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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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82 月と銀翼

「皆さん! 落ち着いて下さい! 迫る砂賊への対抗策は既に打ってあります!」


 広場に集まった百人余りの村民たちに向かって、村長が声を張り上げる。

 ここは村の中央にあるオアシスのほとり。砂賊の襲撃に備えて、村民たちはこの広場に避難させられていた。

 避難してきた村民たちの中には、守衛の男や赤ん坊を抱えたサンドルフィンの姿もある。皆一様に隠し切れない不安感が顔に表れていた。


 そして既に、村全体に響き渡っている。砂竜がその強靭な四本脚で砂の大地を踏み締め、こちらを目掛けて駆けてくる轟音が。

 その地鳴りのような恐ろしい音は、まるで地面が揺れているかのような錯覚をもたらしてくる。

 魔毒の砂賊団の襲来を、絶望の訪れを、村民の誰もが感じ取っていた。


「どうかお願いします、蛇さん、蜘蛛さん、そして――」


 村長は月の輝く夜空を見上げて、祈りにも等しきそんな言葉を漏らした。

 彼に残された道は、この砂漠の村の民たちに残された道は、もはや少女たちを信じることのみとなった。


 この白銀の月光が照らす砂漠の戦場で、魔法を詠い、剣を振るう少女たち。砂漠の村の命運は彼女たちへと託されたのだった。






「見ろよアーサー、人間の群れだぜ。大軍勢だな」


「だとしても我々の敵ではありません。そうですよね造物主(マスター)?」


 砂賊の軍勢を前にして、百足とアーサーがつらつらと言葉を交わしている。


 魔毒の砂賊団は三百人を超える軍勢を薄く広く配置して、村を包囲するように迫ってきている。どうやら奴らは鼠一匹たりとも逃がさないつもりらしい。

 とはいえこの大軍勢……どうやら魔毒の砂賊団だけではなく、その他の砂賊団も取り込んだ末の連合軍であるようだ。

 そしてその大軍勢の中でも特段目に付く、赤褐色の鱗を持つ巨大な砂竜たち。幹部級の砂賊が騎乗するそれが、合計十体。砂漠の村を目掛けて駆けて来ていた。


 迫り来る砂賊の軍勢が立てる砂煙が、丁度月光を反射することでキラキラと煌めいている。

 そしてそれを眺めながら、百足とアーサーは軽やかに語らい合っていた。

 彼らは砂岩の塀の上に腰掛けて、ぶらぶらと脚を遊ばせながら砂賊の軍勢を見やっている。三百人の砂賊が攻めて来ているというこの絶望的に見える状況の中で、である。


 すると一瞬、百足が不敵に微笑んだ。それを合図にアーサーも立ち上がり、腰に掛けた聖剣エクスカリバーに手をかける。

 鞘から引き抜かれたエクスカリバーの刀身は、鏡面のように月光を弾いて不思議に光っていた。


「さて造物主(マスター)、一番槍の栄誉を頂くとしましょうか」


「そうだなアーサー、そろそろ行くか!」


 アーサーの言葉に応えた百足は勢いよく立ち上がり、両手を頭上で組んで大きく伸びをした。そのはずみに彼の着ているシャツが少しはだけ、そこから六つに分かれた立派な腹筋が覗く。

 そのままに金色の前髪をかき上げると、百足は歯を見せて大胆に笑った。


「この砂漠で生み出した俺の新型ドラゴンゴーレム! しかと奴らに見せてやろうか!」


 そしてコキコキと指を鳴らして、頭の中で魔術式を組み上げる。

 百足の足元に光を放つ魔法陣が浮かび上がってきた。後はその魔法陣に力ある言葉を注げば、砂へと仮初の意識が宿って動き出す。


「『シェム・ハ・メフォラシュ』!」


 百足が十八番であるゴーレムの魔法を唱えた。一番槍にはやっぱりコレである。

 砂漠の地面が流砂のように渦を巻き、そしてその渦の中から何体ものゴーレムが這い出てきた。

 赤褐色の鱗に極太の尻尾、そして強靭な四本脚を持つ砂漠の支配者その名も砂竜。百足によって生み出されたのは、そんな砂竜を模したゴーレム――竜型傀儡・砂漠Verであった。

 生み出されたその砂竜型ドラゴンゴーレムの数は、砂賊団の保有する砂竜の頭数を大きく上回る三十体。


 そしてドラゴンゴーレムたちが一斉に咆哮する。ゴーレムたちは大きく口を開き、喉の奥から轟音を溢れ出させた。

 それはまさに、脅すように轟音を響かせながら迫ってくる、砂賊の軍勢への当てつけなのであった。いかにも百足らしい意趣返しである。


「さあ、絶望をご覧ぜよ!」






「あら、百足はもう始めたようね」


 ドラゴンゴーレムの咆哮を耳にした蛇がそう呟く。

 蛇と蜘蛛、そして少女は砂賊の軍勢を迎え撃つために、村の塀の外側へと繰り出していた。


「百足に取られちゃったね、一番槍」


 頭の後ろで手を組んだ蜘蛛が飄々と応える。

 百足とは入村の直後にはぐれてそれっきりだが、それでもわかっていた。あの百足が大人しくしているわけがないと。

 そしてやはりそうだった。たった今、百足はアーサーと共に戦いの先陣を切ってくれた。


「くも、空を飛ぶ魔法をお願い」


「了解、任せたよ。『ウィングネス』」


 少女の要望に応えて、蜘蛛が魔法を詠唱する。

 光の魔法『ウィングネス』。光の翼を生み出し、地を生きる者達に飛翔の力を与える魔法だ。

 蛍のように浮かび上がってきた小さな光が少女の背中に集まり、やがてそこに純白の翼を創り出す。

 そしてその純白の翼は次第に少女の魔力に染まり、白銀の輝きを放ち出した。


 少女の魔力の色は本来、毒の魔法に影響された深い紫色をしている。しかし今宵のような月が綺麗な夜になると、彼女の魔力はどういうわけか月光のような白銀色を放つようになるのだ。

 まるで、少女の内側から月光が発せられているかのように。まるで、少女の内側に月が宿っているかのように。


「じゃあ行ってくるね。空は任せて」


 そう言って少女は微笑むと、白銀の翼を羽ばたかせて宵闇の空へと飛び立っていった。

 そしてそれを見送った蛇と蜘蛛もまた、迫る砂賊の軍勢を見据えて体内に秘めた魔力を解放する。

 その魔力はまるで生きているかのように……蟲のように地面を這い伝い、辺り一帯に拡散していった。


「さて、蹂躙の時間と洒落込みましょうか」


 そう言った蛇の掌の中には、灼熱の火球が生み出されていたのだった。

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