット順に表記すると紀元を表す記号ADの間にきます。A(BC)Dです。すなわち、BC年代はAD年代に含まれることを意味します。キリスト教会がモーゼの十戒を守らないため、それを諌めるためにAD560年頃にヤハウェがムハマンドに命じて興こさせた宗教がイスラム教です。キリスト教の最後の時、イスラム教はその役目を実行するように運命付けされているのです。」

「どのような役目をするのですか?」と太郎が訊いた。


「日本では須佐乃王命と呼ばれている神の働きです。古事記によりますと、須佐乃王命は天照大神が住む高天原の機織はたおりの聖所を壊し、殺した天の斑馬ふちごまを聖所に投げいれます。そして、それに驚いた織女を死なせてしまいます。そのことによって、須佐乃王は高天原では『荒らす者』と呼ばれてしまいす。


一方、旧約聖書のダニエル書8章1節〜13節では、ダニエルが見た幻の話が書かれています。『ダニエルはエラム州のウライ川ほとりにあるシュシャンの城で一本の角がある雄ヤギが西から来て雄羊を殺すのを見ます。その雄ヤギは暴れまわり、軍団の長に成長します。軍団の長は麗しい国へ行き、そこの聖所にある常供じょうくのささげ物を取り払い、聖所のもといを壊してしまいます。そのため、荒らす者とよばれます。』 

ユダヤ人の予言者ダニエルにとって、麗しい国とはイスラエル王国のことでしょうか。あるいは、ダニエルの生きた後の世に生まれるキリスト教の聖地エルサレムかローマのバチカン市国を見通していたのかも知れません。

そして、エラム州のウライ川ほとりにあるシュシャンとはどこかと云うことです。この幻を見た時、ダニエルはバビロン王国を滅ぼしたペルシャ(現イラン)にいました。旧約聖書に出てくるシュシャンはヘブライ語です。古代ペルシャ語ではスーサです。王都スーサはバルカン半島のマケドニア王国に生まれたアレクサンドロス大王の東方遠征によって滅ぼされます。都市スーサにはアクロポリス、アバダーナ、王の都市、技師の都市と云う4つの遺構がありました。アクロポリスは古代の神殿があった場所です。マケドニア人とギリシア人を引き連れたアレクサンドロス大王に滅ぼされる以前のアケメネス朝ペルシャ時代には王宮があり、王の道の起点とされていました。古代におけるスーサと云う都市は現在ではイランのシューシュと云う都市です。このシューシュにはユダヤの予言者ダニエルの墓があります。

また、日本国土が世界地理の縮図であると考えると、王の都スーサの日本での場所は名古屋市熱田区に相当します。熱田区には須佐乃王命が八岐大蛇やまたのおろちから取り出した草薙の剣が祀られています。そうです、須佐乃王とはスーサの王を意味しています。


将来、エルサレムを『荒らす者』は現在のイスラム教国であるイランの都市シューシュに現れる人物です。それが誰なのか、現在は判っていません。ただ、荒らす者はヨハネの黙示録に登場する666の獣であるとされています。また、666とは人の名前であると表現されています。ユダヤのカバラ数秘術では666とは第4代ローマ皇帝であった暴君『ネロ・カエサル』と云う名前であると謂われています。この名前をヘブライ文字で書くとRSQNVRNとなるらしいのです。ヘブライ文字のRは数値で表現すると200に相当します。同様にSは60、Qは100、Nは50、Vは6、Rは200、Nは50です。そして、RSQNVRNの合計が666となります。カバラとはヘブライ語で伝承を意味します。カバラ数秘術はモーゼがシナイ山で神から授かった秘伝運命占術です。ことばと数字と文字を組み合わせた秘儀です。都市シューシュから現れた『ネロ・カエサル』はエジプトを攻め、地中海沿岸の国々を攻め、イタリアのローマを攻め落とすことになるのではないでしょうか。そして、その後はイスラエルに向かうのではないでしょうか。」とアラブ師が言った。


「それで、ユダヤ教はどうなるのですか?」

「ユダヤ教は旧約聖書の内容(律法)とモーゼが口伝した内容を教典にしたトーラー(律法)をよりどころとしています。神ヤハウェを主と考えています。エゼキエル書38章18節〜21節に主の御告げが書かれています。『ゴグがイスラエルの地を攻める日、その日には必ずイスラエルの地に大きな地震が起こる。私は剣を呼び寄せて、私のすべての山々でゴグを攻めさせる。彼らは剣で同士討ちをするようになる。』ゴグとは北の果てに居る騎馬民族で、多くの国の民を引き連れて大集団で終わりの日にイスラエルへ攻め入る、とされている民族です。一般的にはロシアやモンゴルの民族でそれにエチオピアやアラブ系の騎馬民族が協力すると考えられています。主が呼び寄せる『剣』とは須佐乃王命の象徴、すなわち、スーサの王こと『ネロ・カエサル』ではないでしょうか。そして、エゼキエル書39章6節〜7節に『私は、マゴグと島々に安住している者たちとに火を放つ。諸国の民は、私が主であり、イスラエルの聖なる者であること知るだろう。』と書かれています。イスラエル民族はあらためてヤハウェを主(神)として仰ぎ見ることになると云うことでしょうか。その火を放つ役目を『ネロ・カエサル』が行うと。イタリア語のカエサルは、英語ではシーザー、フランス語ではセザールです。フランス人のノストラダムスは将来生まれてくる息子セザールに遺書を残しました。息子セザールとはスーサの王こと『ネロ・カエサル』であったのかも知れませんね。『ネロ・カエサル』に、神から彼に与えられた役目を理解させる為にノストラダムスはセザールへの遺言書を残したのかもしれません。因みに、ミッシエル・ド・ノストラダムスとはノートルダムのミカエルと云う意味です。ノートルダムとは高貴なマダム、すなわち聖母マリアです。ミカエルは正義の武力を行使する天使です。」とアラブ師が言った。


「ロシアやエチオピアはキリスト教国でアラブ騎馬民族はイスラム教国と云うことでしょうか?」と藤原教授が訊いた。

「その終わりの時代にはキリスト教とかイスラム教とかユダヤ教は意味をなしていない可能性があります。戦争や天変地異で人々の神への信仰心が揺らいでいるでしょうから。しかし、終りの日に、主が存在することを世界の人々は認識させられることになるのでしょう。キリスト教もイスラム教もユダヤ教も大元の神はヤハウェですからね。」とアラブ師が言った。

「終わりの時とは何時いつでしょうか?」と太郎が訊いた。

「先ほども申しましたが、マラキ予言から推理すれば2019年頃から2040年頃の間ではないかと考えられます。ノストラダムスの諸世紀二巻41番に『大きな星が七日間燃え続け、雲間から二つの太陽が現れる。一晩中大きなマスチフ犬が吠え、法王は国土を変える。』とあります。マチフス犬は2700年前のバビロニアに起源を持つ獰猛どうもうな狩猟犬で、アレキサンダー大王のヨーロッパ遠征に同行してアッシリア、ペルシャ、バビロン、エジプトからイギリスに伝わった犬です。アレキサンダー大王は東征後33才で死ぬまで、中東のバビロンに王宮を構えて住んでいたようです。マスチフ犬はローマ帝国のシーザー(カエサル、セザール)がイギリスに遠征した時、ローマ軍と戦ったイギリスの軍用犬でもありました。ノストラダムスはマスチフ犬をかつてのバビロン王国の都市スーサに相当するイランの都市シューシュから生まれる『ネロ・カエサル』に重ね合わせ、ローマに攻め寄せるイスラム軍団をイメージさせているのでしょう。また、諸世紀二巻96番には『強い火が夜の天に見え、ローヌの初めと終りころ、剣と飢えに、大変遅れた助けが来る、ペルシアはマケドニアに対抗するために来る。』とノストラダムスは述べています。ローヌとはローマとセーヌ河ほとりにあるパリを意味しているのでしょうか。セーヌ河畔には聖母マリアを祀るノートルダム寺院があります。


ローマ時代、ノートルダム寺院がある地域は『ユピテルの神域』と呼ばれていました。ユピテルはジュピターとも呼ばれたローマ神話の神です。男神ですが、時として月の女神ダイアナに変身するとされています。ギリシア神話では天空の神ゼウスに相当します。『ユピテルの神域』の由来は、ローマ建国の王・ロミュラスが戦利品を羊飼いたちが神聖視していた樫の木の前に供え、その木の神をユピテルと命名したのが始まりであり、この樫の木が生えている丘の地域をユピテルの神域と呼び、ローマ帝国のはじめての神殿を建てた地域のことです。また、パリのノートルダム寺院には16弁菊花紋を類推させるバラ窓のステンドグラスがあります。聖母マリアはくすしきバラの花と呼ばれ、バラ窓は聖母マリアを表わしています。ちょっと余談になってしまいましたが、ペルシアとは現在のイラン。そして、アレキサンダー大王が生まれたマケドニアとは、現在のギリシアや東ヨーロッパ諸国を意味しているのでしょう。イランのシューシュで生まれた『ネロ・カエサル』がヨーロッパ遠征をすると云っているのでしょう。それとも、『ネロ・カエサル』とは別のものが助に来るのかもしれませんが・・・。

そして、この時の法王ペテロは、バチカンが『ネロ・カエサル』に迫害され、崩壊するのを予見してキリスト教の本山であるバチカンを他の土地に移動させます。これが、『法王は国土を変える』です。また、マラキ予言103『焼けつく火』ピオ10世(在位1903〜1914)はピオの名前を持つ自分の後の世に登場する法王が兄弟の屍を踏みつけて逃げて行く夢を見たそうです。ピオ10世の後、ピオ11世、ピオ12世がすでに誕生しています。たぶん、次世代の法王ぺテロはピオ13世を法王にしてローマ以外の土地に新しいバチカン教皇国を造るのでしょう。しかし、ピオ13世も新しいバチカンから逃げ出すことになるのでしょう。これがマラキ予言の『ローマの人ぺテロは多くの苦難のさなか、子羊を司牧する』の意味です。」とアラブ師が言った。


「やはり、キリスト教やイスラム教、ユダヤ教はなくなってしまう訳ですか。」と太郎が言った。

「キリスト教などはなくなるかも知れませんが、それを引き継ぐ宗教がでてくるのかも知れません。マラキ予言の予言101・ピオ9世『十字架の十字架』(在位1846年〜1878年)から後の法王の呼称を見てみましょう。予言102・レオ13世が『天空の光』、予言103・ピオ10世が『焼けつく火』と続き、『絶やされた宗教』、『勇気ある信仰』、『天使の牧者』、『牧社と水夫』、『花の中の花』、『月の半分』、『太陽の労働』、そして、現在の法王である予言111・ベネディクト16世『オリーブの栄光』で予言名称は終り、ローマの人ぺテロの話が続くのです。終りの時の『十字架の十字架』は1846年9月19日にフランスのラサレットに聖母マリアが現れた事を意味します。そして、1917年にはポルトガルのファチマに聖母マリアが出現します。これが、天空の光です。焼けつく火は『ネロ・カエサル』のヨーロッパ遠征による戦火、そして、絶やされた宗教がローマ・バチカンの終焉。その後、新しく生まれるヤハウェ信仰が勇気ある信仰です。そして、油注あぶらそそがれる『オリーブの栄光』で世界は再び輝くのです。」

とアラブ師が目を閉じながらしみじみと言った。


そして、アラブ師が目を開けて続けた。

「別の視点から考えてみましょう。1878年にローマ法王となったマラキ予言102『天空の光』レオ13世がキリストとサタンが話している声を聞いて卒倒しました。サタンは75年あれば世界を支配できるとキリストに言ったそうです。キリストはそれに答えて、(75年間をサタンに)与えましょう、と言ったそうです。旧約聖書のダニエル書7章25節には『聖徒たちは、ひと時とふた時と半時の間、彼の手にゆだねられる。しかし、裁きが行われ、彼は永久に絶やされ、滅ぼされる。』と書かれています。ひと時が30年として、30+30+15=75年です。」

「75年といえば、ケネディ大統領暗殺の証拠資料が封印された期間と同じですね。」

「そうです。ウォーレン委員会によるケネディ大統領暗殺の報告書が発表された1964年9月28日から75年後は2039年9月28日です。しかし、悪魔が世界支配を始めたのがケネディ大統領の暗殺日からとすれば、75年後は2038年11月22日となります。そこで、この二つの日についてのホロスコープを作ってみました。」とアラブ師が言った。

アラブ師は外光が入ってきている窓の暗幕カーテンを引き、部屋の照明を消し、パソコンとビデオプロジェクターを使って100インチのスクリーンにホロスコープ(出生天宮図)映像を映し出し、藤原教授と太郎に対して説明を始めた。


