〈1〉三姉妹が甘いものを食べたら最強になるかもしれない。
ここ、平和な地球にとある三姉妹がいた。
サラサラストレートの青みがかった黒髪が肩まである、紫色の瞳をした鼻と耳と味覚のいい長女なな。
クリーム色の髪の毛にウルフヘアで黄色い瞳をした身長高めの腐女子次女つなに、
薄いピンク色の髪をを下の方で二つ結びにし、それと同じ色の瞳をした自由人な三女さな。2歳ずつ歳が違う、ごく普通の三姉妹だった。
今日は休日。高校3年生、高校1年生、中学2年生の彼女らは、お菓子を買うため3人仲良く家の外に出ると——。
「え、なにこれ」
つなが声を上げる。
地面から召喚魔法でよくあるような模様が光と共に映し出されていたのだ。
それに気がついた両親が慌てて家から出てくる。
「パパママ来ちゃだめ!」
なながそう言うも2人も焦っていて声が届かない。
そのまま家族全員——異世界に転移されてしまった。
目を覚ますと、ザワザワと周りが騒ぎ出す。
「おい、嘘だろ……」
「他の人を巻き込んだ挙句、魔王の元に転移させてしまうだなんて……!!」
目をぱちくりとさせた三姉妹。
「え、イベント発生してて草なんですけど」
またしてもつなが面白がりながらそう言う。
ヒヤッとしているななが震えながら口を開いた。
「う、嘘……でしょ……!?これじゃまるで、聖女召喚じゃない!!」
大声でそう言うと召喚した魔法使いたちに聞こえてしまう。
「いや、聖女じゃなくて勇者です」
「……え?」
「私たち魔法使い一同、魔王に立ち向かうべく勇者様を召喚したのです」
そう言われてかぁぁと頬が熱くなって行く。
「お姉ちゃん恥っず」
クスクスとつなに笑われてしまう。
「ねぇ、どうでもいいお菓子食べたいよ」
今度はさなが不機嫌な顔をした。
「お菓子ですね、すぐに持って参ります」
召使いと見られる女性がそう言い、どこかへと行ってしまった。
「ちょ、さな何言ってるの!?」
「だってお菓子食べに外出ただけじゃん」
「た、確かにそうだけど……!!」
「っていうか……パパとママは?」
「え、ガチパピとマミいないじゃん」
さすがに両親が消えたことには焦り始めるつな。
ななは心臓がバクバクで落ち着くことができない。そこに白い髪に長い髭をした老人が近づいてきた。
おそらく国王だ。
「急に呼び寄せてしまい申し訳なかった。君たち3人姉妹には、魔王を倒す勇者となっていただきたいんだ」
「マジかマジか……!!ちな、ここに美形の男子はおりますか?」
つながキラキラした瞳をしながら国王にそう問う。国王はその勢いに少し焦りながらも答えた。
「いる。結婚したいのであれば勇者様となれば——」
「王子様と公爵、結婚させることなんでできないすか!?」
「ちょっとつな!」
後ろに現れたなながつなの頭をチョップする。
つなは相当の腐女子だ。ななもつなも、父親のオタクの血を引き継いでいたので異世界やらなんやらには詳しかった。
ただつなは少し分類がちがうけれど。
(お、王子ど公爵が結婚?令嬢……?いや、男同士で!?)
びっくりする国王などもうどうでもよくなり三姉妹は相談をしていた。
「とりあえず、パパとママを助けに行かないと……!」
「魔王城がなんとか言ってたしそこにいるかもね」
「絶対そうじゃんじゃあ勇者なろ?」
ななは焦って、つなはこの状況を楽しんでさなはどうでも良さそうにしている。
「っ……やむおえない。そうするしかないかぁ……」
なながはぁぁと大きなため息をつく。つなはどこか楽しげでいて、さなは相変わらずだった。
でもどこからか甘い匂いがして、なながすぐに気がつく。次にさなも気がつくと、召使いがワゴンを持って戻ってきたのだ。
そのワゴンにはマカロンにシュークリーム、パンケーキに似たものがある。
じゅるじゅるとヨダレを啜って、食べていいですか?と聞きいいと言われた瞬間かぶりついたさな。
「全くさなったら……」
「とりあえずおいしそーだし、私たちももらおう?」
「うっ……そうだね」
あまりに美味しそうな見た目をしているものだからつい食欲をそそられて、2人もご馳走してもらうことに。
しばらく甘いものを食べて満足すると、別の召使いが服を持って入ってきた。
白と黒に灰色の服だ。
異世界ファンタジーに出てきそうな服がまんま。それぞれ目の色に近いリボンも一つついていて、とても可愛らしいコスプレ衣装のようだった。
一目散に気がついたなな。これからこのポンコツな妹たちを守りつつ両親を助けなければいけないと考えただけで疲れて倒れそうになりながらも、ジーッと洋服を見つめる。
(もしかして、私たちの服……!?)
見たところサイズは自分たちにぴったりだ。
背はつなが一番高く、その次がなな、さなとなっている。大差はないものの、その服を見るに白色が自分で黒色がつな、灰色がさなだ。
普段着ることもないような可愛らしい服を目の前に少し興奮してしまう。
「こちら勇者様ご一行のお洋服となります」
「か、可愛い……!!」
両手を合わせ握りしめながら、目を輝かせるなな。
つなは呆れながらも、その服を広げてみてみる。
「うん、素材も悪くない。いいんじゃない?」
「お部屋の準備ができておりますのでそちらでお着替えなさってください」
「はい。さなー行くよ」
お菓子をバクバク食べているさなの首の後ろの服を掴んでズルズル引き摺りながら歩いて行くなな。
案内された部屋に着き、着替えを終える。
「ねぇねぇ、どうかな?」
「あはは、なんかコスプレみたいー」
「うるさい!」
ななとつなが会話している中さなは部屋の隅にある宝箱に目を輝かせる。
2人にバレないように箱を開けると、そこには美味しそうなショートケーキが入っていた。
ジュルリと舌なめずりをすると、遠慮なくそのショートケーキを食べる。
(味はまあまあ……食感は悪くない)
ごくりとショートケーキを飲み込むと、頭の上にレベルアップという文字が浮かんできた。
そしてやっとさなの行動に気がついたななとつなが不思議そうに見つめる。
「レベル22?何それさな」
「知らない。とりあえずななも食べる?ななの好きなチョコレートケーキみたいなのもあるよ」
「ええ、いいのかなぁ?」
「食べちゃえ食べちゃえ!」
つなにも後押しされて、仕方がなくパクパクと食べたなな。
するとななにはスキルアップの表示がされた。そして、スキル解放とも出てくる。
「えっと?スキル、惚れ薬?どんなイケメンにも1発で惚れられる、特別なスキル……ですって?」
「なな元々面食いだから効果ないんじゃない?」
「なっ!うるさいつな!」
また2人がわーわーしていると、今度はさながチーズケーキのようなものを見つける。今度はつなに渡して食べさせると、またしてもスキルが解放されたと頭の上に表示された。
「えっと、私のスキルは……催眠?」
「え、何それ物騒……」
ななが引き気味になる中、これはいいのを引いたと何か企むつな。
「準備できたし行こっか」
さながそう言って2人を引きずり、部屋から出て行く。
こうして3人の旅は幕を開ける。
ある程度の荷物を持たされて、パレードで見送られて森にほっぽり出された後。
王様がこっそり隠しておいた最初スキル・レベルアップアイテムを取られていて半泣きしていたことを誰も知らない。