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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
80/160

80 邪悪なる毒の魔法

「あの……それで蛇さん、この村が賊に狙われているといのは本当なのですか?」


 村長が蛇に向かって言い放ったその問い。そこに含まれていた『賊』という単語に、少女の顔が僅かに歪む。

 まさか、と少女は思った。確かにこの村には何らかの危機が迫っている。実際、水飲み場にあったコップには毒が塗られていた。

 明らかに裏で蠢いている人為的な悪意。しかし、それがよりにもよって大嫌いな賊によるものだとは……思いたくはなかった。

 樹海を脅かした指名手配人ロバース、奴のような醜い人間に再び接することになるなどとは、思いたくはなかった。


「村長さん、よく聞いて欲しい。今までそれはあくまでも推理や仮説に過ぎなかった。けれども先程それが確信に変わってしまったんだ」


 村長の質問に対して、蛇に代わって蜘蛛が答える。

 診療所を埋め尽くす満員の患者を見た時、蜘蛛が考えついたとある最悪の仮説。それは回復の魔法でも取り除けない毒が、何者かによってオアシスを媒介に撒き散らされているのではないか……というものであった。

 それに加えて少女が教えてくれた、水汲み場のコップに毒が仕込まれていたという事実。

 これらは彼の脳内にて一つに融合し、この村に迫る危機の正体を導き出していた。


「この村では今、流行り病が蔓延しているよね?」


「ええ、そうです。もっともその原因は判明していないのですが……」


「うんうん、まずはその流行り病の正体を話すよ」


 まず初めに、村に蔓延る流行り病の正体を解き明かそう。

 しかしそもそも、これは病なんかではないのだ。その正体とは、毒によって引き起こされた人為的なテロである。

 思い出してみてほしい。診療所にいた患者は皆、唇が赤く腫れて異様に肥大していた。

 そう、彼らは水飲み場のコップに口をつけ、そこに塗られた毒を経口摂取にて体内に取り込んでしまったのだ。

 その際、唇が毒の塗られたコップに直に触れてしまった。だからあれ程までに唇が腫れていたのである。


「毒ですって!? しかし待って下さい、水飲み場のコップには魔法が付与されています。清浄と解毒の魔法です。この砂漠に住む猛毒生物、即殺(デス)サソリの毒すらも解毒する強い魔法なんです。だから水飲み場のコップを媒介に毒が広まったなんて、納得がいきません……」


 蜘蛛の話を聞いた村長は当然、そう言って反論した。

 彼の言う通り、水飲み場に常備された銀のコップは村民たちが共同使用するものであるため、状態を清く保つための魔法が付与されている。

 その効力は凄まじく、この砂漠に生息する猛毒生物である即殺(デス)サソリの毒ですら綺麗さっぱり浄化してしまう程であるという。


 そんなコップを媒介にして毒が広まったという蜘蛛の話は、村長にとって受け入れ難いものなのであった。

 しかしここに揃った事実を照らし合わせてみれば、実はそれにも説明をつけることができる。


「コップに備わった解毒の魔法じゃ、打ち消し切れなかったんだよ」


 続いて声を上げたのは少女。

 そう、毒に関しての知識において彼女の右に出る者はいない。なにせ彼女は師匠である毒竜ヒドラより、毒の魔法のお墨付きを授かっているのだから。


「打ち消しきれなかった? それ程までに強力な毒であったと?」


「ううん、違うよ。確かにそのコップに付与された解毒の魔法はすごかった。でもね、それで無効化できるのはあくまで自然界に存在している毒だけなんだ」


 そう、実は少女の言う通り、コップに備わった解毒の魔法で打ち消すことができるのは、自然界に存在する組成の毒のみであるのだ。

 魔術式の対象になっているのは、自然界において魔獣や植物によって生成される毒のみ。つまり、人工的に生み出される毒については専門外なのである。

 コップに刻まれた魔術式を解析していた少女にはそれがわかるのだ。そして人工的に生み出される毒……それについては心当たりがある。


「コップに仕込まれていたのは、毒の魔法で生成された魔毒だよ」






「毒の……魔法……!?」


 少女の言葉を耳にした村長は、今までで一番の動揺を見せた。狼狽える彼に従って、その紫紺色の短髪が激しく揺れている。

 だが、どうして毒の魔法と聞いただけで、これ程までに村長は動転しているのだろうか。

 何故ならば、この砂漠において毒の魔法から連想されるモノというのは、砂漠に生きる者たちが最も恐れているものに他ならないのである。


「ま、まさか……『魔毒の砂賊団』がこの村を!?」


 村長はそう言って崩れ落ち、そして頭を抱えた。

 そう、『魔毒の砂賊団』。この砂漠において、毒の魔法と聞いて真っ先に思い出されるのがこれだ。


 この砂漠に生きる者たちの中で、この『魔毒の砂賊団』のことを恐れていない者などいない。

 砂賊というのは、砂漠に蔓延る盗賊のこと。そして『魔毒の砂賊団』はその砂賊共の中でも、一際巨大な勢力を有している集団だ。

 あろうことか奴らは多くの砂竜を力で従わせ、それを操って砂漠を縦横無尽に駆け巡るという。

 過去には衛兵団が奴らの討伐に乗り出したこともあったが、しかし虚しく全滅という結果に終わった。


 そして何故奴らが『魔毒』の名を冠しているのか。その理由は砂賊団を率いる頭目にある。

 『魔毒の砂賊団』の頭、指名手配人アルバンスは毒の魔法の使い手であるのだ。

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