「このホロスコープは2038年11月22日12時30分のイタリア・ローマのものです。ケネディ大統領の死がキリスト教の運命と関係していると考えるならば、バチカンが在るローマの運命を考えるのが妥当でしょう。この日のローマの運命をホロスコープが示しています。まず、外見的な事象を示す上昇宮には水瓶みずがめ座が居ます。水瓶座が意味するところは地上の悪や汚れを洗い流すと云うことです。そして、水瓶座の支配星は天王星と土星です。天王星は革命や分裂をつかさどります。土星は人々に試練、不運、忍耐を強いるのです。また、人間の霊魂を意味する太陽はさそり座に居ます。さそり座の支配星は火星と冥王星です。火星は闘争本能を司り、冥王星は死と再生、始めと終り、消滅と創造を司ります。そして、三つの凶座相がこのホロスコープには現れています。太陽と木星、太陽と冥王星、火星と冥王星の位置がそれぞれ90°の角度を造っています。これはスクエアと呼ばれる凶座相です。特に、火星と冥王星の凶座相は火による物事の消滅を意味します。たぶん、マラキ予言のバチカンの消滅を暗示しているのではないでしょうか。第9室には太陽、水星、火星、土星が入っています。第9室の暗示は遠距離旅行です。それは、遠方から来たイスラムの使者『ネロ・カエサル』がバチカンに発生してしまった悪や汚れを洗い流すと云う事を意味しているのかも知れません。そして、新しいバチカンに生まれ変る再生の暗示が太陽と天王星が作る60°の吉座相・セキスタイルです。天王星は飛躍、分裂、自立、友愛を司ります。その時の教皇ペテロが司牧した人物たちが何処かの地に移り、新しいバチカンを造る努力を始めるのかも知れません。」


「アラブさん。金星が第9室と第10室の変わり目に居ますが、これの意味は何ですか?」と太郎が訊いた。

「これの意味は私にもよく判りません。単準な解釈は第9室の金星運命・平和を求めた海外遠征から第10室の金星運命・社会に訪れる幸運か失望への変化ですが、もっと他の解釈がありそうなのです。上昇宮がみずがめ座ですから、反抗的で異常な革命が起きるのか、科学的な新発明が誕生するのかも知れません。何かの大変化、それが良いことなのか、悪いことなのか?天文学者に訊いてみたい気がします。金星が二つに分かれる、すなわち爆発するのかも知れません。そんな可能性があるのかどうか・・・?金星がキリスト教やユダヤ教の表象ととらえると、そこに変化があるということかもしれません。水星と木星が90°の凶座相にあります。悪い知らせが届く暗示です。諸世紀5巻15番に『航海中に偉大な法王は捕らえられ、動揺した牧師たちの準備は失敗し、次に選ばれた者は資格がなく、次第に力は衰えて、お気に入りの私生児は死に追いやられる。』とあります。私生児とは聖母マリアが生んだキリストの事だと考えることができます。すなわち、バチカンの力が衰えていくのかも知れません。ただ、この時、金星は人馬宮(射て座)にいます。人馬宮の支配星は木星ジュピターで、神聖な力の象徴です。」


「2039年9月28日のホロスコープは如何ですか?」と太郎が訊いた。

「2039年9月28日正午の中東にあるエルサレムでのホロスコープがこれです。」と言いながら、アラブ師はパソコンを操作して、100インチスクリーンに先ほどとは異なるホロスコープを映し出した。


「ケネディ大統領の暗殺に関する報告書や証拠資料が提示されたのは暗殺から1年後ですから、キリスト教から切り離して考え、占う場所をイスラエルのエルサレムにし、時刻は太陽が南中する正午としました。このホロスコープから読み取れることは、最後の審判です。」

「最後の審判ですか・・・。」と藤原教授が呟いた。

「まず、外見的な事象を示す上昇宮を見てみましょう。上昇宮には射て座があります。射て座は半人半馬の怪物ですが、理性と本能を表す神聖な力を意味します。射て座の支配星は木星です。木星は正義、法律、宗教を象徴し、発展と向上と成功の援助を司ります。これは、神聖な正義の力が発揮される暗示と解釈することができます。そして、本質を表す太陽は天秤座にいます。天秤座は黄泉の国に下る魂の正邪を判別する天秤を意味し、公平を表す金星が支配星です。すなわち、死人に最後の審判を下す日であることを暗示しています。太陽と火星が90°スクエアの凶座相を表わしています。その火星は第7室で蟹座にいます。これは、大地に関する突然の災難、すなわち大地震がエルサレムに起こることを暗示していると解釈できます。また、獅子座にある天王星が太陽と60°セキスタイルの吉座相に在ります。これは、王位や権力に関する良い変革が訪れる兆しです。また、先ほどの金星ですが、この時は獅子座にあり、水星と60°セキスタイルの吉座相を形成しています。また、金星は第8室にいます。このことは王位や権力を引き継ぎ、通信や情報交換においても財産を引き継ぐ暗示です。良い知らせが届くのでしょう。そして、太陽と水瓶座に在る月が作る120°トラインの吉座相は悪や汚れを洗い流し、新しい活力ある生命が生まれて来る暗示です。そして、天秤座の幸運の花はひな菊であり、天秤座にいる太陽は菊花紋に祝福されます。すなわち世界の王の紋章である16弁の菊花紋が太陽の表象である霊魂を祝福するのです。そして、太陽が第9室に在り、上昇宮に射て座があることから、遠くから来る・光輝く正義によって新しい信仰が実現するのでしょう。これが、ノストラダムスが謂うところの『メシアの法は太陽によって引き継がれる』ことなのでしょう。」とアラブ師が言った。


「メシアの法とは何ですか?」と太郎が訊いた。

「メシアの法とは救世主が現れると云う予言のことです。ノストラダムスは占星術を駆使して諸世紀と云う予言書を残しました。諸世紀5巻53番の予言詩が謂う太陽はこの日天秤座に居ます。天秤座の幸福の花はひな菊です。すなわち、菊花紋を有する世界の王を意味しているのでしょう。しかし、救世主である世界の王とは誰なのかは判りません。ただ、日本の16弁菊花紋は天照大御神を表象していますが、メソポタミア文明を開いたシュメール時代の王も菊花紋を用いていました。先ほどの諸世紀2巻41番の詩でも『2つの太陽が現れる』と述べられています。あるいは、太陽とは占星術で云う天秤座生まれの人物とノストラダムスは言いたかったのかも知れませんね。以上が私のキリスト教の将来に関する見解です。」とアラブ師が言った。


「キリスト教に関する見解を聞かせて頂き、ありがとうございました。ところで現在、ブラッククロスと云う秘密結社が『ナンバー・ファイブ』計画を推進しています。この計画が何なのかよく判っていません。ナンバー・ファイブから何か思い当たることでもありますでしょうか?」と太郎がアラブ師に訊いた。

「カバラ数秘術の事ですかね・・・。」とアラブ師が言った。

「カバラ数秘術ですか。」と藤原教授が呟いた。

「先ほどのヨハネの黙示録に登場する666の獣の正体もカバラ数秘術から推理されたものでした。カバラの宇宙観でファイブ(5)とは、力ある神(神の属性)、神の峻厳(大天使)、燃える蛇(天使)、放火魔(悪魔)を意味します。ここから推理すれば、からぬ計画なら放火魔でしょう。好い計画なら燃える蛇ですかね。その背後には力ある神の存在があると云うことでしょうかね・・・。」とアラブ師が言った。

「燃える蛇と放火魔ですか・・・。」と太郎が呟いた。

「蛇はヘブライ文字で書くとNachoschであり、カバラの数秘術では358です。そして、メシアはMessiaであり、蛇と同じく358の数値になります。蛇はメシアと同じ数字で表現できるのです。」

「その意味は?」

「旧約聖書の民数記21章6節に『燃える蛇』とか『火の蛇』と呼ばれる蛇が出てきます。イスラエルの民が神とモーゼの悪口を言ったので、『そこで主(神)は民の中に燃える蛇を送られた。蛇は民に咬みつき、イスラエルの多くの人々が死んだ。』そして、モーゼは主の仰せに従って『モーゼはひとつの青銅の蛇を作り、それを旗竿はたざおの上につけた。もし、蛇が人を咬んでもその者が青銅の蛇を仰ぎ見ると、生きた。』と書かれています。青銅ブロンズはシュメール人が発明した、銅とスズを強い火で溶かし、混ぜ合わせてできる合金です。青銅は古来より浄化のシンボルであり、心身の浄化をすれば、燃える蛇が生命を助けてくれる、と云うことでしょうか。すなわち、燃える蛇はメシアとなるのです。また、3+5+8=16となり、1+6=7です。カバラ数の7は『万軍の主(神の属性)、神の恩寵(大天使)、神(天使)、略奪者(悪魔)』を意味します。」とアラブ師が言った。


「燃える蛇がメシアですか・・・。その旧約聖書の燃える蛇の話は竹内文献に出てくる左股の付け根に万国図形のアザがある神官の話に似ていますね。『皇祖皇太神宮の神官が左股に万国図形の紋をつけて生まれてきた時代は天皇、地球、万民の滅亡が近くなった時である。それは皇祖皇太神宮を敬う万民が少なくなったためである。』と竹内巨麿が発表した竹内文献に書かれているです。この万国図形、すなわち16弁菊花紋のアザのある神官は宝達奈巳さんと云う名前の女性で、奈良の大神おおみわ神社の神様と関係がある人物のようです。また、日本列島を女性の体に見立てると、16弁菊花紋で象徴されている伊勢神宮の場所は左股の付け根に当たります。ちなみに、大神神社の神様の使いは蛇です。」と太郎が2年前の榛名山斎生神業の光景を思い出しながら言った。

「それは面白いお話ですわね。世界の人々の健康を願って設立された世界保健機関(WHO)のシンボルマークは蛇が巻き付いた杖の絵柄ですわ。これはアスクレピオスの杖と呼ばれるもので、アスクレピオスはギリシア神話に出てくる名医のことであり、死者をも蘇らせる医術の持ち主です。後に神の座に着いたとも言われ、夜空に輝く『へびつかい座』がそれです。医術の神様とされ、世界のお医者様の守護神とされています。このアスクレピオスが持っていた蛇の巻き着いた杖の絵柄は世界の国々の救急車のボディにも描かれていますわ。アスクレピオスはアポロンとコロニスの間に生まれた子です。コロニスがアスクレピオスを腹に宿していた時、ふたりの連絡役をしていた言葉が喋れる白い羽根のカラスがアポロンに対し、コロニスが浮気をしていると告げ口をします。怒ったアポロンはコロニスを矢で射殺してしまいます。しかし、告げ口が嘘であること知ったアポロンはカラスの白い羽根を黒色に変え、言葉も喋れないようにしてしまいます。ところで、三重県松阪市の近くに伊勢湾に面して香良洲からす島があります。ここには香良洲カラス神社が祀られており、出口王仁三郎に謂わせると、須佐乃王命の恋人であった稚姫岐美わかひめぎみ命の伝令役であったカラスがこの地で死に、神社の御神体はカラスの羽根であるそうです。また、日本列島が世界の縮図と考えると、香良洲島は中東のペルシャ湾にあるバーレーンに相当します。バーレーンにはアメリカ海軍の第5艦隊が駐留しています。燃える蛇とアポロンのカラスの暗示から推理しますと、秘密結社ブラッククロスのナンバー・ファイブ計画と云うのはバーレーンに駐留している第5艦隊に関係することではないでしょうか?」とアラブ師が言った。


「中東の平和を守るために居るアメリカ海軍の第5艦隊。そして、ブラッククロスがその放火魔となるのか? むむむむ・・・。そうすると、2年前の巡航ミサイルの目標地点は三重県の香良洲島であったのか?そして、本当の狙いはバーレーンの第5艦隊と云うことか。これは、要チェックだな・・・。それとも、もっと他に狙う場所があったのだろうか?あのブラジル人の夢予言者は愛知県岡崎市の夢を見たと言っていたが・・・。」と太郎は考え込んだ。

「付け加えておきますと、6+6+6=18、1+8=9です。カバラ数9の意味は『全能(神の属性)、ガブリエル(大天使)、ケルビム(天使)、猥褻わいせつ(悪魔)』ですわ。」とルル・アラブ師が言った。


「愛知県の岡崎市について、何か心当たりはありますか?」と太郎がアラブ師に訊いた。

「岡崎市ですか?ブラジルの夢予言者が言っていた大地震に襲われるかもしれない街の話ですね。」とアラブ師が言った。

「そうです。」

「大和さんって、面白いお方ですわね。おほほほほ・・・。」とアラブ師は笑ったが、その後すぐに目がキラリと光った。

「はあ・・・?」と太郎はアラブ師の意図が理解できなかった。


「アレキサンダー大王が東方遠征をした時、新しい支配者が自分であることをペルシア人に判らせるために、ペルシアの首都ペルセポリスの王宮を火で焼き払いました。ペルセポリス遺跡は現在のイランのエスファハンと云うシルクロードが通っていた町の南方にあるザグロス山脈の山麓にあります。都市シラーズの近くと言ったほうがいいですかね。日本が世界の縮図であるとすると、このペルセポリスが岡崎市の位置に相当します。ペルセポリスと云う名はギリシア語です。ペルシア語での都市名は判っていません。ペルセポリスと云う名はギリシャ神話に登場するペルセウスと云うペルシアの祖である半神半人の神に由来しています。ペルセウスは天空神ゼウスと人間の娘の間に生まれた子です。空を飛べる翼の生えたサンダルを履いて西の果てにある死者の王国に行き、ゴルゴン三姉妹の怪物のひとりである蛇の髪を持つメドウサと云う怪物の首を手に入れます。また、競技中に円盤投げの円盤で自分の母を青銅の部屋に閉じ込めたことのある祖父を殺してしまいます。ところで、もう一つの説におけるペルセポリス命名の由来であるペルセポネと云う女神は同じく天空神ゼウスの子で、ゼウスの弟である冥界の王ハデスにさらわれます。農業の神デメテルとゼウスの間に生まれた子です。ペルシアは砂漠の地下に水の通路を掘る技術を使って農業の繁栄を築いていた国です。現在のイランもこの技術を使って砂漠での農業を行っています。また、ペルセポネは人間の堕落を悲しんで天上に去った正義の女神アストレイアと同一神とされています。女神アストレイアが手に持っている天秤は最後の審判で人間の魂の善悪を量るはかりです。


