〈7〉三姉妹が美少女とアイドルをやったら、案外売れるかもしれない。【II】
(あーもうまったく、アネットったらどこに行ったの?)
ぜぇぜぇと息を切らしながら、辺りをキョロキョロ見回してひたすらにアネットを探し続けていたさな。
すると、ようやくアネットらしき人物が視界に入ってくる。
「アネッ——」
名前を呼ぼうとした瞬間だった。大きな男たちがアネットを囲ったのだ。
「今月のお金、まだなんだけど、どう言うことかなぁアネットちゃぁん」
顔や身体にはたくさんの傷がある。ビビったさなはささっと死角に隠れる。
「もうちょっとなんです……!!あとちょっとでお金は入りますから、どうかあと少しだけ待ってはくださいませんか……!?」
「そう言って、もうどのぐらい待ったんだ?さすがにもう待てないな」
「そうだ、今すぐにでも払えないなら代わりに———」
ザッと地面を踏む音がする。
「ソ、その子から離れなさい」
怯えながらもさなが言葉を発して、大男たちの視線が一気にこちらへと向いた。
(やば、私こう言うのつなと違って苦手なんだけど)
側から見ればなんてことないさなだけれど、内心とても焦っていた。
「はぁ?なんだお前」
「と、通りすがりのピッチピチ女子中学生ですけど?」
「じょしちゅうがくせい?よくわからないけどこっちは金待ってんだよわかんない?」
「さ、さな……」
震えるさなをアネットが心配そうに見つめている。大男たちがさなを囲んだところ……たくさんのコウモリが押し寄せてきた。
「み、みんな……」
さなにしては珍しく、作戦なんて立てずに飛び込んで行ったのでこのままボコボコにされるしか道はなかったが、どうやら心配して陰で見守っていた使い魔たちが助けに来てくれたようだった。
「こ、コウモリ?!」
目をまん丸にするアネットのことなんて誰も気にせず、男たちは腕を振り回してコウモリたちを追い出そうとする。
けれど、そんなことをしてもコウモリたちはだいぶ強い魔物。びくともせずに、さなを助けようと必死だった。
しばらく男たちと葛藤したコウモリ。そこに……仕事を片付け終わったななとつなが乗り込んできたのだ。
「お前ら私の大事な妹に何やってんじゃー!!!」
「おー」
本気で怒っているななにクタクタに疲れたつなが無気力に声をあげる。
ボコン!!とすごい音がして、ななが発動した魔法が男たちにぶつかる。その際、にっこり微笑んだカラスのエメが周りの人に当たらないように魔法を発動させたりもしていた。
「見て!エメ、全員やっつけたよ!」
「ふふふふ、さすが主様ですね」
「さな、大丈夫?」
色んなことが重なって腰を抜かしてしまったさなが、ペタンと地面に座る混んでいた。
近寄って行って、背中をさするつなは、いつもよりお姉ちゃんらしい。
「う、うん。びびっただけだよ」
「そっか。……で、アネット?」
「ひっ、な、何?そんなに怖い顔で見ないでよ!」
「アタシの大事な妹をこんな目に遭わせておいてなんなの?」
「そ、それは悪かったけど……お金が、足りてないの。」
下を向いて、下唇を噛み締めたアネット。じっと彼女を見つめながら、はぁとため息を溢した。
「なんでないの?」
「私の家、兄妹は多いしお金はないしで大変なの。友達とか、ロクにできたことなかったから、あなたたちとアイドルできてよかった」
「……そうじゃないでしょ?」
今度はさながアネットに声をかけて、近づいていく。
「っ……!」
手が上に上がって、ぎゅっと目を瞑ったアネット。でもその優しいさなの手は、アネットの頭を撫でた。
「友達なんだから、頼って?」
「……え?」
「ボッチなの辛いのはよく知ってるよ、私も……変な子って言われて独りぼっちだったから。まあ、あのシスコン姉貴たちがいたから完全に1人ではなかったけど」
「そ、そうなんだ」
ぎゅっと拳を握り締めた。まだ下を向いたままの顔が、さなの方へと向く。
