7 少女専属ヘアドレッサー白蛇
ばしゃっ、ばしゃっ。
水の跳ねる音が、仄暗い夕方の樹海に木霊する。
少女が水浴びをしているのだ。
ここは、少女のお気に入りの丘から少し離れた所にある川。樹海の周囲にそびえている山脈から雪解け水がはるばる流れてきており、その水は美しく、とても澄んでいる。
「つめたくて……ん、きもちぃ」
少女は、狩りで流れた汗を洗い流しながら、水の冷たさを楽しんでいる。
桃のような淡い色味をした、柔らかな少女の肢体。冷水が肌をつたって水面へと滴っていく。
ほどよくふっくらと筋肉のついた身体と、みずみずしい髪が絡まりあって、えも言えぬ空気を醸しだしている。
水をふくんだ少女の長い銀髪が、ちょうど夕闇と同じ暗い青色をまとっていた。
「シュ〜〜?」
「うん、きもちぃよ」
水浴びを終えて、河原の岩に腰掛けた少女。そのたらんと垂らした髪の中から、真っ白な蛇が顔を出した。ちろちろと出し入れしている赤い舌が可愛らしい。
少女の返事を聞くと、蛇はまた髪の中へと潜っていった。すると、彼女はその長細い身体を上手に使い、ウミヘビが水中を泳ぐような要領で、髪の中をうねりながら動きまわっていく。
実はこれ、髪を梳かしているのだ。実際、蛇の動いた後の髪からは、ほつれが消えており、美しく仕上がっている。
彼女は稀に生まれる、色素の薄い特殊な個体。
その白い体色は目立つため、獲物に気取られやすく、逆に外敵には襲われやすいというかなりの不都合を抱えている。そのため、蜘蛛と百足に出会うまでは、中々な苦難の生活を送っていたらしい。
そのためか、彼女は自分の体色と似た少女の銀髪に、親近感のようなものを感じている。
それゆえ、この髪梳きという行為をとても気に入っていた。
「シュ〜」
「すごい、つやつやになってる」
「シュ〜!」
少女が艶やかに仕上がった自身の髪をなでて、嬉しそうにほほえむ。
「いつも、ありがと」
少女のその穏やかな表情を見て、蛇はとても満足げなようだ。
彼女は少女の腕にしゅるしゅると巻きつくと、しばらく離れなかった。
思ったよりもたくさんの人に読んでいただけているようで、嬉しい限りです。感謝です。
※白蛇は雌です。