アレキサンダー大王は東方遠征時に、前戦基地としてアレキサンドリアと命名したギリシア風の都市を70くらい造ったと謂われています。エジプトのアレキサンドリアは現存する唯一の都市です。そして、中東のアフガニスタン北部で発見されたアイ・ハヌム遺跡が一つのアレキドリアと謂われています。アレキドリアを表象する都市アイ・ハヌムはウズベキ語で『月の婦人』と云う意味です。都市アイ・ハヌムには王宮があり、そこには知識・知恵の神ヘルメスが祀られていたと云うことです。アレキサンダー大王はギリシア人の学者アリストテレスからギリシア文明を学んだ人物で、ギリシア文化を尊敬していたのでしょう。そして、王宮の他に丘の上にはギリシアにあるパルテノン神殿とは異なったペルシア様式の神殿がたてられていたらしいのです。しかし、そこに祀られていた神はミトラとかミスラとか呼ばれるイラン神話に登場するシュメールの太陽神とギリシア神話に登場する天空神ゼウスを重ね合わせた神であったと推測されています。また、パルテノン神殿には16弁菊花紋に似た壁画や太陽の光を表す八光紋の壁画がカラーで描かれていたようです。八光紋とはミトラ神のレリーフに描かれている後光と同じ様な絵です。ギリシャ神話のゼウスはローマ神話ではジュピターと呼ばれ、天文学では木星を意味します。太陽と木星が重なる訳です。1938年11月22日南中時のローマにおけるホロスコープでは太陽と木星は90度の凶座相を形成しています。木星は正義と宗教を象徴していますから、凶座相は正義と宗教の危機を暗示していることになります。

しかし1939年9月28日正午のローマにおけるホロスコープでは、太陽と木星が第9室に同居しています。これは合と云って、太陽と木星それぞれの性質を強調し合います。第9室は人馬宮(射て座)の本来の位置です。そして、その人馬宮は上昇宮の位置にいます。すなわち、正義と宗教が輝く太陽に守られている訳です。また、太陽は霊魂を表しています。太陽が天秤宮に居ますから、霊魂に最後の審判が降され、善悪の評価が降されて、善なる魂が蘇えるのかもしれません。またこの時、変化を象徴する月が宝瓶宮(みずがめ座)にいます。世の悪や汚れを洗い流す意味を持つ宝瓶宮に居る月は太陽と120度の吉座相を形成しています。また、月は第2室に入っています。第2室は物事が成就する暗示です。したがって、この日、世界に起こる大きな変化が成就する訳です。それは正義と宗教に係わる大きな変化のはじまりでしょう。


ノストラダムスの諸世紀2巻30番には『恐ろしいハンニバルの神々の一人が再び生まれ、人々に恐怖を与える、日々語られるどんな恐怖もバベルによってローマ人にもたらせられる恐怖に勝るものはない。』ハンニバルは古代ローマを襲ったカルタゴ(現在のチュニジア、リビア、エジプトなどの北アフリカ地中海地域を支配した国)の将軍です。紀元前に生まれたハンニバル・バルカ自身はローマを征服出来なかったが度々ローマに攻め入ります。結局ローマがカルタゴを滅ぼしますが、紀元5世紀、カルタゴ地域を支配していたバンダル族の将軍が西ローマ帝国を滅ぼします。ノストラダムスはハンニバルの神々と云う表現で、バチカンのあるローマを脅かした多くの将軍を表現しています。ハンニバル・バルカと云う名前は『バアルの恵みである雷光』と云う意味です。バアルは旧約聖書では嵐を司る異教の神で左手に剣、右手に稲妻を持つ神でもあり、天空神ゼウスを連想させます。ハンニバル・バルカはアケメネス朝ペルシアと連繋しながらローマを攻撃しました。バベルとはペルシアの都バビロンにあった塔を意味しているのか、あるいは、バベルの塔が高く、古代では天文観測に利用されたことから、上空や宇宙からの何らかの現象を指しているのでしょうか。バルカですから上空に雷の様に轟く何かが現れるのかもしれません。ノストラダムスはスーサの王『ネロ・カエサル』が率いる中東の軍隊がアフリカ北部の国と連繋してローマを襲うことを暗示したのでしょうか? 


しかし、諸世紀二巻41番『大きな星が七日間燃え続け、雲間から二つの太陽が現れる。一晩中大きなマスチフ犬が吠え、法王は国土を変える。』によれば、二つの太陽が現れることになっています。七日間燃え続ける大きな星とは木星なのかもしれません。これが、ノストラダムスが諸世紀五巻の53番で予言している『太陽の法と金星の法が競い、予言の意味を先取りし、お互いに相手を無視するが、大いなるメシアの法は太陽によって引き継がれる』の意味です。救世主メシアの法を引き継ぐのは太陽です。それは、バビロンに住み、そこで死んだアレキサンダー大王の残した遺産である天空神ゼウスと太陽神ミトラの二柱の合体太陽神なのでしょうか・・・。ミトラはカソリック教会バチカンの教皇が頭に被る司教冠、そして正教会の主教が被る宝冠の呼称でもあります。二つのミトラ。それが、燃え落ちた王宮があったペルセポリス、夢予言者の云う岡崎市の意味でしょうか・・・。人類を救う二つの太陽を運んでくるのが恐怖を呼ぶ『ネロ・カエサル』とすれば、皮肉で、面白い話ですね。」とアラブ師が言った。

「二つの太陽ですか・・・。それに太陽と月と星が関係するのですか・・・。」と藤原教授と太郎が同時に呟き、お互いに目を合わせた。

そして、大和太郎が言った。

「昭和19年8月24日のひふみ神事には『天にお日様一つでないぞ、二つ三つ四つ出てきたら、この世の終わりと思えかし。この世の終わりは神国の始めと思え臣民よ、神々様にも知らすぞよ。』とあります。」



連邦の光芒25;

東京・溜池のアメリカ大使館  2011年2月14日(月) 午後2時頃


「第五艦隊は司令部をペルシャ湾の島国バーレーンに置いています。そして、ペルシャ湾、紅海、アラビア海、東アフリカ沿岸を担当責任海域としていますが、専任の艦船を保有していません。太平洋の第七艦隊や東大西洋・地中海担当の第6艦隊などから援後艦船を受け入れて活動している。したがって通常の規模は小さいが、問題発生時点でタスクフォース部隊がペルシャ湾や紅海に大量投入されることになってます。FBIの駐留事務所はバーレーンにはありません。カタールのドーハに在るFBI駐在事務所がバーレーンの第5艦隊司令部の保安を担当しています。ブラッククロスのナンバー・ファイブ計画が3月3日に日本で、そして4月8日に世界のどこかで行われる可能性についてはバーレーンのFBI駐在所をはじめ、全FBI事務所には連絡してあります。CIAも情報収集活動を強化した模様です。」とジョージ・ギャリソンが言った。

「警察庁の知人からの情報ですが、三重県の香良洲島も三重県警察本部を中心に対テロ防衛活動を強化したと云うことです。また、公安部ではオメガ教団の札幌支部と高岡支部への家宅捜索を検討中とのことです。」と大和太郎が言った。

「自衛隊の情報本部も情報収修活動を強化したと竹下統合幕僚長が申されていました。テロ計画の場所が特定できれば良いのだが・・・。」と若井良夫が言った。


「しかし、4月8日にバーレーンでテロが起こると仮定して、第5艦隊司令部が崩壊したとしたら、中東情勢はどのようになってしまうのでしょうか?」と太郎がギャリソンに訊いた。

「親米派のアラブ国家はイスラム原理主義国家やテロリストに狙われやすくなるでしょう。中東だけでなく、地中海沿岸諸国にもイスラムの影が忍び寄るでしょう。」


「イスラエルはどうなりますかね?」と若井良夫が言った。

「地中海沿岸諸国よりも危険な状況になるでしょうね・・・。ところで、ミスター若井の方で進めている長門雄二殺害犯人と思われるロシア人と日本人について、何か判ったでしょうか?」とギャリソンが訊いた。

「ロシア人のドミトリー・モロゾフは現在、ロシアのウラジオストックに商談のため帰国しているようです。いつ日本に戻ってくるかは情報が掴めていません。現在のところ、運送会社社長・前田三郎とトラック運転手・月宮恵吉の動きに怪しいところはありません。モロゾフが取り扱う中古車の運搬を前田の運送会社が請け負っているようです。中古車は新潟の港から貨物船に乗せてロシアへ運んでいるようです。なお、前田と月宮はオメガ教団の信者ではなさそうです。」と若井良夫が言った。

「ウラジオストックにはハンス・マルクスも行っているはずですね。」と太郎が言った。

「ハンス・マルクスとモロゾフが会っている可能性があると云う訳か?ウラジオストックからシベリア鉄道でヨーロッパに渡った可能性も考えられるな。」とギャリソンが言った。

「ナンバー・ファイブ計画の打ち合わせ会議でもしているのかな?」と太郎が言った。


「推測はこのぐらいにしよう。ところで、2年前にジョッシュ・オブライエンがグアム島で電話した相手と思われるクルト・ボルマンの詳細情報がスティーブから入った。ボルマンの出身地は南米のアルゼンチンだ。ボルマンはアメリカの東部海岸にあるボストンの工科大学に留学し、その大学の化学部を首席で卒業したようだ。そして、そのままアメリカ企業に就職し、5年後には自分で会社を設立し、現在は東部エスタブリッシュメントと呼ばれる経済界に顔が効く男だ。スティーブの調査では会社設立資金は父親の遺産から出ていたようだ。ボルマンの父親についての詳細情報は不明だがドイツ人であることは間違いないようだ。現在、スティーブ・キャラハンがクルト・ボルマンの行動を見張っている。何かあれば、私のところに情報が入ることになっている。」とギャリソンが言った。

「これからの我々の行動計画は?」と太郎がギャリソンに訊いた。

「ロサンゼルスに行こうと思っている。」とギャリソンが言った。

「ロサンゼルス?」

「オブライエンを殺害したハンス・マルクスと名乗った男が首を吊って死んだロサンゼルスの精神病院だ。そして、三崎和良が首を吊って死んだロサンゼルス警察の留置所も再度調べる。このふたりの死亡には殺人の可能性がある。それを調査したい。太郎とミスター若井にもロサンゼルスに同行してもらい、調査協力をしてほしい。」

「ジョージ、何か新しいことに気が付いたのか?」と太郎が訊いた。

「そうだ。2年前、グアム島に現れたナンバー・ファイブがクルト・ボルマンであるかも知れないと云うことだ。」

「やはり、クルト・ボルマンがナンバー・ファイブか?」

「FBI本部からの情報では、ボルマンの会社は薬品会社だ。私がNSBの捜査員だった時、ボルマンの会社がロサンゼルスの精神病院に出入りしていたのを思い出した。ロサンゼルス警察の留置所にも薬品を納品しているはずだ。それが、ボルマンのファウスト薬品株式会社だ。」

「ファウスト薬品株式会社?」


「そう、ドイツ人・ゲーテの書いた戯曲に登場する人物の名前、ファウストだ。16世紀ころ、神聖ローマ帝国のハイデルベルクに生まれた占星術師であり、錬金術師でもあった実在のヨハネス・ゲオルク・ファウスト神学博士をモデルにしてゲーテが長編戯曲を書いた。宗教改革を行ったマルティン・ルターからファウスト博士は悪魔の力を借りている人物と呼ばれたため、悪魔と契約した人物と噂されている。錬金術で火を使う実験中に爆死し、爆発のため遺体は肉片となって雨散霧消したとされる人物だ。」

「カバラ数5は燃える蛇(天使)と放火魔(悪魔)を意味するのだったな・・・。」と太郎はルル・アラブ師の話を思い出していた。


「その薬品会社は、友恵が注射された自白剤なども製造しているのか?」と若井良夫が訊いた。

「そこまでは調べていないが、その可能性はある。精神病院に出入りしている薬品会社だから、研究実験くらいは行っている可能性はあるね。今後、クルト・ボルマンのことはK・Bと呼ぶことにする。他の人間にK・クルト・ボルマンを追跡していることは知られたくないからな。特にアメリカのFBI本部には知られないように注意してほしい。」とギャリソンが言った。



連邦の光芒26;

カルフォルニア州・ロサンゼルス市内の宿泊しているホテル  2011年2月17日(木) 午後4時頃


ハンス・マルクスと3月3日、4月8日のテロ計画についての追跡調査を行うと云う名目でジョージ・ギャリソンはFBIには届けを出し、ロサンゼルスに来ていた。

一方、大和太郎と若井良夫はギャリソンの協力者であり、その活動の補佐をする目的でFBIから承認を得て、ギャリソンに同行することを許されていた。

ロサンゼルス空港からホテルにタクシーで到着したギャリソンたち3人は、ホテルの部屋に集まり、これからの行動計画について再確認の打ち合わせを行っている。


「日本に居るときに打ち合わせたように行動するが、スティーブから新しい情報が入ったのでロサンゼルスでの調査を終えたらアメリカ東部のボストンへ行くつもりだ。日程調整はロサンゼルスでの調査終了次第とする。」とギャリソンが言った。

