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【第十一話】ただいま、そして零遺品部屋立てこもり事件

「「ただいまー/たっだいま〜!!」」

「遅い」

 あれからみんなと別れて家に帰ると、扉の前で兄が仁王立ちをして待っていた。

「…えらいじゃん、探しに行かなかったんだ」

 私が言ったこの言葉は少し意地悪だったかもしれない。

 だってこの兄だって、二人に私が入り込めない何かがあるのだって、きっと、「それ」故だから。

「…」

 兄は無言でこちらを見つめていた。

 だが次の瞬間、少し空気が緩んだ気がした。

「…で、それはなんだ」

 すると私たちが持っている大きなビニール袋を指差した。

 私は玄関の扉を閉める。

「これはー、ゲーセンの景品でーす!」

 零は自分が持っていた袋を兄に差し出した。

 兄が袋を受け取り中を覗く。

「…ぬいぐるみ、フィギア、アクセサリーに小さい可愛い系のカバンにつけるヤツ…あとは変な…やつ」

「変じゃないよ!ビョーンだよ!」

「何だよそれ…」

 ため息混じるに言う兄は少し疲れているようにも見えた。

 他にもあるよ!と言いながら、その例として零は兄の持っている袋から一つ取り出して見せる。

「ほら!コレはゴムになってて、引っ張るとビョーンって!ほら!手のヤツ!見たことない?え、昔私とか持ってたじゃん!」

 駄菓子屋にも売ってたし!と一言。

「知ってるが、何でこんなのまで…」

 それに私が説明をする。

「友達がくれた。あとなんか教えてくれて、取れた」

「だからってこんなに…」

 みんなクレーンゲームうまかったんだよな。

 春太くんは、…まあ、うん、…

 他二人の女子はリズムゲームもうまかった。

 そんなことを考えていると、兄は一息ついてとんでもないことを言いだした。

「零、お前の遺品、全部あるんだぞ」

「は/え?」

 空気が凍った気がした。

「いや、一応伝えたほうがいいかと思って」

「え、なん…」

 零がテンパる。

「全部お前の親から譲ってもらった」

 サラッと衝撃発言。

 背後に爆発が見えた。

 よく動画配信サイトとかで見かける使い回しの、アレ

「え?え?今このタイミング?え、まあ、あの親なら、わからなくもないけど、でも、…えー…」

 零は下を向いて自分の顔を手で覆った。

 その話を聞いて私は思わず

「流石にそれはキモい」

 すると一気に二人分の注目を浴びる。

「ていうか、そろそろ玄関通して?兄がいて通れないんだけど」

「…え、あ、ご、ごめん…」 

 一拍あけて兄が言った。

 でも同時に兄はスペースも開けてくれた。

 私はそこを通る。

 部屋には冷房が効いていて涼しかった。

「涼し…」

 荷物をテーブルの横に置きソファに座る。

 テレビをつければニュースがやっていた。

 そしてまだ玄関に残っている二人はこんなやりとりをしていた。

「…反抗期かな、ドンマイ、まあ、やってることが…ね、だからね」

「…お前は俺がキモいか?」

「え?…あ、いや、別に?ほら、その、また私の名前でネットサーフィンできるってことでしょ?ね?嬉しいよ?」

「…」

 兄が座ったのは私と少し離れたところにある一人用ソファだった。

 本当に、ちょこんと座った。

 一瞬ちょっとかわいそうだなって思ったけど、すぐどうでも良くなった。

 すると零が座らないので何かと思うと

「…え、てかさ、座ってないでさ、ねぇ、見せてよ部屋、あるならさ、ねぇどこ?!」

 すると少し遅れて兄が答えた。

「専用の部屋がある」

「え…」

 そうして部屋に向かう二人に、私は無言でテレビを消してついて行った。

 そこには、

「うえ?!私の部屋まんまじゃん!再現度高くない!?」

 らしい。

 二人にしか伝わらないネタ、たまにある…

「えー、まって…プリクラ帳もあるし、PCそのまんまだし、シール手帳まで、しかも部屋の配置とか変わってないし…」

「机の傷、臭い、…お菓子箱」

「お菓子の中は定期的に交換してあるから大丈夫だ」

「いやなんで?!え、てかやばっ!ちょっと待って、来ないで!」

 部屋を思いっきり閉める零。

 多分一人でゆっくり見たいからってことなんだろう。

 そしてこれが後に言う『零遺品部屋立てこもり事件』だ。

 そして兄と二人で扉の前に立ち尽くす。

 でも私も少し中見たかったな。また今度見せてもらおうか。

「てか、何で今まで言わなかったの?部屋とかだってここ使わせればよかったのに」

 この家、なぜか部屋がたくさんある。

 幽霊専用の部屋まで。

 前に零は「お部屋探検!」とか言って部屋中回ってたが、本人は本人なりに色々配慮してたらしく、入った部屋も自分の部屋とトイレとか、あと廊下歩いたぐらいだった。だから今まで気づかなかったんだろうけど…

「…勇気がなかった」

 兄はそれだけぼつり、と、

 私は何も言わなかった。

 ーーー

 ーー

 ー

「いやー、今日久々にスレ立てたわ」

「なにそれ?」

 兄は仕事に行った。

 最後まで渋ってたけど。

 そして今は零が部屋から出てきてリビングに戻ってきた。

 でも、結局出てきたのは籠り始めて二時間ほど経った時のことだった。

「えー?知らないの?もう、機械音痴なんだから」

「…なにこの『元人間による人間のための幽霊によるスレ』って」

「スレの名前」

 その後なんかよくわからんけど説明された。

「へー、掲示板…」

「今日久々に色々堪能してのめり込んだからね!貰ったスマホも使えてたけど、部屋には忘れてたパスワードのメモもあったし、それにやっぱ自分のがいいよね〜!テンション上げ上げ〜!!」

「あ、莉央っちもスレデビューしちゃう!?やり方教えるよ!」

「いい」

 キッパリ断るのは大切とどこかで聞いたことがあるから断った。

 確か、そんなポスターを前に零に見せられた気がする。

「もー、そんなきっぱり答えなくても…」


 そして私は悟りを開く。

 やはり、世界は矛盾しているのだと。

 そして私は思う、兄も昔は大変だったんだと…

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