〈5〉この世界は案外闇に溢れているかもしれない。
決闘が開始されて、ななのオーラが変わった。
エメを肩に乗せたまま、両手を前に出して魔力を貯める。
そして微笑みながら魔法を放った。光魔法だ、人は使えない。
だけどなぜかイケメン勇者には効かない。というか、いつのまにか仲間であろう別の9人の勇者まで便乗していた。
魔法なんてロクに使ったこともないので使い方はただの想像。
さすがに勇者には手こずる様で、相手の攻撃を防ぐバリアが甘かったようだ。
そこでひっそりとバリアを張る。何枚も貫通していく中で、エメのバリアだけは全く貫通しなかった。
「えっ?ええっ、バリア強っ……!!」
「ふふっ、よかったですね」
「エメも魔法使える?」
「はい」
「じゃあ、手伝ってくれるかな?」
少し申し訳なさそうにエメに聞いたなな。
「もちろん、いいですよ」
心強くそう返事してくれたエメが、カラスの姿のまま魔法を放とうとした時だった。
ななが何かに気がつく。
「待ってエメ……!!」
横を向いた瞬間に隙ができてしまい、さすがに危ないと判断したつながななの目の前に立ちはだかって、魔法を発動させてぶつけ合い、消滅させた。
「ちょっとお姉ちゃん!」
「ご、ごめ……私、ちょっと行ってくる!つなとフェニくんあと頼んだ!」
「はぁ!?」
わけがわからない。つなは焦りながらも目の前の敵を倒すしかなくて再び構えた。
そしてななは走り出す。しばらく行くと、少年の鳴き声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんー!っぅ……ひっぐ……」
少年を見つけて近寄っていくと、そこにはさなもいた。
どうしたのと話しかけると、さなが説明してくれた。
「この子たち、親を亡くしてしまったみたいなの。それで、魔物に捕まっているところを2人だけ保護できて。だけど、あと1人真ん中の子がまだ助けられてない」
「そ、そんな……!!」
目の前には、大きくてとても強そうな魔物がいる。そして担がれる様に、少年が見えた。
「ど、どうしよう……!!」
あわあわしていると、エメが眉間に皺を寄せる。
(アイツは……例の)
「え、エメ?どうかした?」
「いえ。少し問題がありまして」
「問題?」
「はい。簡単に言えばコイツは悪い魔物です」
「えっ?」
ポカンとしたななに、そのエメの話に真剣に耳を傾けたさな。話の内容は悪い魔物といい魔物がいるという、至って単純たなものだった。
コイツは倒していいヤツだ、と教わるも敵が強いことは確か。
エメが何か、覚悟を決めようとした瞬間だった。
マントを靡かせながら、空から降ってきた1人の人物。
「ショタは私が助ける!!」
まるでヒーローが空から舞い降りたかの様に、つなが現れたのだ。
魔物に囚われている少年が、つなを横目に見てハッとする。
「ひ、ヒーローだ……!!」
絶望していた目をキラキラに輝かせて、つなのことを見つめる。
両親をなくして、希望がなくどん底にいた自分の目の前に現れた光のような存在……まだ助けられてはいないものの、この人は希望だと思い胸が躍る。
「お姉ちゃん!勇者は倒したから!」
「え、ええ……!?もう?」
「フェニくんに協力してもらったの。このままだと逃げられるから、逮捕よろしく」
「わ、わかった」
コクリと頷いたななは、さなたちもここにいては危ないと判断して一緒につなたちから遠ざかって行く。
「お、お兄ちゃんが……!!」
「大丈夫、つなは強いから、ね?」
ななが末っ子の少年にそういうと、渋々頷いてくれる。よしっと言いながら魔法で力を強化して、少年を肩車した。
「わっ……!?」
「行くぞー!」
「お、おー!」
ななが片手をあげると、少年も釣られて腕を上げた。
さなは心配そうにしている長男の少年の肩に手を乗せて、大丈夫といい安心をさせる。
