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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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73 地を這う白蛇は、太陽の夢を見るのか

 月光が照らす中で、安らかな眠りに落ちていった筈の蛇。

 しかし、ふと気付いた時には彼女は――


「これは一体……どういうことなのかしら?」


 真っ白な空間の中にいた。


 辺りを見回しても、空も、大地も、何もかもが真っ白なのだ。それもおかしいくらいに。

 いやそもそも、この空間に空とか大地とかいう概念が存在しているかどうかすらも定かではないが。


「どういう……いや、これは夢?」


 当然蛇の脳裏をよぎったのは、これがタチの悪い夢なのではないかという問い。

 しかしこうして疑問が頭に浮かんでくる時点で、これが夢でないことは証明されてしまっている。あまりにも意識が明瞭すぎるのだ。


 だとしたら何なのだ、この真っ白な空間は。

 箱状なのか、球体状なのか、はたまた別の形状なのか。それすらも不明だ。

 魔力すら感じられない。音もにおいも感じない。そして温度もないのだ。


 そしてふと気を向ければ、地に足をつけている感覚さえもいつの間にか消えている。

 本当に一体何なのだ、この真っ白な空間は何なのだ。

 一切の凹凸がなく、一片の物体すらも存在せず、ひたすらに無機質。不安を呼び起こす程のその虚無が恐ろしい。

 唯一あるものといえば、この空間を照らす光くらいだ。


「……光? おかしいわね」


 いやおかしい。この何もない空間の中で、どうして光だけが健在なのだ。

 おかしい。何かがおかしい。違和感だ。ひたすらに違和感。


 そうして無限に湧いてくる疑問が精神に悪作用したのか、名状し難い不安感に蛇の胸中が埋め尽くされていく。

 それに加えて、先程からひしひしと感じるのだ。生物ではない、尋常ならざる何者かの気配を。


 まさか、これは蛇の白鱗の中に宿る――


「我の言葉に応えよ。我が力の一片を宿す者よ」


 その時であった。どこからだろう、声が響いてきたのだ。

 男の声なのか、女の声なのか、案の定それはわからなかった。というよりも、それについて思考することができないのだ。思考に鍵が掛けられている。


 それよりも、その声を聞いた途端に晒されたのだ。心臓を握り締められるような、圧倒的なプレッシャーに。

 まるで強い猛風を真正面から浴びた時のように、体がガクガクとすくむ。

 そのあまりの圧力に、蛇の瞳孔がビキビキと血走っていく。


「貴方は誰!?」


 そして、真後ろに振り返った蛇の眼にはくっきりと映った。映ってしまった。

 轟々と燃え盛る、巨大な巨大な火球が。


 何故、どうして今まで気が付かなかったのだろうか。この真っ白い空間を右端から左端まで、上底から下底まで隙間なく埋め尽くす、あの超巨大な火炎の塊に。


 そう、それはまさに太陽を思わせる威光だ。


「我の力の一片を持つ者よ、東へと向かえ。そして助けよ、我の半身を」


 あの巨大な火球の何処かが、この不思議な声の発信源であるらしい。

 ああ……光が聞こえる。声が見える。

 蛇は鼓膜ではなく、眼でその声を感じていた。


 いや違う、それよりも聞かなければ、尋ねなければ。

 この空間は一体何なのか。そして物言う巨大火球の正体は何なのか。それを知るために尋ねなければいけない。


 だが、口が動かない。開かない。枷を嵌められたかのように脳の指示を受け付けてくれない。


「我は汝らを照らす者なり」


 再び、火球が言葉を発する。

 そしてそれと同時に、蛇の五感がぼやけて薄らいでいった。彼女の頭に、眠気にも似た感覚が植え付けられていく。


 そんな中でも、蛇はなんとか声を出そうともがき続けていた。

 しかしそれも虚しく、火球の放ったその一方的な一言でこの『夢』は幕を閉じてしまったのであった。






「はっ!?」


 蛇が飛び起きた時には、既に夜は明けていた。


 夢から覚めた蛇はまず、慌てて周りを見回した。もしまだあの不可思議な空間の中に囚われたままだったら……と恐怖心に駆られたのだ。

 しかし、彼女はすぐにほっと安心した。目の前に広がっていたのは昨日と変わらない砂漠の景色であったし、何よりも少女が心配そうに自分のことを覗き込んでいたからだ。


「へび、だいじょうぶ? うなされてたよ」


「ええ、心配ありがとう。……それよりも、話さなければいけないことがあるわ」


 聡明な蛇は察していた。あの夢には、確実に何らかの意図が込められていたということを。

 ならば早急に皆にこのことを共有し、これからの行動の指針を決めなければならない。


 蛇は人間の姿に変身すると、コップの水をごくっと一息に飲み干した。

 そして大きく息を吐くと、少女たちにあの奇妙な夢のことを語り始める。

 砂竜の尻尾の骨で朝食のスープの出汁をとっていた百足も、作業をアーサーに任せて話に耳を傾けた。


「なんだよその夢。お前にしては珍しく、過労のあまりにってやつか?」


「違うわよ百足、あれは言うなれば託宣だわ。太陽神の加護をこの身に宿す私だからわかるの」


 蛇は夢の内容を包み隠さず少女たちに話した。

 夢の話ということもあり、始めは半信半疑であった百足たち。しかし、極めて真剣な表情で語る蛇を見ていると、どうにもそうは言っていられなくなってくる。


 夢枕に謎の存在が現れて、一方的に命令の如き言葉を残していく。そのような現象は現在・過去を問わず、世界中で確認されてきた。

 そう、それは神託と呼ばれている。

 それに蛇の白鱗には太陽の神の加護が宿っているのだ。彼女の言葉を信じる他あるまい。


 夢の中であの巨大な火球は言っていた。東に向かえと。その言葉は一体どのような意味を含んでいるのだろうか。それに『我の半身』という言葉も気掛かりだ。

 どうにも理解できないことばかりである。だが仕方がない。神を理解することなど、できるはずもないのだから。


 だから進むしかない。


「じゃあ、東にいってみる?」


「でも貴方はそれでいいの? 大変な災いに巻き込まれる可能性だってゼロじゃないのよ?」


「うん、だいじょぶだよ。きっと」


 少女は蛇の夢の話を踏まえて、それでも東の方角へと進むことを決断したようである。

 元より目的地こそあれど、地図の無い旅だ。

 旅立ちの前に師匠であるヒドラに授けられた言葉の通りに、心の赴くままに進むのである。


 太陽は既に赤褐色の地平線より昇り、その光を受けた砂の大地は鉄板のようにその熱を伝導し始めている。

 そろそろ行かなければ、東へと。太陽の昇る方角へと。

 そこに何があるのかはわからないが、そんなものは大した問題ではない。樹海の外の世界なんて、全て等しく未知である。

 その未知に踏み出して、砂の地面に足跡を刻むように、白地図を埋めるように、自らの見聞を広めていくのがこの旅だ。


造物主(マスター)のご子女様、こちらをどうぞ。造物主(マスター)と私の共作であり自信作です」


「おうよ、このスープにはたっぷり旨みが出てるぜ。飲んだら出発だな!」


 百足とアーサーの作ってくれた朝ご飯を食べて、早速歩き出すとしよう。

あれです、あれ。

なろうでよく見かける『白い空間』というやつです。

いつかやってみたかったんですよね〜。

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