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疑心不信

「貴様が調査したものを全て使い、よくやってくれた」


スアナがそう、私に告げる。


勲章を首にかけられ、スアナの手の甲に口付けをした。


永遠の中世の証は、この場の誰もを喜ばせた。


劣勢だった、らしい魔王軍には、微かな希望が芽生えてきたのだから。


四天王という新たな制度、その該当者達のもたらす戦果、そして実状。


人を追い詰めているという事実が、魔物達に心の安泰をもたらす。


相手の戦力、土地も減り、我らは暮らせる場所が増えた。


しかし、ゼルリは、私は自身が戦争をしてあるという自覚たる物がない。


沢山人を殺そうが、街を破壊しようが、私には関係ないと、思いこめてしまえたからだ。









夜、夜中に、呼び出される。


コレはいつものことで、玉座の間にはスアナと私だけだった。


「今日は、歩くか」


大きな扉を括り、城の外へ出て、当てもなく歩く。


民がこちらに気づいて、声をかけてくれる。


それに対しては手を振ることで答えた。


「魔物とは、だいぶ打ち解けたようだな」


「……そう、ですかね」


「単純、バカというやつかも知れぬが、それ故に悪意の有無がわかりやすい」


それは、わかる話だ。


「ないだろう?お前を苦しめた、悪意というのが。魔物達は真っ直ぐと、貴様に向き合ってくれる。偏見差別でなく、ただ実態を持って」


初めは人だからと、舐められていた。


喧嘩を売られることだって、珍しくはなかった。


が、今はそんなことがない。むしろ尊敬されている。


話すのが遅い、私の言葉をゆっくりと聞いてくれる。


それは心地よかった。


過ちを認められず、同じ過ちを繰り返す人間と違って、ここの生き物は事実だけを見ている。


人気が少なくなる、やがて森へ来る。


「貴様らの活躍により、人間達の領土は奪えたし、戦線を進めることができた」


この戦争は、大きく3つに分かれていた。


私が戦ったのが中央で、他の四天王はその左右で戦ってくれていた。


「四天王のリソースを中央に傾けたから、そこだけ進軍が早い」


もう、攻めようと思えば人間達の首都を攻撃できるらしい。


「本当は、戦況だけなら五分だったのだ。逆に左右は薄いのだからな」


しかし現在、我らは全部の場所で優位に立っている。


「が、どうだ。人間の王は、我が身欲しさに軍を退却させ、自分の国を守らせるようにした」


そう、私たちが攻め込んで、王都が目に見えてくれば、人間の王はそれに対処する、という名目の自己保全でリソースを防衛に割く。


それが実状。私たちは、最も容易く攻め込めてしまったのだ。


「嬉しいぞ」


誰もいないから、人目を憚らずキスをされる。


「愛した男と、人間を滅ぼせるという事実が」


私もだと、言う気にはなれなかった。


言ってしまえば、私の復讐の心は消え失せてしまうからだ。


「よい、気持ちは伝わっておる」


倒れていた木に座る、座らさられる。


「なあ、ここはどうだ?不便ではないか?」


「……特には」


元いた場所に比べれば、どんな所であれましなのだ。


「そうか。なあ、ここは美しいだろう」


「そうですね」


コレだけは、本音だった。


木々の合間をすり抜けて、我が身に宿る月光は、スアナを照らす月明かりが、美しくないわけがなかった。


人工的な手入れがされているここは、芸術のような美しさを持っていたのだ。


「ずっと、人間を見ていた」


スアナが、そう言う。


「魔物だけでは戦争に勝てない。だから、人間からも、逸材を探した」


私を手繰り寄せ、私の手のひらを握る。


「やがて別の世界までも観測して、ずっと探していた」


私の手のひらを、自分の頬に持ってきて、愛おしそうに頬擦りをする。


「ずっとずっと、探していて、見つけた。お前を、貴様を。嬉しかった、幸せだった。お前の人生を全部見た、同情した、羨ましいとも思えた」


私の手を離し、空を見上げる。


「お前の彼女が死んで、お前が父を殺して、母を殺そうと言う時、私はどう思ったと考える?」


「……嬉しかった」


「そう、そうだ!お前の闇は、ポッカリと空いた穴は、人を殲滅する力となる!その虚無を、私になら埋められると、二つ思った!」


私の方へ倒れ掛かり、肩に頭を乗せた。


「嬉しかった、嬉しかったぞ。お前を我が物にできると、お前の衰弱しきった心を利用して、いいようにできると思うと、興奮が止まらなかった」


「……私だって」


有難いと思った。


