オルゴールの中に隠されていたのは
夫は半年前に亡くなった。
庭で倒れていて、そのまま意識が戻らなかった。
まだ一緒にいられると思っていた。
伝えたいこと、一緒にやりたいこともまだまだたくさんあったのに。
これからいくらでも時間がある、そう思っていたから何も伝えてはいなかった。
何故もっと伝えなかったのかと自分を責めた。
幾度となく自分を責め後悔しながら日々を送っていた。
そんなある日のこと。
その日は暖かい日差しが降り注いでいた。
久しぶりにオルゴールを手に取った。
いつかの誕生日に夫がくれたオルゴール。
毎年誕生日に一緒に聴いていた。
今年はつらくて、一人ではとても聴けないと、ネジを巻くことさえしなかった。
二人での想い出の曲。
春の始まりとともに訪れた恋を寿ぐ曲だ。
それを何故だか急に聴きたくなった。
ゆっくりとねじを巻く。
いつもそうしていたように窓辺に置かれたテーブルの上に置いてゆっくりとふたを開く。
小物入れにもなっているそこには手紙が入っていた。
宛先は私だ。
懐かしい夫の字。
思い出の曲が流れている中、手紙を開く。
『お誕生日おめでとう。
こうやって君に手紙を書くのはいつぶりだろう?
今まで僕を支えてくれてありがとう。
子供たちも手が離れたことだし、久しぶりに一緒に出掛けないか?
一緒に入れてあるイヤリングをつけてくれると嬉しい。
君に似合うものを何時間もかけて選んだんだ。
店員さんに呆れられたくらいだ。
これからは君とゆっくりと過ごしたい。
僕と結婚してくれてありがとう。
これからもよろしく』
オルゴールの中には小袋があった。
手に取って中身を出せば、可愛らしい花をモチーフにした小振りのイヤリングが手の平に滑り出てきた。
「今までそんなこと、言ってくれたことなかったじゃない」
ぽろりと涙がこぼれた。
イヤリングを握りしめて嗚咽を堪える。
涙が後から後から出てきて止まらない。
オルゴールの優しい音色に包まれて泣き続ける。
今は春の始まり。
貴方に恋した始まりの季節だ。
読んでいただき、ありがとうございました。




