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ゴーレムユニバーシティ

作者: ビビ

1.


 魔光が灯される街燈が等間隔に設置されている。夜遅くは月明かりしかなかった薄暗い都市は、街燈の発明によって眠らなくなってしまった。

 その恩恵が受けられない場所もある。

 妖しく輝く赤月に照らされる都市の中枢部から離れたそこはジャンク置場。あらゆるゴミが埋め立てられると言われるゴミ捨て場だった。

 ゴミ拾い専門のスラム街に住まう子供たちや、イイ歳をして仕事を持たない壮年の男たち。それらがお宝を求めてスクラップの山へと挑戦し続ける。

 しかし、その中に一際浮いている少女がいた。

 歳の頃は十代の半ば――いや、前半といったところだろうか? 小柄な体躯は十歳と言っても通じそうなほどではあるが、女であることを自己主張するようにほんのりと膨らんだ胸と、盛り上がった尻がなかなかにキュートだった。

「あいつまた臭いスクラップを漁ってるぜ」

「おーおー、田舎出身の女には恥じらいってものがないな」

 田舎出身の女――カイリ・インセプターはゴミの山の頂点であらゆる鉄くずを掘り返しながら、煤けた顔を手で拭い、手についたオイルのせいで余計に汚れたことに舌打をする。

 気にしないでいようと極力周囲の言葉は聞き流すように努力してるが、それでもやはり傷ついてしまうのは仕方ない。

(……お金がないから仕方ないじゃんか!)

 カイリは一人暮らしであるけれど、小さな家を所有している。職もある。本来ならチャームポイントである茶髪のポニーテールをふりふりと揺らしながらゴミ拾いをする必要などない。しかし、どうしても欲しいものがあったのだ。それはカイリの安月給ではどうしても手に入らない高価なもの。

(絶対にサーヴァントを手に入れるのよっ!)

 遺跡都市グランディオス。

 機械技術と魔法技術の粋を極めたと言われるその都市の地下には、未だに半分も解明されていないほどの巨大な地下遺跡があった。

 地下遺跡の中で発見されたものの恩恵により、遺跡都市グランディオスはエルゾーク帝国で最も隆盛を極める都市となる。そして、そこで発見された最も偉大な功績と言われる技術こそが【サーヴァント】である。

(絶対無敵、私に忠実なサーヴァント! スクラップの部品だけじゃ心もとないけど、絶対に造ってやるんだからっ!)

 分厚い革製のグローブをはめ込んだ両手で鉄くずを漁り続ける。

 後必要なパーツは少しだけ。後少しで、カイリの家族を組み上げることができる。

 サーヴァント――主人を絶対に裏切らない忠実な魔導機械生命体。容姿も用途も能力も性格も全てが全て千差万別である。共通することは、あくまで道具として見られるということだろうか。

「――見つけたぁぁ!」

 ジャンク置場の中央で、声高らかにカイリが咆哮する。

 何事だ!? と周囲にいたゴミ拾いたちが声の発生源を見るが、カイリだと知ってふいと目を背ける。変人に割く無駄な時間などないのだ。



 壊れかけの街燈が明滅し、不気味に周囲を照らす。

 入り組んだ細い路地は人影がなく、少女が一人で歩いていいほどに治安がよろしいようには決して見えないが、カイリは鼻歌混じりにスキップをしながら、意気揚々と自宅であるアパートの一室に辿り着いた。

 入口にあるスイッチを押すと、くぐもった音とともに部屋に明かりが灯された。

 ワンルームの小さな部屋である。

 サーヴァントに興味のない人が見れば、ガラクタばかり置かれた犬小屋と言えるほどに散らかっているのだが、カイリにとってはここが自分の城であった。

 隅のほうには丁寧に畳まれた布団が見え隠れし、混沌と放り散らかされているように見える鉄くずたちも、よく見ると規則正しくパーツ毎に置かれているようにも見えた。足の踏み場もちゃんとある。

 何よりも目を引くのが部屋の中央に座する機械人形だろうか。

 艶やかな銀髪は腰ほどまで届いており、顔立ちは彫りが深く、どこぞの騎士のようにも見える。しかし、美しさの中にも野性味を内包するのは、どこか危険な香りを漂わせていた。さらには、成人男子の平均身長よりも頭一つ大きな身体は布切れ一つ纏うことはなく、正しく全裸である。引き締まった肢体は美しさすら感じられるほどであり、芸術の域に達している。まさに正しく美青年であった。これこそがカイリの生み出そうとしているサーヴァントである。本来ならここまで丁寧に人工皮膚を張る必要はないのだが、カイリは凝り性であるからして、ここまでの美形になってしまった。決して面喰いというわけではないのである。

 その美青年兼機械人形であるものへと、にやにやとした淑女に似つかわしくない厭らしい笑みを浮かべながらカイリは近づいていく。機械人形の後頭部に触れると、ぱかりと開く。そこに鉄くずを埋め込んだ。

 それはブレインである。人にとっての脳と同じ働きをするそれは、ジャンク置場ではなかなか見つからなかったのだが、本日とうとう見つかったのだ。それをちょちょいと弄って修復し、中身を確認せずに即効で埋め込んだ。普通なら考えられないほどに杜撰な行為ではあるが、しかし――

《システム起動、セットアップ。インストール……スタート》

 成功した。

 自己を確立するためのインストールを行うサーヴァントを見て、カイリはぴょんぴょんと飛び跳ね、全身で歓喜を表現していた。

「できた、できた! 私だけのサーヴァント! やっと、やっと完成したー!」

 大きな瞳を細めて、うっすらと涙を浮かべてすらいる。本当に長かったのだ。

 カイリは辺境の村で生まれた。

 そこでは子供は働き手として見られ、最も重要視されるのは体力である。残念なことに、カイリはとっても小柄なせいで、悲しいほどに貧弱だった。おかげで家を追い出された。働くことができないほどに貧弱な子供などいらないし、体力のなさそうな見た目であるカイリは、有体に言えば嫁の貰い手がいなかった。モテなかったというのも原因だ。

 家族が欲しい。利害関係を求める危機感のある絆ではなく、純粋に信頼し合える家族が欲しかった。

 白羽の矢はサーヴァントに立った。彼らは主人を裏切らない。決して、裏切らない。魅力的なワードである。だからこそ、カイリは睡眠時間を削って、綺麗な柔肌が傷つくことも厭わず、粉骨砕身の勢いでジャンク置場へと通い続けたのだ。