「すると、K・Bの動きに何かあったと云う事か?」と太郎が訊いた。

「そうだ。私はこれからFBIのロサンゼルス支局に行き、拳銃と銃弾を借りてくる。日本のFBI駐在局で発行した君たちのFBI調査員証を私に貸してくれるか。君たちの分も借りてくるから。確か、二人とも拳銃の扱いはできるのだったな。ところで、ミスター若井、連絡用の無線機の調達は大丈夫か?」とギャリソンが訊いた。

「今夜、私の勤めていた通信機メーカーのロサンゼルス支店から3人分借りる手はずになっている。小型無線機用の充電装置や小型の盗聴用録音装置も2台借りることになっている。」と若井良夫が言った。

「これからの行動に拳銃が必要になるのか?」と太郎が訊いた。

「ロサンゼルスでは必要ないと思うが、ボストンに行ってからは必要になるかもしれない。それから、無線機の件だが、出来れば4台借りられないかな?」とギャリソンが若井良夫に向かって言った。

「スティーブ・キャラハンの分だな。何とかなるだろう。」と若井良夫が言った。


※ロサンゼルス;

 スペイン領であった時代にスペイン人によって名付けられた町で、スペイン語でLos Angeles とは『(聖母マリアの)天使たち』を意味するらしい。英語に直訳すると The Angels (天使たち)である。



連邦の光芒27;

マサチューセッツ州・ボストン市街の宿泊ホテル  2011年2月22日(火) 午前9時頃


スティーブ・キャラハン、ジョージ・ギャリソン、大和太郎、若井良夫の4人がボストン市街にあるホテルの一室で打ち合わせをしている。スティーブ以外は昨日の夜にロサンゼルスからの飛行便でボストンに到着していた。

一方、スティーブは学生街にある長期滞在向きの自炊ができる安いホテルに宿泊しており、このホテルには自分の車で午前8時ころに到着し、ホテルのレストランで軽い朝食を済ませていた。

車は、スティーブが現在住んでいるワシントンの自宅から自分で運転しながらボストンまで乗ってきたものであった。


「ロサンゼルスの精神病院で暴れる患者を取り押さえる役目の男が二人居なくなっていた。オブライエンを殺したハンス・マルクスを名乗る患者の入って居る病棟の監視担当をしていた男だ。2年前、ハンスを名乗る男が入院した直後に雇われたばかりだったはずだが、そのハンスが首つり自殺をした1ケ月後に精神病院を辞めている。病院の話だと、ファウスト薬品株式会社の営業マンの紹介で就職した男だったようだ。結局、その二人の男は2か月くらい病院で働いて、すぐにそこを辞めている。」とギャリソンがスティーブ・キャラハンに説明した。

「その後のその男たちの足取りはつかめたのか?」とスティーブが訊いた。

「いや、住んでいたアパートも突然借りて、2か月半後にはそのアパートを引き払っている。名前はたぶん偽名だろう。二人の男を紹介したファウスト薬品の営業マンもハンスと名乗る患者が死亡した半年後にファウスト薬品のボストン本社に転属となったらしい。その営業マンはクレイグ・ドナヒューと云う名前だ。病院の薬剤師の話だと、ドナヒューはロサンゼルスには3年間、ファウスト薬品の営業マンとして居たそうだ。」

「クレイグ・ドナヒュー?」とスティーブが訊き直した。

「そう、クレイグ・ドナヒューだ。」

「その名前の男なら、K・クルト・ボルマンの側近に居るぞ。K・Bの邸宅に度々きている。ファウスト薬品の営業本部長で会社の営業状態の報告に来ているのだと思っていたが、もっと違う目的でボルマンと会っているのだろうか?」

「いや、単なる営業本部長で、秘密結社ブラッククロスと関係があるかどうかは不明だ。しかし、精神病院に紹介した二人の男の素姓は知っているはずだ。明日、ファウスト薬品の本社に行ってクレイグ・ドナヒューに会ってみることにしよう。」とギャリソンが言った。


「三崎和良の留置所での死亡事件に関してはどうだった?」とスティーブが訊いた。

「いや、新しい情報は手に入らなかった。むしろ、黒石千代子の白骨死体事件に新しい手掛かりがあった。黒石千代子の足取り調査をしたロサンゼルス警察の刑事の話では、千代子は3回くらいファウスト薬品のロサンゼルス支店を訪問していたらしい。三崎和良は思春期に刑事事件を起こしたことがあり、その時、精神病と裁判所から認定されたた時期があったそうだ。1980年ころ、日本に居た三崎和良がノイローゼ気味で、ファウスト薬品の薬を定期的に飲んでいたらしい。しかし、効果がないインチキ薬だと日本に居た三崎和良が抗議文書を書き、ファウスト薬品のロサンゼルス支店へは三崎の知人であった黒石千代子が三崎の書いた抗議文書を持参し、慰謝料の支払いを要求していたらしい。」とギャリソンが言った。

「やはり、ファウスト薬品が関係しているのか。」とスティーブが言った。

「しかし、どうも慰謝料請求と云うのは作り話ではないかと云うのがその刑事の印象だったそうだ。抗議文書は見つかっておらず、当時、黒石千代子は横浜市内にある自分の店で売るための品物を個人輸入するためロサンゼルスに度々来ていようだ。それは表向きの話で、何かの情報入手か誰かとの連絡のためにアメリカへ来ていたのではないかと、ロサンゼルス警察のその刑事は推理していたようだ。」

「黒石千代子には他の目的があった訳か?」

「まあ、どこかの組織の情報員ではなかったか、と云うのがその刑事の印象らしいが、結局は捜査が行き詰まったようだ。」

「どこかの組織の情報員?」とスティーブが訊いた。

「まあ、ファウスト薬品の女性事務員や営業員から聞いた話を総合してのその刑事の直感と云うところらしい。三崎和良が黒石千代子の白骨死体発見を知ってファウスト薬品のロサンゼルス支店を訪問したと云う話は聞いていないが、まあ、ファウスト薬品が絡んでいるのが気になるところだ。」とギャリソンが言った。

「三崎は黒石が情報員であることを知っていたのでは。例えば、黒石千代子と三崎和良は同じ組織の情報員であったとか?」と若井良夫が言った。


「まあ、種々の推測は可能だが、3月3日が近づいた現時点ではファウスト薬品とブラッククロスの関係を明らかにする事を優先したい。そして、早急に、テロ計画の場所を特定することに全力を注ごう。」とギャリソンが言った。


「判った。では、俺からK・Bに関する状況を説明する。」とスティーブが言って、話を続けた。

「K・Bはアルゼンチンのロサリオと云う都市の出身だ。ロサリオは首都のブエノスアイレスから300キロくらい北西に離れたところにある都市だ。高等学校を卒業後、ここボストンにある工科大学に留学し、化学部を主席で卒業している秀才だ。K・B本人が言うには、父親は第二次世界大戦後にドイツから移民としてアルゼンチンに渡った職人だったようだが、父親について本人の言っている内容以外の詳細な情報はない。言語は英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語を話す様だ。大学卒業後はアメリカの製薬会社に就職し、その後、独立して現在のファウスト薬品株式会社を設立し、現在のような大きな薬品会社に成長させた。アメリカの永住権を取得しており、東部エスタブリッシュメントと呼ばれる経済界に人脈を持っている。K・B本人は『ドイツ系アメリカ人』を自認しているようだ。結婚をして夫人が居るようだが、子供はいない。お互いによそよそしいところがあり、偽装結婚ではないかと云う人物もいるが、確証は無い。平日は仕事の関係でボストン市内の高級マンションに住んでいるが、週末はマサチューセッツ州の隣のニューハンプシャー州・ウォルフボロと云う湖畔の町にある大邸宅で過ごすことが多い。ボストンからウォルフボロまで車で2時間半くらいで行ける距離だ。ただ、今週の予定では明日の水曜日からは会社には来ないで、その大邸宅で週末まで過ごすらしい。大邸宅にはヨーロッパなどの外国からの訪問客が度々来ているようだ。今週も訪問客があるから水曜日に戻って行くのだろう。大邸宅にはガードマンが3名いる。ガードマンは全部で9人おり、時間割りに従って交代で勤務している。一人は警備室内の監視カメラを見張り、残り二人のガードマンはドーベルマン犬を連れて邸宅内を歩きながら警備している。大金持ちとはいえ、一般人にしては警備が厳重過ぎる邸宅だ。何かあると思われる。我々もK・Bを追ってウォルフボロに行き、K・Bの大邸宅の中を調べる計画だ。大邸宅への侵入計画については今夜話す。今日の太郎とミスター若井の行動計画は、ボストン市街の見学だ。地図を手に入れて、ボストン市内の交通網などをゆっくり見学しておいてくれ。私とジョージはファウスト薬品株式会社の本社ビル周辺の調査と邸宅侵入用機材の入手に動く。」とスティーブが言った。

「事前調査で大邸宅家屋の部屋配置などは調べられなかったのか、スティーブ。」と太郎が訊いた。

「建築業者や電話工事会社、電気工事会社などに当たったが、外部からの引き込み口までの工事は請け負っているのだが、家屋内の配線工事は請け負っていなかった。どうも、家主の知り合いに工事させているとの評判だった。だから、家屋内の部屋割を知っている工事屋はいなかった。」

「なるほど。ブラッククロスの要員である技術屋に工事させたと云う事かな・・。」と太郎が言った。


※ボストン;

日本では、横浜高校出身の松坂大輔投手が所属する大リーグ野球チーム・レッドソックスの本拠地で知られている。しかし、街の歴史は古く、1630年にイギリスから来たキリスト教の清教徒ピューリタンたちがボストンの下町にあるショーマット岬に居住したのが始まりである。彼らはこの地をニューイングランドと呼び、この地方にある6州の中心地である。また、アメリカがイギリスに対して起こした独立戦争の発祥地(1776年7月4日の独立宣言)としても有名であり、独立戦争を記念した建造物が多くある土地である。1783年、アメリカからのイギリス撤退時点(正式なアメリカ独立時)の東部13州のうちの4州がニューイングランド地方にある。アメリカ独立戦争の勝利を左右する戦闘があった南部のムーアズ・クリーク橋と云う古戦場は、ジェームス・ムーアと云う元イギリス海軍大佐が総指揮した独立派軍が勝利した地である。ジェームス・ムーア大佐はアメリカ13州の独立後、ボストンにある『7破風の家』と呼ばれる大邸宅に住んだようである。7破風の家とは七つの切妻屋根を持った古い屋敷を意味し、魔女狩りを題材にした有名な推理小説に登場するので、現在ではボストンの観光名所にもなっている。ある霊能者に謂わせると、『アメリカ経済界で活躍した元ソニー会長・盛田昭夫氏の背後霊・指導霊は独立戦争で活躍した海軍の軍人』であったらしい。盛田昭夫氏は太平洋戦争時代には日本海軍の技術少佐をしていた人物であるが、海軍の繋がりだけでなく、盛田氏の先祖を辿ると、このムーア家に行きあたるのかも知れない・・?

ボストン出身のケネディ大統領が卒業したハーバード大学もボストン近隣のケンブリッジにある。ハーバードと云う校名は1636年の大学設立時の後援者ジョン・ハーバードの名前を取ったようである。当時のアメリカでは学校設立に資金を提供する人物の名前を校名にする場合が多かった様である。日本の横浜市にあるミッション系のフェリス女学院なども、創立時の後援者であったジョン・メーソン・フェリスの名前を校名にしている。



「ところで今朝、このホテルのロビーでアメリカ海軍情報部の人間を見かけたが、ジョージの知り合いか?」とスティーブがジョージ・ギャリソンに訊いた。

「ロビーにアメリカ海軍情報部の人間が居た?知らないな。」

「6年くらい前かな、まだ、俺がサンフランシスで私立探偵事務所を開いていたころの事だ。CIAの仕事を手伝っている時、サンディエゴにある海軍基地で見たことがある男だった。一緒に行動したことはないが、CIAと海軍情報部の合同会議で2回くらい姿を見かけた記憶がある。確か、カール・セーガンとか云う名前だったな。天文学者と同じ名前だったのでよく覚えている。」とスティーブが言った。

「我々とは関係のない仕事で来ているだけじゃないのか?」とギャリソンが言った。

「まあ、そんなところかも知れんな・・・。」とスティーブが答えた。

「その相手はスティーブに気が付いたのか?」と太郎が訊いた

「いや、目が合ったが、相手は俺の事を覚えていないようだったな・・・。何か気になるのか、太郎?」

「いや、俺たちを追ってロサンゼルスから来たのではないかと思っただけだ。」

「ロサンゼルスから追って来た?」

「偶然にしては、ちょっとな・・・。」

「偶然ではないと思うのか、太郎は。」とギャリソンが言った。

「ああ。我々はロサンゼルスで三崎和良やその妻・三崎一子、黒石千代子についてロサンゼルス警察や精神病院に行っていろいろな話を聞き回ったからな。海軍情報部の情報網に引っかったのかも知れんと思ったまでだ。」と太郎が言った。

