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夢じゃなかった

リアルで社畜していて更新が止まっていました。



 ――チュンチュン。


「う……」


 鳥のさえずりと、頬に当たる朝の光で意識が浮上する。


「ハッ!!!」


 弾かれるように起き上がり、周囲を見渡す。見慣れぬ森、昨夜燃やした焚き火の残骸、わずかに立ち昇る煙――すべてが現実だった。


「やっぱり、夢じゃなかったか……」


 呟いた声は低く、違和感が胸を突く。まるで別人の喉を借りて発したような、不協和な響き。ヘリウムガスを吸ったときのような、どこか異質な感覚がまとわりつく。

 とりあえず尿意を催した私は立ち上がり、用を足す。己の身体の変化に戦慄しつつも、極力見ないように事を済ませた。


「さて、この荷物だが……」


 昨日仕留めた獲物の肉以外に、皮や牙といったドロップ品が残っている。こういうとき、鞄でもあればまとめられるのだが、生憎、私は裸一貫の状態でこの世界に放り込まれた。


 ならば、もしかすると収納魔法的なものが存在するかもしれない。試しに、それらしいコマンドを口にしてみる。


「収納」


 ……何の反応もない。


「ボックス」


 やはり無反応。


「じゃあ……なんだっけ……アイテムボックス?」


 その瞬間、私の言葉に応じるように、空間に四角い箱が現れた。


「おぉぉ! これだこれだ!」


 問題は、入れたものがどのように扱われるのか、という点だ。試しに近くの石ころを拾い、アイテムボックスへ放り込んでみる。石はすんなりと消えたが、それ以外に特に変化はない。


「……ポップアップも何も出ないのか。やっぱりゲームとは違うってことか」


 では、取り出し方は? 試しに箱の中へ手を突っ込み、空間を探る。しかし、何も触れるものがない。


「え、もしかして消えた?」


 そんな馬鹿な。これじゃダストボックスじゃないか。


 不安になりながら手を引き抜き、ふと思考を巡らせる。


「……もしかして、想像しながらじゃないと取り出せない……?」


 試しにもう一度手を入れ、頭の中で「石」を思い浮かべる。すると、手とは関係なく、箱の底からコロンと石が転がり出た。


「あ、そういう感じですか」


 てっきり手で掴んで取り出すタイプかと思いきや、排出される仕様らしい。


 ともあれ、これで持ち物の管理が楽になる。私はドロップ品を次々とボックスへ放り込み、身軽になった体で、人の気配を求め、川沿いを下り始めた。




* * *




 しばらく歩いていると、前方に橋が見えてきた。どうやら人の手によって作られたものらしい。橋があるということは、道があるということだ。


「よかった……! ようやく人に出会える!」


 希望の象徴にも思えるその橋に向かって、自然と足が速まる。


 橋のたもとに立ち、左右の道を見渡す。右へ進めば、私が彷徨っていたであろう山へと続いている。左には平原が広がっていた。人が住むとすれば、平原のほうが適しているだろう。私は迷わず左の道を選んだ。


 空には太陽が一つ。風の感触も、葉の揺れる音も、すべてが普通。違和感はない。まるで異国の平原を歩いているだけのような気分だった。ただ、魔法が使えるという事実だけが、ここが地球の過去ではないことを示唆している。


 そんなことを考えていると、前方に荷馬車が停まり、休憩をとっているのが見えた。そのそばには、いかにも商人らしい男が佇んでいる。肌の色も普通の人間の色――つまり、ここには人間がいるのだろう。


 私は慎重に歩を進め、ゆっくりと男に声をかけた。


「すみません、よろしいでしょうか」


 まずは言葉が通じるかどうか。それが最優先だ。鼓動が速まるのを感じながら声をかけると――


「なんでしょうか」


 流暢な日本語が返ってきた。その瞬間、思わずガッツポーズをしそうになるのをぐっと堪える。言葉が通じる、それだけで心強い。


「申し訳ございません。道に迷いまして……。このまま進めば、町へ出られるでしょうか?」

「あぁ、このまま真っすぐ行けばサンテリ村に着くよ。わしはこのあたりの村々を回って商売しているんだが、あんた、見かけない顔だね。この辺りの者じゃないのか?」


 男は頭髪が薄く、顔には少し脂が浮いており、立派な口ひげをたくわえている。どこかで見たような――そうだ、某RPGゲームに登場する商人そっくりだ。まるでゲームの世界に入り込んだような気分になる。


「あぁ……。実は森から出てきたんだが、それ以前の記憶が曖昧で……」


 そう答えると、男の表情が一変した。


「なに?! 森だと!? よく無事で出てこられたな……しかも、そんな剣一本で。きっと酷い目にあったんだろう……気の毒に。もし村に行くつもりなら、荷馬車に乗せてやるが、どうだ?」


 なんて親切な人なんだ。私はありがたく申し出を受けることにした。


「本当か! それは助かる……。だが、今は金になるようなものを何も持っていなくて、お礼ができない……」

「なに、気にするな。これは人助けだ。金はいらねぇよ。俺はセオドア・カートライトってんだ。アンタ、名前は?」


 ――名前。


 いや、ここで元の名前を名乗るのはまずい。どうする……? 記憶喪失という設定をそのまま利用するか。


「すまない、名前の記憶もなくなっていて……」

「あぁ、それは大変だな……。じゃあ、なんて呼べばいい?」


 セオドアさんは困ったように頭を掻く。確かに、名前のない人間をどう呼ぶかは難しい問題だ。


 なら、作るしかない。好きな俳優の名前をつなげて――


「……ジョージ・スタルウッド。そう呼んでくれ」

「自分で今考えた名前か?」

「あぁ」

「ははは、変わった名前だな。でも、悪くない。じゃあジョージ、よろしく頼むよ」


 セオドアさんは笑いながら手を差し出した。私はその手を握る。

 しっかりとした厚みのある手――そして、驚くほど温かかった。

オジサンしか出てきてません。次からは女の子とか登場させたいです。

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