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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第一章 死を育む樹海の中で
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51 進メ!猛撃ノ轍!

「ふんッ!」


 戦斧を受け止めているゴーレムの腕を即座に手刀で叩き折り、距離を取るヒッタイト。

 戦斧を構えて、最大級の警戒を百足へと向ける。


 彼女も何かおかしいとは感じていた。百足は先程からヒッタイトとセイバーの戦いには混ざらず、観戦に回るのみだった。

 加勢して二対一に持ち込む方が圧倒的に有利にはたらくのに、それをしない。何を企んでいるのかと警戒はしていたが、まさか長尺詠唱を行っていたとは。


 両面宿儺(りょうめんすくな)、百足は確かにそう呟いた。

 四本の腕、四本の脚、対になった二つの頭。その姿はまさに異形の鬼神だ。


 古き時代、神の子が開いた朝廷に(そむ)いた反逆の鬼神。その異形は、百本の脚を持つ百足によく似合う。


造物主(マスター)、誠に見目麗しいお姿です」


「でしょでしょ! (セイバー)の設計と並行して制作してたんだ。格好いいでしょ?」


 折られた腕を泥を集めて再生しながら、セイバーとキャッキャと談笑する百足。

 しかし、厳めしい鬼神の(ガワ)を纏った姿と、彼の軽々しい口調は中々にアンバランスだ。


「さ、セイバー、一緒に攻めよっか。決闘だけど、容赦なく二対一でいっちゃおう!」


「……私に導入(インストール)された騎士道には反しますが、造物主(マスター)のご命令とあらばなんなりと」


 ゆらゆらと魔力を滾らせる二人。彼らは激突を前にして一段と戦意を(みなぎ)らせる。


「おっと?」


 しかし、彼らよりもさらに猛烈な魔力を立ち昇らせている者が一人。


「アタシの奥の手も見ていってくれよ!」


 ヒッタイトだ。


 彼女から迸っているのは、ガツンと重い岩石のような質感の魔力。大地魔法に高い適性を持つ彼女は、斧術と共に魔術の熟練度も常人の並みではない。


 動かざること山の如し。


「この魔法はよ、鉄を生み出す魔法を軸に、ゴーレムの魔法と東洋の式神術をブレンドしたアタシのオリジナルなんだ」


 魔法陣が出現すると同時に、彼女は手で印を組み始めた。さらに、口からは得体の知れない呪文が紡がれている。


 岩のような硬質な魔力が、さらにさらに圧縮されていく。もはや、ダイヤモンドが生まれてしまう程の圧力だ。


「『猛撃の轍(ジ・オンスロート)』!!」


 魔法陣から赤熱した鉄が一気に溢れ出す。さらにはそこにどろりとした魔力が絡み付き、そして両者は混ざり合っていく。


 ぐにゃりぐにゃりと、次第に成型されていく鉄。

 そして、そこから赤熱の色と熱が消えた時には――


「この二輪の鉄車輪は、立ちはだかる全てを踏み(にじ)る」


 ヒッタイトの頭上に、六つの(スポーク)を持つ二つの鉄の車輪が浮かんでいた。


 太陽の光を浴びて、何の遠慮もなく鈍色を披露する鉄車輪。

 その輝きの下で、ヒッタイトはニヤリと笑みを浮かべた。


 車輪とは、人類最大の発明である。古代の人々は車輪を利用して戦車(チャリオット)を作り出し、幾つもの戦場(いくさば)を駆けたという。


 そしてその猛撃が今ここに、戦士ヒッタイトによって蘇ったのだ。


「はあっ!」


 その瞬間、ヒッタイトは一気に駆け出した。

 長くて重い戦斧をなんと片手で支え、スピードという名のエネルギーを全身に纏っていく。


「セイバー、相手の放った未知の技には『焦らず威力偵察』だよ。お手本を見せたげる」


 それを見た百足は、四本の腕の内の一つを眼前へと構え、くいっと人差し指を立てた。


「『シェム・ハ・メフォラシュ』」


 地面が揺らめく。


「ゴアアアアア!!」


「ゴアアアアア!!」


「ゴアアアアア!!」


 そしてそこから、わらわらと大量の人型ゴーレムが湧き出してきた。

 剣、槍、弓、盾、杖……各々が武器を持ち、ヒッタイトを迎え討たんと吠える。


 だが、生まれ落ちたばかりの彼らを待っていたのは、一瞬で粉へと還される運命であった。


「グゴアッ!?」


 ゴリィッ!!


 ゴーレムの頭に、高速回転する鉄車輪がめり込む。


 ゴリィッ!!


 めり込む。


 ゴリィッ!!