勇者たちが倒れている場所につくと、ななとさなはロープを作り出し魔法で高速をした。
そして少年たちから話を聞く。
「お姉ちゃん……この村はね、変なんだよ」
「変?」
「みんな貧乏でね、お金は勇者さんたちに取られちゃうんだ」
「やっぱり……そうだったんだ。」
少年たちに同情し、悲しくなる。ななはよしよしと話してくれた少年の頭を撫でた。
長男の少年にも話を聞くに、突然やってきた勇者たちに金を奪われて、労働をさせられていたらしい。
しかも、勇者と言っているが本当に勇者かはやはりわからないんだとか。
そして近々、魔物が増えているらしい。本来魔物というものは温厚なものの、最近のものはやけに凶暴で、その魔物たちから守ってもらうべく勇者には従うしかなかっただとか。
話を聞いている間は気が紛れて落ち着いていた2人も、終わって仕舞えば真ん中、次男の少年のことが気になって仕方がなくなる。
とうとう泣き出してしまった末っ子を撫でながら、ななはつなのことを心配していた。
一方その頃、つなは……。
「おらぁ!!」
魔物と一対一で戦っていた。それも相手は少年を捕らえているので下手に攻撃することができず、剣を主に使いながら攻撃をしていた。
フェニくんにも協力してもらい、なんとか隙を見て少年だけでも助けようとするもだいぶ困難なことだった。
でも、そんな状態でも少年はつなに希望を抱いてキラキラしているのだ。
「そこのキミ!私が助けてあげるから、安心してね!」
「は、はい……!!」
わぁぁと純粋な笑みを浮かべた少年。もちろん、つなは少年を諦める気なんてさらさらない。だけど、この魔物はだいぶ強かった。
剣の攻撃も大して通らない。言えば、スライムの上位互換のようなものだった。
「フェニくん、どうするよ?」
フェニくんの耳元でそう聞くと、いい考えがある、と今度はゴニョゴニョ耳元で囁かれる。
「単純だけどやってみる価値はありそうだね」
つながそう言えば、コクリと頷いたフェニくん。そして2人は一気に離れる。
フェニくんが魔物の前を通過した先に、つなが飛び込んできた。
そして、少年を抱き上げて無事に着地したのだ。
「大丈夫?」
「は、はい!ありがとう!」
「えへへ、いいのいいの。それより逃げて?ここは危ないから」
「で、でも……」
モジモジしている少年何か言いたげにしているが、つなはそれを見透かした。
「サインとかは後で受け付けるからね」
キランッとウインクを溢すと、少年の表情がパァッと明るくなって、コクコク頷いて逃げて行った。
「さてと……」
(コイツはこれと言った属性がないタイプだな……私も一応オタクだったし、そのぐらいの知識はある。属性無しに聞くのはそれと同じ、あるいはそれ以上……。
私の闇魔法じゃきっと同じだから、こういう時は……なな、だよなぁ)
うーん、だけどななは逃しちゃったし……と悩むつな。
その隙に攻撃を仕掛けられて、わっと言いながらジャンプしてどうにか避ける。
一旦浮遊して、どうするかくるくる回りながら考えていると、ちょっと行った先になながいることがわかった。
「あっ、そうだ。アニメとかでよく見るヤツやっちゃお」
閃いたつなは創作であるものを作り出した。そして、大声でななー!と叫ぶ。
経緯を理解したななが、こちらを向いて魔法を貯め出した。
そして、つなが作り出した巨大な鏡を使ってななの魔法を反射させる。
見事に魔物に的中して、ジュワワと溶けていった。
地面に降り立ち、フェニくんとハイタッチをする。
どうやら魔物は倒すことができたらしい。
「本当、このスキル便利だよなぁ」
ボソッと言葉を溢しながら、フェニくんと共にななたちの方へと向かって行く。その途中で少年と合流できたので、一緒に行くことになった。
そしてその少年から、つなも街の事情を聞くことになる。
