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プロローグ




 目が覚めると、そこは森だった。


 そんな異世界転生あるあるを実際に体験すると、人間、数分間はフリーズしてしまうものだ。私はもう一度目を閉じ、「起きろ、起きろ」と念じた。しかし、その思い虚しく、耳に聞こえるのは爽やかな風が吹き抜ける音だけだった。


「――ッ! 思い出せ、何があった!」


 独り言を呟きながら起き上がると、この状況になる前の記憶を思い出そうとする。


 昨日は確か、家庭がうまくいっていないと噂されるパワハラ・セクハラの権化のような上司に、例のごとく仕事を押し付けられ、3時間残業をして帰ろうとしていた。そして昨日は金曜日。サラリーマンたちが羽を伸ばし、居酒屋でへべれけになっている姿を横目に、私は土日にどのアニメを消化しようか考えながら駅のホームに立っていた。そして……。


「誰かに背中を押されて……」


 けたたましく響く電車の警笛。

 手から離れていくスマホ。


 そっか……私は死んだのだ。


 背中を押された瞬間、酔っぱらったオッサンの声で「邪魔なんだよ」と聞こえたような気もする。きっとそれが原因だろう。

 体中を眩しい光に包まれ、「バンッ」と聞いたこともないような強い音と共に意識が消え……そして今に至る。


「で、死んだはずだけど、ここは……どこ?」


 辺りを見渡すが、木、木、木。木しかない。

 死んだら賽の河原に行くという話は嘘だったのかもしれない。いや、もしかしたら賽の河原近辺の森に落とされたのかも。


 とりあえず行くべきところに行こうと立ち上がろうとした私は、自分の手が生きていたときよりもゴツくなっていることに気づいた。


「はい?」


 そこでようやく自分の身体の異変に気づく。

 服は女性用スーツではなく、麻でできた黄色味を帯びた白シャツに皮っぽい茶色のベスト。そしてカーキ色の麻のズボンだ。そして、パンツも穿いてい……。


「ないはずのものが……ついてる」


 待て待て待て。死後の世界って、普通性別はそのままじゃないの!? 男になってるんですけど!


 私は誰もいないことを確認してから服を脱いだ。そこには、そこそこ鍛えたハリウッド俳優のような体つきの自分のボディがあった。


「どうなっている……」


 顔に手を当てて溜め息をつき、辺りを見渡すと、いかにも「使え」と言わんばかりに都合よく剣と盾が落ちている。

 剣と盾が必要な世界……。


「ここは死後の世界ではなく、異世界ファンタジー……?」


 そうだ、きっとそうに違いない。

 いやいや、流行りだからってそんなことが……。


 そう思いながらもう一度剣と盾を見たが、消えることはない。仕方なく私はそれを手に取り、立ち上がる。


「異世界転生して、死んだら男になってましたって……無茶苦茶すぎる……」


 正直、このファンタジー感ある服装や武器を考えると、中世ベースの世界なのだろう。女の体だと、月の物や性被害などの問題を考えると、男の体のほうが都合がいいかもしれない。

 この体の変化を少しポジティブに捉えつつ、私はこのまま森にいたら餓死すると思い、川を探し始めた。


 川の下流に行けば海に出るかもしれないし、ずっと森の中を流れる川は少ないと判断したからだ。

 私は剣で木に傷を付けながら同じ場所を通らないように森をさまよった。


「……ない」


 人気がない。全くない人気がない、そんなとき、何やら物音が聞こえた。

 人気のない森で気配を感じるということは、動物か、もしくは……。いや、今は考えないでおこう。私は物音のほうへ足音を立てないよう進んだ。


「イノシシ……」


 イノシシのような生き物がいた。生き物がいるということは、近くに水場があるはずだ。私はそのイノシシを遠くから追いかけることにした。


 何時間かイノシシのストーカーをしていると、イノシシは川で水を飲み始めた。私は心の中でガッツポーズを決め、そっとその場を離れようとしたが、ガサリと音を立ててしまう。

 イノシシは即座にこちらを振り向き、怒りの叫び声を上げる。私は川沿いに出て剣を構え、イノシシと対峙した。


 イノシシは猪突猛進そのものの勢いで突進してくる。私はその身体をかわし、剣を振り下ろした。

 剣の切れ味が良かったこともあり、イノシシは一撃で絶命した。


 絶命したイノシシは粒子状に粉々になり、皮や肉、牙などのアイテムが空中からボロボロと落ちてきた。


「ありがたい……」


 どういうシステムかはわからないが、ゲームのように素材が手に入る形式らしい。そして私の体がホワァと光った。たぶんレベルが上がったのだろう。


 空を見ると夕方になっていたため、私は人生初の野宿をすることにした。

 火が必要だと思い、私は念じながら手をかざした。


「……ファイア!」


 想像通りの火の玉が手から飛び出し、無事に焚き火の準備ができた。

 手に入れた肉を焼き、感謝しながら口にするが、味付けしていないため、獣臭さが強かった。












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