 思い出しただけでほろりと涙が出るのを誰が止められようか。狭い部屋の中で泣き笑いを浮かべて踊り狂うカイリは歓喜の極致にいた。

 カイリの奇怪な踊りを余所に、サーヴァントは起動手順を正しくクリアしていく。

 まずは動力源であるマナの残存量の確認。次いでは身体とブレインの互換性を確かめ、手や足を小さく動かし、動作確認を繰り返す。目が開かれ、視界を確保し、周囲を探る。

 小さな部屋の中、踊り狂う少女。確認できる人影はこの少女だけであり、可能性は最も高い。

サーヴァントである彼が困ったように笑っていることに気付かずにステップを踏むカイリの腕にちょんちょんと指で突き、申し訳なさそうに彼は問う。

「……はしゃいでいるところすまないが、貴方が我が身のマスターか?」

 ぎしぎしと壊れた人形のようにぎこちなく首を回して、カイリは彼を見た。全裸の美青年は目を開き、胡坐をかいて座ったままにカイリのことを見上げている。不安げな光を湛えるその姿は、男らしい外見とのギャップが凄まじすぎて――カイリは急いで鼻を手で抑えた。

 彼は小首を傾げてカイリのことをじっと見つめる。その姿があまりにキュートで、カイリは急いで鼻にティッシュを詰め込む。少しだけ赤く染まっているように見えたが、きっと気のせいだろう。

「今一度問う。貴方が我が身のマスターか?」

「そうだよっ!」

 間髪入れずに元気よく返答するカイリに少しだけ押されながらも、彼はカイリと目を合わせ続ける。

「名は?」

「カイリ・インセプターだよ」

 ブレインの奥底に主人であるカイリの名を刻み込む。決して忘れぬように。

 そして、少々臆しながらも、しかし、毅然として彼は問う。

「では、我が身の名は……?」

 とても重要なことだ。「考えていなかった」と言われたら、彼もサーヴァントの身とはいえ、少々傷つくというもの。

 だが、答えは簡単に返ってきた。

「君の名前はテンペストだ」

「わかった。これより我が身はテンペストと名乗ろう」

 あっさりと頷くと、彼――テンペストは、今度こそ本当に申し訳なさそうに、カイリに対して口を開く。

「すまないが、服をくれないだろうか。マスターの趣味で裸のままでいろと言うのなら我慢するが、しかし、そうでないのなら――」

「あ、あ、そうだね! ごめんよっ! ちょっと待っててね!」

 どたばたと動き回りながら、カイリは部屋の中にあるサーヴァント用に組み立てていた装備を探し始めるのであった。




2.


 湿気の多いせいで余計に気だるい夏の日差しを鬱陶しそうに見上げているのはカイリである。街道に林立する木々のおかげで直射日光は辛うじて避けることができているが、それでも暑いものは暑い。滲みだす汗のせいで純白のワンピースは透けて、どことなくエロチックだ。同じく白のブラが透けて見えている。腕に提げる薄手のカーディガンを着ればいいだけなのだが、このクソ暑い中、そのような無謀な挑戦をする気にはならず、カイリは周囲の視線を意図的に無視して歩いていたのだが、

「女性は易々と肌を見せてはならないと思うが……」

 と小さいけれども鋭い声音で忠告され、仕方なくカーディガンを羽織った。超暑い。

 暑過ぎて猫背気味になるほどに項垂れて、いつもは元気にぴんと立っているポニーも元気がない。汗のせいで湿った尻尾は重力に負けている。憎々しげにカイリは太陽を見上げた。あいつこそ雲という名の服を纏い、貞淑に振舞うべきだと強く思う。むしろ死んでしまえ。そんなことを考えてしまう程度には、カイリは夏の日差しが大嫌いだった。

 カイリは年がら年中涼しい地方で生まれたため、夏は全く慣れないのだ。暑さに弱く、思考も鈍る。夜のほうが元気になってしまうほどだ。

「何故マスターは暑いのが苦手なのに出かけるのだ?」

 夜でいいではないか、とテンペストは言う。しかし、カイリにだって言い分はあるのだ。

「……だってさぁ」

 テンペストの身体を覆うのは漆黒の全身鎧――だったもの。ところどころメッキが禿げ、錆び付いたそれはあまり見てくれはよろしくない。兜であるアーメットはあまりにダサイので、装着したがるテンペストから没収してしまうほどにカイリにとっては見苦しいものであった。

 せっかく格好良く造ったのに、装備がダサかったら意味がない! ということが新たに学んだ教訓であり、そのために家にある財産を全て持ちだして、テンペストのためにお買いものにきていたのだった。

 向かう先はサーヴァント専門の装飾品屋である。人型であるテンペストならば、成人男性用の服屋で事足りるのだが、それは何となくカイリのプライドが許さなかった。テンペストにとってはどちらでもいいことなので、あまり深く追求しないようにしている。

 とかく、現実はとても厳しいものであった。

 ここはサーバント専門のショップなのだが、値段が予想していたものより高い。高すぎた。どれくらい高いかと言うと、予算よりも桁が二つほど多いのだ。

「いらっしゃいませ~」

 と熱心な店員が擦り寄って来るが、カイリは引き攣り笑いを浮かべながらそそくさと逃げ出すということを繰り返す。

 なんというか、予想外すぎた。

 石造りの大きなショップは百貨店と言われるものであり、あらゆるものが揃っている。八階建てのそこの三階がサーヴァント部門なのだが、多くの人が利用しているからして、値段はきっと庶民的なものだと考えていたのだ。

 ちなみにカイリの月給は一万ゴールドである。普通の家庭は三万ゴールドくらいである。そして、目の前に鎮座する銀製の鎧が七十万ゴールドだ。

 目が点になるとはこういうときに言うのだろう。あまりの大金にあんぐりと口を開き、後ろにいるテンペストの方を見て、にへらと笑った。テンペストも釣られるようににへらと笑う。意味のないやり取りではあるが、何となく心が通じ合っているとカイリは勘違いした。

「マスター、無理は良くないぞ」

 ガラスケースの中に並べられる格好良いと言える鎧と財布の中身を交互に見比べながら滂沱の汗を流すカイリをテンペストは気遣うが、

「で、でも……格好良いんだよっ!」

 とカイリは言い返すだけだった。意地になっている。財布の中身は十二万ゴールド。敵は最低価格が七十万ゴールドで、最高価格が『応相談』。値段がついていなかった。どれくらいするんだろう、と純金で紋様が描かれている鎧を見ながら妄想に耽る。結論としては、一生縁がないほどの大金なのだろうな、という結果が出た。

 鎧との睨み合いに耽ること数十分。あまりに勝ち目のない戦に心が折れ、テンペストの名を呼びながら後ろを振り向いたとき、彼はいなかった。

「あれ、テンペスト?」

 どこに行ったんだろう、ときょろきょろと辺りを見回しながらテンペストを探す。とても簡単に見つかった。

 銀髪はとても目立つ。長身ならば尚更だ。

 テンペストの周囲には女の子が何人かおり、ひそひそと彼のことを褒め称えている。自信作であるテンペストの外見を褒められたらとても嬉しく、まるで自分が称賛されているかのような感覚を覚えた。

 ところで、だ。

 妙に物憂げな視線をガラスケースの中にある何かに向けている彼は少し色っぽくもあり、何をそんなに熱心に見つめているのか気になった。

 すすすと音もなくカイリは近づくと、「わっ!」とテンペストの背中から驚かせるために声を掛ける。「マスターか」とあまりノリの良くない反応だけが返ってきて、少しだけ悲しくなったのであった。

