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人を殺す

基本的に今回のような形の、ダイジェストのようなテンポで進んでいきますので描写はあっさりとしています。

セレモニーというのは、初めて見たものである。


祭りの類すら避けてきた私にとっては、うるさくて不快なものであったのだ。


先日集まった、私を含めた四人が四天王、つまり魔王軍のトップ4として発表されたのと同時に、それを祝うためのパーティーが行われた。


高いところから一般の魔物が私を見上げる様を見て、これが差別かと感じた。


人を忌み嫌う魔物が、私をまっすぐ見つめてくれるはずがない。


そして一方で、これが多様性なのだと思った。


色んなものがいる。


魔物、そうだ、CMぐらいなら、ゲームを見たことがある。


そこにはカラフルで、多様な生物がいて、それが現実なのだから、彼らは互いを認め合っているのかもしれない。


それは嘘で、腹の底では恨みあっているのかもしれない。


ともかくとして行われた宴には、参加しなかった。


厳密に言えば人気のないところでやり過ごしていたからだ。


楽しそうな輪に、私は入りたくない。


幸せは私には必要がなくて、ただ復讐のための通路があればいいんだ。


影が私を隠してくれる。


コートを使い、我が身を覆えば、私の視界は黒色になる。


そのまま草の中へ倒れ込み、木を枕にして寝る。


ああ、そういえば寝たのは、いつぶりだろう。


いつも親子喧嘩で冷めてしまうから、殴られた痛みが尾を引かないから、まともに寝れたことがないのかもしれない。


だからぐっすり眠れたはずで、夢なんか見なかった。


夢を見ずに寝るのは、こんなに気持ちよくて、疲れが取れるのだと、驚いた。


体を揺さぶられて起きれば、そこにいたのはエルフの女、アレスティナだった。


「何しているんですか」


「寝てました。今は、何も」


「そうですか」


そういい、彼女は私の隣に座る。


「ねえ、魔王様と、どういった関係なんですか?」


「友達……だと、言われましたし、思っています」


「ほお」


彼女は暫く私を眺めた後、私を押し倒した。


「でもそういうの、信じられないですよね」


動けない。


物理的ではなく、腕に力が入らない。


舌なめずりをして、私を喰らうか見定めている目が視界に入った。


「同じ香りが、魔王様からしたんですよ。思ったんですよね、貴方とあのお方は、付き合っているのではないかと」


「彼女は、私を利用しようと、私は、彼女を利用するだけです」


「だとしても、このままいけば、貴方と魔王様は親密になる。そして貴方には、今以上のポストが」


「そんなわけが」


「ねえ、キスしませんか?」


「……なんで」


「ずっと夢だったんですよ、玉の輿」


「…………なんで」


「閉じた森にいるエルフが、魔王という世界で最も強いお方に出会って仕舞えば、恋をする」


それは、わからない。


閉じた世界にいた私には、他者を思いやることなどできやしない。


「そしてあのお方が、大変好意を抱いている男がいれば、手を出したくなる。事実を作りり女として二番目の地位を手に入れたくなる。自分が愛した女が愛する男に手を出したくなるの」