「海軍情報部が三崎和良の周辺を調べていると思うのか?」とスティーブが言った。

「ジョージが私の探偵事務所に最初に来た時に話した事がある。『三崎一子が生死の境を彷徨さまよっている時、ロサンゼルスから三崎一子を日本移送するのに際し、アメリカ軍のヘリコプターが動員された理由が何なのか?三崎和良がアメリカ軍を動かせる理由は何なのかに疑問点がある。』とジョージが言ったのを覚えている。」

「なるほど。三崎和良と一子、あるいは、黒石千代子がアメリカ海軍情報部と関係していると仮定すると・・・か?」とジョージ・ギャリソンが言った。

「もし、それが事実なら、面白い推理が出来そうですね。」と太郎が言った。

「そうだな。その海軍情報部の奴と話をしてみるか・・・。」とギャリソンが太郎にウィンクをして見せた。

そして、元情報部に勤めていた若井良夫が呟いた。

「大きな組織は金品で買収した情報提供者を公的機関や企業などの中に持っているのが通例だからな・・・。そして、情報部員も時々潜入させる場合もあるし、偽証させる刺客を送り込んだりもするからな。」



連邦の光芒28;盗聴準備

ニューハンプシャー州・ウォルフボロの大邸宅  2011年2月24日(木) 夜中の3時頃


ギャリソン、スティーブ、太郎の3人は赤外線スコープを透して、大邸宅内の庭にある物影から建物を眺めていた。

建物家屋は切妻屋根のある大きな、そして古い木造の建物で、2階建である。屋根裏部屋を含めると3階建てと云えるような古風な建物であるが高級感を漂わせている。いかにも貴族の住む家と言った風情である。

ギャリソンは建物の東側にある大きな木の下、スティーブは西側の茂みの中、太郎は建物の裏である北側の人物彫刻群の背後に居た。

そして、建物の南側にある大きな庭園にはドーベルマン犬を連れた2人のガードマンが歩いていた。庭園のところどころには街灯のポールが立っている。もう一人のガードマンは家屋の東北角にある小さい警備室内で監視カメラの映像を見張っている。監視用のモニターテレビなど機材が置かれているため、小さな警備室内はかなり手狭になっていた。

風向きが南からなので、太郎たち3人の匂いはドーベルマン犬には届いていないのが3人にとっては幸運であった。否、ドーベルマンにとっても幸運であったのかもしれない。この3人の北辰会館の実戦空手家にとって、襲いかかってくる猛犬を一撃で倒す技術は鍛練を通じてしっかりと身についているのであった。


3人は携帯無線機で連絡を取りながら、建物の状況を確認し合っている。

大邸宅の外に停車した黒い色のワンボックス車の中では、若井良夫が3人の会話を傍受しながら、3人の背中に取り付けた赤外線映像対応の無線カメラから送られてくる映像を見ていた。3人の背後から敵が近づいた時に無線で知らせるため、若井良夫が彼ら3人の背後をカメラ映像を通じて見張っているのであった。

「会議が開かれるような大きな部屋が見つかればいいのだが。そして、上手く盗聴器を設置出来ればいいのだが・・・。」と若井良夫は思った。

そして、若井良夫の横にはロサンゼルスから来たアメリカ海軍情報部のカール・セーガンが座っていた。


「俺が睡眠ガスで警備室内に居る奴を眠らせた後、連絡を待って手はず通り、太郎とスティーブが屋内に侵入し、適当な部屋を見つけて盗聴器を設置してくれ。設置作業は20分以内でたのむ。ボンベのガス容量は20分だから忘れないでくれ。俺は眠っている警備室内のガードマンと庭に居るガードマンの動きを見張っておく。何かあったら無線で連絡する。では行動を開始する。」と言ってから、ギャリソンが背中のリュックサックから短いチューブの付いた小さなガスボンベを取り出して、警備室の窓際に近づいて行った。

盗聴器を取り付けた事をブラッククロスに知られるといけないので、侵入者がいたと気づかれてはいけないのであった。そのため、ガードマンやクルト・ボルマンを眠らせ、その間に盗聴器を仕掛ける計画であった。

睡眠ガスボンベは盗聴用のワンボックス車と一緒にカール・セーガンが海軍情報部ボストン支部から秘密裏に借りてきたものであった。海軍情報部の上層部にはブラッククロスの一員が入り込んでいる可能性もあるので、知人の機器管理担当に頼んで、個人的な盗聴訓練で使用すると云うことにして機材類を借用してきたのであった。


「これは、困ったな。」とギャリソンが言った。

「どうした?」とスティーブが訊いた。

「警備室の窓が二重ガラスになっている。屋外と室内の温度差でガラス窓が結露で曇っていると予想していたが、中に居るガードマンから外に居る俺の姿が見えてしまう。そのため、フッ化水素酸溶液でガラスを溶かして小さな穴をあけるのが難しい。睡眠ガス放出用のチューブが室内に入れられない。」とギャリソンが答えた。

「どうする?」とスティーブが訊いた。

「エアコンの室外機からのホースが壁を通じて室内に通じていないのか?」と太郎が訊いた。

「いや、暖房はセントラルヒーティングになっているようで、個室用のエアコンは設置されていないようだ。」とギャリソンが言った。

「屋外設置の監視カメラや拡声スピーカーから屋内に通じる信号線の引き込み穴はないのか?」と太郎が訊いた。

「ああ、あるな。少し高いところの壁にケーブル引き込み用の壁穴あるが、あそこからチューブを差し込むか・・・。肩車をしてほしいから一人こっちに来てくれ。」とギャリソンが言った。

そして、家屋の北側にいた太郎が東北角にある警備室横に駆けつけた。

太郎の両肩を踏み台にしたギャリソンが道具を使って壁にチューブを通し、催眠ガスを警備室内に送り込んだ。


ガスを注入してから10分くらいすると警備室のガードマンが眠り始めた。それを見届けて、ガスマスクを着用した3人は警備室の屋外に通じるドアーから屋内に入った。盗聴器を仕掛けるべき部屋を探しに、太郎とスティーブが階段を登って行った。ギャリソンは警備室内に残り、庭園のガードマンの動きを監視カメラ映像で追いかけた。傍で眠っている男には軽い睡眠薬を飲ませた。

その時、クルト・ボルマンは自室でぐっすりと眠っていた。

太郎とスティーブは会議が行われそうなクラシックな部屋を見つけ、中に入った。

その部屋には10個のクラシック調の布張り椅子が大きな円卓のまわりに置かれていた。

そして、その円卓の中心にはローマのバチカンのやや大きめの模型が置かれていた。

それはサン・ピエトロ大聖堂とそれに隣接するシスティーナ礼拝堂の模型であった。

太郎はサン・ピエトロ大聖堂の模型のドーム屋根が取り外せるのを見つけた。そして、デザイナーがモックアップを造る時に使う発泡スチレンで出来ているそのドーム屋根の内側に穴を開け、その穴の中に盗聴マイクを埋め込み、ドーム屋根を元通りに取り付けた。



連邦の光芒29;ブラッククロス会議

ニューハンプシャー州・ウォルフボロの大邸宅近く  2011年2月26日(土) 午前10時頃


大邸宅の近くに停車した黒い色のワンボックス車の中で3人の男が盗聴している音声に聞き入っていた。一方、大和太郎とスティーブ・キャラハンはジョギング服を着用して、ワンボックス車の周りを走りながら、ガードマンの動きに注意を払っていた。耳には、携帯無線のヘッドホンをしており、外見上はウォークマンで音楽を聞きながらジョギングをしている人を装っていた。


「会議が始まる前から盗聴を防ぐ為の妨害電波が発信されている。しかし、アメリカ海軍情報部が極秘裏に開発した盗聴装置を使っているから、なんとか音声は聞き取れる。」とカール・セーガンが言った。

「どのような技術なのですか?」と通信機メーカーの重役であった時の技術情報収集の癖が抜けきれない若井良夫が訊いた。

「技術屋でないから詳しくは知らないが、既存の周波数変調方式とは異なるスクランブル変調とか云う特殊電波変調方式を開発したようだ。デジタル技術と暗号技術をミックスして音声情報欠落補正を行い、更に、ノイズに強いFM変調電波の側波帯強調性を応用した技術と特殊電波フィルター回路をミックスした複合技術を用いているらしい。このボリュームを回して妨害電波の強弱に対応した音声増福を行うことができる。」とカール・セーガンが若井良夫に説明した。

「なるほど・・・。」と若井良夫が感心して呟いた。


破風のある建物の中では集まって来た10人が2階の大広間で会議を行っていた。

クルト・ボルマンを除く9人はそれぞれのヘリコプターで庭園の西側に在る着陸広場に舞い降りて来た人物たちであった。


「ナンバーファイブ計画の実行準備は整っている。」とクルト・ボルマンが言った。

「2年前のように失敗はないだろうな。」

「あの時は台風シンラコウが巡行ミサイルの邪魔をしたために失敗した。しかし、今回は現地で直接爆破させる計画だ。邪魔になるものは何もない。すでに、それぞれの現地に5人のテロリストが潜入し、爆破の12時間前に時限装置のスイッチを入れるだけだ。」とクルト・ボルマンが答えた。

「3月3日と4月8日だったな。」

「その通りだ。」

「事前に爆発物が発見されてしまうことはないのか?」

「大丈夫だ。他人が出入りできる場所ではない。テロリストのみが出入りできる場所に爆弾は置いてある。」

「テロリストが臆病風に吹かれることはないのか?」

「筋金入りの人物を選定してあり、その心配はない。」

「3月3日が失敗すれば、4月8日の実行に大きな負担がかかると思わねばならい。なんとしても、オカザキを火で破壊するのだ。ナンバーファイブに課せられた使命は重要だ。」

「十分に承知している。」とボルマンが答えた。


「3月3日は香良洲島ではなく、岡崎か・・・。しかし、4月8日の場所は・・・?」と転送されてくる盗聴音声を聞きながら太郎が呟いた。


「今日の会議目的はナンバーファイブ計画が成功した後の活動目標を確認することだ。ナンバーセブン、計画の進捗しんちょく情況を説明してくれ。」

「アフリカ北岸地域での計画は順調に進んでいる。この地域にカルタゴを再現させるには後2年かかるが、障害は取り除かれ始めている。同志諸君、我が神聖ローマ第4帝国ブラッククロスのラストバタリオン(最新・最後の軍隊)が地中海地域に舞い降りる時は近い。砂漠のきつね・ロンメル将軍の再来を実現しましょう。そこから、新しいハンニバル将軍が誕生するのです。そして、中東からヨーロッパに向かう男はこの世にもう生まれている。」とナンバーセブンと呼ばれている男が言った。

「マスメディアによる報道は知っているが、NATO軍による攻撃力と情報網をあなどってはいけない。秘密工作は慎重に進めてほしい。ところで、フランスのパリは支配出来ているのか?」

「5年後には『燃えているパリ』をお目にかけましょう。そのためには、中東でのナンバーファイブ計画が成功していなければなりません。また、マスメディアによる情報操作の方もよろしく、ナンバーシックス。」とナンバーセブンが言った。

「神の計画の実現する日は確実に近づいている、同志諸君。」とナンバーワンと呼ばれている男が言った。


会議を終えた9人の男は、乗ってきたそれぞれのヘリコプターで飛び去って行った。

妨害電波のため、盗聴装置と異なり、屋外の木立に取り付けた電波発信式ビデオカメラの映像が受信でき無かった。そのため、ギャリソンたち5人はクルト・ボルマンを除くブラッククロスの9人の男の顔を確認できずに終わった。



連邦の光芒30;ブラッククロスの狙い

東京溜池のアメリカ大使館  2011年3月1日(火) 午前10時頃


太郎とギャリソンと若井良夫が会議室で話しあっている。

「現在、日本の公安警察、現地警察、テロ対策緊急部隊が岡崎市内をくまなく調査していると、警察庁の半田刑事局長補佐から連絡がありました。」とギャリソンが言った。

「3月3日のターゲットが岡崎市と云うことは判ったが、4月8日の場所が不明です。」と太郎が言った。

「確かに、奴等は用心深いな。会議でも、重要な固有名詞をほとんど出さなかった。暗黙の了解と云うやつだな。判ったのは岡崎だけだからな。」とギャリソンが言った。

「いや、ナンバーセブンは神聖ローマ第4帝国と言っていたな。ブラッククロスとは、あのナチス・ドイツの神聖ローマ第3帝国を引き継ぐ組織なのだろうか。そして、現代に生まれたハンニバルがパリを燃やすと取れる表現もしていた。」

「現代のハンニバルは誰か?それに、中東からヨーロッパに向かう男がすでに生まれているとも言っていたな。そして、神の計画とは何かだろう?」

「岡崎に絡んで思いつく場所がある。」と太郎が言った。

「それはどこだ?」

「ペルセポリスだ。」

「ペルセポリスが4月8日の爆破ターゲットと云うのか?」

「ジョージは日本が世界の縮図である、と云う説を聞いたことはないか?」

「ああ、知らないな。」

「そうか。日本の北海道は北アメリカ大陸、本州はユーラシア大陸、九州はアフリカ大陸、四国はオーストラリア大陸、淡路島は南米大陸を小さくした図形になっていると云う説だ。」と太郎は日本地図と世界地図をテーブルの上で広げながら言った。

「なるほど、日本は世界の縮図か。さしずめ、ロサンゼルスは札幌だな。」とギャリソンが地図を見ながら言った。

「ペルセポリスは中東のイランにあるアレキサンダー大王が燃やしたペルシア時代の都市遺跡の名前だ。岡崎市の場所を世界地図に置き直すと、そのペルセポリスがあった場所に相当するのではないかと思われる。」と太郎が言った。