「何見てるの?」

 ちょっとだけ意気消沈しながらテンペストの隣に立つと、カイリはテンペストの視線の先にあるものを見る。

 それは長大な剣であった。長身であるテンペストよりも大きなそれは、人の身では決して振り回せないだろう重量の武器。サーヴァント専用の大剣だろう。その剣に対し、テンペストは並々ならぬ情熱の視線を向けていたのだった。

「グレートソード――ね。何、あれが欲しいの?」

「少し、な。騎士である我が身に武器がないというのは些か寂しいものだ」

 何も差していない腰元に手をやると、苦笑を浮かべる。武装していない騎士など、戦力にならないだろう。

 ところで、カイリはこのとき初めてテンペストが騎士型サーヴァントだと知ったのである。鎧はジャンク置場にそれしかなかったから仕方なく調達してきて、思ったよりも似合っていたから探していただけだ。

 ふむ、と思考する。

「……騎士、ね。なんで騎士なのかな?」

「そういうふうにプログラムを組んだのではないのか?」

「壊れた既製品を適当に修繕しただけだからね。何がどうなってそんな思考回路になったのかはわかんないよ」

「そうか」

 堅苦しい喋り方に、どことなく品のある物腰。教養すら感じられる身のこなしを見ていると、騎士であることを納得してしまう。

 なるほど、騎士なのか。すんなりと胸に落ちた。

「あ、私仕事があるから先に帰ってて」

 言うなり、カイリは仕事場へと向かう。

「……わかった」

 未練がましく大剣を見ながら、テンペストはカイリとともに店を出た。


 ◆


 あれからどれほどの時が経ったのだろうか。

 秒針が刻む音が規則正しく木霊する小さな部屋には妙な圧迫感に満ちており、不快に思ったテンペストはベランダへ出て、月を見上げていた。

 煌煌と輝く赤月は見事な真円を描いており、空を埋め尽くさんばかりの満天の星空の中、その存在を高らかに見せつけている。

 つまり、今は真夜中である。

「陽が落ちて随分と時が経つ。マスターはまだ戻らぬか」

 テンペストから見てカイリはとてもか弱い少女に見える。子供に見えると言ってもいい。そんな彼女がこんな夜遅くに仕事をしているのかと思うと、擬似的な人工知能でしかないと自覚はしている。それでも、カイリのことを心配してしまうのは当然のことではないだろうか。

 出会って一日にしかなっていないが、物凄く大切にしようとしてくれている心意気がダイレクトに伝わってくる。ここまで直に感情をぶつけるタイプの人間は珍しいのではないだろうか、とテンペストは思う。

 そんなとき、錆びついたせいで回転のよろしくないドアノブが軋むような音を立てて開かれる音が耳に届いた。

「た、ただいまー」

 疲れ切った声を発しながら部屋に倒れるように入り込んできたのはカイリだ。服はワンピースからもっさりとしたカーキ色のツナギに着替えており、腕に引っ掛けている手提げ鞄の中からワンピースが見え隠れしている。

 あまりに憔悴しきっている様相を見て、テンペストはぎょっとすると、急いでカイリの傍へと駆け付けた。

「大丈夫かっ!?」

「へへ、ちょっと働きすぎたのさっ!」

 掠れた声で反応すると、カイリはテンペストの差し出す腕の中にぺちゃりとへたれ込む。鎧の冷やかな温度が、夜とは言ってもじめじめとした不愉快な暑さからの清涼剤となる。少しだけ生き返った気分になった。

 ちょっとだけぇと呟くと、カイリは余程疲れているのか、目を閉じてうつらうつらと船を漕ぎ始める。

 小さな身体はほとんど重みはない。あまりの軽さに、大丈夫なのだろうか、とテンペストは身を案じてしまう。

「仕事、仕事か……。生活の糧は必要であろうが、そこまで無理をすることもなかろう」

 たった一日働いただけでここまでなってしまうのなら、仕事に適正がないのではないだろうか、とテンペストは思う。作業着を着ていることから肉体労働をしているのであろうが、この少女の小さな身体には向いていないように思える。どちらかというとウェイトレスなどのほうが向いているだろう。

 ぐっと本音を堪えて、じっとカイリを見つめた。

 目を閉じたままテンペストに抱きついたままのカイリは、ちょっとだけ目を開く。

「ちょっとね。欲しいものがあるんだ。私は欲張りだからね」

 それは何なのだろうか。テンペストにはわからない。

 すーすーと浅い眠りの呼吸音が響き始める。どうやら寝てしまったらしい。

 起こさないようにゆるりとカイリを抱き上げると、布団へと横たえた。

 テンペストは壁に背をつけると、ベランダに伝う窓から空を見上げる。

 サーヴァントは眠らない。

 

 


3.


 テンペストと出会ってから一か月のこと。

 真夏の暑さはどこかへと消え去り、今は少々暑い程度の残暑である。すこぶる生活しやすいことに感謝を覚え、今にも神に祈りそうなほどに機嫌の良い天真爛漫娘――カイリは自動二輪車に跨り、細道を猛スピードで駆け廻っていた。

 逆風ではためく服はカーキ色の作業着であり、頭にはヘルメットを被っている。安全第一がモットーのグラウェブ便で宅配の仕事を任されているカイリは、今日も元気に配送業に勤しんでいた。

 目標の建物が見えたので急停止。馴染みの客先であり、ここの人とはよく見知った仲であるから、カイリとしても気が楽だ。

 ヘルメットを外し、バイクの後ろに乗せている荷物を手に持つと、ドアホンを鳴らす。

「うぃっすー! 宅配便ですっ!」

「あらあら、いつも御苦労さまね」

 腹の底から出した挨拶にはすぐさま返事が返ってきた。

 レンガ造りの大きな建築物から出てきたのはふくよかな――『おばさま』と言いたくなるような優しげな顔立ちの壮年の女性である。近所の子供にお菓子を渡しそうなほどに気の良い人で、カイリがとても世話になっている恩人だ。今の仕事を紹介してくれたのも彼女であり、遺跡都市グランディオスに来たばかりのカイリを仕事が決まるまで家に泊めてくれたのも彼女である。

 足を向けて寝られない、という言葉はこの人のためにあるんだなぁとしみじみ思う。

「いえいえ、仕事をさせていただけているだけでありがたいことですよっ!」

「謙虚な子だねぇ」

 褒められるとむず痒くなってしまい、にへらと笑いながら髪をいじる。ポニーテールがふりふりと揺れていた。

 すぐに気を取り戻すと、仕事モードに切り替える。

「そんな……あ、ここにサインをお願いしますっ!」

「はいはい。頑張ってね」

「はいっ!」

 そんなこんなで、カイリは今日も一日頑張って働いていた。


 ◆


 カイリと毎日顔を衝き合わせていて、テンペストはだんだんと理解し始めていた。

 頑張り屋さんなこと、いつだって無駄に元気なこと、時折何かを考え込んで顔を伏せる事、そして――あまり人間が好きではないのだろう。友達がいないということ。

 このままでは駄目なのではないだろうか、という保護者的な思考が脳裏を過ぎる。まだ若いのに、カイリは毎日毎日働いてばかりで、帰ってきたらすぐに寝るという日々を繰り返している。真面目に働くのは良い事だとテンペストの人工知能は答えを弾きだすが、何かが違うと思うのだ。何が違うか、という明確な答えは出てこないが……。

