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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第一章 死を育む樹海の中で
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53 遥か上空から襲来☆魔法少女

「あら、百足も蜘蛛も無事じゃない。貴方たちもちゃんと勝てたのね」


「勿論。そもそも、僕の魔法が誰かに負けるとでも?」


「俺のゴーレムだって無敗だぜ!」


 百足、蜘蛛、蛇の三匹は、各々が百鬼夜行(ゴーストパーティー)との決闘を勝利で終えた。


 踊る七つの魔剣が、銀腕の鉄槌の輝きが、騎士王の放った一閃が、立ちはだかる百鬼夜行(ゴーストパーティー)の面々を討ち倒したのだ。

 三者三様の輝かしい勝利。しかし彼らはそれを大して噛み締めることもなく、地面に伸びているヒッタイトたちを見据えている。


「さてと、彼らには早々にお帰り願わないとね。今は有事だし」


「そうね。それに、あの子に見つかっても厄介なことになるわ」


 そもそも彼らが決闘を提案したのは、百鬼夜行(ゴーストパーティー)の面々を少女から遠ざけるためだ。ヒッタイトたちは樹海(もり)の主、つまり少女に何か用があるようだし、無用なリスクを避けるためにもそうするに越したことはない。


造物主(マスター)、これからどうなさるのですか?」


「ああ、アーサー。とりま彼らを樹海の外まで連れて行かなきゃなんだよね。途中で死なれちゃ夢見悪いし」


 百足とアーサーは気絶しているヒッタイトたちを担ぎ上げて、ソバとコマチに引き渡そうとする。決闘で傷を負ったヒッタイトたちだが、蛇の回復魔法によって既に治癒は済んでいた。

 決闘は真剣勝負。とはいえ、命まで奪うつもりはないのである。百足も蜘蛛も蛇も殺戮者であるわけではないし、そもそも人間の肉は旨くない。


「……百足、貴方って女の子に自分のことをマスターって呼ばせてるの?」


「ああいや違うって! あくまでこれはアーサーの矜持的なアレで!」


「百足は破廉恥だね」


「おい蜘蛛! なんでそうなるんだよ!」


「……造物主(マスター)は破廉恥なのですか?」


「違うって!」


 アーサーとは初対面であるはずの蜘蛛と蛇だが、案外自然に会話に交ざっているようだ。

 金髪美少女が湧いて出れば、普通何かしらの疑問を抱くはずなのだが……。百足の破天荒さに慣れ切った彼らは、特に突っ込むことはしない。


 というよりも、彼らは内心面白がっているのだ。百足が何年もかけて造り上げた鋼鉄の全身鎧(フルプレート)の騎士人形、それが何故かみずみずしい美少女に変貌しているのだから。

 どちらかというとカッコいいモノ好きな百足。当然、彼の歯車仕掛自動人形(オートマタ)もそれに準じてカッコよく仕立て上げられている。

 それが美少女に変貌……一体百足の内心はどれ程に乱れているのか。想像するだけで面白い。


「えーと、ソバとコマチだっけ? じゃ、この二人連れて帰ってね。後は蜘蛛が転移の魔法で樹海の外まで送るから。決闘楽しかったって伝えといてね」


「え、ええ。わかったわ……」


 A(ランク)冒険者であるヒッタイトまでもを倒してしまった蟲たちを前に、緊張した面持ちのソバとコマチ。

 しかし、意外にもフランクに話しかけてくる蟲たちを見て緊張は無駄だと悟ったのだろう。彼らはやがて、気絶している仲間たちを抱えて立ち上がった。


 ヒッタイトをコマチが担ぎ、変化が解除されて小狐の姿に戻った茶太郎と笠松をソバが背負っている。

 両者とも中々に重そうだ。


「ヒッタイトさん、結構重いんですね」


 ヒッタイトを背中に担いだコマチが呟く。ヒッタイトだって女性なのだから、その発言は少しどうかと思うが……。


「いやぁ、だって筋肉達磨じゃん」


 このソバの返事に現れている通り、そんなことは気にするだけ無駄だろう。なにせヒッタイトは『暑い!』と叫んだかと思うと、皆が寝ているテントの中で突然素っ裸になるような人物なのだから。

 彼女の貞操観念は一体どうなっているのだろうか……。


「……だ、だれが筋肉達磨だ……」


「あ、ヒッタイトさん起きた」


 そんな彼らを横目に、蜘蛛が転移魔法の魔術式を構築し始めた。地面から輝くルーンが浮かび上がり、魔法陣が形作られていく。

 パズルのように組み合わさり、円形の方陣を空中を描き出す奇妙なルーンたち。


「僕でも時空魔法にはちょっと苦戦するんだよね。なにせ魔術のスケールがおっきいからさ」


 時空属性への適正を持つ者というのは、人類においてはおおよそ千人に一人の割合で存在している。つまり、時空魔法を扱える魔術師というのは非常に希少なのだ。


 全ての魔法属性への適正を持つ蜘蛛でも、全属性の中でもぶっちぎりで複雑な時空属性を使いこなすのには多少苦戦する。


 魔法陣はやがて白い光を放ち始めた。意思を持っているかのように飛び回る光が、百鬼夜行(ゴーストパーティー)の面々を包み込んでいく。

 蜘蛛が今構築している魔法は『テレポーテーション』という。対象の滞在している座標の情報を書き換えることで、思い描いた場所へと転送する魔法だ。


「じゃあね。テレポー……」


 最後の仕上げに蜘蛛が呪文を唱え上げようとする。それと同時に、ヒッタイトたちの身体が完全に白光に覆われた。

 いよいよ転移の魔法が完成し、彼女たちがモラトリアムへと送還される――






「みんなーーー! なにやってるのーーー!」


 と思われた次の瞬間、蟲たちの頭上から大きな声が響き渡ってきた。


「やばいおわった」


 百足がぽつりと零す。


 それは百足、蜘蛛、蛇の全員が十三年間毎日聞き続けて聞き慣れている声。

 そう、三匹の蟲たちの頭上から響いてきたのは……今一番聞いちゃまずい、少女の声であったのだ。


 少女が着地する。


 ドゴオオオオオーーーンッッッ!!!


「なんだぁ!?」


 そして轟音が響き、土煙が舞い上がる。


 ソバたちは、まるで地面が揺れているような錯覚を覚えた。


 ……いや、本当に揺れている!?


 空から地面へと一直線に降下した少女は、着地の衝撃によって僅かな規模にではあるが地震を引き起こしたのだ。樹海の大樹がわっさわっさと木の葉を擦り合わせながら揺れている。


「アレは……女の子!? この死海にどうして!?」


 驚愕するソバの目に映ったのは、空から降ってきた銀髪の少女が地面へと見事に着地する様と――


「あれ? 知らないヒトがいる」


 そして、それによって大地に刻まれた大きなクレーターだった。

安心してください。

ヒッタイトは恋をしたら一途なタイプです。多分。

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