「それで、ブラッククロスの奴等は、3月3日の成功が4月8日に関係すると考えていた訳か。すると、そのナンバーファイブ計画と地中海支配を目指すナンバーセブン計画の関系は何だ?」

「古代カルタゴの将軍ハンニバルはフランス側からアペニン山脈を越えてローマ帝国を襲った。そして、その後、イスラム勢力がローマ帝国を滅ぼした。中東からヨーロッパに向かうイスラム人がローマを襲うのかもしれない。それがブラッククロスの謂うところの神の計画だろうか?ペルセポリスは古代遺跡があるだけだ。ペルセポリスの近くにあるシーラーズと云う都市が4月8日のテロのターゲットである可能性が大きいのではないだろうか?」と太郎が言った。

「シーラーズの爆破テロがアレキサンダー大王の再来であるヨーロッパのNATO軍の仕業と見せかける訳か?それとも神聖ローマ帝国十字軍の再来を思わせる何かが・・・。すなわち、ブラッククロスが表面に躍り出てくる訳か・・・?いずれにしろ、イスラム人のヨーロッパへの敵愾心をあおるのが目的だろう。」

「ブラッククロスとは神聖ローマ帝国時代から受け継いだドイツ空軍のマーク『黒い十字』と云う訳か。それで、奴等は第3帝国ナチスドイツの残した第4帝国ラストバタリオンが地中海に舞い降りると表現したのか・・・。」と太郎が言った。

「4月8日のシーラーズに於けるテロ計画については第5艦隊に連絡しよう。アメリカ海軍からサウジアラビアを通じてイランに情報が渡るようにする。」とギャリソンが言った。

「イランはロシアと原子力発電で協力関係にあるから、ロシアを通じてイランに連絡してもらうのも必要かもしれないな。ロシアの対テロ部隊だとイラン国内での活動許可が出るだろう。万一、テロ対象都市がペルシア湾岸にあるブーシェルだと大変だからな。」と太郎が言った。

「確かに、太郎の言う通りだな。ブーシェルには原子力発電所があるから、そこが爆破対象だったら大変な事になるな。CIAからロシア大使館にも連絡してもらうことにする。」とギャリソンが言った。

「ブラッククロスの狙いはローマを火の海にし、キリスト教カソリック教会の総本山バチカンの終りを実現し、神聖ローマ帝国を実現することだろう。イスラム教国と手を結んだ神聖ローマ帝国のフリードリッヒ2世と同じようにバチカンと敵対するドイツ第4帝国ブラッククロスを創り、キリスト教を終わらせる計画だろう。その為にはヨーロッパ人テロ集団による犯行と見せかけると考えられる。」と太郎はルル・アラブ師の話を思い出しながら言った。

「キリスト教を終わらせる?」

「たぶんな・・・。ブラッククロスの奴等は神の計画を実現するために動いていると思っているようだが、それは違う。人間の勝手な思い込みで正義に反する行為をするから自然宇宙の法則によって人間の破滅が近づいてくるのだ。神は人間が間違った行為をすると、こう云う結果になると見透し、警告されているのだ。人間が悔いあらためて、心清く、正しい行為をすれば破滅が訪れることはないはずだ。イエス・キリストはユダヤ最高法院サンヘドリンと呼ばれたユダヤの指導者である律法学者やパリサイ人たちの指導内容の間違いを指摘したため、サンヘドリンの陰謀によって悪者にされローマ軍に捕らえられたのだ。サンヘドリンたちの残した間違いが現在まで続いているので、神は、バチカンが破滅に向かっていることを教えるため、聖マラキを遣わし、予言で警告したのだろう。また、サンヘドリンの末裔が穢した地域はもう清めることが不可能になったのだろう。だから、火で焼き払わなければならないのかもしれない。また、人を殺すことは許せない。『汝、殺すなかれ。』とヤハウェはモーゼに伝え、旧約聖書に記されたはずだ。ブラッククロスは間違っている。まず、目前の危機にある岡崎市を救うことが我々の使命だろう。」と太郎が怒りを抑えながら言った。


「爆弾やテロリストの発見には何が必要か、だが・・・。太郎、何か案があるか?」とギャリソンが訊いた。

「徳川家康が誕生した場所とされる、岡崎市の岡崎城内には龍城たつき神社がある。そこには、岡崎を守ると宣言した龍神が住んでいるとされる。」

「神だのみか・・・?」

「今は、出来ることは何でもしておきたい。後で悔やまないようにしたいからな。」

「よかろう。で、どうする?」

「頼れる人物に岡崎城に来てもらう。もう時間がない。今日中に、岡崎に行こう。」と太郎が言った。



連邦の光芒31;岡崎の龍神

愛知県岡崎市内の岡崎城  2011年3月2日(水) 午前10時頃


宝達奈巳が龍城たつき神社の本殿で祝詞を唱え、更に呪文を唱えている。

そして、宝達奈巳は柳の五つ衣に燃えるような紅色のはかまを着ている。

その背後には大和太郎とジョージ・ギャリソンが手を合わせて座っていた。


『ノーマクサーマンダ バーザラダンセンダ マカロシャーダ ソワタヤ ウンタラ タカンマン』


中臣祓いの祝詞を奏上した後、宝達奈巳は呪文を繰り返していた。

右手で印を切り、左手はヒスイの数珠を握って胸元で構えられている。

「今、5柱の龍神が空に向かって飛び出して行かれました。」と宝達奈巳が言った。



岡崎市水道局  2011年3月2日(水) 午前10時30分頃


「おい、市内の4ケ所のビルで水道管が破裂して、水が噴き出しているらしい。至急、工事会社に連絡してくれ。」と課員から報告を受けた水道課長が叫んだ。

「4ケ所同時とはな、参ったな・・・。」と課長が呟いた。



岡崎市内の某ビル  2011年3月2日(水) 午前11時30分頃


水道管破裂の騒動で多くの野次馬が集まっていた。

その中には、テロ爆弾を探している現地警察の制服警官の姿もあった。

「おい、この大きい木箱を動かしてくれ。」と水道工事の作業員が叫んだ。

ビルの管理人がその木箱を動かそうとしたとき、手助けしようと思った二人の警察官が木箱に近づいてきた。

それに気づいた管理人が走って逃げ出した。不信に思った警察官はその男を追いかけて捕らえた。

そして、その木箱には時限爆弾が入っていた。

そして、同様の水道管破裂した他の場所からも時限爆弾が発見され、その管理人たちも逮捕されたのであった。


その日、岡崎市の青空には大きな白い雲が5本、細長くたなびいていたらしい。

しかし、局地的には夕立雨ゆうだちが降って春雷しゅんらいが鳴ったようである。



愛知県岡崎市内の龍城神社内  2011年3月2日(水) 午前12時 頃


龍城神社本殿での祈祷を終えた太郎たち3人は社務所の休憩室に居た。

そして、太郎の携帯電話が鳴った。東京の半田警視長からの電話であった。


「岡崎市内の4か所から大掛かりな時限爆弾が発見されたのですか。それは良かった。しかし、爆弾はもう一個あると思われます。ブラッククロスの会議では5人のテロリストが派遣されたと言っていましたから。」と太郎が言った。

「あと一つある?どこか判りませんかね、大和探偵。」と半田警視長が訊いた。

「はあ・・・。ブラッククロスの考えではイランのペルセポリスが本命の爆破地です。岡崎市の爆破はペルセポリスでの成功への試金石と云った考え方をしていました。ペルセポリスと岡崎市の霊的な繋がりを意識しているようでしたね。」

「それは、先日の電話で大和探偵が話しておられたペルセポリス古代遺跡のことですね。そうですか・・・。ところで、岡崎市には古代遺跡はありましたかね?」と半田警視長が訊いた。

「確か、岡崎市丸山町字亀山に亀山2号墳と呼ばれる古墳がありましたね。その古墳から画文帯神獣鏡が出土していました。たぶん、雄略天皇時代の親衛隊長か側近の墓ではないか考えられます。そのあたりは亀山古墳群と呼ばれ、多くの古墳があるようです。その近くには岡崎中央総合公園があります。確か、岡崎美術館などもあったと思います。」と太郎は田代幸造と橘幸平の失踪事件があった時に藤原教授に調べてもらった話を思い出して言った。

「アレキサンダー大王の東征と雄略天皇の東征を比較対照するとイランのペルセポリス遺跡は日本では丸山古墳群に比定できますかね。なるほど、亀山古墳と総合公園ですね。早速、調査させます。」と半田警視長が言って電話を切った。



連邦の光芒32;

東京溜池のアメリカ大使館  2011年3月3日(木) 午前10時頃


「4月8日の爆破テロのターゲット都市がイランのペルセポリス遺跡、あるいはシーラーズと仮定して、それを確認する方法はあるかな。」とギャリソンが太郎に訊いた。

「昨日、岡崎市内から5個の爆弾が発見されたことだけでは確かにペルセポリスがテロのターゲットと断定できないからな・・・。ウラジオストックに渡ったハンス・マルクスがイランの何処に姿を現わしているかどうかだろうかな。」と太郎が言った。

「岡崎で逮捕された管理人たちはオメガ教団から送り込まれた信者だったが、木箱の中身が時限爆弾だとは知らなかったようだ。3月2日の12時に訪問してくる人物を木箱のところまで案内する役目だったらしい。イラン人の教団信者がいるかどうかだが、イスラム教の国でオメガ教団の信者がいるのかどうかだが。それとも、ヨーロッパ人が侵入しているのかだが・・・。」とギャリソンが言った。

「アメリカやヨーロッパに敵意を持っているテロリストなら沢山いるだろう。爆破犯人はヨーロッパ人と見せかければいいのだから、実行犯はアラブ人でもいい訳だ。」と太郎が言った。

「なるほど、正真正銘のテロリストが爆弾を管理している訳か。ハンス・マルクスについてはCIAが追跡しているが、まだ、マルクスの存在場所の情報は入っていない。また、ロシア人の中古車販売業者ドミトリー・モゾロフについてもCIAが調査している。」とギャリソンが言った。

「ドミトリー・モロゾフはロシアに帰ったまま、まだ日本には戻ってきていない模様だ。少なくとも、大田区久が原の自宅マンションには戻っていない。また、大田区にある運送業者の前田三郎たちにも会ったと云う形跡はない。ハンス・マルクスと会っているかどうかだな。オメガ教団とブラッククロスの繋がりを考えると、二人が会っている可能性は高いだろう。」と若井良夫が言った。

「そうですね。ミスター若井は引き続きモロゾフや前田たちの動きに注意を払っておいて下さい。私はこれからアメリカ海軍横須賀基地の第7艦隊本部に行って、友人のロナルド・ヒューズと会ってくる。私の上司も同行する予定だ。昨日、電話でイランのペルセポリス遺跡近郊都市におけるテロの可能性については知らしてあるが、今後の活動について議論してくる。場合によっては第7艦隊司令長官と話すことになるだろう。」とギャリソンが言った。

「俺は、ちょっと調べたい事があるので静岡県の伊豆半島にある伊東市へ行ってきます。」と太郎が言った。

「伊東市へ何用ですか?」と若井良夫が訊いた。

「宇宙の惑星について、昔の知り合から話を聞いてきます。近未来の地球を取り巻く環境変化についての意見を聞いてきます。」

「それが、ブラッククロスと関係してくるのか?」とギャリソンが訊いた。

「たぶん、と云ったところだが・・・。ちょっとピントがずれているかも知れないが、気になるので・・・。」と太郎は歯切れの悪い返事をした。



連邦の光芒33;

伊東市の宇宙絵画館  2011年3月4日(金) 午後2時頃


東京駅を午前11時に出発した特急スーパービュー踊り子号に乗った大和太郎が伊豆急行電鉄の伊豆高原駅に着いたのは午後1時過ぎであった。

駅前からバスに乗り、バスを降りて大室山麓にある宇宙絵画館に着いたのは午後2時前であった。

宇宙絵画館には石崎和彰が描いた惑星などの宇宙細密画が展示されている。また、星空の映像を楽しめるプラネタリウムや惑星を直接観望出来る直径60センチの凹面鏡を使った反射型宇宙望遠鏡が屋上天文台にあり、宇宙ファンで賑わっている。

石崎和彰は画家だけでなく、天文観測を通じて宇宙学者としても有名であった。


館長補佐の丹葉女史に応接室に案内され、しばらくすると石崎和彰が現れた。

「先生、お久しぶりです。」と大和太郎が言った。

「何年ぶりですかね・・?」と石崎和彰が言った。

「S社で営業マンをしていた頃ですから、15年くらい前ですか・・・。先生の発案で製造した天文マニア向けの特別製近赤外線ビデオカメラを販売させて頂いた時以来です。」と太郎が言った。

「そうでしたね。当時、『スペースシーンカメラ・リメイクこと、SSC−REM』と命名しましたかね。今でも太陽のフレアやガス型惑星である土星、木星の観察や録画に利用していますよ。ところで、本日のご用件は?」と石崎和彰が訊いた。


「その、木星の件でお話を伺いたいのです。」と太郎が言った。

「西洋ではローマ神話に登場するジュピターの名で呼ばれ、一つ眼の大赤班を持ったガス惑星の木星ですか。で、どう云った事を知りたいのですか?」

「木星が太陽に変身することは可能でしょうか?」

「あっはっはっはー。また、突然に何をおっしゃるのかと思いましたら、相変わらず大和さんは面白い方ですね、全く・・・。」と大きな目をしている石崎和彰が目を更に大きく見開いた。

