【第九話】新しい学校、新しい人、そして初めての友達
「初めまして、転校して来た冬木莉央です。よろしくお願いします。」
拍手
私は今日、転校して初めて学校に来ていた。
しかも、まあまあ良いとこの学校だ。
「おぉ〜、後ろの席か〜。黒板見える?」
「…」
零もついて来た。
私はもう気にしてないし、いいけど、何でも。
「何で返事しないの?」
[変に思われるでしょ]
ノートに書く。
これは零専用ノート。
人前ではこれで話そうと思う。
「んー、おk、理解理解。ところで——」
「初めまして!」
声をかけられ、ノートを素早く閉じて顔を上げる。
そこには髪の毛がロングで、ハーフアップの三つ編みバージョンみたいなのをした、かわいらしい、背の低めな女の子がいた。
「私、斉藤琴音って言うの!これからよろしくね!」
笑顔で手を差し出してくる。優しそうな人だ。
「あっ、はい、こちらこそよろしく…」
「タメ口でいいよ!」
握手する。すると今度は男子が寄って来た。
「俺の名前は大村春太!よろしくな!」
ニカっと笑顔でこちらも握手する。
すると春太…くんが振り返り
「おーい、凛ー!お前も来いよ!転校生だぞ!」
そう呼ばれた子は教室の廊下側の端で本を読んでいた。
顔がすらっとして、カッコいい女性だ。
黒上ロング。
青のメッシュ入れたら似合いそう。
「は?うっせえな、こちとら本読んでんだぞ。ウチにはカンケーねーし。」
私のことは見ずに、春太くんを睨んでまた目線を落とす。
「…あちゃー、ごめんね。凛ちゃんね、悪い子じゃないんだけどね、少し荒くて…」
「大丈夫…」
本当に大丈夫なのだ。そんな目で見ないで、本当に、慣れてるから…
すると琴音ちゃんは気を利かせてなのか、
「今日学校案内するよ!先生と二人っきりよりいいでしょ?あと、お昼一緒に食べない?」
「いいなそれ!俺も入れろ〜!」
と二人から誘われた。
「…いいの?その…」
「勿論!もう友達でしょ!ね?」
目を見開く感覚。
友達
友達というのか、そういうのは、私のことを…?
ふと、零がいるところを見る。
笑ってて、目を輝かせて、
「いいね!行こうよ!」
と言っていた。
…少し安心した。
私は二人の誘いに答える。
もしかしたら、この学校なら、もしかしたら…
初めての気持ちに、言葉に表せないような気持ちが湧いて来た気がした。
きっと、大丈夫
ーーー
ーー
ー
四時限目。
零は莉央から離れて、兄の朔也のところに来ていた。
「…どうした」
楽屋、テレビ実演前の時間。
零は朔也の向かいにあるソファでくつろぎ、どかっと座る。
「いやー、いいスタートだったよ、妹ちゃん。大丈夫そう」
ガダッ
朔也が椅子から立ち上がり、零の肩を掴む。
目を見開き、明らかに焦っている。
「あー、もう、何?照れちゃうんだけど」
「やめろ」
零は目を伏せる。
「…なに?何を?」
「大丈夫なんかじゃない。だからやめてくれ。大丈夫じゃないから、…いくな。頼むから」
「…もー、心配性だなあー」
二人とも動かない。
朔也の声はいつもより強張っていて、少し声が低く、圧があるような、縋りがあるような、
朔也の手に力が籠る。
「別に、別れを告げに来たわけじゃないよ。まだいかない。」
「信用できない」
「えー、」
零の口調は変わらない。でも何処か、いつもより落ち着いたトーンだ。
「じゃあどうすれば良い訳?」
「……何その顔」
零は目を細め微笑む。
でもその顔はどこか、泣きそうな、強がっているような、諦めているような、そんな顔
「…あはは、トラウマ?ごめんね。でも、今度は」
零が朔也の頬に手を当てる。
「——もう少しだけ、私も手放さないよ」
もう、「 」を———