「じゃ、じゃあ、助けてくれてありがとう!とりあえずお金はアイドルの給料でどうにかなりそうだから、大丈夫」
「そっか、よかった」
「で、でも……友達とか、初めてできた。なんか不思議な感じだよ、本当……色々と、ありがとうね」
「いいよ。お互い様だし」
(アネットの美貌でお金稼げたところはあるしね、まあ普通に友達だとは思ってるけど)
コウモリたちが人間に変身して男たちを片付けている中、さなのことを見守るななとつな。
「ねぇつな、私友達だよね?って確認しないと友達認定できない系の人なんだけど」
「同感だよなな。私も確認取らないと友達だと思えない」
「なんか悲しいね」
「そうだね」
しゅんっとした2人。だけど、さなの成長を目の前にしてとても喜んでいた。さながいじめられたことも知っているし、簡単に友達を作れなくなってしまったことも全てわかっている。
だからこそ……。
「っぅっ……うぐっ……うれじいよぉ……」
「もうわかったって!!」
べしっと大泣きするななの背中を叩いたつな。エメがびっくりして人間の姿になりななの背中を優しくさする。
「主様、ハンカチです」
「あいがどお……!!」
ぷんっと鼻を噛んだハンカチ。エメは引くのかと思いきや、
(主様の鼻水……!!)
喜ぶレベルまでななのことが好きになっていた。
そのことに気がついたつながひどくドン引きしている。
「アネット、お給料入るまではとりあえずこれで払って」
「えっ?いいの?」
「うん。いいよ」
さなが差し出していたのは大量のルビーだった。
「えっ?なんでさなあんな持ってんの?」
疑問に思うつなだったが、さなのことだからきっと念の為に貯めておいてくれたのだろうと考えた。
「ありがとう……コツコツだけど絶対返すから……!」
「うん。じゃあいつか返してね」
「う、うん?」
(いつか……?)
「なな、つな。今日は宿に泊まるよおいで」
「え、バレてたの?」
「うん。ななは泣きすぎ」
「だっでぇ……」
そんなやりとりをする3人を見つめて、アネットは少し羨ましかった。母親は遊び人、父親は下級冒険者で収入は少なく兄妹は6人。とても苦労していた。
「さな大きくなったね……」
「つなの方がでかいじゃん」
「そうじゃないよ」
ポンポンと頭を撫でられたさな。とても心地よさそうだった。
それから、アネットとは分かれて宿へと向かうことに。
そしてやっとつなが思い出した。
「フェニくん、何してんだろ。焼き鳥になってないかな」
「や、焼き鳥って……!!仮にも不死鳥なんでしょ?」
「まぁね」
「きっと大丈夫……って、あれフェニくんじゃない?」
ななが指差したところには、サングラスをノリノリでかけて色んなお店で買ったと見られる食べ物を持っているフェニくんがいた。
と、いうことで観光してたフェニくんと合流できた。
「フェニくんよかったよぉ」
フェニくんにぎゅっと抱きついて、頬を擦り寄せていた。
「主様、僕も……」
「ねぇ見て!あれ!クレープみたいなの売ってるよ!」
キラキラした瞳でクレープ屋のようなものを見つめるなな。しゅんとしながらもエメは諦めた。
少し残っていたさなのへそくりで、クレープを買った5人。食べ歩きしながらぶらぶらと宿を探す。
「エメ、カラスのままでいいの?食べにくくない?」
「食べにくいです……それに、か弱い主様がこんな夜道を歩くなんて心配なのでやっぱり人間になります」
「あはは、そっか」
ボフッと煙を立てて人間の姿になったエメ。ななと距離を詰めながら歩いていた。
一方つなは疲れてフェニくんの上に乗せてもらい前に進んでいた。
「つな、いい加減やめたら?フェニくんニワトリサイズしかないんだよ」
「うるさいよさな、フェニくんがいいって言ってるんだからいいでしょ」
「はぁ。嫌われても知らないからね」
「はいはい」
大きなため息を溢したさなだったが、今日はアネットを守ることができたしなんだか達成感を感じていた。
