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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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99 探れ!美白肌の秘訣!

「あら、この紅茶……味も良いのだけれど、香りもまた堪らないわね」


「そうでしょうそうでしょう。年中霧がかかっているという、東方のとある山地で育まれた茶葉なんですよ」


 真昼間の砂漠の村の広場にて。蛇は村の貴婦人たちと共に丸いガーデンテーブルを囲み、午後のお茶会に洒落込んでいた。謂わゆるアフターヌーンティーというやつである。

 立て掛けられたパラソルによって、丁度このガーデンテーブルには薄い影が落ちている。そのおかげで、まだまだ日差しが厳しいこの時間帯でも、少しばかりの涼しさを感じることが出来ていた。


 テーブルを囲んでいるのは、蛇を含めて四人の女性たち。彼女たちは小皿に盛られたスコーンを思い思いのタイミングで摘み、そして小麦の味で満たされた口の中に紅茶を流し込んでいた。

 いかにも貴婦人然とした和やかなお茶会であるが、その実テーブルを囲んでいる女性たちの職業は農婦。お茶を嗜む休憩時間が終われば、それぞれが各々の灌漑農地へと戻っていく。

 それでもこうして同じテーブルを囲んで紅茶を楽しむ時間だけは、農作業の過酷さも忘れて笑い合えるというものだ。


 それで、どうしてそんな集まりに蛇が混ざっているのかというと、これには深い訳があるのだ。


 蛇は初め、村の中をぶらぶらと散策していた。夢の中で受けた太陽の神からの神託について探るためだ。

 あの夢の中で、太陽の神は『東に向かえ』と言っていた。そしてその通りに東に進んでみれば、この村に辿り着いたというわけである。

 その事実から順当に考えれば、この村には太陽の神がわざわざ手を掛ける程の何かが眠っているということになる。それを蛇は探していたのだ。


 もしかするとそれは、砂賊の襲撃のことを示していたのかもしれない。実際、少女たちがいなければこの村は砂賊共の凶刃によって滅ぼされていただろう。

 太陽の神は滅亡の運命にあるこの村を救うために、使徒である蛇に神託を与えた。こういう結論で納得してしまうのもアリだ。


 しかし、それは絶対にないだろう。何故かといえば、神々は下らない人間の村の一つや二つが滅ぼうと、全く気にしないからだ。

 神々が心配しているのはあくまでも世界全体の行く末であって、決してどこにでもある田舎村の存亡ではない。だから神託が砂賊の襲撃を予言していたという線はナシだ。


 だとすれば、あの神託は何を伝えようとしていたのか。蛇は蜘蛛やアーサーの頭脳も借りてこの命題に取り組んでみたのだが、しかし目ぼしい意見は一つも出てこなかった。

 これについては仕方がない。なにせ神託の内容がアバウト過ぎるのだから。『東へ向かえ』だけでコミュニケーションが成立するわけがないだろう。当たり前だ。

 人にモノを頼む時は主語と述語をハッキリとさせる。こんな常識でさえも太陽の神は知らないらしい。


 そして、そんな考え事にも飽きてきた蛇が、気分転換と実地探索を兼ねて村を散策していた時であった。目を輝かせた三人の女性たちが、口々にこう言いながら迫ってきたのは。


「あのっ、もしかして賊を退治してくださった旅人の方ですかっ!?」


「やっぱりもの凄い美人さんじゃあないですか! しかも砂漠を旅してきたのに、こんなにお肌が真っ白!」


「どうか私たちに教えて下さい、紫外線と戦う術を!」


 農作業を終えた後なのであろう汗だくな彼女たちは、いきなり話しかけられて困惑している蛇に詰め寄り、そしてお茶会の会場である村の広場にまで連行したのであった。

 聞けば、彼女たちは宴の夜に蛇を一目見た時からずっと、話し掛ける機会を窺っていたらしい。なんでも蛇の美貌に惹きつけられてしまったようで、話しかけずにはいられなかったとか。


 そんなこんなで急に巻き込まれたお茶会ではあるが、出される紅茶もお茶菓子も美味しいので、別に悪い気はしない蛇なのであった。

 美味しいお茶とお菓子で体を潤せば、もしかすると神託に関する良い閃きが得られるかもしれない。


「蛇さんって本当に真っ白ですよね。肌も髪も」


「そうだけれど……白い髪というのは珍しいの?」


「ええ。西大陸の人々は金髪か茶髪あたりが多いんですよ」


 それにこうして会話を重ねることで、今まで知らなかった人間の世界の一般常識について知ることも出来る。これから長い年月を人間の世界で過ごすことになるのだ。こうした情報収集も大切である。


