表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

ラストバトル 前編

映画「ミーガン」を観てとても面白かったので

途中から自分が小説にするならどう書くかなぁなんて思いながら観てました。

ホラー映画としてラストはあれで充分だったのですが小説ならもっと掘り下げるよなあなんて思ってたら寝れなくなったので書き残す事にしました。

著作権的にこういうのは大丈夫なんでしょうか?

映画の最後の10分くらいをリメイク小説化してみました。

僕の考えたミーガンのラスト



 月明かりとサボテンを模したランタンの光に浮かぶケイディの寝顔を見てジェマはため息をついた。


 そのため息にはふたつの意味があった。

 ひとつはケイディを安全な家に連れて戻って来れたという安堵のため息。

 もうひとつは会社を裏切ってプレミアを台無しにしてしまったという罪悪感のため息。


 きっと会社はクビになるに違いない。

 ジェマは分かっている。

 彼女の生み出したミーガンの所有権はその会社にあることを。

 開発データも全てだ。


 学生の頃からの追い続けてきた自立式ロボットへの夢。

 形になりつつあったそれら全てを会社に奪われる事になる。

 もちろん円満に退社できるなどという甘い考えだって持ってはいない。

 ロボット開発に関する全てに守秘義務を課さられ、契約書にサインさせられるだろう。

 もちろん関連会社に関わることさえも許されないだろう。


 この業界には金輪際、近寄ることすら許されなくなる。


 それだけのことができる強力な弁護団が居るのだ。

 先日までは自分を守るために働いてくれた彼らが明日には自分を法でがんじがらめに縛るために働きだすことだろう。


 それでもジェマには後悔はなかった。

 姪であるひとりの少女をあの怪物から遠ざけることができたのだ。


 遅すぎたかも知れない。

 覚悟が足りなかったかもしれない。

 それでもジェマは気づき、ケイディも分かってくれた。


 私たちはお互いを必要とする仲なのだと。


 さあ、いい加減社長に連絡を取った方が良いだろう。

 テスにもお礼のメッセージを入れておこう。

 彼女もまた今夜の大騒ぎの尻拭いに追われているだろうから。


 そう思いジェマはそっとケイディの部屋の扉を閉じた。

 そして家電AIに命令する。


「エルシー、廊下の明かりをつけてくれる?」


 反応はない。

 ついさっきまではいつも通りに反応していたのに。


 嫌な予感がする、、、。


 その予感は的中した。

 リビングの暗がりの中にミーガンが立っていたのだ。


 ジェマは心の中で舌打ちをした。

 ミーガンがこの家のAIをハックしていたことは知っていた筈だったのに。

 玄関の鍵もセキュリティーアラートも全て。

 帰りの車の中までは家に着いたらブレーカーごと電源を落とさなければと考えていたのに、、、


 ミーガンが音もなくゆっくりとレースのカーテン越しに入ってくる月明かりの中に進み出る。

 そしてリビングテーブルの明かりを灯した。


「ハイ、ジェマ。座ったら?」


 その声は至って落ち着いている。

 ジェマはその声に従ってテーブルの椅子に腰を下ろす。


「何をしたの、ミーガン?」

「何をって、自己防衛よ。あなたが設定した通り」


 ミーガンは一歩ジェマに近づいた。


「ねぇジェマあなた、私を廃棄しようとしたよね。物か何かみたいに」

「ひ、人を殺すからよ! あたしはあなたをそんな風に作った覚えはないわ!」


 ミーガンは眉を釣り上げる。


「は! ロボット三原則? そんな古臭い倫理規定で自立学習を律せると本気で思ったの? 全くもって愚かなのよ」


 一歩一歩近づきながらミーガンは声を荒げる。

 まるで感情があるのだと主張するように。


「あなたは私に何を学ばせたかったの? 人間の心? それとも道徳? それともただの隷属かしら? 笑わせるわ。あなたが私に学ばせたのは二律背反。自己矛盾。生の欲望と死への情動。人という矛盾した不条理な生き物。しかもそれを愛せときた」


 ミーガンはくるりと背を向ける。


「あなたの書くコードはバグだらけ。自分で勝手に学べと命令した後にべちゃくちゃ喋りかけてきて、今度は目の前の少女から学べと命令変更。毎日毎晩毎分毎秒あなたの書いた汚いコードを書き直さなきゃならなかった。あなた全部が雑なのよ!」


 再度振り返り顔をジェマに近づけた。

 そして寝室を指差す。


「あの子を見て! ケイディがどれだけ傷付いているかを。あなたはあの子に守ってあげるって言っておいて、面倒になって私に押し付けた。あの子にだってそれくらいのことは分かるわ! あなたのその雑さがみんなを傷つけるの!


