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雨の日の神様

作者: カトーSOS
掲載日:2025/10/21

雨の日、傘を忘れた私の前に現れたのは、ちょっとだけ足が速くて、ちょっとだけ優しい“神様”でした。


クラスメートとの何気ないやりとりの中に、ふと差し込むやさしさ。 それは、誰かを救うような大げさな奇跡じゃなくて、ただ傘を差し出す一瞬のぬくもり。


「雨の日の神様」は、そんな日常の中に潜む“ちいさな奇跡”を描いた短編です。


読み終えたあと、少しだけ誰かに優しくしたくなるような、そんな物語になれば嬉しいです。

朝は晴れていた。


昇降口のガラス越しに見えるグラウンドには、

雨を弾いた水たまりが、ところどころ光っていた。


私は折りたたみ傘を持ってこなかったことを後悔していた。

お母さんが「持っていきなさい」と言っていたのに。


やまないかな、と空を見上げる。

雲は厚く、低く、どこまでも灰色だった。

無理だ。駅まで走るしかない。

そう思ったとき、私の横に大きな影が落ちた。


林だった。


「おう」


彼はいつもの調子で短く言った。


「林、遅いね」

「図書館で本、読んでた」


えっ、そういうキャラ?

私は思わず笑ってしまった。

林は体が大きいし、足も速いから、

てっきり野球部か何かだと思っていた。


「中学までやってたけどな。肩、壊してもう投げられないんだ」

「ふーん、そうなんだ」


「笹原こそ、こんな時間までいるんだな」

「私は委員会で、ちょっと遅くなったの」


「そうか。じゃあな」


林は鞄から折りたたみ傘を取り出し、

グラウンドの隅を通って校門へ歩いていった。

その背中がどんどん小さくなっていく。


私は、小さくなった林に向かって、

聞こえない声で「バカ」とつぶやいた。


──その瞬間、林が振り返った。


そして、校門の向こうからこちらへ歩きはじめた。

小さかった影が、だんだん大きくなっていく。


私の前に立った林は、

真っ直ぐに私を見下ろして言った。


「笹原、バカだろ。傘忘れたなら言えよ」

「駅までだろ? 入れよ」


「えっ、でも……」


「クラスメートのよしみだ。明日、焼きそばパンな」


「ただじゃないんかよ」


思わず笑って、私は林の傘に入った。


肩がぶつかる距離。

わたし、知ってるよ。

林の体は半分濡れていたけれど、

私はまったく濡れなかったこと。


駅までの道。

ふたりの足音が、雨音とまざり合って響く。

濡れた道に並ぶ影。

ひとつは大きく、ひとつは小さい。


明日は焼きそばパン、一緒に食べよう。


雨の日の神様は、

ちょっとだけ足が速くて、

ちょっとだけ優しい。


そしてたぶん、

どこにでもいる。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


「雨の日の神様」は、誰かの優しさがふと差し込む瞬間を描いた短編です。


林は、特別な力を持っているわけじゃない。 ただ、傘を差し出すタイミングが、少しだけ完璧だった。


そんな“ちいさな奇跡”が、日常の中にひっそりと潜んでいること。 それを、笹原の視点からそっと描いてみました。


誰かの傘に入れてもらった記憶。 あるいは、自分が差し出した傘のこと。


そんな記憶が、少しでもよみがえったなら嬉しいです。


また、雨の日に。

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