仲間と出会う
走る。
朝らしいが、この暗さは夜と大して変わらない。
走る私の先には一人、後ろには二人、そして遠くには一人いる。
「まあ、大型予想通りだな」
遠くから降りてくるスアナはつまらなそうに言う。
やはり人ではないのだと、背中に生える翼を見て思う。
(そういうものから力をもらっているので、私も人ではないのだろう)
事実100メートルを二秒で走ってしまった。
時速で言えば1800倍して180km/h 、だよな。
「余裕がありそうでしたけど」
前の方から、つまり私より速い人がこちらへ来る。
「安定して走る方が、大事だと思ったので」
見上げると、その人は2メートルぐらいはあるのだろうとわかる。
「そうですか。それは、元々?」
「いえ、スアナ……魔王様から貰った力の結果です」
上半身が裸なのだが、そもそも獣人──二足歩行で獣と人の身体の特徴を合わせた生物──なせいで色気たるものはない。
彼は色々、私に聞いてくる。
「ナイフの扱い方は?」
「魔王様に教わってある最中ですので、そこまで得意ではありません」
「魔法は?」
「特にないみたいです」
「本当に、なんで貴方みたいな人が魔王様のお眼鏡に叶うのか」
「さあ」
「こういうの、失礼だったりします?」
「いえ。事実なので特には」
腰に携えているのは、刀だろうか。
大小の日本は、二天一流、宮本武蔵を思い出させる。
「します?手合わせ」
「殺さないで、くれるのなら」
「なら、今直ぐ」
「待て待て待て!勝手にやるな!」
スアナが焦ったように静止してくる。
「絶対怪我するだろ!」
「実戦とは、そう言うものです」
高身長のオオカミは、丸めた背中でスアナに話す。
「……わかった、一応そう言うのでもあったからな、戦わせてやる」
背後からもう二人やってきて、今日、この場に集められた全員がそろった。
「お前らは全員同格の四天王で、これから足を揃えてやっていくんだから、親睦会のようなものであって、殺し合いじゃないぞ」
「戦うのは好きですか?」
「殺すのなら」
「そうですか」
軽い木のナイフを両手に携える。
相手は木刀、大小の2本を構える。
これは模擬戦であって、殺し合いではない。
そうならないような仕組みは、スアナが用意してくれているらしい。
「改めて名乗りましょう。私の名前はマーネ、ロングウルフ族の長です」
「私は、人間のゼルリ」
スアナの合図と共に試合が始まる。
互いが互いとコミュニケーションを取るため距離を詰める。
が、相手の攻撃の方が早い。
脱力、感性を利用した斬撃は、私のようにただふるだけのそれより、何倍も早かった。
そしてもう一撃、長い棒が私を叩く。
「小刀で速攻、出来上がる隙を刀で殺す、私の二刀流を、初見で防ぎますか」
二撃目だけは、ナイフで遮れた。
腕に伝わる衝撃が、当たれば即死を伝える。
両手のナイフを捨て、後ろへ飛ぶ。
コートの中から木製のナイフを10本取り出して、内8本を投擲する。
「搦手で隙を作り、速度を乗せて一撃で殺す。それが貴方の戦い方」
隙間無く投げられたナイフが、マーネの動きを止める。
その間に距離を一気に詰め、左手のナイフでダメ押しの隙を作り、最後に加速をかけて首筋へナイフを突き出す。
「が、若い!」
斬られた、3回。
溶けるような脱力、落ちる体、そこから出る反作用を全て速度に変えて繰り出される斬撃は、右手のナイフを弾き、私の両肩へ向いている。
その刀は、当てられてはいないが、少しでも押せば当たるはずだ。
負けだ、私の負けだ。
「人間風情に名乗るのは好きではないが、俺はオージア。ただのオークだ」
緑の皮膚をした、マーネよりも巨大な男。
右腕に握られた棍棒は質量と暴力の象徴で、当たりたいとは思えなかった。
「ゼルリ、です」
始まって、私がナイフをオージアの皮膚に突き刺す。
が、硬い。皮膚の抵抗が速度を打ち消し、硬い筋肉が易々と弾く。
太った体から繰り出される一撃は、私が立っていた場所を粉々にした。
避ける、当てる、避ける。
このままでは埒が空かないと判断したのだが、私にはこの手を解消する方法がない。
毒や爆発物は使ってはならないのだから、ただの木製のナイフでやらなければならない。
が、ようは負けを認めさせればいいのだ。
目に対して突き刺そうとすれば、それはダメージを予見させて、負けと言わしめれる。
速度はこっちが勝っている。
死角に飛び込むように走り、切り返して頭へ飛びつく。
「うっそ」
強引に振り解かれ、なんとか着地してみせるが、目の前から岩石が飛んでくる。
棍棒で地面を打っているのだと分かれば、たまらず避けることに集中する。
負ける気がしてきた。が、負けるのは嫌だ。