 例の如く、今日も真夜中になるまでカイリは家へと戻らない。

「たっだいまー」

 時計の針が深夜一時を差している時刻に、漸くカイリは帰って来る。あまりにも遅い帰りにテンペストは注意をしたくなるが、ぐっと堪える。

 日増しに疲労が色濃くなっていくカイリは、しかし、とても充実しているように笑うのだ。毎日働くだけの日々を心の底から楽しんでいる。何がどういうふうに楽しいのか、テンペストには理解できない。

 それくらいの年頃の女の子は、親の庇護下ですくすくと育ち、恋愛をしたり、友達と遊んだり、勉強したり、運動したり、もっと伸びやかに生きていくものではないのだろうか。

 思考はおくびにも出さず、テンペストはカイリを労うだけ。

「おかえり。風呂は沸かしてあるぞ」

「助かり助かりー。いやぁ、やっぱしね! 勤労少女に風呂は似合うと思うのさっ!」

「マスターには花のほうが似合うと思うが……」

 最初は対して美人だとは思わなかったが、毎日接しているからこそわかる。

 自分を全く飾らないカイリは、見れば見るほど良い素材をしているのだ。磨けば光る、というよりも、磨かないでも既に光っている。有体に言えば、将来は美人になるだろうなぁと思わせる愛らしい顔立ちなのだ。花を摘む姿など、男が見れば放っておかないであろう。

「そんなお世辞どこで覚えたの?」

 ちょっとだけはにかみながら答える言葉はそんなもの。カイリは自分の顔にあまり自信はないので、そんなことを言われてもぴんと来ない。

 それはそうだろう。生まれ育った辺境の村では体格が良く、太っている女の子のほうがモテたのだから。カイリは男の子に意識されたことのない悲しい人生を歩んできたのである。

「世辞で言えるほど、我が身は世俗に浸かっておらん」

「ふぅん? 褒められて悪い気はしないけどねっ!」

 るんるん気分でその場でステップを刻むカイリの頭を撫でながら、テンペストは心配という成分をふんだんに込めた視線をカイリに向ける。

「それにしても、だ。働く量は減らせないのか? 随分と疲弊しているようだ……。我が身に手伝えることなら何でもする心積もりだ」

「でも、テンペストって凄い不器用だからね」

「……ぐぅっ! さりげなく痛いところを衝かないでくれっ!」

 テンペストは恐ろしいくらいに不器用であった。とてつもない怪力なのである。小さな作業に向かないのだ。

 やれるとすれば戦闘であろうが、あいにくとテンペストは武器を持っていない。おかげでやれる仕事がなく、ほとんどヒモといってもいいような状況だ。現状に甘んじるしかない自分の無力さを呪っているが、どうにもできない。

 とてつもなく傷ついて地面に這いつくばるテンペストを見下ろし「繊細な奴ぅ……」とカイリはこぼす。その言葉はさらにテンペストの心を抉った。涙を流す機能があるならば、きっと滝のような涙を零していただろう。それほどまでにいつも纏っている覇気がなかったのだ。

 あまりに哀れなその姿にカイリは少しだけ反省する。ここまで打たれ弱いとは思っていなかったのだ。

「他意はないけど……。ま、そろそろ欲しいものが手に入るから、その後にテンペストでも働ける仕事を探そうかな?」

「あぁ、我が身が役立てることなら何でもさせてもらおう!」

 いきなり立ち上がり、元気になる。とても現金な行動にカイリは自然と笑いを浮かべてしまう。

「はいはい、期待しておくね」

 そして、テンペストが沸かしてくれた風呂場へと入り「覗いちゃダメよ」と舌を出して言うと、ぴしゃりと風呂場の扉を閉めた。中からは機嫌の良い鼻歌が聞こえてくる。

「我が身を何と思っているのか」

 覗く気など、ない。




4.


 新月の夜のことだ。曇り空のせいで星は見えず、明かりは一切ない。世界は黒に塗り潰される。

 今日も今日とて主人であるカイリの帰りを待つだけの一日を過ごすテンペストであったが、何故だか胸騒ぎが止まらなかった。

 チクタクと規則的な音を鳴らし続ける時計の秒針が異様なまでに不安を掻きたててくる。

 空気が乾いているような――何とも言えない不穏な気配は何なのだろう。とても耐えられるようなものではなく、いてもたってもいられずに、テンペストは夜の街へと走り出した。


 ◆


 果たして、テンペストの行動は正解のようだった。

 家を飛び出して数分経った頃だろうか。都心部から少し離れたところにあるジャングルジムやブランコ、滑り台などがある小さな公園のすぐ傍で、街燈の下でのろのろと歩くカイリの姿が見て取れた。

 何故そこまで疲弊しきっているのかというと、背中に担ぐ大きな何かのせいだろう。

 身の丈を遥かに超える長大なそれは分厚い布で覆われ、中身を確認することができないが、とても重いものなのだろう。カイリは死にかけの老婆の如く青色吐息になりながら、ひいひいと喘ぎ、死ぬ思いで家へと向かって歩いていた。

 カイリを見つけてからは早い。

 テンペストはがしゃがしゃと金属鎧が立てる硬質な音を撒き散らしながら、全速力で距離を詰めた。

 近づくにつれ、顔色の悪いカイリが見て取れる。

「大丈夫かっ!?」

 すぐさま背中に担いでいるモノを取り上げると、今にも倒れそうなほどに衰弱しているカイリの身体を支えた。

 何が起こったのか理解していないのだろう。急に失われた荷物をきょろきょろと視線を動かしてひとしきり探すと、テンペストの存在にようやく気付いたようだ。

「あはっ、テンペストかぁ……。ダメだよ? 夜は危険なんだから、外に出歩いちゃダメなんだよ?」

「貴方のほうが余程危なっかしい!」

 ピントのずれた注意に声を荒げて返すが「うるさいなぁ。耳元で叫ばないでよ」と不機嫌な表情を浮かべられる。魔導生命体であるテンペストに心臓などないが、もし心臓があるならば、鷲掴みにされたような感触を覚えた。射竦められたと言ってもいい。

「……すまない」

 素直に頭を下げるとカイリは弱弱しく笑い、テンペストが取り上げているものを指差した。

「それよりさ。これ見て。これ! 頑張ったんだから」

 そして、ぶっ倒れた。

「頑張ったんだから……」

 仕事を頑張ったのはわかるが、いったいこれは何なのか。

 確認すべきことのように思えるが、やはり、優先順位はカイリの健康よりも低い。

「くっ……! 医者に連れていかねば……っ!」

 何やら大切そうに抱える大きな何かとカイリの小さな身体を引っ掴むと、テンペストは近くにあるはずの診療所へと走り出す。浅い息を繰り返すカイリを心配するあまり、人工知能が焼き切れそうだった。


 ◆


 連打されるチャイムの音を老人は意図的に無視していた。

 小児科をやり始めてどれほどの時が経つだろう。ほぼ半世紀ほど遺跡都市グランディオスで診療所を経営しているが、夜中の患者というのは実に厄介なものなのだ。

 金のないものが来る時もあるし、脛に傷のあるものが来る時もある、だいたいは子供連れの母親が多いのだが、都市部から離れた場所にある老人の診療所にはあまり夜遅くに訪れる患者はいない、と思いたい。

 つまり、老人は眠かったのだ。

 しかし、一向に止まないチャイムは加速度的に勢いを増していき、一秒に何回連射しているのか聞きたくなるほどに耳を劈く音が木霊し続ける。

(もう耐えられんわいっ!)

