〈4〉妹2人の使い魔ははちゃめちゃだが、最強かもしれない。
「あ、なな」
「あ、なな。じゃないよ!!」
さなの目の前には、10人のイケメンが跪いている。
「何これ……!!」
「こうもりのボスと戦って勝ったから、好きな子を引き取ってくれていいって言われたの。それで10匹選んで、魔力をあげて人になれるようにしたってわけ」
「へ、へぇ〜!ってなるか!!」
ななとさなが言い合ってる中、エメを見たコウモリがビクッと震える。
すぐに気がついたななが不審に思い、さなのことは後回しにして考えを巡らせる。
(カラス、怖いのかな?)
あまりにコウモリたちがブルブルと震えているので心配していると、耳元でそっとエメに囁かれた。
「気にしなくていいですよ」
「っ……!!い、イケボで囁かないで」
「おや、失礼しました」
ふふふとエメにバカにされて、少しムスッとするななだったけれど、ただのカラスが怯えられることなどあるまいと特に深く考えるのはやめた。
「ってことで……私は、常に一緒にいるんじゃなくて必要な時に必要な子を召喚することにしたから」
「さならしいね。はぁ……まあ仕方がないか。じゃあつなのところ、行こう?」
「うん。そこのキミ、つなを探してきて」
「はい」
さながコウモリの一体に命令をすると、人間の姿をやめて飛び立って行く。対してカラスと変わらないななんて考えながらななはさなとつながいた場所まで歩いて行った。
つなとはぐれた地点まで着くと、コウモリがちょうどあの場所にいたと知らせに来る。
教えられた場所まで行くと……。
「ほら、よーしよし!可愛いねぇ」
つなが、不死鳥を撫でながらとても幸せそうな顔をしていた。
「今日から君は私の使い魔のフェニくんだ。よろしくね」
一言そういえば、嬉しそうに羽をバタバタさせたフェニくん。
ななもさなも、よく手懐けられたなと呆れながら、つなとフェニくんを引き連れて再び森を歩き出した。
これで3人仲良く使い魔をゲットできた。次に目指すのは……。
「街?」
「うん、とりあえず宿に泊まってみたいなーって」
ななとつなが会話する。さなはボーッと、こうもりが持ってきてくれた不思議な宝石を見つめながら歩いていた。
「たしかに、異世界の宿とか泊まってみたいかも……!!」
「ななが倒したゴーレムの宝石、きっとお金になるだろうし街を目指して泊まろう?」
「そうだね!じゃあ次に目指すのは街だ!」
おー!と右腕を真上にあげて、テンションが上がっているなな。
「また自転車にでも乗る?」
「どれぐらいで着くかな?」
「ここから一番近い街までは5キロぐらいです」
エメにそう教えてもらい、運動がてら歩いて行くことに決めた3人。
そして、歩き進めてしばらく経ち、街が見えてきた。
「わぁ……!!すごい、本当に異世界だ」
「王都よりは田舎だけど、結構いいところだね」
「この雰囲気、好き」
3人それぞれ感想を述べて、宿を探しに街へと入っていく。
「うーん、どこが宿なのかわからないね」
「あそこ、案内場所っぽくない?そこ行ってみようよ」
「そうだね!つなナイス!」
バシッと背中を叩いたななに苦笑いするつな。案内所に入ると、ゴツい男たちがたくさんいた。
冒険者が立ち寄る場所らしく、討伐の仕事の紙などがたくさんの場所に貼られている。
「あんな女が冒険者か?」
「まさか、迷い込んだだけだろ」
ザワザワと辺りが騒ぎ出して、ななが気に食わない顔をしだした。
「失礼なヤツらばかりですね、蹴散らしましょうか?」
エメがそっと耳元でそう言うもの、大丈夫。と我慢する。
するとつなが、ドンッと机の上に手を乗せて、男を睨みつけた。
「オッサン、いい度胸してるね。殺ってもいいけど」
「ほぅ、嬢ちゃんこそそんな細い腕で何ができるってんだ」
「ほ、細っ……!?な、ななとさなと比べると太いから……」
初めて腕が細いと言われて少し嬉しいつなだけど、すぐに否定をする。
「これでもレベルは高いんだけど」
つなと男が言い合っている中、今更ながらななが考える。
(この世界は単なる異世界なのか、ゲーム要素を交えているのか……レベルとかあるし、意味わかんないな)
「なな様、つな様は大丈夫でしょうか?」
「うん、多分大丈夫だよ」
受付の方に歩いて行く。係の人に要件を聞かれて、いい宿を探したいと話していた。すると、勘がいい係人がななに問う。