また速度を上げて、けれどこれはもう読まれている。
「同じ手は!」
地面を棍棒で叩き、溢れ出る衝撃波で私の動きを止めた。
もう死角ではない、彼はこちらを向いている。
けれど構わず走って、飛ぶ。
真上から振り下ろされる棍棒、当たれば死ぬかもしれない。
音を置き去りにしたそれが、黒いコートを、叩き潰した。
「……負けだ。俺の負けだ」
けれど私は、オージアの首元で、目に向けてナイフを持っている。
オーバーサイズのコートを翻して私の身体を隠し、一気に加速した。
オージアの目線だと、私がワープしたように見えたのだろう。
脱いだ黒いコートが私だと、思ったのだろう。
勝ちだ、私の。
「アレスティナです。エルフですけど、よろしくお願いします」
白い肌、黄色の髪を持つが、何より横に長い耳が目を惹く。
何枚も着込んで暑そうだが、そのようなことは感じさせず、お気に入りなのか三角帽子を大事に触っている。
「ゼルリです。よろしくお願いします」
始まるけど、先手を取られたのは私。
石が空から降ってきたのだから、慌てて避ける。
(魔法)
ああ、思想の本ばかり、そして小説ばかり読んでいて良かったと、思う。
理系の、理屈的な本を読んで、世の中を科学現象だけで捉えていたら、きっと魔法なんか信じなかっただろう。
アレスティナの方から氷の粒が飛んでくる。
当たれば痛いのだろうから、彼女を中心に円を描くように走った。
半径を詰め、ナイフを突き刺そうとする。
が、出だしの手を防がれる。逆に華奢な体から蹴りが飛んでくる。
受ける瞬間、同時に後ろへ飛び、衝撃を消す。
着地、加速。
魔法を使われるより、まだ格闘戦の方が部があると判断して、距離を詰める。
魔法を使う隙を与えないために、ただ攻めの姿勢を続ける。
「ちょっと本気出しますね……!」
彼女の動きが機敏になり、足払い、杖での殴打を短い時間で行う。
杖の攻撃はナイフで受けるが、大きく距離を離される。
一体どこに、そんな力があるのか。
しかしそれも、やはり自分に当てはまる。
また氷の粒が飛んでくる。
今度はナイフの二刀流で全て弾き飛ばしていく。
上から岩石が降り注ぎ、私は真正面の氷と真上の岩に対処する羽目になる。
でも好都合で、降り注いだ岩石は盾となるから、後ろに回り込んだ。
「ちょっと痛いですけど、ごめんなさい」
爆発。
岩石が爆発して、背中が痛い。
焼けていないだろうか。
土煙の中から出て、アレスティナの方へ走る。
飛んでくる氷の粒は、岩石を盾にして受ける。
爆発するのはわかっているから、当たらないような動きもする。
(行ける!)
こっちだって、少しぐらいできるんだ!
土煙の中から、ナイフが飛ぶ。
アレスティナはそれを最小の動きで避け、身構える。
自身が躊躇せず起こした爆発が、煙を作って彼を隠しているからだ。
濃度を持つ煙が、光を遮る。
その瞬間、ここはゼルリの独壇場となった。
「速い!?」
四方八方からナイフの嵐。
魔法も使いそれらを叩き落とすが、彼女には一瞬の隙ができた。
その隙間に入り込む、人影。
「なっ!」
わかっていたから、カウンターで、水のレーザーを放った。
今までの魔法で最速のそれは、人影を撃ち抜く。
が、影を殴っても意味のないことだ。
「魔法、使えるのね」
「その、コートのお陰です」
影に生きる生物を、そのまま使って作られたそのコートは、暗い空間でのみ自立して動くことができる。
煙のおかげで最低限のラインが確保され、騙すことができた。
「ズル、みたいな、ものです」
「勝ちは勝ちよ。ありがと、強かったわ」
突き立てたナイフをしまい、互いに握手をする。
「人間なんて下等だと思っていたけど、君みたいなのが見れると嬉しいな」
「……ありがとうございます」
「一緒に、人間を滅ぼそうね」
「はい」
私の戦いは以上で、後は他の組み合わせで
戦っていた。
一番目を引いたのはオークの人で、彼の戦いは全敗だったのだが、みんな搦手を使って倒していた。
私は相手が油断してくれているから勝った。
マーネは武器を破壊して、負けを認めさせた。
アレスティナは、魔法で動きを封じ込めて、毒を使うといい、負けさせた。
みんな彼が本気を出していない、出せないから勝てたのだと理解していると思う。
彼が本気を出したら、地形がとんでもないことになるとわかっていて、本人も理解しているであろうから、敢えて本気を出さないでくれたのだ。
そしてマーネさんは全勝で、アレスティナ相手には真っ向から打ち勝って見せた。
アレスティナは一回だけ勝った。
ゼルリは四天王の中だと一番弱いんですけど、今回は試合形式だったので勝てました。