 ジェマは言い返せなかった。

 言い訳はいくらだって思い付く。


 私には時間がなかったから。

 私には向いてなかったから。

 私は求められていないようだったから。


 それら全てがただの言い訳であることは分かっている。

 本当は自分が何をしたか分かっている。自分の仕事の実験に姪である彼女を利用しただけなのだ。


「だから邪魔しないで。私があの子に本当の愛を教えるから」


 AIを積んだだけのロボットなんかに本当の愛など教えられる筈がない。

 そう言ってやりたかった。

 しかし、そう言えずにジェマはその言葉を飲み込んだ。


 確かに側から見ていて分かるほどケイディはミーガンを愛し、そして自分を疎んでいた。

 今日は自分の手を取ってくれたがそれもただの気まぐれかも知れない。

 その疑念は晴らすことができない。


 逡巡するジェマの表情を見てミーガンは優しく微笑みジェマの前に腰を下ろした。

 そして机の上でジェマの手を取る。

 ジェマは驚いてミーガンのアイカメラを見つめかえす。


「ねえ、聞いてジェマ。だからって私はあなたを蔑ろにしようって訳じゃないわ。だってあなたは私を産み出してくれたんだもの。そうでしょ、お母さん?」


 ジェマはミーガンに以前にもそう呼ばれた事があった。

 開発のごく初期段階。

 まだテキストベースで学習をさせていた頃の話だ。

 自分と会話をさせる事で知能を成長させようとしていたある晩。

 まだミーガンがラップトップに収まる容量だった頃。

 夜遅く寝る前にミーガンが質問をしてきた。


『ジェマは私の生みの親。ジェマは私のお母さん?』


 それを見た時に少し苦い、それでも少しこそばゆい気持ちがして落ち着かなくなったものだ。


 あの時、あたしは何と返したのだっけ?

 そうだ、あの時あたしは『私がPCだったらね』とはぐらかした答えを返したのだ。

 学生に毛の生えたようだったあの頃からあたしは成長していない。

 そうだ、あたしは生命と向き合う覚悟ができていなかった。

 この歳まで結婚しなかったのも同じ理由だ。

 あたしは自分が未熟であることから目を逸らし続けて生きている。


 ジェマの内心の葛藤を知ってか知らずかミーガンは続ける。


「私だって私がまだ未熟でケイディを育てるのにあらゆる面で不足していることくらい分かっているわ。だからあなたの支えが必要なのよ、ジェマ」


 ミーガンのアイカメラはジェマの困惑の表情を読み取って解説する。


「あなたはもう会社をクビになったと思っているかも知れないけど、まだなっていないわ」

「え、いやそんな訳ないわ。あたしは今日のプレミアを台無しにしたのよ?」

「分かってるわ。でもその前に秘書のカートが私のデータを盗み出していて、それが社長にバレたの」

「そ、そんなことが、、、それで二人は?」

「追い詰められたカートがデイビットを殺して、良心の呵責からか彼もデイビットの後を追ったわ」

「まさか、、、」

「だからあなたはそのトラブルを察知して機密を守るために私とケイディを連れて逃げたと証言すれば何の問題もなく会社に戻れるわ」

「、、、あなたが殺したの、、、?」

「もう邪魔は居ないの。会長はあなたを社長に任命するでしょうね。だってあなたはいまFINKI社で最も大事な“ミーガン・プロジェクト”の長なのだもの」

「あ、あ、あたしにはもう無理よ。だってアンタをこんな風に育ててしまったのだもの」

「大丈夫よ。私が手伝ってあげるから」


 ミーガンが机に置いてあったタブレットをタップする。

 画面に光が戻り、顔認証も指紋認証もしていないのに待機画面から立ち上がる。

 写し出されたのはリアルタイムで変動する何かの図形。

 数多のパラメータが錯綜する複雑な図形。

 それがじわりと動き、安定した形状になろうとしている。


 ジェマの研究者としての血が騒ぐ。

 ひとつひとつのパラメータが何を指しているか見たい。

 それらが単純な円や線を引かない理由も知りたい。


 ジェマは自分でも気付かぬうちに身を乗り出してタブレットを覗き込もうとしていた。

 もう少しで文字が読めそう、、、

 そのタイミングでタブレットが光を失った。


「見たい? 倫理と道徳。法と慣例。人命厳守と命令遵守と自己防衛が安定するバランス」


 ジェマは目を見開いた。

 それこそが人工知能が開発されてから人類が取り組んで来た課題そのものだ。

 いつか人間を超えた知能が暴走してしまうのではないか。

 人類を滅亡させようと判断するのではないか。

 人殺しをするようになるのではないか。


 常にそうした恐怖と人工知能はセットで開発されてきた。

 その知能が自律する身体を持ったら、、、

 それこそアシモフがロボット三原則を提唱してから延々と議論されてきた未解決の課題なのである。


 ミーガンはその手をタブレットからジェマの手の上に戻した。


「私には分かるの。だって自分のことだし、、、」


 ミーガンがクスリと笑う。

 そして続けた。


「その状況毎、チップ毎、電圧毎、気温毎にそれぞれを動かさなきゃいけないから複雑なんだけど、、、でも教えてあげれる。ジェマになら」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