「も、もしかして勇者様ですか?」
「え?は、はい」
(よくわかったな)
びっくりしているななだったが、割とオーラが出ているためわからないわけでもない。
「勇者様となれば、街で一番お高いホテルをご紹介いたします」
「わぁ、ありがとうございます。ちなみに一泊3人でいくらぐらいですか?」
「お食事無しで三万ルビーになります」
「さ、三万……?えっと、この宝石っていくらですか?」
さなから一つだけもらっていた宝石を差し出す。
「る、ルビーの原石……!?これ、一つ30万ルビーですよ!」
「ええ!?そんな高いんですか!?」
「はい!!」
驚きながらも、ラッキーと思い両替をしてもらって、そのまま宿の場所を教えてもらった。
さなの元へ戻ろうとしたが2人とも綺麗に姿を消している。
「エメ……どこに行ったか知ってる?」
「先ほど出て行かれてましたので……近くの野原にでも行って、決闘でもしているのではないでしょうか」
「同感だね。私たちは宿に向かっていようか」
「いいのですか?場所、知らないですよね?」
「これからあるから大丈夫」
ポシェットから取り出したスマホを見せる。
「それは、なんですか?」
エメがとても不思議そうに見つめる。ななは画面をつけて、さなに電話してみせた。
電話が繋がると、さなの声がして目をまん丸にさせたエメ。
「す、すごい……!!」
今度は目をキラキラに輝かせる。こんなもの初めてみた、とエメは興奮気味だ。
「でしょ?」
「はい!」
「さな、それで……そっちはつまり大丈夫なの?」
【うん、大丈夫だよ相手の人が大丈夫からわからないけど】
「それやばいじゃん」
はぁと呆れ気味になりながらも電話を切ったななは、宿を目指してエメと歩き出した。
一方でつなとさな。
「オラー!!」
バーンッとものすごい衝撃派を起こしたつなの剣。
「はぁ……全くあの姉貴ったら、ほんと脳筋なんだから」
やれやれとため息をついたさな。
「行け!フェニくん!」
ふと、つながフェニくんを読んで顔を上げる。さなは珍しく目をまん丸にした。
それは伝説の不死鳥が、まんまとつなに懐いて扱われているからなのと……。
本気で、相手の男を殺しそうだったからだ。
「お、おいおいやめてくれ!嬢ちゃんが強いのはよくわかったからよ!」
必死に命乞いする男の声など聞こえずに、さなが慌てて男の前に立つ。
レベル∞により解放されたたくさんの魔法。そのうちの一つ、防御魔法を使ってつなの攻撃を防いだ。
フェニくんと共同の魔法だったため威力が半端なかったものの、いくつもバリアを重ねたおかげでなんとか耐え凌ぐことができたのだ。
「じょ、嬢ちゃん……た、助かった……!!もうこんなの懲り懲りだぁ!」
わーわー言いながら去って行ってしまった男。
「つな、やりすぎ」
ポンッと頭を軽く叩く。
「ごめんごめん、ついカッとなっちゃって」
てへっとウインクしたつなに呆れながらも、スマホでななから送られてきた、もう少し歩いたところの青色の屋根の色を曲がったところにある宿を目指すことに。
しばらく他愛のない話をしながら歩いていると、ななの姿を見つける——が、
後ろに大きな魔物が現れたのだ。ななはそれに気がついていない。
エメと喋っていて、影ができているというのにこう言う時に気づかないななは、命の危険に晒されていた。
大事な姉がこんなところで朽ち果てるなんて許せない2人は急いで使い魔を召喚してななの背後へと攻撃しようとする。
だけど、その前に……。
パンッと風船が破裂する様に魔物がやられたのだ。
「え、ど、どういうこと……?」
さなが震えながらつなの方を見る。
「フェニくんはまだ届いてないし、エメがやったとか?」
「エメってそんなに強いの?」
「わからない、少なくとも……私が倒した時は、手応えがなかった」
「え?何それ……」
無言になる2人。
「まあ、フェニくんの方が強いしぃー?」
「いやいや、私のコウモリ軍団最強だから」
ドヤ顔したつなと頬を膨らませたさな。
そう……この2人は、エメがなんだろうとどうでもよく、自分の子が一番だと言いたかったのだ。
「お姉ちゃんたまに抜けてるし、本当にエメが強いならちょうどいいんじゃない?」
「それは言えてるね、まあうちの子が一番だけど」
「こっちのセリフ」