口には出せないが、そう思っている。


「この美しい世界で、愛した男と一緒に暮らす為には、人間を滅ぼさなくてはならない」


それは、そうなのだろうか。


「やがての将来、貴様の歴史と同じように、核爆弾を使う奴など、滅ぼさなくてはならない」


それは、そうだ。


「並行世界を、他の世界を覗けるテクノロジを持つこの世界では、やがて核が作られる」


「……」


「いやもう、作ってあるのかもな。人間の王が魔物を滅ぼす為、環境を破壊するような爆弾を」


「止めなければ、ならないと」


「そうだ。自然に仇なす人間など、共に滅ぼそうではないか」


「……はい」














騒ぐ声がするが、うるさくはない。


ざわめきというのが、一般的であるのは、人に疎い自分でもわかる。


「なあ、聞いたか、アレ!」


耳打ちするように話す声が聞こえる私の耳は、人の集団に苦痛を感じる。


が、自身の行いの成果は見なければならないし、更なる結果も求めなければならない。


「勇者の一員といっても……所詮は人間だよなあ……」


私がスマホで録音した、スアナがそれを誰にでも使える形で抽出した、された物を人間達に渡せば、娯楽の少ないこの世界ではあっという間に広がる。


「おい!貴様!」


大声で話していた男が衛兵に捕まる。


ここは人間達の首都、王が暮らす街、そこの酒場では、勇者達の実態が、御影の噂が蔓延っていた。


勇者達は己の欲のために戦っている、勇者達は民を守る気がないと。


負け気味の人間は、他者に責任を押し付ける。


そこにちょうどよく私のタレコミが着火剤となり、民衆は、王に対し、上に立つ者達に対して、信頼をなくしていた。


愚かだと思うのは、排他的で他責的だからだ。


私も、他者から見ればこうなのかもしれない。


自分の不幸を他者のせいにして、自分自身では何もしないのかも知れない。


「勇者は腐ってるー!」


きっとデモ活動だろう。外から大勢の声がする。


何故一員の、あの二人の言動だけを勝手に信じて残りの人たちを勝手に判断するのかは理解に苦しむが、義務教育が足りてなかればこんな物だろう。


足りていても、こんな者だろうけど。


はあ、とため息をついて、路地裏へ行く。


疲れる。


人混みの中にいると吐き気がする。


酒場から家の匂いがして、他者に責任を押し付ける様が父と母に似ていて、殴り合うデモと衛兵が、痛みをフラッシュバックさせた。


吐きたいと思うが、胃の中に物がないので吐くことはできない。


逃げたいのだが、逃げ出せない。


日差しに当たらないよう、人に見られないように移動していく。


ネズミと共に歩き、途中で別れる。


人混みが少なくなっていくのは、ここが立場が上のものが住む所だからだろう。


一軒当たりが占める面積が大きくなり、かつ趣味の悪い金色が増えているから、そう思った。


幸せ、幸せとは何か。


あの家に住めば幸せなのだろうか、金があれば私は幸せなのだろうか。


やめろ、考えるな。


幸せを、感じたことがない。幸せだと言えそうなものは、結局不幸のスパイスでしかなかった。


もういいだろう。


私は、迷っているのだ。


幸せがわからない目指す場所がない。


そうだ、大学へ行って、大手企業へ行けたとしても、私は幸せになれはしなかったのだ。


金ができて、その使い道がなければ、私は幸せになれない。


けど、わかりはしない。


過去の記憶がない。自分の根拠がない。


何が好きなのかわからない。


運動は?食事は?読書は?


そう言えばだが、もうどれぐらい本を読んでいないのだろう。


心がずっと壊れているから、記憶が曖昧なままだ。


「私……は……」


悲しく呟いてみるが、言葉に先はない。


なんで、あの頃は幸せだったと言えるのか。


それは、道を知れたから。


本を読み新たな知見を手に入れるように、あの人は、私に着飾ることを教えてくれた、話すことの楽しさを教えてくれた。


私一人で進めぬ道を、共に渡ってくれた。


だから記憶に鮮明に焼き付いて、色鮮やかで、私の目を惹く。


それが幸せなのなら、私は、私は。


「スアナ……」


助けてくれ、導いてくれ、私の手を、取ってくれ。


私はどこに向かえばいいんだ。

スマートフォンなどの電子機器は魔力で充電できますので、今回使えました。


人間達に渡したのは録音した音声を勝手に流してくれる石みたいなもので、複製も容易なので簡単に広まりました。

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