そして、三姉妹たちがやっと見つけた宿。
値段はお財布に優しく安めだ。スキルに頼ることもできたけれど、たまにはこういうのもいい。
プロデューサーというかマネージャーというか社長と言うか、あの怪しい人が言うに明日お給料をもらえるらしい。
少し稼いだら、また旅に出るつもりだ。
階段を登って、廊下を歩いて。扉を開ける。そこは二段ベッドが二つあるぐらいの狭い部屋だった。
ベッドをソファのようにして、みんなで囲うように座る。
小さな机をななが用意して、冷たい麦茶を出したつな。
そしてさなは、部屋の中から唯一外を見られる小さな窓からコウモリたちを呼び出して、お礼にお菓子を与えていた。
ゴクゴクと麦茶を飲むななとつなは、そのままバタンと倒れて寝てしまったのだ。
フェニくんとエメが布団をかけて、そっと寝かしてあげた。そして、夜ご飯を食べることなんて忘れてさなもすぐに眠りについてしまったのだった。
翌日。
無事にお給料をもらった3人。結構な額だ、全員合わせて5ルビーに及ぶ。
「いやーだいぶ稼げたねぇ」
「ね、本当ラッキ〜」
「推し側になれたのも嬉しかった」
3人とも表情を明るくしながら、街を出る準備をする。そこにアネットが走ってやってきた。
「さ、さなたち!」
「アネット?どうしたの?」
さながそう聞くと、勢いよく手を握ってきた。びっくりして目がまん丸になる中、涙目で訴えられる。
「ま、街を出て行くの……!?」
「うん」
「そ、そんな、嫌よ……!!」
「ごめん、だけど私たち勇者だから仕方がないんだ」
「ゆう、しゃ……?」
ポカンと口を開けるアネット。そんなにおかしいことなのかと思い少し焦るも、すぐに訳がわかった。
「あなたたちが、今巷で有名な規格外の力を持つ
勇者……!?」
「えっ、何そのかっこいい肩書き!!」
「か、カッコいいか?」
ワクワクするつなに、うーんと考えているななのことなんて気にせずにアネットが話を続けてくる。
「嘘でしょ……!?ご、ごめんなさい、勇者様に失礼な態度をとって……」
「ううん、友達でしょ?」
「さな……」
「あのー……お取り込み中悪いんだけどさ」
「どうしたのつな」
「あれ、見てくんない?」
つなが指差す方向を見て、口をパクパクさせるなな。
エメも何かを感じ取っていたのか、カラスの鋭い瞳でそちらを見つめている。
「確かあっちは魔王城の方ですね」
「ま、魔王城……!!」
エメが地図を記憶してくれていたのか、魔王城だとすぐにわかりななが警戒を始める。
大きな煙が出ていて、とても不気味だった。
だけど……その魔王城では。
「そろそろ焼けましたかね?」
「美味しそうな匂いだなぁ〜」
「ふむふむ、もういいだろう。これがサツマイモというヤツか」
母親父親魔王共々、めちゃくちゃ平和にさつまいもを焼いていた。
そんなことを知らない三姉妹たちは、親が心配でたまらなく不安になっていた。
「む、無理……ギブ……私お母さんとお父さんいなくなったら耐えられないよぉ……」
心配症ななながばたりと倒れる。エメにお姫様抱っこされながら、カクッと気絶してしまった。
「はぁ……ななったら大袈裟。どうにかなってるでしょ、多分……」
そう言いながらも表に出さないで今にも泣き出しそうなつな。さなも冷静になりながらも、今にも倒れそうになっていた。
別にマザコンとかファザコンとかなわけではないけれど、両親は大事。それにまだ成人もしていないのだから、親がいなくては生きていけないのだ。
「っ……!さな、ありがとう!お金も返さなきゃいけないし、絶対無事に帰ってきてね!」
「うん、こっちこそありがとう。またね」
たくさんのファンたちにも見守られながら、走って行くつなにさなにエメにフェニくん。
ななは相変わらず気絶したままだった。
この街に来て少しは魔王城に近づいた。だけどその道はまだまだ遠い。
一刻も早く魔王の元へ行かなくてはと考える中、1人の人物が……。渋い顔をしていた。