軽く言い合いながらななの元へ歩いていくと、こちらに気がついたななが手を振ってくる。
「2人ともー!」
「はいはいーなな」
「だからつなはお姉ちゃんって呼べって言ってるでしょ!」
「はぁまたそれ?どうしてさなはなな呼びしていいんだか」
はぁと大きなため息をついたつな。
そしてさなが、目の前にある立派な宿を目にしてキラキラした瞳をする。
「す、すご」
「ね!エメと話してたの。豪華な場所だねーって」
「早速入るか!」
三姉妹仲良くそろって宿に入るとそこには———
たくさんの、勇者がいた。
しかも……。
「イケメン!?」
なながすぐさま反応をする。目の前にいるのは金髪に緑の瞳をした美しい青年だ。
「ちょっとお姉ちゃんやめなさい」
今回はなながつなにチョップをされて、カハッと言う。
「キミたちも勇者かい?」
「は、はい……!!」
目を輝かせながらイケメンに返答をしたなな。
つなとさなが飽き飽きしている中、会話を進めていく。
「初めて見たよ、女の子の勇者なんて……本当に強いの?僕が守ってあげようか?」
「いや、女だからって舐めすぎでしょ。今の時代、女も男も関係ないから」
さすがに痺れを切らしてそう言ってしまう。
「はっ……!私ったらついイケメンに……!!」
どうしようつな!と言わんばかりにつなの方を見つめる。
「……!!素晴らしい、確かにその考えもあるね!」
思いもよらずにイケメンに手を握られて、褒められてしまった。
「なっ、なな……!?カッコいい……!?」
つい心の声が漏れてしまったななの頬を、エメが不機嫌そうに突いた。
「いてっ……!?え、エメ?」
「なな様。いや……主様、僕以外の男を見るとは何事ですか!!」
「え、ええっ?僕以外って……私、エメのことカラスとしか見えないんだけど」
ガーンッとショックを受けた。目を涙目にさせながら、しゅんっとする可哀想なエメだった。
少し申し訳なさそうになながして、頭を撫でると先ほどのことが嘘の様に喜ぶ。
「君は素敵な女性だと思うよ、もしよければ僕と——勝負しない?」
「……はえっ?」
目をぱちくりさせたなな。これほどのイケメンに、潔く告白を期待しながらもそんなことなどあるわけもなく、あっけなく期待は折れてしまった。
だけどその代わりに勝負だなんて、意味がわからない。
「レベル……高いんだろ?」
「え、そ、そうです、けど……」
「なら……俺たちにも勝てるよね?負けたら、その持ってるルビーを全部ちょうだい?」
「……は、はい?」
(何言ってんだコイツ)
結局金目当てかよ、とイラッとしたななは、オーラが変わる。
「あーあー……いいですよ、でもその代わり、こっちが勝ったら一つ聞いてもらいたいことがあります」
「わかった、いいだろう」
(こんな貧相なヤツに負けるわけないだろ)
フッと調子に乗りながら微笑んだイケメンの心を見透かしたななは、苛立ちがとうとう隠せなくなって爆発寸前になる。
そんな中、ななの聞いて欲しいことというものを考えているつなとさな。
(お姉ちゃんのことだし、私の愛人になれとか?)
(ななのことだし、もうきっとこの街の違和感にも気がついているんだろうな)
つなとさなで真逆のことを考える。
そう、ななは気がついていた。まずこの街は街というほど大きくない。
そして何より……。
(みんな、痩せ細ってる。おかしい。これだけ勇者がいて、治安は良さそうなのに栄養価のあるものが食べれないことがあるのかな?)
勇者を睨みながら考え込むなな。この街……いや、村は変だ。確信を得た。
目の絵にいる勇者たちはざっと10人。相手を見分けるスキルがないので本物かどうかはわからない。
(そもそも案内所と高級宿と、それ以外の家の格差がすごすぎるんだよなぁ……オッサンたちは悪い人たちではなさそうだったし、ただの冒険者なんだろうけど……)
「行くぞお前、決闘だ」
「あ?」
イケメンにお前呼ばわりして爆発した。
「調子乗んなよイケメン……」
ぬっと恐ろしいほど腹黒い顔をしたななは宿を出て行った。
「ななのブチギレ久しぶりだねぇ〜」
「そうだね。それよりつな、私ちょっと確かめてくる」
「確かめる?何を」
「この村の違和感」
「え?」
つなは全くわからないまま、不死鳥を呼び出してイチャイチャしながらななたちの試合を見ることにしたのだった。