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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第一章 死を育む樹海の中で
55/160

55 天賦の才には、天賦の才をぶつけよう

この小説は元からR-15ですが、一応警告を置いておきます。

今回は殺人に関する明確な記述があるので、苦手な人はお気をつけ下さい。

 『ユニークスキル』とは、ごく稀に生物に宿る唯一無二の特殊能力のことである。


 ユニークスキルは魔法と同じく、超常現象を引き起こす。

 グゴーリア・ヘプターキーの三千年の歴史の中で確認されてきたユニークスキルの中から、一部を抜粋して紹介しよう。


 一つ、『第三肢』というスキル。これは保有者の意思に呼応して、三本目の腕を具現化するというものであった。驚くべきことに、この現象の発生には魔力が必要とされない。


 一つ、『魔獣対話』というスキル。これは読んで字の如く、魔獣との意思疎通を可能とするというものであった。同じような効果を持つ魔法も存在しているが、前述のものと同じく魔力を必要としないこちらの方が、使い勝手が良かったとのことである。


 一つ、『魔神の半身』というスキル。これは存命のS級冒険者が保有しているもので、底無しの魔力に加えて、魔術への類を見ない高い適性を与えるという能力である。

 魔術の神髄に触れ、ありとあらゆる魔法を使いこなすその冒険者の姿は、まさに魔神の半身を宿したかの如し。それがこのスキルの名の由来だ。


 ……但し、ユニークスキルについて考える時には、一つ注意しなければいけないことがある。

 それは、ユニークスキルが人類の叡智の外側から来る、埒外の力であるという点だ。


 言葉を話したり、運動したり、あるいは魔法を使ったり。これらは全て、生物の身体に備わった器官と結びついた立派な身体機能である。

 しかし、ユニークスキルはそうではないのだ。

 身体のどこに宿り、そして何処へと去るのか。それすら判明していない未知の力なのである。


 魔力も必要としない、動力源もわからない。

 神からの贈り物か、それとも脳の未知領域に由来する力なのか。


 はっきり言って謎だらけである。


 それらの謎について解き明かそうとする『天賦(てんぷ)学』という学問もあるのだが……。いかんせんユニークスキル保持者が少な過ぎるがために、研究は停滞している。


「で、そのユニークスキルっての持った賊が、樹海を荒らしてるわけだな?」


「ああ、そうだ。本来奴らのような指名手配人を狩るのは冒険者ギルドの役割なんだが……今回はそれが上手く機能しなかった。本当に申し訳ない」


 ……というユニークスキルに関する長ったらしい説明を受けた少女たち。


 ユニークスキルは彼女たちにとって未知の概念だ。そのため困惑が先に来ると思ったが……。

 互いに顔を見合わせる少女たちの表情には、どちらかというと納得が浮かんでいた。


 実を言うと、彼女たちは前例を知っているのだ。


「ねえメルト、貴方の部下に目視した物体を凍らせる魔眼の持ち主がいたわよね? そういうのもユニークスキルと呼ぶのかしら、ヒッタイトさん?」


 そう、メルトの部下である深森狼(ディープリーウルフ)の中には、特殊な能力を宿す眼球――魔眼を持つ者がいるのだ。

 その魔眼の能力は本人曰く、『見た物を問答無用で凍らせる』というものらしい。それ故に、彼は普段から魔眼が宿る左眼を眼帯で隠している。


 ちなみにそんな彼も、百足とドラゴンゴーレムにボコされた中の一匹である。彼曰く、魔眼が通用しなかったのはドラゴンゴーレムが初めてだったという。


「ああ、その通りだ。もっとも魔眼については、魔獣学の観点から突然変異の可能性も指摘されてはいるがな」


 蛇の質問にヒッタイトが答えた。


 しかしなんというか、先程からの明瞭な受け答えを見ていると、ヒッタイトの博識な一面が垣間見えてくる。

 彼女のことは脳筋だとばかり思っていたが、こんな聡明な顔も持ち合わせていたとは。流石はA級冒険者だ。

 こう見えてもヒッタイトは、世界中央学園に特待生として入学したという、冒険者にしては異色の経歴の持ち主なのである。


「それで、密猟者の(かしら)の持つユニークスキルの正体とは、一体なんなんだい?」


 そんな中、蜘蛛が本題を切り出した。