 ベッドの羽毛布団の中で冷えた身体を温めていた老人はとうとう根負けすると、パジャマ姿のまま玄関へと趣き――

「こんな夜中になんじゃいっ!」

 怒声を発した。

 眠くて眠くて仕方ないのに、老人を労わることを知らん奴らめっ! といったやっかみも多分に含まれているそれは、一瞬で霧散した。

「マスターを助けてくれ……」

 がっちりとした鎧を着込んでいる時代遅れの騎士――おそらくは人間ではないのだろう。ほぼ間違いなくサーヴァントだ。

 腕の中に抱えているのは小柄な少女。浅い息を繰り返しており、とても顔色が悪く、騎士――テンペストは気遣わしげな視線を何度も送っている。

「ふむ、何やら急ぎのようじゃのぉ?」

 そうでなければサーヴァントがあれほどに必死にチャイムを連打するということがまず考えられない。人工知能の奥底には『人間に迷惑をかけない』という重大なプログラムが植え込まれているのだから。

 さっさと入れ、とジェスチャーだけで言うと、テンペストは何度も頭を下げながら老人の後を付いていく。

 さて診療をするか、と老人は小柄な少女をベッドに寝かせ、様子を見るが――診るまでもなかった。

「……極度の過労じゃな。しかも風邪をこじらせておる。ま、薬を飲めば治るじゃろうて」

 ちょっとした風邪薬と、栄養のある食べ物。そして、しっかり寝ること。それさえ守れば数日も経たずに健康になるだろう、と診断する。

「薬というのはいくらなのだろうか?」

「そんなに高くはないぞい。三百Gじゃ」

 見るからに貧乏そうな少女を見下ろすが、これくらい払えるだろうと、診療費を抜いた薬代だけを言う。僅かながらのサービスのつもりであったが、テンペストの反応は驚くべきものであった。

「それだけあれば一か月は暮らせるぞっ!」

「……どんだけ極貧生活を送っとんじゃいっ!」

 はっきり言って子供の小遣い程度の額なのだが、こいつらにとっては大金であった。

 さて、どうしようか……と老人は思うが、テンペストの後ろにあるどでかい何かを見つけた。

「後ろにあるあのデカイのは何じゃ?」

「忘れていた。これは……」

 布にぐるぐる巻きにされていたそれをテンペストも中身を知らない。

 布を解いていくと、中から出てきたのは、

「――グレートソード」

 カイリにおねだりをした――というべきか。唯一、サーヴァント専門のショップでテンペストが欲しがったものであった。

 無骨なデザインの超大な大剣。騎士剣とも呼ばれるそれは、両手持ちのグレートソード。

 何の特性もなく、魔力による強化もないそれはサーヴァント用の武器としては下の下と言うべきものであったが、しかし――カイリにとっては途方もない値段だっただろう。だから、夜遅くまで毎日働いていたのか。

 感情がない交ぜになり、何とも言えない複雑な表情になる。ただ、口元が弧を描いているように見えるのは気のせいだろうか。

「それを売れば簡単に薬代くらい払えるぞい」

 老人の言葉には賛同できない。きっと、かなりの金になるだろう。返品すれば全額返ってくるかもしれないし、また後で買い直せばいいことだ。

 しかし、

(頑張ったんだから!)

 脳裏に浮かぶのはそんな言葉。頑張ったんだなぁと思うと同時に、その努力を冒涜してはいけないとテンペストは考える。

「……それだけはできない。他に何かないか?」

「ふむ、そうじゃのぉ……」

 老人は診療室の壁に貼っているポスターを見た。

「では、こんなのはどうじゃ?」

 それは――

 


5.


 遺跡都市グランディオスからほど離れた闘技場。ここでは定期的に非公式のサーヴァントによる武闘大会が行われる。

 この大会でのトーナメント形式ではあるが、一度勝つたびに賞金が上積みにされていく方式になっている。

 要するに、一回勝てば五千ゴールドで二回勝てば1万五千ゴールドといったふうに倍々に増えていくのだ。何故こんなに賞金が多いのかというと、公式の大会と違って修理費用が全額サーヴァントの所有者持ちだからである。公式の大会では修理費を大会の運営者が持ってくれるのだ。故に、高額に設定されている。

 要するに「サーヴァントが壊れても自己責任でよろしく」ということなのである。

 そして、ただいまテンペストは闘技場の控室にて壁にグレートソードを立て掛けたままベンチに座り込んでいた。

 考えることはカイリの安否だ。たかが風邪だとわかってはいても、自分のせいであそこまで追いつめてしまったという責任感が身を焦がす。周囲に立ち並ぶ主人やサーヴァントのことなど目に入らず、ひたすらに祈る。

 そんなテンペストを見て、せせら笑いをする男が二人いた。

「ぷっ、この時代に鉄のグレートソード使ってるサーヴァントがいるぜ」

「鎧なんか錆びついてやんの。だっせぇ」

 男二人はどちらも魔術師が好んで着るゆったりとした漆黒のローブを着込んでいる没個性気味の男たちだった。

 おそらくは二人のサーヴァントであろう人型のものを背後に携えており、どちらも女性型の――ぱっくりと胸元を露出させている軽鎧の戦士型のように見えた。手に持つ武器は光学兵器型のものであり、鉄の武装などよりもとても高価で、強力な武器である。比べることすらおこがましいほどの差がある。

