朝の音、終わりの音
少し思いついたから、書き留めておきました。
朝、顔を洗う。だが、今日はひげを剃らない。
朝飯を食う。昨日、食わなかったアンパン。固くなっている。
靴を履く。踵を踏んで足をねじ込む。
靴べらがは探さない。
05時10分。
デジタルの腕時計。一秒の狂いもない。
確認して部屋のドアを開ける。
変わらない。
踏切につく。
始発の列車が通る。
時間通りに部屋を出ると、必ず踏切の遮断器が下りる。
鐘を打つ音。規則正しく点滅する赤い信号。
一分。
そこで過ごす時間。変わらない。
不快な音で寝不足の頭を揺さぶられ、工場までの時間を無駄に浪費させられる。毎日、それを感じる。工場はもっと不快だ。
旋盤で鉄が削られる音。溶接の目を刺す火花。
よりマシな不快。
それがある。それを確認するために、ここに立つ。
雨の日。大雨の日。電車が止まる。
不快を得ずに行った工場。いつもより不快を感じて過ごした。次の日も大雨で電車は停まった。
朝起きる。ラジオを点けると「電車は走らない」と言っている。
朝飯は食わない。昨日、濡れた靴は乾いていない。
デジタルの腕時計は見ない。
傘を差し、踏切に向かう。
はねた雨水が靴下まで濡らす。違う不快に、水を蹴る。蹴られ舞った水の先、踏切に少女がいた。踏切に立ってレールに傘を差している。
「何してる」
「電車が走れるようにしてるの」
「明日には走る」
「どうしてわかるの」
「そう聞いた」
「誰に?」
「ラジオ」
少女は笑った。
「朝の音。また聞けるんだ」
少女をそのままにして、工場へ行く。そして、終業のベルで機械を停める。会社を出ると、雲は晴れ、夕日が赤く空を染めている。
部屋に帰る途中、動き出した電車が通る。踏切が奏でる鉄と機械の音色。
一日の終わりの音だ。