「申し訳ありません。」と太郎が頭を掻きながら言った。

「木星はもう少し質量が大きければ太陽のように燃えている星になっただろうと謂われている太陽系の惑星です。表面を覆う重水素ガスやヘリウムガスを利用して原子核融合を起こさせれば地球にとっては太陽と同じようにエネルギー源となり得るとされています。1994年にシューメーカ・レビ彗星群が衝突し、局地的な爆発は発生しましたが、原子核融合は起こりませんでした。」

「星が衝突すれば核融合が発生するのですか?」

「かなり大きな星が衝突して、木星の地表で高圧力が発生すれば核融合が起こるかも知れません。しかし、木星全体が核融合状態になるにはプラズマ電流が発生しなければなりません。すなわち、巨大な磁力線エネルギーを必要とします。現在、木星から電磁波が発信されていることは観測されていますし、木星を取り巻く磁力線の存在も観測されています。したがって、これは私の推論ですが、木星には電磁波を発生させる火山が存在しているはずです。それは流動性のあるマグマが存在していると云うことです。木星の地底内でのマグマの流れ、それは電荷イオンが動いて電流が発生し、磁界が出来ると云う事を意味します。赤眼の大赤班の中には大きな円柱状の火山が隠れているのではないかと想像しています。それが証拠に、大赤班の左側横には渦列が見られます。これは、円柱に向かってガスなどの流体が流れていく場合、その円柱の後方にカルマン渦列と云う小さな渦が多数、連続して発生します。これと同じような渦列が大赤班の横にある渦列と考えられます。したがって、大赤班の下には大きな柱状の山があるはずです。また、2005年ころから、大赤班の近くにあった3個の白班が合体して赤く色づき始めました。一方、2005年には冥王星のさらに外側の太陽系外縁部でエリスと命名された準惑星が発見されました。エリスは冥王星より重量が大きいため、2006年に冥王星は惑星から準惑星に降格されました。エリスはギリシャ神話に登場する、争いと不和を引き起こす女神です。準惑星エリスには衛星ディスノミアが存在します。ギリシャ神話での女神ディスノミアは女神エリスの娘で不法の神です。」

「争いと不和を引き起こす女神と不法を行う女神が宇宙史に登場した訳ですか・・・。」

「話はれてしまいましたが、木星が太陽のように自分の重力によって核融合を起こすには今の100倍の重量が必要と言われています。太陽の原子核融合は水素原子4個が合体してヘリウム原子に変化する現象です。しかし、木星では地表面を覆っている重水素ガスと三重水素ガスの融合を発生させられるのではないかと考えられます。この重水素と三重水素の融合は水素原子4個の融合より遥かに小さなエネルギーで発生させることが可能です。したがって水素爆弾と同じように原子核融合の連鎖反応が起こり易いのです。」

「その意味は?」

「木星に太陽系外縁部から大きな彗星か小さな惑星でも飛来して衝突すれば、その衝突エネルギーによって木星が太陽と同じ様なエネルギー発生体になり得ると云うことです。それが、私の推論です。」と石崎和彰が言った。

「当たり前の話ですが、木星が太陽になったら、地球にとっては太陽が二つになる訳ですね。夜が無くなるのでしょうかね?」

「まあ、そう云う事ですね。木星は太陽に比べたれば、かなり小さい太陽にしかなりませんがネ。ああ、面白い話があります。太陽を回る惑星の軌道に関する3法則を発見したヨハネス・ケプラーが書いた本『ケプラーの夢』(日本語への翻訳本の題名)にこのような文章があります。『時はすでに春であった。月は新月で、太陽が地平線に沈んだかと思うともう輝き始め、金牛宮において土星と会合していた。』と云う文章です。金牛宮と云うのは西洋占星術における(獣帯にある)おうし座のことです。(会)合と云うのは、地球からみて太陽と同じ方向にあると云うことです。太陽が沈んで夜になるはずが、もう一つの太陽が土星のある方向の空に輝いていると言っているのでしょう。あるいは、土星もガス惑星ですから太陽に変身してしまうのでしょうかね。そうすると太陽が3個になりますかね。ヨハネス・ケプラーは二つの太陽を夢の中で見たのでしょうかね。この書物の中では、霊的な能力を持つケプラーの母親が21文字を使って精霊と交信し、月と思われるレバニア国に二人(の霊魂だけが?)が連れて行かれる話になっています。この本はジュール・ベルヌが書いたSF小説『月世界旅行』の参考書ではなかったかとも言われています。また、ケプラーは月から見た惑星の運動を計算して論文にしています。実際、彼の母親は中世に起こった魔女狩りの対象となったようです。さて、21と云う数は6個の点を一辺とする正三角形を描くとその三角形全体は21個の点で構成されます。ヨハネの黙示録の666の獣は三角形に関係するのでしょうかね。ヘブライ語は22文字で構成されますが、彼の母親はヘブライ語を使って精霊と交信したのでしょうかね。21文字が22文字に一文字足りないのは、ヘブライ語の中に黙字が含まれているのでしょうかね?ケプラーの名前もヨハネ(ス)ですからね。」と石崎和彰が謎掛けのような事を言った。

「はあ、世紀末ですかね・・・。」と太郎も考え込んだ。


「ところで、今夜は晴れるようですから、久しぶりに星をご覧になりますか?」と石崎和彰が言った。

「それは、楽しみですね。」と太郎が答えた。



連邦の光芒34;若井友恵死亡の真相

東京桜田門の警察庁刑事局長室  2011年3月5日(土) 午後2時頃


朝海刑事局長に呼び出された神奈川県警察本部の河井刑事部長が局長室内の応接ソファーに座って話している。

刑事局長補佐の半田警視長も同席している。


「FBIとの連携を断って捜査を継続しているようだが、容疑者と思われるハンス・マルクスの行方は判ったのかね。」

「いえ、まだです。しかし、国外に逃亡した形跡はありませんので、マルクスを逮捕するのは時間の問題です。」

「困ったね、君には。公安部からの報告では、マルクスはすでにロシアのウラジオストックに渡ったと云う事だよ。海上保安庁の報告を受けて、日本海上での小型漁船のビデオ映像を確認したそうだ。日本漁船からロシア漁船に乗り移った人物が横浜のホテルの監視カメラに映っていたマルクスと似ていると云う公安部からの報告だ。海上保安庁の巡視船がその日本漁船を停止させて、船長に話を聞いたらしい。その船長の話では漁の取材映像を撮らせてほしいと云って30万円支払ったそうだ。しかし、公海上に出たらロシア漁船が近づいてきて、その外国人はロシア漁船に乗り移ったそうだ。君は知らなかったのかね。すでにFBIはCIAに連絡を取って、ハンス・マルクスを追跡していると云う公安部からの話だよ。日本国内でうろちょろしている場合じゃないだろう。インターポール(国際刑事警察機構)への協力要請をするかどうかの段階だと思うがね。」と刑事局長が言った。

「はあ。それは知りませんでした。しかし、ハンス・マルクスの協力者と思われるオメガ教団の関係者を追跡しております。」

「横浜のホテルに宿泊していた樋山時雄・幸子と名乗っていた夫妻の事かね。」

「そうです。」

「その二人なら、愛知県警察本部が逮捕したよ。今は岡崎署に留置されている。樋山時雄・幸子は偽名だ。本名は、坂崎孝雄と柏木智子だ。3月3日の岡崎市内爆弾テロ未遂事件の犯人として、二人をマークしていた公安部の刑事が岡崎市内のホテルで緊急逮捕した。『黙秘しているとオメガ教団かブラッククロスからの刺客に殺されかねないぞ。かつて、VXガス事件の極秘事項を知っていたアルファ真理教の幹部・村川邦夫が刺客に殺されたのは、幹部の村川邦夫が秘密を白状することを恐れたブラッククロスが暴力団を装った男を刺客として派遣したからだ。極秘事項が明るみに出てしまっていたら、殺される理由は何もなかったのだ。ブラッククロスにとって、警察の留置場なんか屁とも思っていないからな。それはお前たちがよく知っているだろう?』と脅かしたら、坂崎と柏木はすんなり白状したそうだ。」と半田警視長が言った。

「そうですか。面目ありません。」と河井刑事部長が元気なく言った。

「あのホテルの最上階は世界のVIP用のスイートルームで2つの部屋は二重の連絡ドアーで繋がっていただろう。VIPの護衛が廊下を通らずにVIP室に出入りできるように配慮されている訳だ。あらかじめ、その連絡ドアーの合鍵を手に入れていたハンス・マルクスと坂崎・柏木が、若井友恵がシャワーを浴びている間に打ち合わせをしたようだ。しかし、コールガールを装ってハンス・マルクスに近づいた若井友恵が自分たちの話を盗み聞きしていたのを知ったマルクスが、若井友恵に自白剤を注射して、理由を問いただそうとしたのだが、隙を見た若井友恵が、朦朧とした意識のままベランダから飛び降りたそうだ。何か録音装置でも持っていないかとマルクスたち3人がハンドバックの中やコートのポケットを調べている間の出来事だったらしい。テーブルの上に置いてあった携帯電話を持って飛び降りたのでその後、地上に行って探したが見つからなかったそうだ。若井友恵に白状させた後は殺すつもりだったようだが、靴を履かずに飛び降りてしまったので、事故に見せかけるために赤いハイヒールを下に落としたらしい。ハンス・マルクスは指令連絡係リエゾンだったようだ。ブラッククロスは重要な指令は口頭で伝えるのがルールらしい。」と刑事局長が言った。

「神奈川県警察本部では若井友恵の携帯電話を発見できていないのでしたね?」と半田警視長が訊いた。

「はい、発見しておりません。」

「その携帯電話はどこへ行ったのかね・・・。」と朝海刑事局長が呟いた。

「若井友恵は自衛隊のヒューミント情報員だったようですから、自衛隊が回収したのかも知れません。」と河井刑事部長が言った。

「君たち神奈川県警察本部より後で探しに来たのに・・・? それとも、ホテルの外にいたもう一人の自衛隊情報部員が、若井友恵が墜落した直後に回収したのかな・・・?」と朝海刑事局長が言った。

「この後、捜査本部はどうしましょうか?」と河井刑事部長が訊いた。

「捜査本部は縮小して、インターポールからの情報を待つしかないかな・・。」と刑事局長が言った。



連邦の光芒35;

横須賀アメリカ海軍基地 第7艦隊司令長官室  2011年3月5日(土) 午後2時頃


「ここにいる秘書官のロナルド・ヒューズから話は聞きました。一昨日は外出で不在でしたので失礼しました。本日、再度ご足労いただき、ありがとうございます。今後の艦隊の動きは未だ決定しておりませんが、バーレーンの第5艦隊司令長官と話はいたしました。サウジアラビア経由でイランにはテロ計画の話が伝わったはずです。」と司令長官が言った。

「FBIがイラン国内の事に首を突っ込むわけにはいきませんが、万一、ペルセポリスが爆破され、それが、ヨーロッパ人テロ組織の犯行だとされると、中東のイスラム諸国とヨーロッパは戦争に突入するでしょう。その場合、ペルシャ湾のホルムズ海峡、紅海と地中海を結ぶスエズ運河は封鎖されてしまいます。それと同時に、アメリカ国内に潜伏しているイスラム過激派、イスラム諸国のスパイの活動が活発化してくるはずです。FBIとしては、海軍の動きを確認しておき、事前に体制強化を行いたいと考えています。日本駐留のFBI事務所としても、海軍との連携が欠かせません。司令長官のお考えを確認したいのですが。」とギャリソンの上司が言った。

「まだ、イランでの爆破テロが成功した訳ではありませんが、大組織が動き出すには時間がかかります。そのため、事前準備は早い目に行うに越したことはありません。あなた方FBIが仰るように、スエズ運河やホルムズ海峡が封鎖されると、アメリカ海軍の作戦に大きく影響してきます。ただ、現時点で海軍の作戦計画を説明する訳にはまいりません。戦時下の国防マニュアルはFBI本部および国防総省によって取り交わされた規約に乗っ取って作成されます。我々海軍は種々の状況を仮定した戦略・戦術演習は常時行っています。NATO軍との連携演習も行っていますからだいじょうぶです。しかし、FBIとの連携は今後の状況次第です。いずれにしても、今回のイランへのテロ阻止を最優先課題に考えています。海軍情報部からもニューハンプシャー州・ウォルフボロに於けるブラッククロスの会議の盗聴内容報告が第7艦隊司令本部にも来ています。CIAも活動しているようですが、その内容は我々には判りません。海軍情報部としても、イラン国内での情報収集に当たっています。FBIがお持ちの詳細情報をお聞かせいただきたいのですが。」と司令長官が言った。

「イランのテロ阻止にはロシアのテロ対策部隊が活動しているとのCIAからの情報です。ブラッククロスは彼らの謂うところの『神の計画』を実現することにあります。かれらは、中東諸国とヨーロッパ諸国との戦争を通じて、キリスト教の消滅を画策していると思われます。バチカンの破壊です。そのために、ハンニバルの再来と十字軍の再来、そして、『荒す憎むべき者』の出現を期待しているようです。」とジョージ・ギャリソンが言った。