 そんなこと、テンペストにとっては関係のないことではあるが……。

「貴様ら、マスターに与えられた誇りある我が身を愚弄する気か?」

 主人が身を粉にして働いて工面してくれた武器と身体を馬鹿にされた。怒りの源はそれであり、自分の存在を愚弄されたことなど塵芥に等しいほどにどうでもいいことだ。

 ベンチから立ち上がると、男たちよりも遥か上から、冷たい視線を下ろしている。怜悧な美貌は絶対零度の怒りを宿し、今にも剣を抜き放ちそうだ。

「時代錯誤かよ。騎士とかだっせぇ」

「今時流行らねぇんだよ!」

 多少怖気づきながらも、男二人は虚勢を張る。

「……ほう」と鼻息を鳴らすと、テンペストはじわりと距離を詰めていく。背後にいた男たちのサーヴァントは主人を守るために慌てて前へと出るが、テンペストは止まらない。

 一触即発。

 いつ暴発してもおかしくないほどに激烈な怒りを溜め込んだテンペストが剣に手をやったときだ。

「おやおや、万年ビリっけつの崖っぷちコンビではありませんか。

「フォル・ゾン・ゾーク……ッ!」

 いや、奇遇ですね。このような庶民の場には決して出ないと仰られていましたから、こんなところで会うとは思っていませんでしたよ?」

 そんなとき、一人の男――いや、少年が現れた。

 柔らかな金髪は魔光に照らされて蜂蜜色に輝いていて、目にかかるほどの前髪から覗く顔立ちはどちらかというと女性的なものだ。身長も低く、小柄といえるカイリよりもなお小さいのではないだろうか。声変わり前なのだろう。男性らしくないソプラノの声音がよく似合っている。

 自覚があり、なおかつ自分の容姿があまり好きではないだろうことは服装を見ればわかる。大人びたダブルのスーツは着るというよりも着られているといったほうがいいような感じで、悲しみを誘うほどに似合っていない。だぶだぶである。それがとても子供っぽく見える原因の一つとなっているだろう。

 しかし、身に纏う空気は威風堂々。釣り目がちの大きな瞳を細めて、男たちに睨み据えている。

「他人のサーヴァントを蔑んで楽しいのですか? いやはや、高尚な趣味をお持ちで……。感服するばかりですな」

 慇懃無礼という言葉の正しい使い方はこいつのためにあるのだろう。丁寧語から繰り出される言葉は辛辣そのものであった。

 当然、言われるほうはたまったものではない。

「喧嘩売ってんのか、テメェ!」

「えぇ、そうですよ? 雑魚が粋がっているのを見るとどうしようもなく……甚振りたくなる」

 口元を吊り上げて、愉悦の混じった笑みを浮かべる。強者が弱者を潰すときに見せる余裕の笑顔だ。

 もともと笑みというのは威圧的な行為だったとされる。つまり、そういうことなのだろうか。

「チッ、覚えてろよ」

 吐き捨て、男たちはサーヴァントを連れて控室から出て行った。何事だ、と周囲で待機する人達は訝しげに見てくるが、少年――フォルを見た瞬間に納得したように頷き、さきほどのことがなかったかのように試合へと向けて精神集中を始めたのだった。

 だが、テンペストにとっては愉快なことではなかった。獲物を奪われた形なのだから。

「何故、邪魔をした」

 柳眉を逆立てながら、射殺すような視線を向けている。向けられている側のフォルはどこ吹く風だが。

「サーヴァントが一般市民に怪我を負わせたら余程の理由がない限り廃棄処分です。それをわかっていて剣を抜こうとしたのですか?」

「……そうだったのか。それは助かった。礼を言う」

 怒気は霧散し、あっさりと頭を下げられたことに呆気をとられる。随分と素直なサーヴァントだな、とフォルは笑いを堪えるのに必死だった。

「構いませんよ。それにしても、君のマスターはいないのですか?」

「この場にはいない」

「最低限の一般常識すらないサーヴァントを放し飼いとは……あまりマスターに恵まれていないようですね?」

 コンクリートの壁が轟音とともに陥没する。テンペストが拳を叩きつけたのだ。

「……マスターへの侮辱は許さんぞ」

「失礼。どうやら事情があるようですね」

 主人に対しての忠誠がとても高い。騎士型だからだろうか。興味深いな、とフォルは思う。

 そのとき、アナウンスの声が控室に響いた。

『No.38、フォル様とミョルニール様、東口へお出でください』

『No.21、テンペスト様、西口へお出でください』

 控室がざわついた。

 あるものはほっと胸を撫で下ろし、あるものは挑戦できなかったことを悔やんでいる。

 全てはミョルニールに対しての感情だ。絶対強者であるミョルニールに対しての、だ。

 誰もテンペストのことなど見ていない。

「出番のようだ」

「僕ですか」

 そんなことは露知らず、出会いは唐突に戦闘へと移行する。

「……貴方と勝負のようだ」

「そうみたいですね。君は不運にも負ける運命にあるようです」

「それはない。我が身はマスターの剣。折れることは許されん」

 金がないと薬代が払えない。負けることは許されないのだ。

「では、闘技場で……」

 サーヴァントとは基本的に金持ちしか所有しないものである。

 まさか風邪薬の金を払うためだけに参加しているなど、誰も予想していないだろう……。




6.


「ここ、何処?」

 目を覚ますと同時に呟いた言葉はそんなものだった。

 真っ白のシーツに覆われたパイプベッド。あまり嗅ぎたくない類の、まるで病院で入院したときのような薬品のひえた臭い――自分の家はオイル的な臭いのほうが強いので、薬品臭など全くない。そして、自分の家はこんなに広くない。つまり、ここは何処なのだろうか。

 何故だかぼんやりとする思考のまま、夢遊病のようにふらふらとした足取りで部屋を出ると、そこは見覚えのあるところだった。

「あれ、ここって――近所の診療所?」

「そうじゃよ」

 突然現れた老人――いや、顔見知りの医者の顔がいきなり現れて「ひっ」と可愛らしい悲鳴をあげると、カイリは床にへたり込んだ。腰が抜けたのである。

「そこまで驚かんでも……」

「あ、あ、すいません。ところで、なんで私はこんなところに?」

「覚えとらんのか? 風邪と過労でぶっ倒れたあんたをサーヴァントが急いで連れてきたんじゃよ」

「あ……」

 思い出す。

 妙に火照った身体で働きまくり、ようやくお金がたまったのでグレートソードを買ったこと。

 驚かせたかったので、とても重いソレを瀕死になりながらも自力で持ち返ろうという無謀な挑戦をし、公園の前で倒れてしまったこと。

 後は記憶にない。

 さぁーっと顔が青ざめる。もしテンペストに見つけてもらっていなかったらどうなっていただろうか。最悪襲われていたかもしれない。ここらは決して治安が良くないのだから。

 そして、気付く。あの義理堅いであろうテンペストが近くにいないということを。そんなことは性格上絶対にありえないというのに。

「あれ……じゃあテンペストはっ!?」

 腰が抜けたままに老人の肩を引っ掴み、カイリは耳元で叫んだ。五月蠅そうに老人は顔を顰める。

「薬代がないと深刻そうに言うのでな。あれを紹介してやったのじゃよ」

 それは非公式のサーヴァントによる武闘大会だった。

 戦闘プログラムなど一切組み込んでいないのに、テンペストがそれに参加したことを知り――カイリは急いで診療所を飛び出した。

 身体が妙に軽いことに気付かないままに。

「薬も栄養剤も注射したから、もう大丈夫じゃろう……」

 ふわーっと老人は大きく口を開いて欠伸をし、寝室へと戻って行った。


 ◆


 闘技場の観客席に辿りついたとき、カイリは死にそうな思いをした。

 野太い歓声に包まれているリングの中央には二つの影。

 一つはよく知った顔。ところどころ禿げ上がった漆黒の鎧の騎士を着込み、手にはグレートソードを持つテンペストの姿。

 相対するのは――

「【破壊の鉄槌】ミョルニール……ッ!」

 太古の話であるが、かつて人々を苦しめたとされる魔獣の王であるドラゴンの姿を象ったサーヴァントである。

 身の丈は悠にテンペストの三倍はあろうか。重量など比較するのも馬鹿らしくなるほどの差はあるだろう。黄金に輝く鱗は並大抵の攻撃は全て弾き、その爪は鉄だろうともバターのように切り裂いてしまう。