「おーい!みんな!」
ななたちの姿が見えてきて、手をぶんぶん振ったつな。真ん中の少年の存在にも気がついて、兄弟たちがわーわーいいながら集まってくる。
感動の再会を果たした少年たちを見守り、三姉妹は覚悟を決める。
「またしばらく野宿することになるけど……仕方ないよね」
「うん、私も同意」
「私もいいよ!」
なな、さな、つなと次々に野宿の覚悟を決める。
そして、少年たちにルビーを全て渡した。
「えっ?なぁに、これ……」
「これを街の人みんなで分けて、幸せに暮らして?」
なながそう言って優しく微笑みながら、末っ子の少年の頭を撫でる。
腕いっぱいのルビーは何個か落ちてしまい、それをつなとさなが広い長男と次男にも渡した。
「もう勇者は私たちが倒したからね!安心していいよ!」
つながいえーいと言わんばかりに微笑み浮かべる。だけど、少年たちはまだ不安そうな顔をしていた。
それもそのはず。いくら害悪な勇者がいなくなったからとは言えど、魔物が湧いてしまうのは変わらない。
それにさなが気がついて、こそこそとななとつなを引っ張り耳元で囁く。
その話を聞き、いいね!と言ったふ2人は3人で手を繋いで、魔法を発動させた。
この魔法は3人の魔力を合わせてやっとできるものだ。
街に大きなバリアのようなものができていく。そう、結界を作っていた。人は簡単に出入りできるが、魔物は入れない結界だ。
「す、すごい……!!」
パァッと表情を明るくさせて、兄弟3人全員目を輝かせる。
「これでもう魔物は入れない。安全に暮らせるからね」
つながそういうと、真ん中の少年がぎゅっとつなに抱きつく。
「お姉ちゃん……行かないで?」
「ブフォッ……か、かわいい……」
鼻血が出そうになるのをどうにか抑えて、つなは少年の頭をポンポンと撫でる。
「私、この子と幸せなハッピーライフを過ごしたいんだけど……よろしい?」
ななとつなに聞くと、だめだめとそろって言われて首を振られてしまった。
ちぇ、と諦めたつなが少年に、ごめんねと言い離れる。
「私たち、近々また来るから。それまで元気でいるんだよ〜」
つながそう言って手を振る。ななもさなも釣られて手を振ると、泣きそうになりながらも笑顔で少年たちは手を振ってくれた。
そして再び歩き出す。
「あーあーあー俺も主様に肩車してもらいたいー」
「もううるさいよエメ!いつまで言ってるの!」
ぎゃーぎゃー子供のように駄々をこねるエメ。ずっと嫉妬をしていた。
「だって主様がぁ」
「それより、魔物が凶暴化ってどういうことなんだろう」
エメとななが会話を始める。エメはよくわからないふりをしつつ、ヒントをななに与えながら喋っていた。
「少なくとも、この世界でよくないことが起きているのは確かです」
「そうだよね。でも私、魔王が悪いとも思わないんだ」
「主様……」
「だって、私悪役好きのオタクだし」
グッとエメにキラキラした瞳を見せたなな。クスクスと笑われてしまった。
だけどどこかエメは嬉しそうでいて、カラスは魔物判定なので彼的には魔王が大事なのかな、なんて思ってしまう。
「なぁに話してんの?」
「あ、つな。いや、嫌な予感がしてて……なんか、魔物凶暴化といい怪しいじゃん……?」
「確かに」
「早くママとパパ助けて、魔物の原因も暴いてあの子たちに平和な世の中をあげないと……」
必死に考え込むなな。これからの旅路で犯人を見つけられるか少し不安だけれど、覚悟を決めていた。
「そうだね、最強な私たちがやるしかない!」
「私もそう思う」
今度はつなにさなが返事する。エメはそんな3人がたくましくて感動しながら前を向いた。
そして3人で今日野宿する場所を探すべく、しばらく暗い森の中を歩いて行く。
以前いた森とは違ってここは少し薄暗い。でも地図によると、ここを少し行った場所に大きな街がまたあるらしく、そこを目指すことになっていたのだ。