「でも、だとしても、諦めてください」


それになれたらいいと思う。


私の寂しさは埋まるだろう。復讐の心は消えるだろう。


「私は、あの人とはセックスをするだけで、愛し合うなんてできません」


だから、無理なのだ。


「嘘だったら一生養ってもらいますからね」


「嘘をつけるほど、優しくありません」











宴は朝まで続いている、筈である。


上がった聴力が民衆の声を聞いているのだから、そうなのだと判断するしかない。


「おはようございます」


互いにそう言って、歩く。


マーネと、歩く。


「明日から、本格的に戦争へ参加するそうですね」


「らしいですね」


「私と貴方は違う場所なのが残念ですが……」


しょぼくれた彼は、生えた尻尾を垂らしている。


「宜しければ、この後試合をしませんか?以前のだと互いに本気を出せなかったでしょう」


「……魔王様からは、無益に戦うなと言われたので、遠慮しておきます」


「そうですか。ところで、魔王様と戦ったことがおありで?」


「稽古としてなら、あります」


「強いですよね……魔法、剣術に体術。知恵すら誰も及ばない。対等な存在がいる方がおかしいぐらい」


「はあ」


「そんなお方の求愛を受けるのが貴方みたいなチンチクリンだと……」


睨まれる、狼の目だ。


「殺して、死体を見せびらかして、私の方が相応しいと見せつけたくなりますよ」











ガラリガラリ。


木製の馬車が揺れる。


一度だけ、大学入試の模試を受けるために、バスへ乗ったことがある。


きっと同じだ。


だれかの面影があって、ただ待つことしかできないこの時間は。


「どうだ?他の四天王とは仲良くなれたか?」


「……まあ、どういう方々なのかは、わかりました」


オーク。オージアが話しかけてくる。


天井の空いた馬車は、開放的なそれは、彼のためだけに用意されたスペースだった。


「人間なんて、やわいものだと思っている。が、お前は違うようだな」


同じ行き先へ向かう馬車は、そうだ、だからバスだと感じたのだ。


迷惑な客がいても、自分にはどうにもできないから、ただ無視することしかできなかったあの時間。


今は尚更無視するわけにもいかないから、酷いものだ。


「見直す……というのか、お前が魔王様に見出されたのは、半信半疑だったんだ」


「そう、ですよね」


「が、貴様は私にも勝って見せた、あの時の熱は、証拠たり得た」


「あれは、貴方が手を抜いたから、勝てただけです」


「そうか?俺は試合の中で全力を尽くして、負けた。これは事実だろう?」


「私なんて、取るに足らない存在ですよ」


ああ、本で得た知識、増えた脳の体積を使って出る言葉がこれなのだから、私は本当に、尚更に価値がない。


「……そうか。なあ、守れなかったのか」


「……はい」


彼は真面目だ、だから、答える気になれた。


「生きていれば、いや、人間のことなんて知らんが、きっとそういうことばかり記憶に残る。あまり気負うなよ」


「……そうできたらいいですね」





たくさん人がいて、たくさん魔物がいる。


それらの塊が押し合いをしているのだから、ここは戦場だ。


私は、コートのフードを被り、貰った、黒い金属のナイフを両手に持って、一人で回り込んでいた。


オージアさんが定位置についたあと、私は茂みから飛び出して走り出す。


そういう加護があるから、私の姿は誰にも気取られることなく、人の渦へ飛び込めた。


よく切れるナイフが、鎧ごと人の半身を切り飛ばす。


頭、心臓、胴体。


十人、二十人、四十人!


「隊長!人が、急に!」


「こっちだ!黒いチビが殺……」


「人だ!」

「魔物だろ!」

  「人形でしょ!」


「隊長!」


       「取り囲め!」


  「無理!」      「兵隊が死んでいく!」



「消えた!?」 


「隊長殿が、死んだぞ!!」



乱れているのは、人の意思。


集合体を構築する個人が乱れて、どよめきが人の方へ流れてくる。


「おい!後ろばっか気にしてると……うわぁ!」


地響きだろうか、いや、違う。


誰もが緑の皮膚の生物を見る。


彼だ、彼の一振りが、この場を破壊しているのだ。


金棒を横に振るえば、百人は死んだ。


「撤退、撤退ー!」


逃げる、逃げるということは、私は見られないということ。


切る、切る、刺す。


追われるものは殺されるだけで、泣きながら頭を潰される。


「おい、置いてかないでくれ!」


私を仲間と見間違えた奴が、後ろから刺されて死んだ。


逃げ惑うもの追いかけて、殺し尽くした。


それで何かを感じるのかと言われれば、何も感じなかった。


殺して、殺して、殺し尽くして。


不快感はなく、むしろハッキリと脳は世界を認識している。


ああ、途中から殺した数なんか数えられなかったよ。


数えてあげなくてはならないのに。











「もっと近寄れ」


いつも通り、近くへ寄ると、薄着の彼女の肌が嫌でも目に入る。


「いやあ、初めての戦場は、どうだった?」


「オージアさんが殆どやってくれたので、特には」


「そうか。あそこはずっと硬直状態でな、貴様の搦手で均衡を崩して、パワーで押すのが、手っ取り早かったのだ」


私を跪かせ、頭を撫でてくれる。


「が!もし貴様が死んだらと思うと、不安で不安で……」


抱き寄せて、薄い膨らみが私の顔面に当たる。


「……なんで、私なんですか?私じゃなくても、強い人とか、恨みを抱いている人なんて、もっといる筈なのに……」


「言ったろう、一目惚れだと。恋に理性が必要かね、情熱が動かす行動が今の結果なのだけど」


「私は、ダメなんですよ。人を殺しても何も思ってあげられなくて、彼女に寄り添えなくて、得た知識を使いこなせなくて。私が不幸なのは、自分のせいなんです。そんな私が誰かに何かを、してあげられるなんて……」


ハッキリ言ってもう、私の復讐心のようなものは冷めているのではないだろうか。


ここで一生を過ごせばいいのではないか。


親を殺す必要は、無いのではないか。


「なあゼルリよ」


私は、意味があるのだろうか。


「お前だけが、私を満たしてくれる。お前の闇が、私を幸せにしてくれる。貴様の不幸が、私の幸せなんだ。止まらないでくれよ」


「違うんです。どうせいつか、私はミスをして、逃げ出すんですよ。貴方に不利益を被って」


「かわいそうに。不幸なことしか考えられないのだな」


そんなわけないと、言えなかった。


「なあ、私の胸の鼓動が聞こえるだろう?」


絶え間ないリズムが聞こえている。


「ああ、貴様のことを考えるたびこうなのだ。今お前が衰弱しきっていて、私に慰めを求めているという事実が!お前の手が同族の血で汚れていて、その手が私を触っているという事実が!私の鼓動を加速させる!」


抱きしめる力が増える。


「愛おしい。愛おしいぞ。ホレ、抱かれたままか?」


抱き返す。強く。強く。


「考えなくて良いのだ。お前は、私と共に全てを壊すのだ。壊して、邪魔するものを全て、どうせ敵なのだからと決めつけて殺して。残った我らだけで、永遠に抱き合おうではないか」


「……はい」


「ここにいるだけでは、人が我らを刺す。元の場所に戻っても、人が我らを刺す。滅ぼさずして、どうするかね」


「……はい」


「それで良い。愛しているぞ、私のゼルリよ……」

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