 めり込む。めり込む。めり込む。


「ハッハッハァ! アタシはじゃじゃ馬だぜ!!」


 一瞬の内にゴーレムたちが鏖殺(おうさつ)されていく。血飛沫代わりに土塊が飛び散る。


 自律のもとに機動する二つの鉄車輪は、その圧倒的質量で土人形たちを次々に破壊せしめた。


「おりゃあっ!!」


 全てのゴーレム兵を葬り去ったヒッタイトは、その勢いのままに百足とセイバーに迫る。


造物主(マスター)、来ます!」


 彼女に先行して、鉄車輪が楕円の軌道を描いてセイバーに襲いかかる。


「『十字の剣(クルセイド)』!」


 セイバーはそれを弾き返そうと、十字の一閃を放った。


 しかし――


「がっ!? 重すぎるっ!!」


 速度と重さ。この双璧によって莫大なエネルギーをその身に宿した鉄車輪との衝突は、彼の想像以上に強烈であった。


 大きく体勢を崩すセイバー。弾かれた鉄車輪はここぞとばかりに旋回し、再び彼へと襲いかかる。


「まずは騎士の首級を貰う!」


 左右から迫る鉄車輪。それは、セイバーの首をばつりと刎ねるためのギロチン的軌道。


「おっとぉ! 行かせねえぜ!」


 助けに入ろうと動いた百足の前に、斧を振り翳したヒッタイトが立ちはだかる。


「どっせぇぇいっ!!」


「くっ!」


 大上段から思いっきり振り下ろされる戦斧。百足はそれを躱したが、斧が突き刺さった地面にはクレーターのような衝突の跡が残っていた。


 しかし、大ぶりの一撃。その後にはどうしても隙ができる。

 そう思って拳を打ち込もうとする百足。


「何っ!?」


 しかし、そんな彼の眼前スレスレを斧の刃が通り抜けていった。


 そんな馬鹿な。あの一撃を放った後にこんなにも速く体勢を立て直して、しかも次撃に繋げてくるなど人間業ではない。


「まずは一本!」


 防御の為に構えた右下腕が容易く刈り取られていった。


「なんのぉ!」


 すぐに泥で再生するが、ヒッタイトの斧術はとどまる所を知らない。


 ギュンギュンと風切り音を鳴らしながら、彼女の戦斧は大気すらも切り裂いていく。


「お次に二本!」


 今度は左の二本が一気に刈り取られた。


 目で追えないほどのえげつない連撃だ。あの百足が後手に回っている。

 四本の腕の持つ手数という有利点を、ゴリ押しでぶっ潰していくヒッタイト。


「ちっ!」


 百足の胸中に焦りが灯る。

 このまま足止めをくらい続ければ、セイバーは――


「ご安心ください、造物主(マスター)


 その時、間近に迫った鉄車輪を前にセイバーが呟いた。


「私には、造物主(マスター)が作り出してくださった千九百七十七個の機能が備わっているではないですか」


 セイバーの全身が魔力の輝きに包まれる。


 彼の被った鎧兜の向こうから、見えるはずのない笑顔が見えた気がした。


「『装甲破棄(アーマーパージ)』!!」


 次の瞬間、魔力の輝きが爆発力に変わる。

 激しい閃光と共に解き放たれる、膨大な爆発エネルギー。それはセイバーの纏った鎧を内側から砕き散らした。


 アーマーパージ、それはセイバーに搭載された千九百七十七個の機能の中の一つ。彼を騎士(セイバー)たらしめている全身鎧(フルプレート)を脱ぎ捨て、それを弾丸よろしく撃ち放つ緊急状況打破機能。


造物主(マスター)を守ることが、騎士(セイバー)の名を与えられた私の役目です!」


 砕け散った擬似オリハルコン製の鎧が、散弾のように周囲に飛び立っていく。


 擬似とはいえ、オリハルコンの硬度は鉄を遥かに上回る。その弾丸は、見事に二輪の鉄車輪を弾き返して見せた。


「くっ!」


 ヒッタイトは魔法で生み出した土壁で弾丸を凌いでいるが、とても他に構っていられる余裕があるようには見えない。

 その隙を見逃さず、百足は彼女と距離を取って腕を再生した。


 しかし、鎧を捨て去り、しかも爆発の中心にいたセイバーは……。


 おそらく無事ではないだろう。


 なにせ、擬似オリハルコンすら砕いてみせる大爆発なのだ。この機能を搭載した時の百足が、自爆としての運用を想定していたくらいなのだから。


「くそっ……」


 セイバーの脳の情報は魔力信号となって保存されている。そのため、いくらボディーが破壊されても彼の存在が消えてしまうわけではない。


 だからといって、百足は冷酷に歯車仕掛自動人形(オートマタ)たちを使い捨てるようなことはしない。

 操り人形(マリオネット)であるゴーレムたちとは違って、彼らには考え感じるための脳を搭載したのだから。


 それが造物主としての責務なのだ。


「すまない、セイバー……」


 身を挺して危機を救ってくれたセイバーへの感謝と共に、百足が立ち上がろうとしたその時。


「……造物主(マスター)、鎧兜の中からでは見えない景色というものもあるのですね」


 鎧の散弾によって舞い上がった分厚い土煙の向こう側から、凛々しい声が響いてきた。


 一体誰の声だ。


「私は今、造物主(マスター)の真の騎士として目覚めました」


 土煙の向こうから現れた人物。

 それは光り輝く金髪を微風に(なび)かせる、一人の女性だった。


「なんだ……ありゃぁ」


 その頭頂では、魔力によって形作られた黄金の冠が眩しい光を放っている。

 彼女の手にする剣はいつの間にか、擬似オリハルコンの紅色から、黄金の神秘的な輝きへと変貌していた。

 その剣の柄には、炎を吐く金色の竜の装飾が施されている。


「私は騎士(セイバー)であり――」


 金髪の女性――鎧から解き放たれたセイバーが、黄金の剣を天へと掲げる。

 それに示し合わせたかのように、陽光が彼女目掛けて降り注いできた。


 その黄金の剣の名こそ、聖剣エクスカリバー。王を王たらしめる魔法の剣である。


「騎士の頂点に立つ者、騎士王(アーサー)です」

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