 ヒッタイトの話によると、密猟者たちの頭である指名手配人ロバースの持つユニークスキルこそが、奴らが樹海に蔓延っていられる理由であるという。

 ならば選択肢は一つ。その正体を知り、そして対策を講じ、打ち破るのみである。


 そんな蜘蛛を見て、ヒッタイトはすぐに言葉を続けた。


「そいつは『次元の洞窟』と命名されたユニークスキルだ。亜次元にある独自の空間に接続できるスキルで、おそらく奴らはそこに隠れながら狩りを行っている」


 ――とのことである。


 そして彼女曰く、『次元の洞窟』の持ち主であり、密猟者を束ねる頭領でもある指名手配人ロバースとは。


 まず、奴は元B級冒険者だ。

 ユニークスキルを持った者が冒険者になるのは、別に珍しいことではない。天賦の才を活かせる上に、実入りもいい。この上ない天職なのだろう。

 通例として、ユニークスキル保持者の昇格は速いものだ。そしてその例に漏れず、ロバースも早い段階で『非凡者』として分類されるB級にまで昇り詰めた。


 しかし、奴は自らその地位を捨て去った。


 B級以上の冒険者にのみ割り当てられる特殊任務、貴族の護衛。ギルドからの指令により、とある辺境伯家族の遠出の馬車を護衛することなったロバースであったが、その最中に奴は己の中の獣性を露にした。


 護衛対象である辺境伯当人を殺害、さらにはその妻と娘を陵辱の末に殺害。自身以外の護衛も全員殺害。


 特に美しかった辺境伯の娘については、全身の皮を剥ぐという残虐な方法で殺されていた。


 奴は皆殺しにした。

 それまで素行優良なエリート冒険者として振る舞っていた奴は、その時被っていたその化けの皮を脱ぎ捨てたのだ。


 その後ロバースは徒党を組んで各地で略奪を開始し、冒険者ギルドによって指名手配が行われることとなる。


「でも、ユニークスキルのせいで討伐も難しいと……」


 しかし、ここに問題が一つ。指名手配犯を狩る依頼には高額の報酬が設定されるため、多くの者がロバース討伐に乗り出したのだが……。


 そのほとんどが死体となって帰って来た。


 もしくは、なんの成果も得られずに帰って来た。


 そう、『次元の洞窟』の害悪さは尋常でなかったのである。

 好きなタイミングで相手の手出しできない亜次元に逃げ込み、好きなタイミングで出て来て不意打ちをする。この単純な戦法に、鍛え上げられた冒険者たちですら敗北を重ねたのである。


「対策しようがないというか、なぁ……」


 ソバが弱々しく呟いた。彼らもモラトリアムのギルドマスターからロバース一味の捕縛を命じられているわけなので、ここまでの道中で『次元の洞窟』の対策法について何度も論じ合ってきた。


 しかし、出た結論はこうである。


「せめて時空属性を使える魔術師がいれば、亜次元に干渉できるんだが……」


 亜次元に干渉して、その内部からロバースを引き摺り出さないことにはどうしようもない。

 そして、それを可能とする凄腕の時空魔術師がいないと話にならない。


 ……という、無理難題が彼らの結論であった。


 心苦しいが、もはや打つ手はない。時空属性への適正を持つ人間など、千人に一人程度の確率でしか生まれないのだ。

 しかも、そこから『熟練した凄腕』という条件を付け加えれば……確率は万人に一人にまで低下する。たとえグゴーリア・ヘプターキー中を探し回ったとしても、見つかることはないだろう。


 ……でも、何か忘れているような。


「……あれ? でもさっき、誰か時空魔法を使ってなかったっけ?」


 重苦しい雰囲気に包まれる百鬼夜行(ゴーストパーティー)の面々。しかし、その中からソバが声を上げた。


 その瞬間、一同の視線が蜘蛛へと集中する。


 そうだ、彼はついさっき時空魔法での転送を行おうとしていた。つまり――


 こんな辺境の死の樹海の中にいたのか! 万分の一が!


「対策法、見つかっちゃった……」


 そう、全ての魔法属性を使いこなす蜘蛛はこの樹海においての、ロバースに対する唯一の対抗手段なのである。

現在、全ての魔法属性を扱える人物は世界に三人います。

まず蜘蛛。

次に『魔神の半身』の保持者であるS級冒険者。

最後に魔王。


ちなみに、その魔王を主人公に据えた新作を執筆中です。

投稿の予定はまだ定まってはいませんが、乞うご期待、です。

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