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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第二章 月として、太陽として
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70 砂だらけの新天地にて

第二章開始です!

「ねえへび見て! すごいよ! ほんとに砂ばっかりだよ!」


「そうね。おまけにこの照り付ける太陽……不思議な大地だこと」


 少女たちは今、砂漠にいる。


 死の樹海を出立した後、少女と蟲たちは死海山脈を北から越えた。

 死の樹海、それは国が一つすっぽり収まってしまう程の巨大な樹海だ。さらには雄大な死海山脈がそれをぐるりと一周、少しの隙間もなく囲んでいる。

 その雲をも貫く死海山脈を越えた先にあるのが、人間の世界だ。


 少しだけ、死の樹海を取り囲む人間の世界について話しておこう。

 死の樹海には二つの国が面している。一つが黄金と名誉の国『グゴーリア・ヘプターキー』。そしてもう一つが賢帝の国『パクス・ロマエ帝国』だ。

 この二国は死の樹海を国境線として利用している。グゴーリア・ヘプターキーが樹海の開拓に躍起になっていたのも、それを挟んで接している帝国との競争を有利に進めるためであったのだろう。

 そして、今少女たちが足を踏み入れたこの砂漠こそパクス・ロマエ帝国、その辺境である。


 パクス・ロマエ帝国はグゴーリア・ヘプターキーと同じく、三千年前の『大魔王大戦』後から繁栄を維持し続けてきた大国。その繁栄と平和は他でもなく、歴代の聡明たる偉大な皇帝たちの尽力によって支えられてきた。

 国名に掲げられたパクス・ロマエという言葉、それは『平和の帝国』を意味する。


「なあアーサー、如何せんここ暑過ぎないか?」


「そうですね造物主(マスター)。アカシック・レコードによれば、これは砂漠気候と呼ばれているそうですよ。熱帯収束帯で持ち上げられた空気が、丁度この亜熱帯高圧帯にて下降してくるのです。そのため雨が少なく、自然とこのような砂漠が形成されるというわけです」


「はえー……なるほどなあ……」


 しかし百足の言う通り、この砂漠は暑過ぎる。流石は太陽の膝下だ。

 そして暑さをぼやいた百足に向かって、アーサーは何なら難しい単語を並べて解説を始めている。聞けば、その知識はアカシック・レコードから引き出してきた蘊蓄であるらしい。


 人指し指をぴんと立てて、百足へと鼻高々に語っているアーサー。百足の創造物である歯車仕掛自動人形(オートマタ)のアーサーは、自然と樹海の外にまで連れ立ってきた。

 金髪碧眼の美少女騎士に連れ添ってもらえるなど、全く百足もいい御身分である。


 そしてそんなアーサーの今日の語り口は、どうしてか妙に上機嫌なようだ。

 何故なら、彼女は密かに喜んでいるのだ。人間に変身した造物主(マスター)である百足の髪色が、自分と同じ金色だったことを。

 精巧に造られたアーサーにしては、随分と単純な理由である。


 しかし、なんといってもここは砂漠!

 風によって波のような模様が刻まれた砂丘。容赦なく、さんさんと照り付ける太陽。そして視界のあちこちに、背高のっぽのサボテンらしき植物たちが立ち並ぶ。

 乾き渇いた砂の大地。太陽の膝元、砂漠が目の前に広がっていた。


 本当に砂だらけだ。遠くに地平線が見えるのだが、きっとその向こう側にもこの砂の大地は続いているのだろう。


 そんな中で少女に目を向けてみれば、彼女はサボテンらしき植物にいそいそと近付き、それを興味深そうに観察していた。

 サボテンとは、言ってしまえばトゲトゲした緑色の塊である。そんな奇怪な物体を前に、好奇心旺盛な少女が何もしない筈がないのである。


 しかし少女は好奇心の赴くままに、驚くべき行動に打って出た。

 なんと少女はたまたまなっていたサボテンの実をもぎ取ると、それを躊躇無く口の中に放ってしまったのだ。

 何というか、よく未知の物体を口に入れてみようと思ったものだ。死の樹海の超猛毒キノコを食べても無事であった少女ならば、どのみち問題は無いとは思うが。


 しかし、期待に満ちた表情でサボテンの実をもしゃもしゃと咀嚼していた少女の顔は、次第に渋いものに変わっていった。


「なんかこれ水っぽいね」


 どうやら、そのサボテンの実は水っぽかったらしい。


「これなら、あのむらさきキノコの方がマシ」


 そのあまりの水っぽさに、毒キノコの方がマシであると評されてしまったサボテンの実。水分を貯め込んでいるのは、過酷な砂漠を生き抜くための生存戦略なのであるというのに……。なんだか可哀想である。

