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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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74 騎士王はイチャラブがしたい

「……ごちそうさまでした!」


 器になみなみ盛られたスープを一息で飲み干した少女。彼女はぷはっと息を吐いて顔を綻ばせた。

 そして見つめる。太陽が昇る方角、東を。


「さてと、そろそろ行きましょうか」


 東を見据えているのは少女だけではない。百足も、蜘蛛も、蛇も、ついでのついでにアーサーも、注ぐ陽光の中で東の方向を見据えている。

 樹海の外を歩み尋ねる、未知を見聞するこの旅。しかし皆の見据える光景がただの一つに同じなら、踏み出す力は単純計算で五倍である。

 ならばむしろ、少女の心に湧いてくるのは好奇心。神様がお願いしてくる程の何かが東にはあるのだ。ならば、その正体を突き止めずにはいられないというもの。


「そうだな。んじゃ行くか!」


 そして一歩を踏み出した少女たちは、この砂漠にまた新たな足跡を刻んだ。






 そんなこんなで東へ向けて出発してから、丁度丸一日が経過した。つまり只今、樹海を出発してから三日目の早朝である。

 東の地平線から、再び太陽が顔を出した。


 少女たちもだいぶ砂漠の環境に慣れてきたようで、顔に浮かぶ疲労は少ない。

 しかも、彼女たちは新たな移動手段を手に入れているのだ。

 それこそ、アーサーが解析した砂竜の肉体構造を基にして、百足が造り出した竜型傀儡・砂漠Verである。

 砂竜の強靭な四本脚を精巧に再現したこの新型ドラゴンゴーレムのおかげで、少女たちの移動速度は飛躍的に上昇していた。


 しかし、砂竜の尻尾ステーキや尾骨出汁スープの調理といい、今回の新型ドラゴンゴーレムの開発といい、百足とアーサーの相性は相当にベストマッチであるようだ。

 アーサーもとい旧騎士(セイバー)の躯体は、百足のゴーレム開発の補助としても役立つようにデザインされている。

 とはいえ、これ程の相乗効果を生み出してくれるとは、百足にとっても想定外であった。


 無限知識と高速演算を誇るアーサーが、無数のデータを解析して設計図を構築する。そしてその複雑怪奇な設計図を、ゴーレムの魔法の天才である百足が形にする。

 ジグソーパズルのピースが、定められた唯一の相手にしか嵌まらないように、百足とアーサーとの相性は恐ろしい程に高かった。

 そうまさに、小指と小指を運命の赤い糸で結ばれた恋人同士であるかのように。というのはアーサーの勝手な思い込みであるが。

 どういうわけか、アーサーがいつの間にか随分と恋愛脳じみてきている。十中八九、百足から受けた影響のせいだろう。

 仮にも騎士王の名を持つ者なのだから、せめてもっとクールに振る舞ってほしいものである。


 金髪イケメンの百足と金髪美少女のアーサーが、事あるごとに共同作業、共同作業と言ってくっついているのだ。

 名匠の名画にも勝るそんな光景を見ていると、なんというか心を焼かれそうになる。


「なあアーサー、ここで振りかける塩の分量は?」


「大さじ一杯です」


「……ちょっと待て、大さじって一体なんのことだ?」


「ちょうどこのスプーン一杯分ということですよ、造物主(マスター)


 そして、今は朝ご飯の調理の真っ最中。

 アーサーが鋼鉄棘サボテンの実を美味しく食べるための新レシピを提案してきたので、メインディッシュは道中で狩った腐肉喰(スカベンジャ―)コンドルのローストチキンと、鋼鉄棘サボテンの実のサラダとなった。もちろん汁物などを始めとし、その他諸々の品々も添えられている。

 樹海での生活においては、あまり縁の無かった栄養バランスという言葉。しかしアーサーが加わってからは、彼女が栄養士のように食事のメニューにテコ入れをしてくれるようになった。

 そのため砂漠に出てからというもの、次第に一汁三菜を基礎としたバランスの良い食事が増えてきたのである。


 ちなみに、鋼鉄棘サボテンの実の美味しい食べ方とは……。

 分厚い外皮を取り除いた後、そこに適量の塩を振る。すると実の内側からじわじわと水分が抜け出てくるのだ。

 こうして余分な水分を抜くことで、水っぽかった実の触感が一変。身が引き締まってシャキシャキになるのである。アーサーによると浸透圧という現象らしい。


 そんなこんなで出来上がった朝食を皆で食べていると、蜘蛛からこんな話があった。


「恐らくだけど、もうすぐ人間の集落に辿り着くと思うよ」


 とのことである。

 それは願ってもないことであるのだが、一体どうしてそんなことがわかるのだろうか。遠視の魔法でも使ったのだろうか。


「そりゃあ喜ばしいことだが……」


「どうしてそんなことがわかるのかしら?」


 そう疑問に思ったのは百足も蛇も同じらしい。不思議そうな顔で蜘蛛に尋ねている。

 しかし、蜘蛛は何を今さらとこう答えた。


「何故ってさ、水の魔力の濃度が上がってきてるじゃんか。ならそれくらい自明でしょ?」


 蜘蛛曰く、この周辺では水属性を帯びた魔力の濃度が他の場所よりも高いらしい。全ての魔法属性への高い適正を持つ彼だからこそわかることなのだろう。

 そして、蜘蛛はその情報を元に推理を行ったのである。


 大気中を浮遊する魔力は、周囲の自然環境に影響を受けて属性を帯びる。泉の周辺ならば水の魔力に、火山の周辺ならば火の魔力に、といった具合だ。

 この砂だらけの砂漠においては、今まで土の魔力ばかりが漂っていた。しかしここにきて、そこに水の魔力が混ざってきたのだ。

 つまりこれが意味することとは砂漠の水場、すなわちオアシスの存在である。

 そして生命に不可欠な水の周囲には、通例として多くの生き物が集まってくるものだ。ならば人間も……といったふうに導き出された答えがこれなのである。


「やっぱり蜘蛛は頭が回るなぁ~。アーサー並みにクレバーだぜ」


「百足の創造物に並べるなんてね、光栄だよ」


「いえ、私の方が賢いです造物主(マスター)


 幾つもの属性の魔法を多重詠唱(マルチキャスト)する蜘蛛は言うまでもなく、はちゃめちゃに頭が良い。特に脳の情報処理能力の発達具合が著しく、今回の推理だってたったの二秒で考えついたものなのだ。

 そんな彼の推理ならば十分信用に値する。


「たのしみだね、人間のむら!」


「そうね。ヒッタイトの言っていた冒険者ギルドとやらもあるのかしら」


 そしてそんな話を聞けば、思わず頬も緩むというもの。蛇も機嫌が良さそうに、自身の長い白髪をくるくると弄っている。

 二日間ずっと赤褐色の砂漠を歩き続けてきたのだ。目的地が目前にまで迫っていることを知れば、顔に浮かぶのは喜色である。


 そしていつもより少しだけ大きくなった歩幅で、少女たちは再び歩き出した。

造物主/被造物の関係にある百足とアーサーは、魂のすごく深い所で繋がっています。

百足の人間形態の髪色がアーサーと同じ金色になったのにも、実はそういう理由があるんですね。

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