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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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75 第一村人☆無事死亡

 砂漠に出てから三日目の、丁度正午に差し掛かった頃のこと。

 太陽が天の頂点にまで昇り、一日で最も日差しが厳しくなるこの時間帯に、少女たちは遂に人間の村に辿り着いた。


「あれが、人間のむら……」


 まず目に入ってくるのは、砂岩を積んで造られた強固な塀。人間の背丈ほどの高さがある塀が、その村の外周をぐるりと囲んでいた。

 そしてその塀の内側には、白灰色の泥レンガで構築された四角形の家屋が立ち並んでいる。

 魔法で空に浮遊し、上空から村を偵察して来た蜘蛛によれば、やはり予想通りにオアシスを中心に据えて築かれた村であるらしい。人口は二百人程度であり、村人が身に着けている衣服などから推察するに、そこそこには栄えている村であるようだ。

 特産品も無いこんな僻地の不毛の大地で、どうしてそこまでの生活レベルを築けているのかと疑問は残るが……まあそれは今はどうでもいい。


 問題はどうやって入村するのかということだ。


「で、これからどうする? 塀の門のところに立ってる守衛に話しかければ、多分中に入れると思うよ」


 偵察を終えて空から降りて来た蜘蛛が言った。

 現在、少女たちは村から少し離れた場所にある大岩に隠れて、村の様子を窺っている。

 中規模な村を支えるオアシスというのは、かなりの湧水量を有しているもので。それを狙ってくる魔獣や人間の賊に備えるためにあるのが、あの強固な塀であるのだ。

 そしてその出入り口である門には当然、防衛のために守衛が配置されている。おそらくは村への来訪者を検査する役割もあるのだろう。


 だがまあ、この世界には旅を生業とする冒険者という職業があるのだ。旅の者だといっても、過度な警戒を向けられることはないと思いたい。

 それに、太陽の神の御告げの通りに東に進み、その結果辿り着いたのがこの村なのだ。この村には確実に何かがある。何としてでも入村し、その手掛かりを掴みたい。


「じゃあいってみようよ。人間のむらを見てみたいし!」


「そうね。私もそれに賛成だわ」


 ということで、入村のために守衛に接触する運びとなった。






「こんにちは!」


「おやお嬢ちゃん、こんにちは。君たちは旅の人かい?」


 トコトコと守衛の元にまで歩み寄った少女が、可愛らしい笑顔で挨拶を告げる。すると守衛の男の方も顔を緩め、膝を曲げて目線を少女に合わせて挨拶を返してくれた。

 皮の鎧と槍を装備している厳めしい見た目の守衛だが、所詮中身は人間。十三歳の全力スマイルには敵わないのである。

 少女の後ろに控えていた蛇は、その様子を見てひとまずほっとした。やはり予想通り、過度に警戒心を向けられることはないようである。


 しかし蛇は同時に気付いた。二人いた守衛の内、少女と向き合っている方とは別のもう一人が、自分たちのことを呆然と見つめてきていることに。

 蛇たちのことを見つめているのは、恐らくはまだ十代なのであろう若い青年の守衛。そんな彼は呆然と口を開いて、まるで有り得ないものを見るかのような視線を蛇たちに向けている。


 しかし、彼がどうして蛇たちのことを呆然と見つめているのか、その理由を推し量ることは実は容易い。

 そう、並んでいる百足、蜘蛛、蛇、アーサーの四名が、この若い守衛の目にはこう見えているのである。


 美人、美人、美人、美人と。

 そう、この若い守衛は見惚れてしまっているのだ。あまりに美しすぎる、人間に化けた蟲たちの容貌に。

 爽やかな金髪のイケメン、百足。黒髪と紅眼のミステリアスな美少年である蜘蛛。彫像のように完璧で美しい蛇。そして金髪碧眼の黄金比をその身に宿すアーサー。

 人間の姿に変身した蟲たちの外見は、目を見開くほどに美しい。神か女神か、そう見間違ってしまう程に。

 その美貌は、この若い守衛にとっては少し刺激的すぎたのである。


「あ……あ~れ~」


「お、おい!? どうした新入り!? 大丈夫か!?」


 目をグルグルと回し、顔を真っ赤にした若い守衛。そんな彼は次の瞬間には、ばたんきゅうと地面に倒れ伏してしまった。

 なんとも見事で模範的、それでいて様式美を踏襲している転倒の仕方である。

 そして、砂漠の熱にやられたのか、と慌てて駆け寄ってくるもう一人の守衛。しかしそれは砂漠の熱故にあらず。恋の熱病である。


「ああすまない君たち! 村には入ってくれて構わない。俺はこの倒れちまった新入りを診療所まで連れて行く!」


 若い守衛を抱えたもう片方の守衛は少女たちにそう言い残すと、そのまま村の中へと走り去っていってしまった。

 さらっと門の見張りの任を放棄しているが、守衛としてそれでいいのだろうか。まあいいだろう。


 どのみち入村の許可は貰えたのだ。気にせず門の敷居を跨がせてもらうことにしよう。

 そしてそんな慌ただしい彼らを見届けると、少女たちは門をくぐって砂漠の村の中へと足を踏み入れていった。


「なあ、あの人間はなんで急に倒れちまったんだろうな?」


「砂漠特有の熱病とかじゃないかしら? 気の毒ね」


 自分たちの美貌の罪深さに無自覚なままに。

 魔性の美貌もまた、毒なのであるというのに。

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