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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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79 やっぱり不穏☆砂漠の村!

「毒ですって!? そんな訳ないじゃない、オアシスに毒を撒くなんてのはね、死罪も辞さない程の重罪なのよ!?」


 少女の返答を聞いたサンドルフィンはみるみる顔を顰めると、責め立てるような語勢でそう反論した。

 彼女を始めとするこの砂漠の村の住民たちは、恵みを与えてくれるオアシスを心の底から大切にしている。

 だからこそ、オアシスの水が毒であると言い放った少女に対しては、サンドルフィンは怒りにも似た感情を覚えたのであった。

 まあこうも語勢が強くなってしまったのは、彼女の抱えるストレスも相まってのことなのだが。


 だがしかし、少女は全く表情を変えなかった。

 年上の人間に、半ばヒステリック気味にがなられたのだ。そこらの普通の子供ならば、それだけで涙目になっていてもおかしくないというのに。

 そして少女は至って冷静にこう言った。


「大丈夫、毒なのは水じゃない。毒はそのコップに塗られているの」


 少女はサンドルフィンの持つ銀色のコップを指差している。

 毒なのは水ではなく、コップである彼女は言った。そしてコップに毒が塗られているなど、自然には起こらないことだ。

 それはつまり、そこに人為的な何らかの意思が介入しているということである。


「コップに毒っ!? そんなことする人なんてこの村にはっ……そもそもっ、なんでそんなことがわかるのよ!?」


 そして、サンドルフィンは一層狂乱気味になって少女を問い立てる。

 ストレスフルな彼女の心では、少女の言った言葉をきちんと噛み砕いて飲み込むことが出来ていない。

 よってサンドルフィンの頭の中には、こうして怒鳴り立てるという選択肢しか浮かんでこないのだ。


「わたしは毒の魔法使い。だから毒に関しては全てがわかる」


 しかし相変わらず少女は表情を変えない。

 何故ならば、緊急事態を察知した少女は既に、普段の天真爛漫さを心の中へと仕舞い込んでいる。その結果、彼女が稀に見せる女王のような気迫が全面に押し出され、大岩のように不動な少女がここにいる。


「ちゃんと証拠も見せるよ。『リトマスライト』」


 少女がコップに掌を翳してそう詠唱すると、白色の靄のような光が生み出された。

 その白光はコップを包み込むように集結すると、次第に自身の色を白から紫に変えていく。

 少女とサンドルフィンのいる狭い路地の中が、その紫色の光によって満たされていった。


「これって……魔法?」


「そう、検毒の魔法。この紫色は毒性の証だよ。これで信じてもらえた?」


 その様子を見たサンドルフィンは顔には出さなかったものの、心中では飛び上がる程に驚いていた。

 少女の見た目はせいぜい十歳程度にしか見えない。そんな幼い子供がいとも容易く、尚且つ立派に魔法を行使してみせた。その事実に気圧されたのだった。


 そして少女は『信じてくれた?』と言ったが、サンドルフィンは()()()()()()()

 と言うのも、少女が検毒の魔法を唱えた時に溢れ出してきたのだ。数千匹の蟲が四肢をぞろぞろと這ってくる光景、それを幻視させられる程の異様な魔力が。

 そしてその圧力に強引に納得させられた。この少女が言っていることは紛う事なき真実であると。


「じゃ、じゃあ誰がそんなことを? この村の人たちは本当に……そんなことをする人たちじゃないのよ。本当よ……」


「大丈夫、わかってるよ。でね、毒を仕込んだのは恐らく――」


 だが、少女がそうして大事なことを口にしようとしたその時。

 突如として、上空から風を切る強烈な音が響いてきた。

 そしてそれに続いて聞こえてきたのは……。


「あーー! やっと見つけた!」


 村の路地ではぐれてしまってからずっと待ち焦がれていた、聞き慣れた蜘蛛の声であった。






「よかった蜘蛛、見つかったのね!」


「うん、やっぱり空から探して正解だったよ。……百足とアーサーは何故か未だに見つからないんだけどね」


 空から降って来た蜘蛛は、すぐさま少女を連れて蛇の元へと帰還した。

 診療所の表で待っていた蛇は、蜘蛛に脇を抱えられて空中輸送されてくる少女を見るなり、腕をぶんぶんと振って再会を喜んだ。

 さらには少女が地面に降り立つなり、蛇は少女の肩をガシッと両手で掴み、もう一度再会の喜びを表現した。


「へび! くも! わたしも会いたかった!」


 少女の方も迷子の寂しさから解放されて、ほっと安堵した表情を浮かべている。

 そんな彼女の頭を、蛇はよしよしと撫で続けていた。蛇の真っ白な肌に、少女の絹のようにきめ細やかな銀髪が絡み付いていく。


「えっと……すみません、そちらのお嬢さんは?」


 すると、蛇の背後に立ちすくんでいた人物が、恐る恐るといった様子でそう尋ねてきた。

 スミレのような紫紺色の髪の毛を携えた、三十代程なのであろう優しげな男だ。

 蛇の後ろに控えていたことから、彼女が何処かから連れてきた人物なのだろう。当然ながら、少女と蜘蛛はその男のことに全く見覚えが無かった。


「蛇、そちらの方は?」


「この男はこの村の村長よ。蜘蛛、貴方が緊急事態だって言うから連れてきたのよ?」


 蜘蛛の問いに、蛇が何を今更といった風に答える。

 どうやら、紫紺の髪の男はこの砂漠の村の村長であるらしい。守衛の男の話にもあった、優秀な魔法使いであるという村長だ。

 その話を思い出した蜘蛛は、村長の体から漂う魔力を軽く分析してみる。

 すると、かなり強い水の魔力を感じた。性格は少々オジオジとしているのに、魔法の腕は相当であるようだ。

 しかし水の魔法……渇水が常であるこの砂漠においては、これ以上ないくらいに便利な力だろう。三十代という若年ながらも、村長を任されていることにも頷ける。


 すると紫紺の髪の村長は、これまたおずおずとした様子で話し始めた。


「あの……それで蛇さん、この村が賊に狙われているといのは本当なのですか?」

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