「って、いうことで今日の晩御飯は私が作ってあげる!なんか食べたいもんある?」
「じゃあ私オムライス!」
「私はカレーで」
つなが夜ご飯を作ることに突如としてなり、手を挙げながら自分の好きなものを言った残りの2人。
エメは初めて聞く料理に胸を躍らせていた。
そしてその日の夜。街に着くことはできなかったけれど、いい土地を見つけれることはできた。
創作スキルで家を作ってもいいと3人とも考えたけれど、旅をしている以上一回一回そこに帰るなんて手間は嫌なので、それは遠慮している。
以前作り出してさなの収納魔法でしまっておいたテントを取り出し、力を合わせて張った。
ようやくできた大きなテントの中に敷布団を二つ引いて、3人分の寝床ができる。
おまけにそれより小さなテントをそばに張って、エメとフェニくんが使えるようにしておいた。
夜ご飯は、先ほど言っていた通りオムライスとカレー。好きな方を食べれるシステムだ。
つなが腕によりをかけて、作ったオムライスにカレー。おまけにコンソメスープにサラダ。
野菜は苦手な3人だけれど、サラダはなんとなく作ってみた。
「いっただっきまーす!」
つながそう言って手を合わせると、あとの全員も手を合わせていただきますと言う。
エメとフェニくんが初めて食べたオムライスとカレーと言うものに、ひどく翻弄された。
羽をバタバタさせて喜んでいるフェニくんに、目を輝かせるエメ。
ななとさなも、美味しそうに目を空を見上げていた。
「そうだ!ジュースでも飲んで乾杯する?」
「いいね!じゃあ私オレンジ〜」
「私はリンゴで」
「じゃあ私は炭酸〜!」
つなの提案に乗り、順番に飲みたいものを言って行く。エメとフェニくんは全く聞いたことのない飲み物に目をパチクリさせていた。
「あの、じゅーす?って」
「ああ、ジュースはね、果物100パーセントの美味しいものだよ!炭酸水はシュワシュワしたヤツ。私は飲めないけどね」
「へぇー……そんなもの、聞いたこともないんですけど……」
「えっ」
ギクッと動揺するなな。そういえばエメには地球から来たこと言ってなかったな、なんて思いながらどうしようものか必死に頭を巡らせていた。
「え、っとね……」
「さすが主様ですね!」
ぎゅっとななの手を握り締めて、パァッと明るい笑みを浮かべたエメ。
あははと苦笑いしてどうにか切り抜けた。
(まぁ……地球から来ただなんて、信じてくれるわけないもんね)
「主様?」
「へっ?あ、なんでもないよ」
「そうですか」
ジッとななのことを見つめて、考え込むエメ。
彼女は一体何を隠しているのだろうか……と、少し不安になっていた。
一応服従を誓っている身。全て、自分にさらけ出して欲しいと思っていたのだ。
「そういえばさ、エメはお父さんとかいる?」
「えっ、お、お父さんですか?」
「うん」
「います、けど……」
「いるけど?」
ん?と首を傾げたなな。エメが言いづらそうにしているところが余計に気になってしまう。
「仲悪いの?」
「いえ、その逆で……すごくフレンドリーで気持ちが悪いです」
「へぇ。いいお父さんっぽいけどね」
「あはは……」
苦笑いを浮かべたエメ。一方つなとさなとフェニくんは、次に行く街のことを話していた。
「そこって漫画売ってるかな?」
「いや売ってるわけないでしょ」
「えええ……」
さなに完全否定されて少しショックを受けるつな。この異世界に来てからと言うもの、ロクにオタ活できていなかった。
「いい加減BL漫画読まないと生きていけないよぉ……」
「たまにはそう言うのから離れたら?」
「嫌だね」
「あっそ」
完全に飽きられているつなはトホホと言いながらフェニくんにすり寄る。
こうしてどうにか一つの街を救い、知らない間に街の間で英雄と言われるのはまた後の話。