 口から吐き出されるブレスは雷槌。幾人のサーヴァントを破壊したのか数えることも馬鹿らしくなるほどであり、そのせいで【破壊の鉄槌】などという大仰な二つ名がついてしまった。

 大会に出るものたちは口を揃えて言うものだ。

『ミョルニールと戦うことになったら棄権しろ。大事なサーヴァントを再起不能にしたくなかったらな』

 そんな輩を相手にするのは愛しい愛しいサーヴァント。

 自分のために闘おうとしてくれる心構えは嬉しいが、それでも無茶すぎる。戦闘プログラムも組んでいないし、武装は最低ランクにすら劣るジャンク品ばかり。そんなもので最上級の装備で身を固めたミョルニールに勝てるはずがない。

 止めなきゃ――観客席から飛び降りようとするが、そのとき、テンペストと目が合った――ような気がした。

 獰猛な笑みを浮かべ、口を動かしたように見える。

 それは何だかわからなかったが、不意に身体に電流が走ったかのように動けなくなってしまった。

『試合開始ッ!!』

 そうして、中止させることができた唯一のチャンスは永遠に失われることとなる。


 ◆


 テンペストは眼前に立つ巨体を見上げると、心底呆れ果てたようにタメ息を吐いた。

「ドラゴン……か。とてつもなく大きいものだ」

 おそらくはカイリの住まう二階建てのアパートよりもなお大きいだろう。鋭利な爪が妖しく輝き、半開きの口から垣間見える牙は破壊的にすら見える。一撃でも喰らえば一瞬で死んでしまうことは戦闘経験皆無のテンペストでも理解できた。

 彼我の距離は人を越えたサーヴァントであるテンペストからすれば一足飛びで潰せるものだが、僅かに感じる恐怖のせいで足が重い。

 一瞬の迷い。

 それが命取りとなった。 

「――ルオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!」

 ミョルニールは野太い声で咆哮すると、金色の翼をはためかせる。

 虹色の光を纏い、大きく開いた口元には複雑な術式を組み込んだ魔法陣が浮かんでいて――

「――ルオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!」

 激烈な発声とともに、全てを焼き尽くす雷光が放たれた。

 それは雷の杭。

 幾百本にも及ぶ人の腕ほどの太さのそれは、テンペストへと降り注ぐ。

 飛来する速度は知覚することすら許されないほどの神速。高速演算で着地地点を予想し、隙間を縫うようにテンペストは足を動かす。

 ちりちりとどこかが焼けついていくような感触。かつてないほどに視界がクリアになりつつあり、ブレインは過負荷で熱を持ち、オーバークロックし始めていた。通常ならばあってはならぬこと。易々とブレインを焼き切るような無謀な行為は許されない。

 だが、テンペストには確信があった。

 焼けついていくブレインとは逆に、思考は凍えて冷えて堕ちていく。思考ルーチンが日常モードから戦闘モードへと切り替わり、全てのデータが書き換えられていく。

 関節の連動部分からは蒸気が溢れ、マナエンジンは音を立てて爆裂に起動し始める。人工筋肉は張り裂けんばかりに膨れ上がり、身に纏う鎧が邪魔だと感じるほどに力が満ち満ちていく。

 初めての戦闘に高揚しつつ、それでも冷静でいられる自分に驚く。

(これは――何だ?)

 小さな疑問が湧くが、それすらも戦闘にいらない思考だと判断され、全ての自我は掻き消える。

「――オオオオオオオオオオオンッッ!」

 魔法陣が複数展開される。

 ミョルニールは戦闘が始まってから一歩も動かず、翼をはためかせながら雷の吐息をするだけの簡単な作業を行っているだけ。つまり、舐められている。

 そこに勝機があると決めつけて、テンペストはグレートソードを振りかぶり――突進した。

 壁のように聳え立つものは雷光。

 隙間はあるが、避けても被弾する。

 ならば――

「むんっ!」

 鉄の剣は雷を袈裟斬りで叩き伏せた。

 正確には避雷針となって雷を吸収し、柄を覆う絶縁体のグリップのおかげでダメージを喰らうことはなかっただけだが、端から見ればテンペストが雷を無力化したように見えるだろう。

 止まることなく降り注ぐ雷の杭は近づくにつれ厚みを増す。それすらもテンペストは切り払い続ける。

 自分に向かい来る騎士の姿を見て、ミョルニールは口元に弧を描いた。

 獰猛に笑むと、右腕を振り上げ――

「切り裂けぇっ!」

 主であるフォルの声に反応し、鉄の剣とドラゴンの爪が交錯する。

「ミョルニールッ!?」

 予想外の事態にフォルは驚愕する。

 鉄など容易に切り裂く爪が、見てくれからして安物のグレートソードによって断絶されたのだ。

「――グオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 悲痛な叫びをあげながらも、ミョルニールの瞳には明確な戦意が浮かんでいる。

 そうだ、そうとも。自分の作りあげた最高傑作であるドラゴン型サーヴァント――ミョルニールが負けるはずもない。例え爪を失ったとしても、武装が一つ減っただけである。何ら問題はない。ないはずだ。

 迫る騎士へと超大な尾を振り払う。喰らえば跡形も残らないだろう、全体重を乗せた必殺の一撃は、しかし――騎士の振るう超大な剣によって切り落とされる。

 踏み込みの強さはリングが砕けるほど、振り払う剣の一撃は鋼の強度すら超えるドラゴンの鱗を叩き切るほど。

 錆び付いた鎧を纏う騎士は――正しくミョルニールを追い詰めていた。

「ルウウウウウオルオオオオオオオオオッ!!!」

 絶叫には殺意が混じる。

 痛みで退くことはなく、ドラゴンは怒気に染まった眼光でテンペストを射抜く。

 怒りで暴走する敵を屠るほうが楽だ、とブレインは囁くが――果たして、それは正解ではなかった。

 大振りに振り落とされたグレートソードはミョルニールに届くことはなく、リングを縦に叩き割る。

 標的は遥か上空。

 見上げる先にいたのは空を舞うドラゴンだった。

 殺意の波動を撒き散らしながら展開される魔法陣の数は膨大で、数える気すら失せるほどだ。込められる魔力も段違いで、全ての魔力を注ぎ込み、自分を殺す為だけに行使しようとしていることがわかる。