「でも、魔法使いの人たちは魔力に影響されて髪色が変わることもあるらしいですよ」


「うちの村長とかもそうだよね〜」


 ちなみに、只今の話題は髪色について。

 蛇の真っ白な髪というのも随分と特異なものであるが、この世には他にも珍しい髪色を持つ者たちがいるらしい。

 例えば、日常的な魔法の行使によって魔力の影響を強く受けると、髪が特定の色に染まってしまうことがある。この村の村長もそのパターンだ。彼の紫紺色の髪は、水の魔力に染められた結果なのだろう。

 少女の銀髪だって、内に眠る月の女神の力に影響されたものである。


 だとすれば、全ての魔法属性を扱える蜘蛛の黒髪は、いつかサイケデリックな虹色に変わるのだろうか。

 そうなったら面白いのだろうが、しかしそれは絶対に有り得ない。蜘蛛の魔力操作の技量が恐ろしく高度なために、魔力が絶対に外に漏れ出さないからだ。


「でも、若いのに白髪の人なんてなかなか聞きませんけどね〜」


「それってほら、まるで神獣様みたいじゃない?」


「ああ、太陽の神獣様ね!」


 そうして話を聞いていると、三人のマダムたちの推測が図らずも良い線に掠り始めた。

 確かに白い体を持つ生物といえば、太陽神の加護を受けた神獣たちのことが真っ先に思い浮かぶ。

 太陽の膝元であるこの砂漠においては、太陽の神獣への信仰も盛んだ。実際この砂漠にも、何体かの白き太陽の神獣たちが住まっているという。


 それはそうとして、白い神獣方面に話の風呂敷を広げられるのは阻止したほうがいいだろう。マダムの勘というのは謎に鋭いものだから、万が一のことを考えておいた方がいい。もしかしたら彼女たちが蛇の正体を見破ってしまうのかもしれないのだから。


「そういえば貴方たち、私に聞きたいことがあるんじゃなかったのかしら?」


「そうでした! 教えて下さい、紫外線との戦い方を!」


 話の軌道修正成功である。そもそもこのマダムたちは、蛇の肌の白さの秘訣を知りたくて近付いてきたのだった。

 とはいえ、蛇が彼女たちにアドバイス出来ることはそう無い。何故なら蛇の美しさは、大した努力も無しに手に入ったものであるからだ。


 蛇の白髪と白い肌は、太陽神の加護に起因するものだ。そして彼女の美貌もまた然りである。

 日々満ち欠けによって姿を変える月とは違って、太陽は絶対に形を変えない。いつでも真ん丸で、変わらぬ輝きを放ち続けている。つまり太陽は不変なのである。


 そしてその不変性は、加護を持つ者たちに不変の美しさを与える。つまりは不老長寿というわけだ。

 蛇はこう見えても面倒臭がりなので、いつも水浴びや風呂は短時間で済ませるし、髪に関しては大したケアもせずにさっと水に通すだけで終わる。

 しかしそんな大雑把な処置を繰り返していても、太陽神の加護が宿っているがために、蛇の肉体から美しさが失われることはないのだ。なんとも羨ましい限りである。


 だが、それをそっくりそのまま伝えてしまうのは、目を輝かせて蛇の返答を待っているこのマダムたちが可哀想だ。何か美貌を保つ秘伝があるのではと期待する彼女たちに、まずは神の加護を手に入れないと始まらないと無理難題を告げるのは、何というか心が痛む。

 だから蛇はこう答えておくことにした。


「紫外線と戦うには……そうね、気合いと根性よ」


 聖典を読み上げる牧師のような厳粛さを伴ってそう言い放つと、蛇はカップの紅茶を一気に飲み干した。


 ちなみに、蛇とお茶会を楽しんだ三人のマダムたちは、翌日から肌のハリが少しだけ増したらしい。

 もしかすると、太陽の神獣である蛇にお茶とお菓子をご馳走した御利益なのかもしれない。

投稿が遅くなってしまってすみません。体調崩してダウンしていました。

元気になったので投稿ペースは多分直ります。

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