「バチカンの消滅を狙っている訳ですか。連体だいそれた事を計画していますね・・・。」

「イランの都市シーラーズは古代ペルシア時代の都でした。また、シーラーズの近くのペルセポリスもアレキサンダー大王に焼きはらわれた古代ペルシアの王都でした。爆破することによってイスラムのアラブ人に西洋人への復讐心を引き起こさせるには恰好かっこうの都と遺跡です。」とギャリソンが言った。

「なるほど。判りました。今後もFBIとは緊密な情報交換をして参りましょう。」と司令長官が言った。



連邦の光芒36;

某所のブラッククロス本部  2011年3月5日(土) 午後3時頃


「オカザキのテロがまた失敗した。ペルセポリスのテロ計画も察知されている可能性がある。今後、計画を遂行するのかどうかを議論したい。今回の会議にはナンバーファイブは呼んでいない。」とナンバーワンが言った。

「情報部門からの報告では、CIA、ロシアのテロ対策部隊、イラン警察がシーラーズ、ペルセポリス遺跡、そして、ブーシェルの原子力発電所周辺を捜査しているらしい。」とナンバーセブンが言った。

「ナンバーファイブ計画を中止した場合、ナンバーセブン計画への影響はどのくらいにあるのか?」とナンバーシックスが訊いた。

「イスラム教国の人民世論の高まりが無くなるのはかなりのダメージだ。ハンニバル要員の士気が上がらなければヨーロッパ進行に失敗する可能性もある。」

「ナンバーファイブ計画に変わる計画は考えられないのか?」とナンバーワンが言った。

「テロ対象地域は他にもありますが、準備に1年半以上かかります。」とナンバーシックスが言った。

「ナンバーセブン計画の遂行への影響はどのくらいあるか?」

「一年くらいの遅れなら大きな影響はない。まだ、準備計画を進めている段階だからな。」

「よし、判った。現在のナンバーファイブ計画の実行は中止する。反対意見はあるか?」とナンバーワンが言った。

「異議なし。」

「ナンバーテン。ハンス・マルクスに本部指令666号の中止を伝えてくれ。」



連邦の光芒37;

横浜の港の見える丘公園近くの外人墓地  2011年4月29日(金) 午前11時頃


二人の白人男性が石造りの十字架の前に立って英語で話している。地面に置かれている磨かれた花崗岩の石板には『若井友恵(Tomoe Wakai)』の名が刻まれている。

若井友恵が生前、母親に、もし自分が死んだら横浜の外人墓地に埋葬してほしいと言っていたようである。友恵が卒業したフェデス女学院大学とアメリカ大使館の助力で墓所を確保できたようである。


「マイ・オールド・フレイム(My Old Flame)の友恵が死んでしまっていたとはな。今日まで知らなかった・・・。」とロナルド・ヒューズが言った。

(※著者注;マイ・オールド・フレイムとは私の古い炎。すなわち、昔、恋の炎を燃えたぎらせた相手と云う意味。)

「彼女が命を捨てて、ハンス・マルクスたちの盗聴音声の入った携帯電話を残してくれなかったら、今回のブラック・クロスによる世界的なテロ計画を阻止することは出来なかったな。」とジョージ・ギャリソンが言った。

「勝負の時、友恵は赤い靴を履くことに決めていたらしい。男の場合は赤いネクタイをする奴がいるが、友恵は女だったから赤い靴に決めたらしい。大学の入学試験や英語検定試験のときなどは赤い靴を履いて行ったと言っていたな・・・。」とロナルド・ヒューズが言った。

「レッド・シューズ、そう云うことか・・・。ホテルのスイートルームに居るハンス・マルクスの所へ行く時、赤いハイヒールを履いて行ったのは、決死の覚悟をしていた訳だな。」

「自分の人生における勝負時と思っていたのかもしれないな。自分で望んだスパイ人生だったからな・・・。なぜ、友恵はスパイになりたいと思ったのだろうか?今でも判らないな。」とロナルド・ヒューズが淋しそうに言った。


「若井友恵さんとはいつ頃知り合ったのだ。」

「彼女が大学3年生の時かな。横須賀基地内のチャペルでボランティア活動している彼女と出会ったのが最初だ。それ以来、時々デートをしたが、俺も空母ジョージ・ワシントンで外洋にでることが多かったので横須賀基地に居る時間は少なかったな。大学4年の時、自衛隊の情報部を紹介して欲しいと突然彼女から言われた時は驚いたな。どうも、以前から考えていたようで、俺に近づいて来たのもそれが目的だったのかもしれない。本人は何も言っていないがな。海軍情報部を通じて彼女を自衛隊情報部に紹介してもらったよ。まあ、でもお互いに楽しいデートを繰り返したな。夜の横浜や東京のお台場などはよく行ったものだ。特に思い出すのは、よく二人で行った横浜根岸のレストラン・ドルフィンで最後の晩餐をした夜だな。彼女も自衛隊の情報部に所属できたので、アメリカ軍人とは付き合えないし、いつ殺されるかも知れない任務につくかも知れないと云うことで、二人は別れることにしたのだった。その夜は、生演奏バンドのリクエストタイムがあった。俺は、日本の歌謡曲をリクエストしようとしたのだが、彼女は英語の歌『トゥデイ(TODAY)』を希望した。」

「お前は何と云う歌謡曲をリクエストしようとしたのだ?」とギャリソンが訊いた。

「俺は船乗りだからな、石原祐次郎の『さよなら横浜』さ。あの出航の時の『ボーオ、ボー・・・。』と云う船の気笛音がイントロ音楽の前に挿入されているのがたまらなくてね・・・。」とロナルド・ヒューズが言った。

「それは、別れの歌か?」

「まあ、そんなところだ。」

「そうか。今日はお前の感傷に付き合ってやるか。今から、そのレストラン・ドルフィンに行って昼飯でも食うか、若井友恵さんを偲んで。」とギャリソンが言った。

「OK。よかろう。丁度、昼時だからな。あの時は『トゥデイ(TODAY)』だったが、今日は『さよなら横浜』をリクエストしてみるか。ところで、ドルフィンを日本語ではイルカと云うんだが、『お前、恋人イルカ?』」とヒューズが友恵との夜を思い出しながら日本語で言った。

「その日本語はどういう意味だ?」とギャリソンが訊いた。

「フェド(FBI)のお前にゃ、無理だなア。あっはっはっは。レッツゴー。」

「・・・・・・・・・。」



連邦の光芒38;エピローグ:大和太郎の見た夢

東松山市大和探偵事務所の階上にある太郎の自室  2011年4月30日(土) 午前6時30分頃


「昨夜は中東やヨーロッパの歴史書と聖書を読んだからか、あんな、妙な夢を見てしまったのかな。」と太郎は思いながらパジャマを脱ぎ、室内に張った物干しロープから洗いたてのシャツを取って、腕を通した。そして、東側窓のカーテンを開けると、ガラス窓から朝陽が射し込んで来た。


「しかし、燃え盛る炎に包まれた都市ばかりで、さんざんな夢だったな・・・・。」と太郎は改めて夢の内容を思い出していた。

『夢に登場して来たのは、鷲の翼を持つライオンのような第一の獣、肉を喰らう熊のような第二の獣、背に4つの羽根と4つの頭を持ったヒョウのような第三の獣、10本の角と鉄のキバを持った第四の獣。この第4の獣は、火の車の付いた御座にいる真っ白な衣を着た人物の前から流れ出る火の中で燃え尽きた。先に登場した第一から第三の獣はかろうじて生き残った。その後、エジプトの上空などに黒い十字架マークを付けた10隻のUFOが現れ、火に燃え盛る地中海周辺の都市を支配するイスラム軍を攻撃した。アメリカ、ヨーロッパの国々の都市は火に燃え盛り、宇宙には大きな太陽と3つの小さい太陽が輝いていた。中東のイスラエルは大地震で家々は崩れ落ち、大きい杖を持った人物が現れた。その杖には文字が書かれていた。その文字とは、《ユダとヨセフとエフライムと全イスラエル人のため》に、であった。そして、澪標みおつくしのマークを腹部に付けた人々が地球上の墓から月に向かって登って行く姿が見えた。その中に赤く輝く若井友恵の姿もあった。その時、暗黒の宇宙に浮かぶ地球の北部周辺には赤紫色のオーラが輝いていた。その時、日めくりカレンダーには2039年9月14日と記されていたのを太郎は見た。』


「破風(切妻屋根)を持つパルテノン神殿の壁に描かれていた、16弁の菊花紋と16紘の光輝紋は何を意味するのだろう?大阪市章の澪標みおつくしのマークは、『又』と云う文字に一本の杖棒が突き刺さった形と解釈できるな。『身を突く』と云うことで、人類に新しい生命が生まれることを暗示しているのだろうか?杖棒が男根。日本国土が女神の体を表わしているとすれば、大阪市の位置は女神の又部に当たるからな。あるいは、『(他の誰かのために)身を尽くす』か。そして、世界の縮図ではイスラエル北方のシリアにあるアレッポが大阪市に相当するかな・・・。モンゴル軍や十字軍の攻撃に耐えた、深い堀に囲まれ、7つの門があるアレッポ城。大坂城も徳川家康が外濠を埋めなければ難攻不落の城と云われていたからな。また、古代都市アレッポはアラブ語ではハレブとも呼ばれていた。アレッポはいくつかの丘とその丘に囲まれた渓谷がある町。ハレブとは『新鮮な乳』と云う意味だったな。ユダヤ人やアラブ人の先祖であるアブラハムが旅人たちに新鮮な乳をふるまった場所。また、旧約聖書の申命記34章5節と8節に『主のしもべ モーゼはモアブの地のその所で死んだ。』、『イスラエル人たちはモアブの草原で30日間モーゼのために泣き悲しんだ。』とあったな。藤原教授が言ったように、澪標みおつくしのマークは能登の宝達山、石動山、円山、群馬榛名山、茨城の筑波神社、鹿島神宮、千葉の麻賀多神社を結ぶ直線で描かれる。モーゼが葬られているモアブの地にあるネボ山の渓谷とは、竹内巨麿が言ったように宝達山の麓にある三つ子塚古墳がネボ山を意味するなら、大阪市の澪標みおつくしのマークが関係するアレッポことハレブの谷にモーゼの墓があるのかもしれないな。モアブとは古代イスラエルの東側にあった地域と云うことだが・・。奈良の東部にある大神みわ神社のことだろうか?ネボ山とは三輪山のことだろうか?それとも、ハレブ(アレッポ)あたりも含む地域がモアブで、大阪城のある上町台地、能登の宝達山と関係するのかなぁ? これが三の秘議なのだろうか?よく判らないな・・・。竹内巨麿は何が言いたかったのだろうか?現在の彼は何処で、誰に乗り移って生きているのだろうか?ところで、ハモン・ゴグの谷は『海の東の旅人の谷』であるともエゼキエル書には書かれていたが。アブラハムが乳を旅人にふるまった地中海の東側にあるハレブ(アレッポ)はハモン・ゴクの谷でもあるのだろうか?」と太郎は思った。


そして、頭の中が混乱してきて、昨夜の疲れが甦ってきた太郎は、心を切り替えるためにFMラジオのスイッチを入れた。

ラジオのスピーカーからマニシュ(MANISH)が歌う『きらめく瞬間ときに捕われて』が流れてきた。


♪散々な夢に 目を覚ます 日射ひざしの強い朝♪

♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪

昨夜ゆうべのアイツ 疲れた声だった♪

♪「刺激が欲しい」 「今を壊したい」 落ちぶれないで♪

♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪

♪いつもと違う 角度で鏡を のぞいてみる♪

♪きっとそこに 新しい何かが♪

きらめく瞬間ときに捕われ 夢中でいたい♪

♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪

♪溢れ出す涙が 美しければ♪

♪人はまた 終らぬ旅に 時間ときを費やせるから♪



          連邦フェド光芒オーラ

            〜金星の法;2039年の奇蹟〜

                『完』

              目賀見 勝利

         2011年5月15日 16時28分 脱稿 



       :参考文献:

 ルル・ラブア著「占星学の見方」東栄堂 昭和49年 刊

 ルル・ラブア著 改訂新版「ホロスコーブ入門」青春出版社 昭和52年 刊

 ダニエル・レジュ著 佐藤智樹訳「聖マラキ・悪魔の予言書」二見書房 昭和57年 刊

 ダニエル・ルゾー著 流智明監修「ノストラダムスの遺言書」二見書房 昭和58年 刊

 五島勉著「ユダヤ深層予言」祥伝社 平成元年 刊

 斉藤啓一著「秘法カバラ数秘術」学習研究社 昭和62年 刊

 深見東州著「強運」たちばな出版 平成10年 刊

 岡本天明著 橋爪一衛監修「太神の布告」コスモ・テン・パブリケーション 平成1年 刊

 中矢伸一著「日月神事 艮の戦」徳間書店 1993年 刊

 中矢伸一著「日月神事」徳間書店 1992年 刊

 ヨハネス・ケプラー著 渡辺正雄・榎本恵美子訳「ケプラーの夢」講談社 1985年 刊

 新改訳聖書刊行会翻訳「旧約聖書」いのちのことば社 1974年 刊

 H.C.ロバーツ編 大乗和子訳「ノストラダムス大予言原典諸世紀」たま出版 昭和50年 刊

 宇野正美著「古代ユダヤの刻印」日本文芸社 平成9年 刊

 

 


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