 小さなリングに逃げ場はなく、空を飛ぶ手段のないテンペストはどうしようもない。

 しかし、諦めることなく剣を腰だめに構えると、何の感慨も浮かばない無表情な顔をミョルニールに向けている。

【破壊の鉄槌】ミョルニール――この二つ名は敵対するあらゆるサーヴァントを再起不能にしたからというものもあるが、同時にもう一つの理由がある。

 空から降り注ぐ幾百もの雷槌は不可避。一方的に暴虐する姿に恐怖を覚えたものたちがそう呼び始めたのだ。

 雷神。

 神々の武器の名を冠するに相応しい強さを持つ、最高峰のサーヴァント。

「負けるはずがないはずです……」

 見守るフォルは震えた声で呟く。

 まるで自分に言い聞かせるように吐き出される言葉だった……。


 ◆


「テンペスト……ッ!」

 雷撃に襲われ続ける自分の所有するサーヴァントを見続けるのは、カイリにとって苦痛でしかなかった。

 避けられるものは避け、無理なものは切り落とし、それすら敵わないものは潔く踏み込んで喰らっている。 

 痛覚で神経が焼き切れてもおかしくないほどの絨毯爆撃は――おそらく痛覚遮断によって耐えているのだろうとカイリは考える。

 通常はサーヴァントにも人間と同じように痛覚がある。自己修復機能と併用するための必須の機能であるが、それゆえに性能を全て出しきることができないという欠点がある。何故なら、全力で動けば人工筋肉はあっさりと自壊し、過負荷を与えられたマナエンジンやブレインは数分も持たずに焼き切れてしまうからだ。

 ジャンク。またはスクラップ。もしくはゴミ。必須の機能を持たなくなったが故に捨てられたパーツたち。そして、改造しすぎたが故に扱い辛くなって捨てられたパーツたち。

 それは違法パーツと呼ばれるものだ。

 自分のことを道具と見なし、至極合理的に動くテンペストの姿は戦闘型の機械人形のように見える。思考ルーチンを複数持ち、あらゆる状況に応じて切り替えることができる――サーヴァントの人格を無視した許されざる機能だ。同時に痛覚も失うようにプログラムされているのだろう。

 そんなものを使ってしまったのか、という後悔がカイリを襲う。

 雷光に身を晒しながら、ひたすらに勝機を待つ姿を見ていられず、カイリはリングへと飛び込もうとしたが、警備の者に止められる。

「邪魔しないでよっ!」

 そんなとき、戦局は動いた。


 ◆


 ミョルニールが飛行できる時間はそこまで長くない。何故なら、重いからだ。

 浮遊するために魔力の大半を費やさなければならないし、雷を降り注がせる魔力も併用したなばら、一瞬で魔力は枯渇してしまう。

 マナタンクにある魔力はもうほとんど残っておらず、それでも敵は倒れていない。

 それがたまらなく楽しかった。

 これまでは少し遊んだだけで倒れてしまう柔な敵ばかりで飽き飽きしていたのだ。初めて敵といえるほどにこちらに向かってくれるテンペストに、ミョルニールは感謝すらしていた。

 まぁ、散々痛いことをしてくれたのだから「殺してもいいかな」程度の事は考えているが……。

「――ルウルルロロロオオオオオオオッ!!」

 着地した瞬間、テンペストは颶風となってミョルニールに肉薄する。

 枯渇した魔力のせいで雷を生み出す力はもうなく、ここから始まるのは肉弾戦だった。

 ――一太刀。

 腕が切り落とされた激痛に唸り声をあげるが、怯まずに牙で応戦するも、腕で振り払われた。

 それすらも予想の内。振り払われる勢いを利用し、尻尾でテンペストを痛打する。

 だが――受け止められた。

 身体の穴という穴から蒸気が迸り、修羅の如く歪められた表情で、テンペストは尾を受け止めたのだ。

 振り回す。

 意味合いは随分と変わるが、巨体は再び宙を舞う。

 身の丈を遥かに超えるドラゴンを地面にたたきつけることを繰り返す騎士。

 それは恐怖を誘う光景だった。

 盛り上がっていた観客たちの声は小さくなり、異物を見るような目を向けてくる。

 だが、テンペストにとってはどうでもいいこと。

 ミョルニールの名前を呼び続けるフォルのことだってどうでもいいし、大事なのは忠誠を誓った主人だけ。

 一際大きな轟音を鳴らしてミョルニールを地面に叩きつけると、首筋にグレートソードの切っ先を突き付けた。

『勝者、テンペスト!!』

 こうしてテンペストの挑戦は終わった。




 7.


 闘技場の控室に戻ったときにテンペストを出迎えたのは飛び膝蹴りだった。

「ぐぇっ!」

 戦闘で焼き切れそうになるほどに酷使したブレインは即座に対応することができず、千切れ掛けの人工筋肉は言う事をきかない。マナタンクにある動力源だってもう空っぽだ。そんなときに不意打ちを喰らえば、それは間抜けな声を出しても仕方がないということだろう。

 事態を理解できず、鼻っ柱に膝を喰らってよろつき、テンペストは尻もちをついた。見上げる先には仁王立ちするカイリがいる。

「何で勝手に大会出てるんだよっ! 私がマスターだよっ!? ちゃんと意見聞いてよねっ!!」

 寝てたじゃないか、とテンペストは思う。自分なりに考えた結果がこれなのに、頭ごなしに叱られたら少々気分が悪い。

 だが、不思議と反抗してはいけないという確信があり、決して視線を合わせないようにそっぽを向く。情けないことこの上ない。

 そんなテンペストに襲い掛かったのはカイリの踵落としだった。

 控室で待機している他の人達も呆気にとられたように呆然と見てくるが、カイリが周囲を見据えるように見渡すと、さっと視線を逸らした。

 いつもは優しいカイリなのに、今日はとっても怖い。これが本当の恐怖か……とテンペストは悟る。ミョルニールの怖さなど足元にも及ばない。

 自然と窺うような目つきになり、声だって震えてしまうのを誰が責められようか。

「待て。話し合えばきっとわかる」

「話し合う気なんかないよ!?」

「そんな馬鹿なっ!」

 最初から自分が悪いということは運命づけられていたようだ。

「馬鹿って言ったの?」と怒気に満ちた眼光を向けられるだけで身が竦む。果たして自分はここまで臆病者だったのだろうか、とテンペストは泣きそうな思いだった。感謝すべきは涙を流す機能がないことと、小便を漏らす機能がないことだろう。もしあったら自決しなければならないような事態に陥っていたに違いない。

「我が身の行為は徒労だったのか……」

 全ては主人のため。そのために努力したのに怒られる。何だか虚しくなって、テンペストはへこんだ。

「けど、私のために……ありがとねっ!」

 不意に、さきほどまで怒り狂っていたカイリに抱きつかれる。

「お熱いことですね……」

 それを見ていたフォルは、自分のサーヴァントを打倒した騎士に話を聞くことを諦め、そそくさと闘技場を後にした。

 見るのも目に毒な光景なのである。

 何故なら、どちらもだらしないほおに頬が緩んでいたのだから……。

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