 まあ仕方がないことだ。この『鋼鉄棘(アイアン)サボテン』の硬い棘ですらボリボリと噛み砕いてしまう少女が相手では、罪なきサボテン君でも反抗できまい。






「ねえへび、なんか近づいてくるよ」


 その時、少女の視線が遠方へと向けられた。

 鋭利なその視線が向けられたその先では、何やら高く高く砂埃が立ち昇っている。

 しかもその立ち昇る砂埃は、次第にこちらへと近付いてきていた。


「なんでしょうね、あれ……」


 額に掌を添えて、砂埃が立っている方角を見つめる蛇。そんな彼女の瞳は捉えた。砂埃を舞い上げながら、そして空気を割る咆哮を上げながら、こちらに接近してくる存在の正体を。

 それは砂と同じ赤褐色の鱗を身に纏った、巨大な蜥蜴(とかげ)であった。


「巨大だね。不毛の砂漠で一体どうして、あの巨体を維持できているのか……。樹海の外には謎が一杯だ」


 その蜥蜴の巨大っぷりを見た蜘蛛は感嘆の声を上げた。

 しかしそんな彼へと、百足は平然として言う。


「おいおい蜘蛛、そんなのわかり切っているじゃないか。今奴が実際やってるみたいに、動く物を手あたり次第に食っていけばいいんだよ」


 巨大蜥蜴から逃げるように、遠くの鋼鉄棘サボテンの上から一羽の鳥が飛び立った。

 しかし、それを見た蜥蜴の目玉がぎょろりと動く。

 次の瞬間には、その鳥は蜥蜴の口の中へと消えていた。


 そして巨大蜥蜴が砂丘に衝突し、轟音を立ててそれを破壊する。少女たちに影を落としていた大きな砂丘が、瞬く間に砂埃と消えていった。

 その猪突猛進っぷりを見れば、あの巨大蜥蜴に大した知能が備わっていないことが窺える。しかしその巨体と獰猛な食欲は確かな脅威だ。

 それにあの突進の挙動は、明らかに少女たちを狙っている。


「『テレポーテーション』」


 がばっと大口を開けた巨大蜥蜴が、あっという間に目前にまで迫る。

 しかし間一髪、蜘蛛が時空魔法を発動させて皆を瞬間移動させた。


 近くにあった砂丘のてっぺんにまで転移した少女たちの目に入ったのは、先程まで自分たちがいた場所に抉られたような跡が刻まれていく様子。そう、巨大蜥蜴がその強靭な顎で辺り一帯の地面を抉り、丸呑みしたのだ。


「あらまあ、品性のなってない食事風景ね」


 それを見た蛇が嘲笑うようにそう言った。そして彼女は自身の髪の毛を一本、プツンと抜く。

 その真っ白な髪の毛は言うまでもなく、太陽の神の加護を宿した最高級の魔術触媒である。人間形態になったことで、蛇は抜け殻に代わる新たな武器を手に入れていたのだ。

 そしてその純白の髪の毛は魔力を帯び、光を纏い、矢の形へと成った。


「貫かれなさい。『レディアントアロー』」


 蛇は同時に生み出していた光の弓にその矢をつがえると、弦をきりきりを引き絞り、そして放つ。

 高速で空中を駆けていった光の矢は、巨大蜥蜴の鱗を突き破って深々と突き刺さった。


 太陽の光に富んだ、いや富み過ぎているこの砂漠では、蛇に宿る太陽神の加護はより一層強く駆動する。それに蛇の魔法技能の高さが相乗すれば、貫けないものはない。


「ぎゃっ……ギャオオオオオスッ!!」


 しかしその矢一本だけでは、巨体を誇る蜥蜴を絶命させるには至らなかったらしい。

 傷付けられたき巨大蜥蜴はその眼を怒りで濁らせ、嚇怒の咆哮を上げた。

 そして再び、こちらへと向かって突進を始める。


「うーん、どうしたものか。奴を刈り取るのは容易いが……」


「大きすぎて狩った後に食べきれないよね。それじゃ勿体ない」


 蟲たちは今の一撃で確信したようである。あの蜥蜴は大きいだけで、大した相手ではないということを。

 しかし狩ったとしても、あの巨体では食べ切ることは不可能だろう。それではあまり狩る理由がないのだ。身の丈に合わない獲物を狩るための労力は、はっきり言って無駄である。


 どうしたものかと悩む蟲たち。


造物主(マスター)、私に提案があります。よろしいでしょうか」


 だがその時、アーサーから作戦の発案が行われた。

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